軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去編⑪

フォドゥーイの人生は他者を蹴落とすものだった。

弱者というのは搾取するためのものであり、強者とは追い落とすべき存在。

そうやって生きてきた。

犯罪や不正に手を出したわけではなく、法的に何の問題もない金稼ぎ。

その金を弱者から吸い出し、強者からかすめ取る。

そして次の金稼ぎへと奔走する。

フォドゥーイ自身に金への欲求などない。

ただ生まれがそうであっただけで、金を稼ぐことが仕事であり、彼の人生だった。

その在り方は経済を回すための歯車のよう。

フォドゥーイという人間は、金を回すための装置だった。

サリエルはそんなフォドゥーイとは対極の存在だと思われた。

弱者に救済を与え、落ちぶれる元強者にも手を差し伸べる。

日々金稼ぎの装置として面白味のない生活を送っていたフォドゥーイは、そんな自分とは正反対の存在に興味を持った。

いったいどんな聖人君子なのであろうかと。

フォドゥーイは有り余る金の一部をサリエーラ会に寄付していた。

その伝手を使ってサリエルと面会することに成功する。

そこで出会ったのは、自分以上に装置のような存在だった。

感情もなく、ただ淡々と与えられた使命を遂行する。

そこにフォドゥーイが想像していた聖人君子の姿などなかった。

フォドゥーイがサリエルに抱いた感想は、機械だった。

自らの意思を持たず、あらかじめ入力されたプログラム通りに動くだけの機械。

より正確に言うのであれば、バグを起こしているのに正常に作動している機械、であろうか。

フォドゥーイがサリエルを見て感じたのは、哀れみだった。

自らの行動理念を理解できず、それでも淡々と使命を全うするその姿に、言いようのない哀れみを感じた。

しかし、だからといって何かができるわけではない。

フォドゥーイが哀れみを感じようと、サリエルは変わらずに世界の歯車であり続ける。

それは自身もまた歯車の一つに過ぎないフォドゥーイにはどうしようもないことだった。

それでも、どうにかしてやりたい。

それは歯車であり続けた男が、初めて自分の意思で世界に抗うことを決めた瞬間だった。

その日からフォドゥーイはサリエルに付き従うようになった。

世間一般ではあの極悪非道な金の亡者が女神の威光で浄化された、などと面白おかしく騒がれたが、そんなことを気にする男ではない。

できるだけサリエルの近くに侍り、彼女のことを知ろうとした。

彼女を知り、彼女を解放する術を探した。

しかし、足りない。

フォドゥーイではどうあっても足りなかった。

認識が、感情が、知識が、共有が、そして何よりも時間が。

神を知るには、人間であるフォドゥーイには時間が足りな過ぎた。

自分では、サリエルを理解し、解放してやることはできない。

そう悟ったフォドゥーイは、誰かに自分の後を継がせることを画策する。

神を理解し、長い時をサリエルの隣にいて支えられる。

そんな人物を。

そしてフォドゥーイの目の前に、怒りをあらわにした龍が現れた。

こいつしかいない。

フォドゥーイは直感した。

怒りという感情をわかりやすく表現する神。

感情を持っているということは、人間に近い思考をしているということ。

それでいて神。

これほど条件に合致した人物はいない。

そしてフォドゥーイはわざとその龍、ギュリエに辛辣な言葉を浴びせ、彼を試した。

サリエルを任せるに足る男であるかどうか。

人が神を試すという、不遜極まりない行為。

その代償で殺されても文句は言うまい。

所詮自分の目が曇っていた。

ただそれだけのこと。

そう、腹をくくって。

結果、ギュリエはフォドゥーイの想像以上にこちらに歩み寄る姿勢を見せた。

フォドゥーイは期待する。

いつかギュリエがサリエルを使命という楔から解放してくれることを。

一筋縄ではいかないだろうが、長い年月をかけて、ゆっくりとサリエルの心を解き放ってくれればいい。

もう、十分以上にサリエルは歯車の役目を全うしたと、そうフォドゥーイは思っているのだから。

歴史を紐解いてみると、サリエルらしき人物が頻繁に見え隠れしているのがわかる。

その末路はほぼ悲惨な結果を迎えている。

良かれと思ってしたことが、結果的に悪いほう悪いほうへと転がっていく。

まるで底なしの悪意に引きずり込まれるかのように。

それこそが、人の醜悪さであるかのようにフォドゥーイには感じられた。

それでも、サリエルは使命のためと言い、立ち止まることなく世界に奉仕し続けてきている。

ボロボロに傷つきながら。

傷ついていることにさえ気づかずに。

愚直に使命を全うし続けるその姿は、哀れに過ぎる。

もう休んでもいいはずだ。

そう思えど、フォドゥーイにはサリエルを止める術がない。

言葉でも行動でも、フォドゥーイではサリエルの心を動かすことはできない。

サリエルの心に入り込めるほどの時間が、フォドゥーイにはなかった。

サリエルにはかすかに心と呼べるものが存在している。

完全な心のない機械ではない。

だからこそ傷ついている。

だからこそ、救える。

しかし、その心は人間から見ると酷く小さい。

感情の揺れは微小で、ほとんどあってないようなもの。

フォドゥーイではその感情に訴えかけることができなかった。

使命を放棄させるだけの感情の揺らぎを引き出すことができなかった。

だから、託すのだ。

別に使命を放棄させなくてもいい。

ただ、サリエルにこれ以上傷ついてほしくない。

感情の揺らぎは少ないサリエルだが、それでも傷は長い時の中で積もっている。

その傷を癒してくれればなんでもいい。

「後はお若いもの同士で。とはいえ、私のほうがよっぽど若造なんだが」

ギュリエをサリエルのもとに送り出したフォドゥーイ。

気分は結婚相談所の職員だった。

二人の未来に幸があらんことを、信じてもいない神に祈った。

その願いは、人の悪意に踏みにじられる。

どこまでも底なしの悪意によって。