軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

299 エルフの里攻防戦⑪

どれくらいの時間が経ったのか。

私の感覚では相当長い時間戦い続けていた気がする。

けど、それも体感時間を長くさせていた私の主観にしかすぎず、実際には案外短い時間だったのかもしれない。

もう何度目になるかもわからない攻撃を繰り出す。

私の貫手がロボの胸に突き刺さり、発動した外道魔法がその機体に宿った魂を破壊した。

ロボは一度だけ痙攣するかのようにその体を震わせ、動きを完全に止めた。

手を引き抜いても、穿たれた穴は再生することなく、支えを失った体は呆気なく地面に倒れる。

存外軽いカシャンという音が、魂という重みを失った抜け殻の奏でる音のように思えた。

終わった。

イヤ、まだだ。

このロボはポティマスの切り札ではあっても、ポティマス自身ではない。

ポティマス本人に引導を渡すまでは、終わりじゃない。

とはいえ、きっついわー。

私の見た目は傷一つない綺麗なままだけど、中身はもうボロボロ。

謙譲の効果で魂を削ってしまったせいで。

ロボから奪ったエネルギーを多少緩衝材にできたけど、それもないよりかはマシって程度。

今、謙譲の効果を解いたら、どうなることやら。

蠟燭の火は燃え尽きる直前が最も輝くってね。

頼むから、ポティマスに始末するまで持ってくれよ。

――終わったなら外に出て――

頭に直接響くような声。

白ちゃんからのメッセージかな?

魔術妨害結界がいまだ発動してるっていうのに、さらっとこういうことしないでほしい。

自信なくすわー。

ともあれ、白ちゃんがわざわざ呼ぶってことは、外に行ったほうがいいってことだよね。

入ってきた時に閉まった扉を、力で強引にこじ開ける。

さすが、神を閉じ込めておこうとしただけあって、開けるのに一苦労した。

ひーひー言いながら扉を開け、これまたひーひー言いながら長い坂を上り、外に出る。

そこで目にしたものは、なんていうか想像のはるか上のものだった。

あっちこっちで燃え盛る森。

火の手が上がっている場所には、なんだかよくわからない丸い巨大な物体が転がっている。

そんな地獄のような光景の中で、ひときわ目立つ巨大なシルエット。

空を覆い隠すかのような、巨大な円形の物体が飛翔していた。

白ちゃんの記憶からそれを一言で表現するなら、UFO。

宇宙人が乗ってるとか実しやかに噂されてるあれだ。

けど、あながちこの表現も外れじゃない。

宙に浮かぶ円形のそれは、正しく宇宙船だろうから。

ポティマスがこの星の現状を知らないはずがない。

そんな砂上の楼閣のようなこの星にポティマスがこだわる理由は、システムがあるから。

さっきまでシステムのことをずいぶんと悪し様に罵っていたけど、それは期待を裏切られたからこそ。

ポティマスはシステムに期待していた。

自身を神にしてくれるのではないかと。

けど、ポティマスは神になれなかった。

それでも、一縷の望みをかけて、ポティマスはこの星に居座った。

もしかしたらいつか神になれるかもしれないと願って。

だけど、ポティマス本人だってそれが淡い期待だっていうことは自覚してたはず。

だから、用意してて当然なのだ。

この星から脱出する方法を。

ポティマスはこの星からいつでも出ることができる。

だからこそ、星が滅ぶようなことでも平然とできる。

その星の脱出手段が、今空中に浮かんでるあれだというわけだ。

尤も、その脱出のための手段は、白い糸で雁字搦めに捕らわれちゃってるけど。

その様はさながら蜘蛛の巣に引っかかり、捕食されるのを待つばかりとなった羽虫。

うむ。

実際その通り過ぎて笑えてくる。

白ちゃん、あんたスゲーわ。

私がロボと戯れてる間に、何してくれちゃってるのさ。

グッジョブ過ぎて言葉もないわ。

あの中にポティマスがいるのは間違いない。

私がロボと戦ってる時、途中からポティマスの声が聞こえなくなってたし。

ロボを放棄してサッサと逃げ出してたんだな。

あのロボも、手間暇かけて作ったとはいえ、所詮ポティマスから見れば道具の一つに過ぎない。

自身の命と引き換えにして、どっちをとるかなんてポティマスにとっては悩む必要すらない選択ってわけだ。

宇宙船を縛り上げている糸のうちの一本が、私のすぐそばの地面に引っ付いている。

糸の太さは人一人が乗って歩いても問題ないくらい。

軽く周りを見回してみても、白ちゃんの姿はなし。

ただ、こうもあからさまに伝って行けと言わんばかりに糸があるってことは、まあそういうことなんでしょ。

糸の上に乗り、そこを足場にして上っていく。

なんかさっきから上ってばっかだな。

宇宙船からの迎撃が何かしらあるかと警戒したけど、それもなくすぐに宇宙船にたどり着いた。

もうすでに白ちゃんによって無力化されてるってことかな。

ざっと宇宙船の上に乗り、ハッチのようなものを探す。

ほどなくして見つけたそれをやっぱり力づくで引っぺがし、中に入った。

船内は驚くほど暗い。

照明がない。

まあ、暗視のスキルがある私にはそんなこと関係ないけど。

歩く。

巨大なだけあって、通路もバカみたいに長い。

歩く。

ガラス越しに工場のような施設や、農園のような施設などがあった。

この宇宙船の中だけで、人の営みが完結できるように設計されているんだろう。

ことによっては数百年単位で宇宙をさまようことだってあり得るんだから。

システムに期待してただけじゃなく、先の見えない不安というのもポティマスがこの星を離れなかった理由の一つかもしれない。

この星にはギュリエという神しかいないけど、他の星はもっとたくさんの神々がいるかもしれない。

そう考えれば、迂闊なことはできないし。

歩く。

防衛用っぽいロボがワラワラと出てきたけど、さっきまで地下で戦っていたあれとは比べ物にならないほど弱い。

蹴散らす。

他のロボを相手にしてみると、あの地下で戦っていた、グローリアタイプΩだっけか、あれが特別性だっていうのがよくわかる。

歩く。

奇声を発しながら、ポティマスの分体が襲い掛かってきた。

端正な顔立ちが、焦燥と恐怖で歪んで酷いことになっている。

これまでポティマスは分体が殺されようが、すました顔をこんな風に歪ませることはなかった。

分体はいくらでも使い捨てて構わないけど、本体は殺されるとそれだけ困るってわけだ。

当たり前だけど。

サクッと襲い掛かってきた分体を片付ける。

今さら機械によって強化されていようとも、分体ごときで対処できる段階はとっくに超えてる。

「つまり、詰んでるんだよ」

歩いて歩いて、たどり着いたその先に、それはあった。

透明な筒の中に入った、エルフの老人の体。

その体には無数の管が接続されている。

筒の中は特殊な素材か何かで凝固しているのか、老人はピクリとも動かない。

「やめろ! やめろやめろやめろ! 終わりたくない! 終わっていいはずがない! 私は永遠に生き続けなければならないんだ! 頼む! やめてくれ!」

まあ、動かない代わりにスピーカーからは絶叫が迸ってるんだけど。

スピーカーからは絶えずやめてくれという懇願と、意味のない叫び声の入り混じったものが垂れ流されている。

呼吸をしてないんだから、ずっと叫び続けることもできる。

ポティマスにとって肉体は生きるための入れ物でしかなく、生きてさえいればそれでいいもの。

動きたいときは分体を使えばそれでいい。

この筒の中で身じろぎ一つせずただ生きているだけの肉体、これこそがポティマスの本体。

こういう風になってるんじゃないかって想像はできてたけど、実際にこの目で見てみると哀れな姿だ。

生きることに固執し、ただそれのみを追い求めた男の、これが末路。

「死にたくない! 死にたくない! 嫌だぁ! 死にたくないいいいぃいい!」

「残念ながら、ポティマス、あんたには死よりももっと酷い目にあってもらうよ」

喚き続けるポティマスに同情はしない。

かといって、ざまあみろという感じにもならない。

もっと何かこみ上げてくるものがあるかと思ったけど、自分でもビックリするぐらい何も感じない。

「深淵魔法」

私の呟きを聞いたポティマスが、さらに狂乱した叫び声をあげる。

深淵魔法は特殊な魔法。

魂を破壊する外道魔法に対し、深淵魔法は魂を分解し、システムに還元する。

ただ殺すだけじゃ、いけない。

この男は、その魂でもって、この世界に対して償わせる。

深淵魔法の準備にかかる。

外道魔法と違って、深淵魔法には高度な魔法構築が必要になる。

きっと、D様はわざとそうしてるんだと思う。

神に対抗するために設定されたのが外道魔法。

この世界の者同士で裁きを下すために作られたのが深淵魔法。

生まれ変わらせるという選択肢を奪い、システムに還元させるという裁きを下す。

それは、生まれ変わらせるよりもこの世界にプラスになると判断されたということ。

発動までに時間がかかり、実戦向きではないのがその証拠なんじゃないかと、私は密かに思ってる。

「じゃあね、 お父さん(・・・・) 」

もはや意味のある言葉を言わず、ただただ絶叫を上げるポティマスの本体に向かって深淵魔法を発動させた。

そして、静寂だけが残った。