軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終決戦⑬

京也を倒した次の日、俺たちはロナント様の転移でまたエルロー大迷宮に戻り、先を急いだ。

京也に足止めされ、その戦いで負った傷や減った体力の回復のためにも一度は撤退せざるをえなかった。

だが、俺たちが休息している間にも戦いは続いている。

水龍イエナさんとソフィアの戦いは泥沼の様相を呈しているようだ。

時間稼ぎに徹している水龍イエナさんと、攻め切れないソフィアという構図。

エルロー大迷宮の上層は水没したゾーンと、その水が凍り付いたゾーンと、まだ無事なゾーンとで混沌としている。

俺がそこに踏み入れたら、すぐに何かしらの要因で死にそうだ。

イエナさんとソフィアの戦いは膠着しているものの、地上の戦いは決着がついてしまった。

クイーンタラテクトは倒せた。

しかし、人族軍と魔族軍の混成軍は奮戦したものの、エルロー大迷宮から溢れて来た悪夢の残滓によって大打撃を受け、撤退に追い込まれてしまった。

とは言え、エロルー大迷宮の上層が地獄の様相を呈している今、混成軍が勝利していたとしてもエルロー大迷宮に攻め込むことはできなかっただろう。

それは混成軍を退けた悪夢の残滓にも同じことが言え、地上にて右往左往しているそうだ。

今のところ状況は膠着している。

しかし、それはイエナさんとソフィアの戦いの決着がつくまででしかない。

イエナさんは龍のなかで最も強いそうだが、戦いはソフィアのほうが優勢らしい。

水と氷。

似たような属性だが、氷のほうが相性がいい。

水での攻撃はすべて凍らされて阻まれてしまうからだ。

そのせいでイエナさんは攻めあぐねている。

ただ、ソフィアのほうはエルロー大迷宮の水没の対処もしなければならない。

流れ込む水を凍らせて、水没を抑えているため、イエナさんとの戦いだけに集中できていない。

結果、膠着。

ただ、ソフィアが若干有利なのは変わりなく、遅かれ早かれイエナさんは敗れるだろう。

そうなれば状況は動く。

ソフィアがフリーになり、エルロー大迷宮の上層の状況が落ち着けば、地上に残っている迷宮の悪夢たちもエルロー大迷宮に戻れる。

そうなれば一気に天秤は傾く。

ソフィアの強さは最強の龍であるイエナさんよりも上。

こちらは京也にゴーカさんを倒され、俺も慈悲の蘇生を乱発したせいで魂がボロボロの状態らしい。

おそらく蘇生はあと数えるくらいしかできない。

魔王がまだ控えている中、ソフィアと戦う余力はない。

だから、イエナさんとソフィアの戦いが終わる前に、なんとしてでも魔王を倒し、エルロー大迷宮さ下層の先にあるというシステム中枢に乗り込まなければならない。

だが……。

俺はその光景を見て、しり込みしてしまった。

京也を倒し、俺自身も魂を削られ、覚悟が甘かったと再認識したばかりだ。

だから今度こそ覚悟を決めたつもりだったが、その光景を前にするとそれが霧散してしまいそうになる。

覚悟だけで、これを覆すことができるのか?

エルロー大迷宮最下層。

そこで魔王は待ち構えていた。

傍らに二体のクイーンタラテクトを侍らせて。

さらにその魔王とクイーンを取り囲むようにして、蜘蛛の魔物がずらりと整列している。

その総数は一目ではわからない。

その大半は力の弱い小さな個体ばかりだが、それでもその数の多さは圧巻であり、視覚的な絶望感を与えるには十分な効果を発揮している。

俺たちはここを突破せねばならないのか……。

「やあ、よく来たね。人類代表諸君」

魔王の声が響く。

ワールドクエストの宣言においてその声は一度聞いているが、魔王の姿がまだ年端も行かない少女だというのに違和感を覚える。

小説などでは美少女魔王なんてものもあっが、現実でそれをやられると戸惑いが強い。

もっと見るからに悪辣な外見をしてくれていたほうが、こちらとしても躊躇することもないのに、と。

そう考えてしまうのは、まだ俺の覚悟が足りないせいかもしれない。

誰が相手でも、それがどんな姿をしていようとも、刃を鈍らせてはならないのだというのに。

しかし、椅子に座った魔王の姿はか弱い少女そのもので、どうしても俺の決意を鈍らせる。

「よく来たといいつつも、本当は来てほしくはなかったんだけどね。でも、来てしまったからにはやらねばならない。龍どもは仕方ないにしても、できれば君ら転生者には戦いとは無縁の場所にいてほしかったんだけど」

本心からの言葉なのだろう。

声音から何となく俺はそう察した。

その言葉から魔王の人柄が透けて見え、また俺の決意を鈍らせる。

もともと、この戦いはどうしようもない現状を打破しなければならないがために起こったものだ。

魔王とて、起こしたくて起こしたわけではない。

どちらが正しいというわけではなく、なにかを犠牲にせねばならないがために、選択しただけに過ぎない。

片方を切り捨て、もう片方を生かす。

人を生かすか、神を生かすか。

その選択が割れた結果でしかないのだ。

「このままだと私たちは戦わなければならないんだけど、一応最後に確認しておくよ。えーと、こういう時魔王だったらお決まりのセリフがあるんだったね」

魔王が一度咳払いをする。

「よくぞ来た勇者よ。私の味方になれば世界の半分を君にあげよう。どうかな?」

それは、前世の日本で有名なゲームの魔王のセリフをパロったものだった。

妙な懐かしさを覚えつつ、そのセリフが今の状況に驚くほどマッチしていて苦笑が漏れる。

きっと魔王は若葉さんから今のセリフを教わっていたんだろう。

ここでそれを言うユーモアは場違いな気がしないでもないが、台詞そのものは本気で言っているものだとわかるから、こちらも本心で応えないといけない。

「すいません。答えは、いいえ、です」

俺は、世界の半分、全人類の半数を犠牲にしないために、ここまで来たのだから。

「そっか。残念だ」

そう言って魔王は軽く肩をすくめる。

魔王も、この提案が通るとは思っていなかっただろう。

それでも一縷の望みをかけて言わずにいられなかったに違いない。

その気持ちは、よくわかる。

「じゃあ、やろうか」

その魔王の声に応じて、クイーンタラテクトを始めとした蜘蛛のモンスターたちが動き始める。

始まった。

始まってしまったのだ。

世界の命運を賭けた、勇者と魔王の戦いが。

負けるわけにはいかない戦いが。

勇者である俺の力はちっぽけだが、それでも、負けるわけにはいかないんだ。