軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

S33 兄妹

「お兄様ー」

語尾にハートマークでも付きそうな、そんな全力で甘えに来ている声。

花が咲き誇るかのような、満面の笑みを浮かべながら、こちらに駆け寄ってくる。

普段表情を大きく変えることなく、抑揚の少ない淡々とした受け答えをする彼女が、俺にだけ見せる表情と声。

少し前までは、当たり前のように見聞きしていたその姿。

ただ、今と昔とで違いがあるとすれば、彼女の手に武器が握られていて、俺を殺しに来ているということ。

「ぐっ!?」

「お兄様! お兄様ー!」

打ち付けられる連撃を、剣で受け止める。

なんで?

どうして、こうなったんだ?

最悪の雰囲気で解散となった俺たち。

このエルフの里に監禁されていた元クラスメイトたち。

田川と櫛谷さん、外で冒険者をしていた二人。

エルフの先生。

ユーゴーに洗脳され、帝国軍と一緒にこのエルフの里に攻めてきたユーリ。

そして、俺とカティア。

今後、俺たちがどうなるのか、それはわからない。

全ては若葉さんたちの意思次第。

俺たちは虜囚の身であり、若葉さんたちが今後どういう風に俺たちを扱うつもりなのかによって、俺たちの立場は変わっていく。

さっきの話し合いの場での発言を鵜呑みにすれば、酷い扱いはされないらしいが……。

どっちにしろ、俺にできることは、ないんだな……。

俺は、今まで自分ができることを、最善を尽くしてきたつもりだった。

けど、その結果が、これだ。

ユーゴーを止めることもできずに死なせ、エルフの里を守るつもりがエルフを全滅させ、転生者たちの生殺与奪の権利は若葉さんたちに握られている。

俺なりに、頑張ってきたつもりだった。

なのに、結果は最悪。

いや、禁忌の内容を知った今、この結果が最悪ではないことはわかっている。

俺が守ろうとしていたエルフは、この世界を崩壊に導く諸悪の根源だったのだから。

けど、それがわかったからってどうだって言うんだ。

結局、俺が何もできなかったことに変わりはない。

世界の大きな動きの中で、俺は何も知らずにその渦中で無様に溺れてもがいていただけじゃないか。

滑稽すぎて、笑えない。

俺は、いつの間にかうぬぼれていたのかもしれない。

かもしれない、じゃないか。

うぬぼれていたんだ。

勇者になって、ユーゴーを止められるのは俺だけだって思いこんで。

俺の力ならば、きっと何かができると信じ込んでいた。

ユリウス兄様のような、世界を動かせる人物になれているんだと、そう思い込んでいた。

ユリウス兄様は、幼い頃から勇者としての責任を背負い、ずっと活動し続けていたからこそ世界を動かせる大人物だったというのに。

俺は勇者の称号を譲り受けただけで、ユリウス兄様と同じ土俵に立った気になっていた。

その傲慢な考えは、さっき完膚なきまでに叩きのめされてしまった。

ソフィアに、俺の存在の小ささを、これでもかというくらいに実感させられて。

何もできなかった。

何も言い返せなかった。

言い返す機会すら、作ってもらえなかった。

俺が声を大にして叫んだとしても、ソフィアにはきっと、何も届かない。

鼻で嗤われて、それで終わりだ。

そして、それが俺の限界。

俺は、世界を動かせるほどの力が、ない。

力も、名声も、何もない。

ただただ、本当に世界を動かしている人たちに翻弄されて、利用されて、いや、無視されてか。

ポティマスは俺を利用しようとしていたのかもしれないけれど、若葉さんたちは俺のことなんか歯牙にもかけていなかった。

いてもいなくても関係のない、モブとしてしか見られていない。

世界を動かしているのは、若葉さんたちであって、俺ではないんだ。

それならそれで、いいのかもしれない。

もともと、俺は世界がどうのなんて大それたことを考えていたわけじゃないんだ。

将来はユリウス兄様の助けになれるような人間になりたいと、漠然と考えていただけで。

ユリウス兄様が死んで、勇者になって、そこから歯車が狂ってしまった。

そこからは、ただユーゴーをどうにかしなきゃいけないと、がむしゃらに突っ走ってきたけど、ここで一度立ち止まって、今後どうするのかゆっくり考えたほうがいいかもしれない。

俺にできること、できないこと。

俺には、できないことばっかりだ。

けど、それをきちんと受け止めて、俺にできることを、コツコツとやっていくしかないのかもしれない。

何ができるのか、それすらもわからないけれど。

それでも、自分のできることをやるしかないんだ。

もう、ユリウス兄様みたいな犠牲を、出したくないから。

「カティア」

「ん?」

「ちょっと話がしたい。いいか?」

「ああ、もちろん」

俺はカティアと二人で、今後のことについて話し合いをすることにした。

さっきまで俺が寝ていた部屋に引き返し、腰を落ち着けた。

「アナやハイリンスさんは無事か?」

俺がまず真っ先に聞いたのは、目覚めてからまだ姿を見ていない仲間二人のことだった。

特にアナは、あの時の戦いで命を一度落としている。

俺の慈悲のスキルでギリギリ一命をとりとめた、というよりかは、蘇生に成功したはずだが、俺はその時に禁忌を得た反動で気を失ってしまったため、その後どうなったのか知らない。

「二人とも無事なはずだ。俺たちとは別の場所に隔離されてるってよ。ハイリンスさんとは念話が繋がるから、気になるなら後で確認しておけばいい」

そうか。

ハイリンスさんは念話のスキルを持っている。

それなら少し離れていても、連絡を取り合うことはできるってわけか。

「ということは、ハイリンスさんはこっちの状況も知ってるわけか?」

「ああ。俺が知ることのできる状況は逐一報告してる。向こうも監禁状態ではあるものの、ちゃんと食事とかも出されて不自由はしてないってさ。アナも目を覚ましてて、健康体だってよ」

それはよかった。

あと気になることと言えば。

「カティア。スーのこと、何か聞いてないか?」

ユーゴーに洗脳され、連れ去られた妹のスー。

スーについては、ユーゴーに洗脳され、父上を殺害してしまった姿を見たのが最後だ。

その後ユーゴーについていって帝国に行ったという情報は得ていたが、それ以降の足取りは知らない。

今回の戦いでも、スーの姿は見ていなかった。

「わからない。俺は何も聞いてないな」

「そうか。けど、ユーゴーが死んだということは、スーの洗脳もとけているはずだよな?」

「そのはずだ」

「元に、戻れるかな?」

俺の声は、不安がにじみ出ていると自分でもわかるくらいだった。

スーは、ユーゴーに洗脳され、父上を殺害してしまっている。

洗脳されていたとはいえ、自分の手で父親を殺してしまっているんだ。

洗脳がとけたとしても、記憶は消えない。

そのせいで同じように洗脳されていたユーリは、情緒不安定になってしまっているらしい。

洗脳がとけた直後は、それこそ自殺しそうな勢いだったと聞く。

今はそれを止めるために強制的に眠らせているらしいが、何らかのケアは絶対に必要だ。

ユーリと同じような状況なら、スーも危ない。

それに、それを乗り越えたとしても、元の関係に戻れるかはわからない。

洗脳されてのこととはいえ、いろいろとありすぎた。

前のように、ただの兄と妹の関係に、すっかり元通りなれるとは、どうしても思えなかった。

「俺からは、何も言えなないな。それはシュンとスーの、二人の問題だから。シュンがどうしたいのか。スーがどう出るのか。それによると思う」

カティアの真剣な回答に、俺も頷く。

こんな時だけど、しっかりと俺たちのことを考えて発言してくれるカティアに、頼もしさを感じてしまう。

「ありがとう」

「どういたしまして」

素直な感謝の気持ちを伝えると、カティアはくすぐったそうな照れ笑いを浮かべた。

「そうだな。俺としては、やっぱり元の仲のいい兄妹に戻りたいと思う。とはいえ、完全に元通りになるのは、無理だとも思う。とりあえず和解できればそれで十分だ。欲を言えば、これを機に兄離れしてくれればいいと思うんだが。なんにせよ、会ってみないことには何とも言えないか」

「兄離れ……」

俺の兄離れの言葉に反応するカティア。

その顔には、「無理じゃね?」と、でかでかと書いてあった。

……俺もそう思う。

スーは、極度のブラコンだ。

俺のことを兄としてではなく、異性として見ているふしがある。

対して俺はスーのことを妹、家族としてしか見れない。

スーの想いに応えてやることは、できそうにない。

けど、兄離れできないのであれば、それはそれで仕方がないと思う。

兄離れしてほしいという思いに偽りはない。

けど、今回の件で気まずくなって離れてしまうよりかは、昔みたいに甘えてきてくれるほうがまだいい。

異性としては見れないけれど、妹としては好きな、大切な家族なのだから。

その時、ノックの音が響いた。

返事をすると、扉を開いて入ってきたのは、若葉さんだった。

「妹さんと会いますか?」

そして、タイムリーなことを聞かれる。

「会えるのか!?」

「ええ」

「もちろん会いたい。会わせてくれ!」

俺の勢いこんだ頼み込みに、若葉さんは頷いて手を差し出してくる。

説明はなかったが、握れということなんだろうか?

俺は戸惑いつつもその手を握った。

次の瞬間、目に映る景色が変わった。

「ここは?」

「お兄様!」

疑問を口にするも、若葉さんがそれに答えるより早く耳に届くスーの声。

振り向くと、そこにはスーがいた。

懸念していたような、気まずくなって俺のことを避ける素振りはない。

こちらに向かって、笑みを浮かべながら走ってくる。

「お兄様ー」

甘えるような声を出しながら、武器を構えて。

「は?」

俺の口から間抜けな声が漏れる。

きちんと反応できたのは、日ごろの訓練のおかげだ。

スーの剣が俺の心臓目掛けて迷いなく振り下ろされ、俺はとっさに腰の剣を抜いて応戦していた。

「スー!? まだ洗脳されているのか!?」

「いいえ! 私は正気です!」

スーは攻撃の手を緩めない。

それを防ぎながら、俺は混乱の極致に達していた。

正気と言っているが、誰がどう見ても正気とは思えない!

「スー! やめるんだ!」

「私、わかったんです! お兄様を手に入れるには、こうするしかないって!」

スーの攻撃は俺の急所を確実に狙っている。

そこには一切の容赦がない。

本気で俺を殺しに来ている。

「この『征服』のスキルを使って、私はお兄様の全てを手に入れるんです! お兄様の魂も心も! 抜け殻になった死体ももちろん保存して!」

背筋が凍る。

スーの言葉の意味は理解できない。

理解したくない。

スーからは今までにない狂気が感じられる。

やはり、ユーゴーに洗脳されていたことによって、その影響が悪いほうに出てしまったに違いない。

とにかく、『征服』なるスキルのことも気になる。

スーのことを鑑定してみると、そこにはこれまでなかった『強欲』のスキルがあった。

それは、ユーゴーの持っていた七大罪スキルだ。

「スー、お前いつの間に?」

「あいつに洗脳される前から、条件は満たしていました。あいつが所有していたせいで手に入らなかっただけで。あいつが死んで、私は自由になったうえに、この強欲を手に入れたんです!」

話しながらもスーの攻撃は止まらない。

俺も会話をしつつ、スーの持つ『征服』のスキルの効果を確認する。

『征服:強欲発動時、対象の魂全てを吸収する』

これは、つまりどういうことだ?

強欲は、倒した相手のスキルやステータスを多少受け継ぐことができるようになる効果があった。

この『征服』はそれを補助し、相手の全てを得ることができるということか?

けど、そんなことができるなら、ユーゴーが使っていなかった理由がわからない。

いや、支配者権限か!

禁忌によって得た知識の一つに、支配者権限というものがあった。

七大罪スキルや、七美徳スキルを持つ者だけがアクセス可能な、システムに干渉できる権限。

一部のスキルはこの支配者権限を確立していないと、発動できなかったはず。

ユーゴーは支配者スキルを持っていても、支配者権限を確立していなかったから、『征服』は使えなかったんだ。

ということは、スーは支配者権限を確立させたのか?

いや、スーのスキルに禁忌レベル10はない。

支配者権限は確立していないはずだ。

だとすれば、『征服』は使えない。

「スー! こんなことをしても無意味だ!」

「お兄様! 私にはもうこれしかないのです!」

駄目だ。

言っても聞いてくれない。

どうすれば?

「シュンから離れなさい!」

炎がスーに襲い掛かる。

その炎の先には、カティアがいた。

「カティアー!!」

「来なさい、スー」

そして、スーは標的を俺からカティアに移して、襲い掛かる。

どうしてこんなことに?

どうすればいいんだ?