軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

前哨戦 鬼VS風雷④

風が荒れる。

地面に叩きつけられた僕は、そのまま押しつぶそうとしてくる圧力を跳ねのけ、何とか立ち上がる。

額から血が流れてくる。

やられたことは単純明快。

ただ風の弾丸を頭に落とされただけ。

たったそれだけ。

そのたった一撃で、僕は地面に倒されてしまった。

風の力をなめていた。

目に見えない空気の弾丸。

それがこんなにも厄介だなんて。

しかも、吹き荒れる風は僕の自由を奪い、常に周囲の空気が流れ続けているため、余計に風の弾丸が飛んでくる予兆が読み取りづらくなっている。

派手な雷撃にばかり気を取られていて、プテラ龍の操る風の真価に気づけなかった。

この風の吹きすさぶ空間は、あのプテラ龍の狩場だ。

風が渦巻く。

強烈な風によって、目もろくに開けられなくなる。

それどころか、息を吸うのも厳しい。

まるでビニール袋を顔面に押し付けられているかのようだ。

いくらステータスが高かろうと、僕は呼吸をしている生物だ。

このままろくに呼吸もできない状況が続けば、酸欠になるのは目に見えている。

全く呼吸ができないわけではないが、こんな状態で全力の運動ができるかと言えば、厳しいと言わざるをえない。

神経を研ぎ澄ませる。

来る!

風の弾丸が襲い掛かってくる。

それを、僕は何とか紙一重で躱した。

しかし、躱すので精一杯。

弾丸を躱すことはできても、崩れた体勢で吹き荒れる風に抗うことはできず、僕の体は風に攫われてしまう。

そして、今回はさっきみたいに何の策もなしで吹き飛ばしてくれたわけではなかった。

『ヒャッハー!』

「がはっ!?」

僕が吹き飛んだ先に待ち構えていた豹龍。

その爪が容赦なく僕を引き裂く。

歯を食いしばり、炎刀を強く握り直す。

爪を振りぬいて、どこか愉悦の混じった表情をしているように見える豹龍のその顔面に向け、カウンターで炎刀を叩きこもうとする。

が、グンッと僕の体が引っ張られるかのように風に再び流され、上空に舞い上げられる。

そして、間髪入れずに落下。

上から下へ。

流れるような突風が僕を地面に叩きつけた。

全身が粉々に砕け散ってしまったのではないかと錯覚するほどの衝撃が襲い掛かる。

強い。

ここまで手も足も出ないなんて……。

ことごとく相性が悪いというのもあるだろう。

僕の最も得意とするのは接近戦。

それをさせてもらえない。

そして、魔剣による爆撃もこの風では届くはずがない。

空を飛ばれていては地雷剣も役に立たない。

しかし、相性差以前に、プテラ龍の戦い方がうますぎる。

こちらは翻弄されるだけで、為す術もない。

おそらく、豹龍だけならば僕が勝っていただろう。

だが、プテラ龍には一対一でも勝てるかどうか。

少なくとも、切り札を切らねば勝てる見込みはないと思える。

『ハッハー! とどめだ!』

倒れた僕に向かって、豹龍がとびかかってくる。

……四の五の言ってる場合じゃないな。

憤怒、発動。

「ガアァァァァ!」

憤怒を発動すると同時に吠える。

力が漲る。

その力で風の拘束を無理やり引きちぎり、立ち上がる。

飛び掛かりながら、驚いた表情を浮かべる豹龍。

その顔面に、容赦なく炎刀を叩きこむ。

『ぬぐぁ!?』

豹龍はそれを、器用に空中で身をよじって回避した。

が、完全に避けきることはできず、後ろ足が根本から切り落とされる。

飛び掛かってきた勢いそのままに、血飛沫をまき散らしながら地面に転がっていく豹龍。

とどめを刺しておきたいところだが、それよりも先にプテラ龍を始末する!

空間機動を発動させ、空中に足場を作り出して空にいるプテラ龍に接近する。

憤怒を発動した今の僕であれば、たった一歩で吹きすさぶ風を突破し、プテラ龍の元まで肉薄した。

『ヒュウ! 俺様に空中戦を挑もうってか!? 上等!』

プテラ龍が空を舞う。

いっそ優雅にさえ見える動きなのに、そのスピードは尋常ではない。

操る風さえ置き去りにする勢いで空を飛ぶ。

だが。

『マジかよ!?』

憤怒発動状態の僕の速度は、99999。

憤怒なしの状態であれば圧倒しただろうその速度も、今の僕には通用しない。

炎刀に炎を纏わせる。

そして、プテラ龍を両断するつもりで振るう。

『チィッ!』

プテラ龍が身をひるがえす。

同時に襲い掛かる突風と風の弾丸。

憤怒発動状態であれば、防御力もまたカンストしている。

風の弾丸をくらおうと、大したダメージにはならない。

しかし、だからといって衝撃を受けないわけじゃない。

突風と風の弾丸によって、わずかに僕の目測はずれた。

結果、プテラ龍を両断することはかなわず、その翼を引き裂くにとどまってしまった。

『かぁ! ちっくしょうめ!』

プテラ龍が吠える。

次の瞬間、落雷が僕を襲った。

一瞬、豹龍の仕業かと思ったけど、どうやらプテラ龍の仕業のようだ。

プテラ龍も雷魔法が使えたのか。

ダメージはほぼない。

しかし、一瞬の目くらましにはなった。

そして、その一瞬だけでも、この神速の龍には十分だったようだ。

プテラ龍は僕には目もくれず、地面に横たわる豹龍に向かって飛んで行った。

そして、その体を後ろ足で掴むと、わき目も振らずに撤退していった。

それを僕は見送った。

見送るしかなかった。

「ぐぅ……!」

視界が真っ赤に染まりかける。

それを無理やり抑え込み、すぐさま憤怒を切る。

「はあ……。はあ……」

外道耐性のスキルを鍛えたことによって、ある程度憤怒のデメリットである理性が怒りに飲み込まれてしまうというものを押さえることができるようになった。

が、あくまである程度だ。

七大罪スキルのデメリットはそう簡単に帳消しにできるものではなかったらしい。

外道耐性が外道無効になってなお、憤怒を打ち消すには至らなかった。

これは白さんも予想外だったらしく、驚いていた。

おそらく、憤怒は外道無効の対象外にあえて設定されているのかもしれない、という話だった。

僕が憤怒を発動して正気でいられる時間は、ごく短時間。

そして、今度憤怒にのまれてしまえば、戻ってこれる保証はない。

だから決着を急ぐ必要があった。

豹龍にとどめを刺さず、プテラ龍を倒すのを優先したのはそういう理由からだ。

しかし、結果的に両方を逃がしてしまった。

やはり、多少の無理をしてでも豹龍にとどめを刺した方が良かったか?

……いや。

どっちにしても逃げられてしまったことに変わりはない。

とりあえず、撃退することに成功したんだ。

それで満足しておこう。

正直、あの二体のうち、どちらか片方がアリエルさんのもとに向かい、残りが僕の足止めをしてきていたら、まずかったかもしれない。

そうしなかったのは、あの龍たちにもそれなりの矜持があってのことなんだろう。

あいつらにもあいつらなりの信念があって動いているんだ。

そう考えると憂鬱になるけど、もう事態は動き出している。

僕は僕のできることをこなしていこう。

……さしあたっては、このボロボロになった体の治療からかな。