軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

S35 二択

「あなた方がどうするのか。その結論はすぐに出さなくても結構です。ただ、これだけは覚えておいてください。時は待ってくれない。決断を迷う間にも、事態は進んでいくのだということを」

教皇から一通りの説明を受けた俺たちは、あてがわれた部屋で顔を突き合わせていた。

神言教の総本山であるこの場所には、勇者が宿泊するための部屋が用意されているそうだ。

俺は世間的には勇者と認められていないので、というかそもそもここに来たのが初めてなので使ったことはなかったのだが、今回はその部屋をありがたく使わせてもらっている。

カティアとスーにもそれぞれ部屋をあてがってもらっているが、今は相談するために俺の部屋に集まってもらっている。

しかし、相談しようにも、誰も口を開こうとはしない。

重苦しい沈黙だけが場を支配している。

当たり前と言えば当たり前だ。

カティアとスーにも、禁忌の内容を伝えておいたのだから。

あの内容を知れば、誰だって重苦しい気持ちになる。

そのうえ、教皇から聞いた今後の話は、より気分を重くさせるのに十分なものだった。

教皇は、戦う決断をしている。

いや。

もう戦いは始まっている。

それは神を殺す、神に挑む戦い。

人を生かすために、神を殺す。

教皇はこの世界を存続させるために、すでに取捨選択を終え、行動に移っていた。

教皇から聞かされた話をうのみにするのならば、この世界が取れる選択肢は二つだけ。

一つは若葉さんたちが起こそうとしている、システムの崩壊。

この方法ならば、今までこの世界を支えていた女神を殺すことなく、世界を再生させることができる。

ただし、その代償に、人々の魂からスキルを無理やり回収する余波で、この世界に生きる人々のおよそ半数が死ぬだろうとのことだった。

それも、ただ死ぬだけではなく、魂が砕け散る人も多いらしい。

魂が砕け散るということは、転生もできなくなる。

完全なる死ということだった。

もう一つは、教皇と黒龍なる人物、おそらく俺が夢で見た、ギュリエと呼ばれていたあの人のことだろう、この二人で進めている計画。

それは計画というよりかは、これまでしてきたことの延長。

すなわち、若葉さんたちの計画をつぶし、今まで通りシステムを稼働させて、世界を正常な状態に戻すということ。

この方法なら、正道であるために人々に犠牲を強いることなく、世界を再生させることができる。

ただし、その場合現在システムを支えている女神は、もう限界を迎えているために助かる見込みはない。

そして、女神亡き後に、システムの核として跡を継ぐ黒龍もまた。

教皇の話では、女神が力尽きるまでの時間と、その後黒龍がシステムを受け継いでその身を犠牲にすれば、何とか星の再生は間に合うらしい。

足りない分は、若葉さんと黒龍が戦うことで生じたエネルギーを回収することで賄うそうだ。

そんなことができるのかと疑問に思ったが、黒龍の展開する小規模異世界とやらには、そうした機能があるそうだ。

そして、それでも足りない場合は、この戦いが終わった後に、また別の戦いを起こしてエネルギーをかき集める。

神言教対女神教という形で。

それも、世界中の人々を今まで欺き続けた神言教が滅びるという、そのシナリオをもって。

つまり、教皇や黒龍は自らの破滅によって、この世界を救おうとしているのだ。

片や世界の人々の半分を犠牲にして、女神と世界を救おうとする陣営。

片や自らと女神を犠牲にして、人々と世界を救おうとする陣営。

どちらもまともではない。

どちらの方法にせよ、失うものが大きすぎる。

「なにか。なにか方法はないのか? どっちも失わずに済む、そんな方法が」

思わず、俺は口に出していた。

崖に落ちそうな二人の人間、そのうち救えるのはどちらか一人。

どちらを救う?

そういう質問に似ている。

そんなもの、どっちも選べるはずもないのに。

「ない、のでしょうね。そんな都合のいい方法があるのなら、若葉さんにしろ教皇にしろ、それを選択しているはずですから」

カティアがもっともなことを言う。

わかってる。

俺も頭では、そんな都合のいい方法なんてないんだって。

わかってはいても、どうしても考えてしまう。

「お兄様ならばどんな不可能でも可能にできます!」

スーがそんなことを言ってくる。

スーが言うと冗談に聞こえないのが怖いところだ。

俺のことをどういう目で見ているんだ?

「スー、あなた冗談を言うのも時と場合を考えなさい」

「冗談?」

カティアが眉間をもみほぐしながらスーをたしなめるが、言われたスーはきょとんとしている。

冗談じゃなかった。

「とにかく。こんな重大なこと、今すぐ結論を出すことなんてできない。エルフの里に残してきたハイリンスさんたちのこともあるし、答えは保留しよう」

俺にはまだ、どちらかを選択する覚悟なんかない。

できれば一度エルフの里まで戻り、ハイリンスさんたちを交えて相談したいところだ。

その時間があればの話だが。

その時、地面が揺れた。

「地震!?」

すさまじい揺れが体を襲う。

椅子に座っていたために転ぶようなことはなかったものの、衝撃で家具が軒並み倒れている。

地震なんてこの世界では初めてのことだ。

が、すぐにそれが地震ではないことがわかる。

揺れはたった一回。

地震のように断続して揺れ続けたわけではなく、何かが近くで大爆発を起こしたような、そんな揺れ方だった。

いや、ような、じゃない。

これはまさにすぐ近くで爆発が起きたんだ!

その証拠に、強化された嗅覚が何かの焼ける臭いを嗅ぎつける。

「何かあった! 俺は様子を見てくる! 二人はここで待っててくれ!」

「いえ、私たちもついていきます。ここで離ればなれになるほうが危険です。固まって行動しましょう」

俺の提案に、カティアが即座に代案を出す。

たしかに、何が起きたのかわからない以上、固まって行動したほうが危険は少ないかもしれない。

「わかった。行くぞ!」

俺たちは部屋を出て、臭いのする方向に駆け出す。

どこを目指せばいいのか、それは考えなくてもわかった。

なぜならば、激しい爆発が連続して巻き起こっていたからだ。

いったい何が起きた?

何が起きている?

疑問は尽きないが、このタイミングで起きたということは、教皇たちと若葉さんたちの戦いと無関係なはずがない。

俺たちが爆発のした場所に到着すると、そこには半裸の大男と、メイド姿の少女が対峙していた。

その奥には教皇と、それを守るようにして女性と、性別のわからない中性的な容姿の人物がいた。

状況を見るに、メイド姿の少女が襲撃者で、それを半裸の大男が迎え撃ったようだ。

「勇者か。巻き込まれぬよう下がっておれ」

大男のほうが俺たちに忠告してくる。

彼が口を開いたのを隙ととらえたのか、メイド少女がとびかかる。

しかし、大男から噴き出した炎がその行く手を阻んだ。

離れていても伝わってくる、すさまじい熱気。

その直撃を受けたメイド少女もただでは済まない、と思ったが、彼女はいつの間にか大男から離れたところに移動していた。

目で、まったく追えなかった。

「格。相性。ともに己のほうが上。奇跡的に己を突破しようとも、この場には他にも古龍が二人。詰んどるよ」

大男が、メイド少女に指摘する。

その言葉には、どこか哀れみを感じさせた。

「……」

メイド少女が無言で魔法を発動させる。

闇系統の魔法。

だが、その発動速度が尋常じゃない!

俺が瞬きする間に、いくつもの魔法が発動し、大男に向けて殺到する。

「つまらないな」

それを、さっきまで教皇のそばにいたはずの、中性的な人物が手で振り払う。

虫でも払うかのような動作だったが、それだけで無数の魔法がかき消された。

メイド少女の魔法が弱かったわけじゃない。

むしろ、その魔法はとんでもない威力だった。

中性的な人物が消さなかった、進路からそれた魔法は、建物を盛大に破壊している。

「まずい。崩れる」

たった一発。

そのたったの一発で、建物が崩壊しかけていた。

先の建物を揺らした大爆発と相まって、ただ戦っているその余波だけで、建物が限界を迎えたのだ。

「ニーア! ダスティンを連れていけ!」

「ハア。まったく。我は土のに続いて硬いとはいえ、護衛には向いておらんのじゃがのう」

文句を言いつつ、教皇を担いで退避する女性。

「勇者諸君も先に逃げておきたまえ」

「己らはこれを排除する」

性別不詳の人物と大男がこちらを見てそう言ってくる。

この人たちは、味方なのか?

教皇を守っているということは、教皇派ということなのだろう。

そして、敵対しているらしいメイド少女は、若葉さん派ということか?

「アエルと言ったか? 二対一。己の信条には外れるが、ここで排除しておかねばそなたは障害足りえる。悪く思うでないぞ」

大男がメイド少女に向けて一歩を踏み出す。

だが、それよりも先にメイド少女は踵を返し、逃げていった。

「逃がすものか!」

大男がその後を追い、性別不詳の人物もそれについていく。

俺は、俺たちはどうすべきなんだ?

「シュン! 崩れますわ! とにかくここから脱出しましょう!」

「あ、ああ」

カティアに袖を引かれ、俺は我に返る。

ここにいても俺たちにできることはない。

それよりも先に脱出しなければ、生き埋めになってしまう。

「走るぞ!」

俺たちは崩れ始めた建物から走って脱出した。

「ご無事なようで何よりです」

脱出した俺たちを、先に外に出ていた教皇が出迎える。

襲われたのは教皇のほうだというのに、その表情は変わらない穏やかな笑み。

その表情に、教皇の得体の知れない底の深さを痛感させられる。

俺なんて、さっきの戦闘を見ただけで呆然としてしまったというのに……。

「戦いはもう始まっています。少々、予想よりも迅速な展開ですが」

教皇が崩壊した建物を眺めながらつぶやく。

俺は、もっと考える余裕があるんだと思っていた。

けど、どうやらそうじゃないらしい。

今この瞬間にも、世界は動き出している。

そして、さっきのことで痛感する。

俺は、弱い。

彼らの戦いを眺めていることしか、できなかった。

そこに割って入ることなんて、俺の実力ではどうしたってできない。

余波だけで建物が崩壊するような、激しい戦い。

俺の力じゃ、メイド少女にも、大男にも太刀打ちすることはできない。

痛感する。

俺は、弱い。

世界を変えられるだけの力なんて、俺にはない。

何が、何が、別の方法はないんだろうか? だ。

あんなに強い連中が、それでもどちらかを犠牲にしなければならない選択を強いられているんだ。

それよりもずっと弱い俺が、何かできると思うなんて、思い上がりもはなはだしかった。

二択だ。

二択なんだ。

どちらかしか、選べないんだ。

その現実を、俺は突き付けられた。