軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

怒鬼

その日の会談はこれまでのように一日だけで終わらず、細かな計画の調整などで難航し、日をまたいでまた話し合うことになった。

前二回の会談が顔合わせ程度のものだったのに対して、今回から本格的に足並みをそろえる作業に入るのだから当然ともいえる。

それに、神言教には当初予定していなかった方面で協力を強いていることもあって、話し合うことは多々あった。

王国転覆の詳細計画。

帝国の掌握。

他の国々への根回し。

エルフの里への進軍計画。

魔族を人族領に招き入れる算段。

魔族のエルフの里への進軍計画。

詳細を話し出せばきりがない。

結局会談は日が暮れるまで続いた。

夕食は神言教が振舞うことになり、部屋まで用意してもらって宿泊できるようになった。

白さんに頼めば魔族領に帰ることもできるけれど、今日はみんな泊まる気になっているようだ。

僕は貸し与えられた部屋で一息つく。

寝るまでの間に魔剣の生成をMPがなくなるまでしておこうと意識を集中させた。

「笹やーん! 起きてる?」

一本目の魔剣が出来上がったころ、扉をノックする音とともに草間の声が響いた。

「起きてるよ。それから、名前はラースって呼べって言わなかったっけ?」

扉を開けながら、注意する。

「悪い悪い」

草間は全く悪びれる様子もなく部屋の中に入り込んできた。

やれやれと思いながら、扉を閉める。

草間は両手に菓子屋飲み物を持っており、長居する気満々であることがわかる。

これは、魔剣の生成はこれ以上できないなと諦めた。

「お? これ魔剣?」

その生成したばかりの魔剣を、草間は目ざとく発見した。

「そうだよ」

「なあなあ、笹、ラースのスキルってもしかしなくても魔剣を生み出すとかそういうやつ?」

「ああ」

目を輝かせながら聞いてくる草間に、僕は肯定を返す。

僕が昔人族領で暴れていたオーガだというのは調べがついてるんだろう。

僕もそうわかるように自己紹介したわけだし。

そして、その時の記録から、僕のスキルがどういうものなのか、おおよその見当はついていたようだ。

「草間のスキルは?」

「俺? 俺のは忍者っていうスキルで、影分身とか忍法とか使えるやつ」

ダメもとで聞いてみたんだけど、草間はあっさりと自分のスキルを暴露した。

ああ、草間は隠しごととかそういうのができるタイプじゃなかった。

きっと、スキルは秘密にしておいたほうがいいという認識すらないんだろう。

「便利そうだね」

「便利は便利だけど、俺は魔剣のほうが憧れるな。魔剣って相当強い魔物の素材から作んないとできないんだぜ? だからめっちゃ貴重なの」

そうなのか。

僕はMPさえあればいくらでも作り出せるので、貴重だという感覚がない。

使い捨て感覚だ。

「なあなあ。もしよかったらさあ、俺にもなんか魔剣作ってくんない?」

草間のおねだりに、僕は少し考えてからOKを出した。

あまり魔剣を作りすぎると、市場を混乱させるんじゃないかと危惧したのが、一瞬考えた理由だ。

けど、考えてみれば僕は白さんに頼まれて第十軍に配備する魔剣を大量に生成している。

今さらだという思いもあって、草間の願いを聞くことにした。

僕はどんな武器がいいのかリクエストを聞き、生成を開始した。

その様子を草間は興味深そうに眺めている。

そして出来上がったのは、二本一対の短刀。

忍者ということなので、それっぽく闇属性の追加効果をつけておいた。

草間のイメージには合わないかもしれないけど。

銘は朔と望にしておこう。

「おおう! ありがとう! 超大事にするわ!」

「それはいいけど、ちゃんと使ってくれよ? 使わなきゃ、宝の持ち腐れだから」

「おっけおっけ」

手渡した朔と望を、草間はニヤニヤしながら眺めている。

玩具を与えられた子供みたいな反応だ。

こんなに喜んでもらえるのであれば、作った甲斐があるというもの。

草間の持ってきたお菓子をつまみながら、草間が飽きるまで待つ。

「笹やん、ちょっと機嫌直った?」

ふと、草間が聞いてきた。

何の脈絡もない問いかけだったけれど、どうしてそんな質問をしてきたのかを聞くことはない。

はたから見れば僕の機嫌が悪いことくらい、すぐにわかるだろうから。

「そうだね。少し、気は紛れたかな」

草間とのやり取りで、ささくれ立っていた気分が少し落ち着いたと思う。

あくまでも少しで、根本的な解決にはなってない。

胸にわだかまる、この行き場のないイラ立ちは、きっとこの先晴れることはないだろう。

「笹やん、なんでそんな荒れてんの? 俺じゃ頼りないかもしれないけど、相談には乗るぜ?」

草間のらしくもなく真剣な声に、僕は相当酷い状態に見えるようだと自覚する。

きっと草間に話したところで、問題の解決にはならない。

けど、気分は紛れるかもしれないと思い、ポツポツと話し出していた。

僕が白さんから今回の計画を聞いた時に、真っ先に思い浮かんだのは言いようのない不快感だった。

言語にできない、生理的な嫌悪感。

それは、洗脳という手段に対する嫌悪。

僕が憤怒を取得する原因となった洗脳。

僕がこの世で最も嫌う、唾棄すべき手段。

それを、白さんは何のためらいもなく使う。

使っている。

夏目が人を次々と洗脳していき、その夏目すらも知らず知らずのうちに白さんに洗脳されている。

笑えない。

それが本当に必要ならば、僕も我慢できたかもしれない。

けど、今回の件は白さんも想定していない、うっかりだと言う。

うっかりで、人を不幸に貶める。

洗脳は、されたものも、それに近しいものも不幸にする。

僕は洗脳されて妹を自らの手で殺した。

兄は洗脳されてそんな外道に付き従っていた。

それを見た僕は、目の前が真っ赤になるほどの怒りを覚えた。

今回の場合、洗脳された長谷部さんは、きっと不幸になる。

それに、長谷部さんに裏切られる、俊も。

僕は、それに加担する立場だ。

いや、加担ではなく、主導する立場だと言ったほうがいいかもしれない。

今回の件のことを知らなかったとはいえ、僕は白さんに協力することを選択した。

そして、その選択はすでに覆せない段階まで来ている。

今さら、洗脳に忌避間を覚えるからと言って、今後の計画を止めさせることなんかできない。

僕は、僕を洗脳した奴と、同じかそれ以上の外道な行いをしようとしている。

その先にどんな理由があろうと、その行為は、被害者にとってただの悪だ。

僕は、悪だ。

そんな自分に吐き気を覚える。

それでも止まらない。

止めようとも思わない。

思っては、いけない。

「難しく考える必要はねーと思うけどな。正義とか悪とか、結局のところ立場が違うだけだろ? だったら自分の立場で正義を貫けばいいじゃん」

僕の話を聞いた草間の感想は、眩しいくらいまっすぐだった。

そう言い切れるお前が羨ましいよ。

どっちにしろ、僕の個人的な感情だけで止まるものじゃない。

ならば、僕はどこまでも突き進むのみ。

僕はそれがたとえ悪だろうと、最後まで白さんに協力する。

そう、最期まで。