軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

322 脇役だったはずの少年

私の山田くんに対する印象は、普通だ。

若葉姫色の記憶でも、今世の記憶でも。

若葉姫色の記憶の中の山田くんは、どこにでもいる平凡な少年だった。

成績、平均。

運動神経、そこそこ。

容姿、普通。

目立つ要素が一つもない、普通を極めたかのような男子生徒。

もし現代ものの物語があったとすれば、背景にしか映らないようなモブ。

それが山田くん。

では、今世の山田くんはというと、前世の普通人はどこに行ったんだってくらいの主人公オブ主人公。

大国の王子。

勇者の実の弟。

生まれつきチータな能力を引っ提げ、しかもそれに慢心せずにコツコツと努力してきた。

そのかいあって勇者の称号抜きでもこの世界の人族じゃ、相当な実力者になっている。

そして、死んでしまった兄に代わり、勇者として世界のために立とうとする気概もあるときた。

どこの主人公だとツッコミたい。

けど、山田くんの本質は変わっていない。

山田くんは良くも悪くも、普通なのだ。

本来ならばこんな大舞台のど真ん中で主役張るような人間じゃない。

舞台の外側で、ひっそりと穏やかに生活しているのが似合っている。

大国の王子でもなく、勇者の弟でもなく、チートもなく。

ただこの世界に生まれただけだったのならば、きっと山田くんはただの一市民として、事件や事故に首を突っ込むこともなく暮らしていただろう。

それなのに山田くんが主人公してたのは、置かれた立場ゆえ。

大国の王子だった。

それだけならまだよかったのかもしれない。

けど、山田くんのおかれた立場はものすごく微妙だった。

立場の弱い側室の子供。

だけど、兄は勇者。

そして王妃の息子は優秀ではなかった。

そして山田くん本人は転生者だった。

幼い頃から優れた素質を見せつける、いわば天才とみなされてしまったわけだ。

そこから先は、まあ、よくできた創作みたいな展開。

あんまり優秀すぎると、王妃の息子である第一王子を排して、山田くんを次代の王に担ぎ上げようとする派閥が現れるかもしれない。

そう危惧した王妃により、山田くんは教育を受けられなかった。

けど、世話係になったハーフエルフと筋肉女が、教育係の代わりをしていたうえに、山田くんも山田くんで転生者だったから王子っていう立場を理解し、見よう見まねでそれらしく振る舞えちゃったのが運の尽き。

王妃の思惑とは正反対に、山田くんは天才児の名をほしいままにしちゃった。

しかも、教育を受けさせていないのが逆に仇になるおまけ付きで。

あそこの王子は教育もろくに受けていないのに、人並み以上に物を理解する天才児だと。

本人は理解してないことだけど、傍から見れば不気味だったろうね。

勇者の兄という強力な後ろ盾を持ち、天才と言われる。

第一王子が焦るのも仕方がない。

山田くん本人にその気がなくても、周りがそれを後押ししちゃう状況だったのだから。

山田くん本人はろくな教育もされてなくて、四苦八苦しててそれどころじゃなかったっていうのに。

そう、山田くんは自分の置かれていた状況を理解していなかった。

本物の天才だったら、きっと気づけて何かしら対策を講じていたはずだ。

ろくに教育が受けられない状況に疑問を持ったはずだし、王族の不穏な情勢がわからなかったはずがない。

それがわからないから、山田くんは平凡なのだ。

ただの高校生に、異世界の常識やそこの政治事情なんてわかるはずもない。

山田くんが天才扱いされたのは、前世の積み重ねと、それを利用して幼児の頃から更なる積み重ねをしていたから。

天才だったわけじゃない。

ただ、早熟だっただけなんだ。

そして、山田くんは運の悪いことに、本物の天才が身近に存在した。

妹ちゃんだ。

教えたことを真綿に水が染み込むように、なんでもすぐに覚えてしまう妹ちゃん。

転生者として、前世の積み重ねがある分、山田くんは負けられないと奮起してしまった。

ただ早熟なだけだった山田くんが、努力をしてしまった。

周囲から見れば、努力する天才の出来上がり。

そして、相変わらず教育を受けられない状況にもかかわらず、ひたむきにできる努力を重ね、学園に入学して独自の繋がりを作っていく。

公爵家の娘の大島くん。

神言教の次期聖女候補の長谷部さん。

エルフの先生。

帝国の次期剣帝の夏目くんとはライバル関係で、しかも山田くんが一歩リードしているときた。

これだけのそうそうたる面子の中で中心にいる。

誰もが山田くんに注目する。

そんな状況の中でも、山田くん本人は平常運転だった。

きっと山田くんは自分が普通だという自覚があったんだと思う。

普通な自分が王になるはずがない。

勇者の兄をささやかに支援するのが、モブの自分に適している。

それすらももしかしたら過剰だと感じていたかも。

そんな山田くんが何の因果か勇者になり、そして天の加護なんてけったいなスキルを持っているがために、こうして私に警戒され、深みにはまってしまった。

王国の王子に生まれてなければ、転生者でなければ、天才の妹を持たなければ、勇者の弟でなければ、勇者にならなければ、天の加護を待たなければ。

どれか一つでも欠けていれば、山田くんが主人公になることはなかった。

ここまで苦しむこともなかった。

けど、山田くんには一つだけ、普通じゃなかったことがある。

それが、責任感。

王国の王子として、勇者の弟として、妹の兄として、恥じないように。

普通な山田くんが、今までひたむきに頑張れていたのは、その責任感があったから。

自分の立場に恥じないように。

だから、勇者となった後も、勇者として恥じないようにというのを念頭に行動してたんじゃないかな。

そして今、山田くんは兄として、その責任を果たそうとしている。

「スー、俺はスーに殺されるわけにはいかない。それがスーのためになるとは、思えないから」

妹ちゃんの目をしっかりと見ながら、山田くんが語りかける。

妹ちゃんは目を逸らすこともできず、固まっている。

「俺は、スーの想いに応えることはできない。けど、ずっとそばにいてやることはできる。兄として。それじゃ、駄目か?」

……結構バッサリ振ってるな。

「兄様、わた、私……」

「過去は変えられない。けど、俺たちは今を生きている。そして、未来を考えることはできる。だから、考えてくれないか? 俺と一緒に生きていく未来を」

……あれ?

さっきのバッサリから一転、今度は告白っぽく聞こえるぞ?

これ、聞きようによっちゃ、妹ちゃん勘違いするんじゃ?

「は、はい」

うん。

顔真っ赤な妹ちゃんの出来上がり。

そして何とも形容しがたい表情を浮かべている大島くん。

これ、修羅場が先送りになっただけのような気がしないでもないけど、まあ、いっか。