軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

319 善意で世界が救われるのなら苦労はない

吸血っ子を黙らせてから、改めて黒の話を聞く。

まあ、ウジウジと事あるごとに「私のせいだ」「私が間違えたせいで」とか、そんな感じの余計な言葉が挟まってるので、聞いてるだけで時間がかかる。

けど、まあ、要約して三行でまとめるとこんな感じ。

黒が勇者と魔王に人魔の停戦を呼び掛けた。

ポの字が勇者と魔王に管理者は悪だと吹き込んでた。

勇者と魔王「よし、管理者を討とう!」

何でそうなるんですかねえ?

まあ、より詳しく言うと、流れ的にはこうだ。

まず、この世界の住民の魂の劣化、とりわけ魔族の魂の劣化が激しくなってきていて、魔族の出生率が下がってきていた。

そのせいで魔族がもう戦争どころじゃなくなってきていたってわけだ。

このままじゃ、魔族が滅びると予見した黒は、魔王と勇者に停戦するよう呼びかけた。

ここまではいい。

黒の判断に間違いはない。

当時の情勢を私は知らないけど、アーグナーやバルトが必死に魔族の立て直しに奔走していたのを見れば、どれだけ切羽詰まっていたのか想像するのは難しくない。

大体からして、基本傍観するだけで、自分から積極的に動こうとしない黒が動いてる時点で、どれだけやばい状況だったのかはわかるよね。

もしかしたら、黒が動かずにそのまま戦争が続いていれば、私たち転生者が生まれてる頃には魔族は滅亡していたかもしれない。

それは言い過ぎにしても、事態はより切迫してただろう。

ただ、ここで黒の誤算が発生する。

それは、先々代勇者と先代魔王には、すでにポの字が接触していたってこと。

そんでもって奴は、先生にも言い聞かせている、管理者悪説を吹き込んでたのだ。

管理者がこの世界の住民を勇者と魔王を使って争わせ、力を蓄えさせてそれを死後奪い取っているってやつ。

実際その通りだけど、それだけ聞くと管理者は悪く見えちゃうよね。

ホントはこの世界再生させるために頑張ってるっていうのに。

黒とポの字、両方から話を聞いた先々代勇者と先代魔王がどう思ったのか、それは本人たちにしかわからない。

その本人たちももう死んじゃってるし、真相を知ることはできない。

ただ、結果だけ見れば、彼らは管理者に無謀な戦いを挑み、MAエネルギーを無駄に浪費したアホということになる。

なんでそんなMAエネルギーが大量に減る事態になったのか?

いくら管理者に挑もうとも、ただ戦うだけでMAエネルギーが減るなんて事態になるはずがない。

それが勇者と魔王でなければ。

勇者と魔王には、隠された要素がいろいろある。

あの性悪邪神が変に詰め込んだ結果だ。

勇者は魔王に対して強くなる。

これは長命な魔族から輩出される魔王のほうが、人族の勇者より優れていることが多いから、詰み対策として施された救済措置。

力量差のある勇者と魔王が戦った場合、勇者はMAエネルギーを消費して、一時的なパワーアップを果たすことができる。

実はこのパワーアップ、勇者対魔王以外にも、適用される例がある。

それが、神を相手にした場合だ。

現在この世界にはまともな神が黒しかいない。

サリエルはシステムの格になってて身動きできないし。

つまり、外部の敵に対して、動けるのが黒しかいないってことだ。

神々は領土争いで星を奪い合っている。

この星は龍に見放され、滅びる寸前ということで旨味がないし、そうそう狙われることはない。

けど、絶対にないとは言い切れない。

ここを放棄した龍どもが戻ってこないとも言い切れないし、野良の神がひょっこり現れるかもしれない。

そんな神に対抗するための手段が、勇者と魔王。

勇者と魔王は神に挑むとき、MAエネルギーを消費してパワーアップすることができる。

もちろん、神にそうやすやすと勝てるわけもないし、一時的とはいえ、神に対抗できるくらいのエネルギーを、個人に詰め込めばただじゃすまない。

しかも、神を相手にするんだから、MAエネルギーの消費は勇者対魔王の比じゃない。

それでもこの機能はある。

そして、何を隠そうこの機能の適用範囲に、管理者も含まれているのだ。

ハア?

ってなるよね。

これがオンラインゲームだったら、プレイヤーにGMへの特効が付与されてるようなもんだもん。

しかも、それ使うとサバを殺しかねない。

ゲームの根底を覆しかねない、バカじゃねえの仕様である。

仕様っていうか、もはやバグだよね。

けど、それバグじゃなくてちゃんとした仕様なんですわー。

だって、それ作ったのあの邪神だもん。

思うに、Dはこの世界の住民が管理者に挑むこともまた、選択肢として残していたんじゃないかな。

そこに意味があるかと言われれば、「そのほうが面白そうだから」としかあいつは言わないだろうけど。

ただの人が、神に挑む。

それで世界が変わるかはわからないけど、Dとしては意味がなくてもそのイベントだけで楽しめたんじゃない?

はい。

つまり、先々代勇者と先代魔王は、管理者という名の神に挑むことによって、MAエネルギーを消費して一瞬だけ莫大な力を得ることに成功したわけ。

代償は、もちろんMAエネルギーの大量消費と、連中の命。

たぶん彼らは彼らなりに、良かれと思ってそうしたはずなんだよね。

しかし、結果はMAエネルギー無駄に消費して、世界を窮地に立たせただけ。

おまけに別世界の私ら転生者たちをぶっ殺すなんて、余計なことまでしてくれやがって。

とんだ道化だよね。

さて、お気づきだろうか?

ここまでの流れで、黒にそこまで責任がないことに。

「今の話を聞いてると、大体悪いのはポティマスじゃね?」

「いいや。勇者と魔王にきちんと説明できなかった、私の責任だ」

魔王の尤もな意見に、黒は頑なに自分のせいだと反論する。

説明の最中にもやたらと自分のせいだと強調していた。

実際、黒に全く責任がないかというと、ないとは言い切れない。

黒が先々代勇者と先代魔王にどういう説明をしたのかは知らんけど、そこでしっかりと連中の信用を勝ち取っていれば、こうはならなかった。

ポの字よりも信用なかったってことだからね。

悲しい。

とは言え、先々代勇者と先代魔王をだましたポの字が一番悪いに決まっている。

ポの字の日記を見る限り、この二人はポの字には頼らないで、独自に動いて勝手に自爆したっぽいけど。

ポの字的にも勝手に黒を倒してくれればラッキー程度の認識だったのかもね。

状況から推察して、ほぼ真相にたどり着いてるあたり、ポの字って無駄に優秀だよな。

だからこそ質が悪いんだけどな!

「ギュリエ、何を隠してるの?」

「何も隠してなどいない。私が不甲斐なかった。ただそれだけのことだ」

問い詰める魔王と、しらばっくれる黒。

しかし、ここまで来ちゃうと黒が何かを隠しているのはまるわかり。

「私が彼らにシステムについて、半端な知識を教えてしまったがために起きた悲劇だ。その責任は私にある」

うーむ。

黒は嘘をついてない。

ただ、肝心なことを言ってないだけで。

先々代勇者と先代魔王がバカやったのもホント。

その二人を唆したのがポの字だっていうのもホント。

その二人にシステムについて半端な知識を与えちゃったのが黒だっていうのもホント。

全部が全部、悪いほうに作用してああなった。

黒幕という意味では、関わった全員が黒幕と言えなくもない。

ただし、一人足りない。

「女神サリエル」

私の呟きに、黒が大げさに反応する。

その視線は、「言うな!」と、口ほどに語っている。

まあ、言っちゃいますけど!

「本来黒に行くはずだった攻撃を、Dに逸らした人物。それが女神サリエル」

私の言葉に、それぞれがそれぞれの反応を示す。

黒は無表情を保っていた。

魔王は生気の抜けた表情を浮かべた。

鬼くんは納得した表情。

吸血っ子は何もわかってないアホ面。

考えてみれば当たり前。

ポの字すらその存在を知らないDに、先々代勇者と先代魔王が攻撃を加えることなんてできっこないのだ。

一応システムを経由すれば、その制作者で術者であるDにたどり着くことは不可能じゃない。

けど、そんなことシステムによほど精通していないとできっこない。

システムの管理者である、女神サリエルを除いて。