軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鬼18 死屍累々

戦後処理がこんなに大変だとは思わなかった。

一通りの作業が終了し、ぐったりとする。

ステータスやスキルのおかげか、肉体的な疲労はそこまででもない。

けど、精神的な疲労がものすごい。

というのも、僕がしていた仕事は、戦死者の名簿の確認や、その遺族への見舞金の準備などだから。

僕の率いた第八軍は、被害者がかなり多い。

半分以上は僕が無理矢理敵軍にけしかけて、半ば特攻するようにして死んでいった者たちだ。

名簿を見るたびに、彼らの僕へ向ける怨嗟の声が聞こえてきそうだった。

そして、回収された遺体に縋りつく遺族の姿。

彼らに対して、僕は心のこもっていないお悔やみの言葉を言わなければならない。

心を込めてはいけない。

そんなことをする資格が、僕にはない。

僕は彼らを死地に無理矢理向かわせた、酷い上司でなければならないのだから。

本来ならば、こうして感傷に浸ることすら、僕には許されない。

僕は何も考えないようにして、ひたすら戦後処理を進めていた。

僕が戦った場所の砦は、僕の手によって崩壊してしまったため、占拠するだけの戦略的な価値がなくなっている。

ただの瓦礫の山を占領していても仕方がない。

けれど、戦場後に置き去りにされた両軍の死者の死体や、砦内にあった物資などを回収しなければならなかった。

放っておくと戦場泥棒が根こそぎ持って行ってしまう。

砦にあった物資は、僕が砦を潰した際にそのほとんどが使い物にならなくなっていたけれど、運よく崩壊に巻き込まれずに無傷で保管されていたものに関しては、回収することができた。

それ以上に大変だったのは、死体の回収だ。

回収を担当したのは、もちろん第八軍の生き残りや、新たに雇った人員。

そのほとんどが、死者と面識のある人物ばかり。

知り合いの死体を発見し、号泣してしまって作業の手を止めるということが幾度もあった。

これが、僕の作り出した光景。

言葉をなくしそうになる。

それでも、僕は黙るわけにはいかない。

泣きわめく作業員たちに、「泣いてないで動け」と、辛らつな言葉を投げかける。

恨みがましい目を向けてくる人には、それ以上の眼力で睨み返す。

威圧を伴ったその睨みに、彼らは顔を伏せて屈服するしかなかった。

第八軍の面子は、もともとは僕とは何の関わりもない寄せ集め集団。

僕に対する忠誠心なんて、初めからなかった。

それが、死地に無理矢理向かわされ、多くの戦友を喪うことになって、敵愾心と畏怖へと変化している。

理不尽な死への、憎悪。

だけど、逆らえない。

その鬱屈した思いがひしひしと伝わってくる。

まんま、恐怖で部下を縛り付ける悪の将軍だ。

正義なんかどこにもありはしない。

けど、これは僕が選んだ道だ。

今さら後戻りなんかできない。

大きく溜息を吐き、僕は私室の椅子から立ち上がった。

今日はこの後、軍団長を集めての会議が行われる。

私室を出て、会議室に向かう。

その途中で、メラゾフィスさんとバッタリ出くわした。

「どうも」

「どうも」

お互いに口数少なくあいさつを交わす。

メラゾフィスさんはソフィアさんの従者。

それもあって、僕が軍団長になってからというもの、先輩軍団長としていろいろと面倒を見てもらった。

物静かな人で、無駄口を開く人ではないけれど、今日はいつになく雰囲気が重い。

きっと、僕と似たような理由で気分が沈んでいるんだろう。

いつも青い顔色が、今日はことさら蒼白に見える。

そのままお互い無言のまま会議室に向かう。

扉を開けて会議室に入れば、同じように重い雰囲気のダラド軍団長がすでに席についていた。

ただ、ダラド軍団長は精神的なものよりも、肉体的な疲労が色濃く見える。

僕やメラゾフィスさんと違って、ダラド軍団長は普通の魔族だ。

ステータスもその分低い。

きっと、戦争時の疲労に加え、戦後処理でさらに疲労をため込んだんだろう。

「ぬ。メラゾフィス殿とラース殿か」

声にもいつもの覇気がない。

よっぽど疲れているらしい。

「お疲れ様です」

思わずそんなことを言ってしまった。

「ぬう。やはり疲れているように見えますかな?」

「ええ、だいぶ」

誤魔化しても仕方がないので、正直な感想を話す。

「情けない限りである。せっかくの大舞台で敗北し、その後処理でここまでの醜態をさらす。此度のことは自信を失うことばかりである」

ダラド軍団長は力なく笑った。

そこに、タイミングよくコゴウ軍団長が入室してくる。

巨漢の軍団長は、室内の雰囲気を感じ取ったのか、オロオロと挙動不審になりながら席に着いた。

コゴウ軍団長も顔色が悪い。

多かれ少なかれ、軍団長は激務に追われているということか。

僕も自分の席について会議の始まりを待つ。

しばらく待つと、白さんが入室してきた。

部屋に入ってくる時、気のせいかもしれないけれど、コゴウ軍団長を見ていたような。

白さんは目を閉じているので、どこを見てるかいまいちわからないけれど。

「やあ。そろってるね」

白さんに目を奪われているすきに、いつの間にかアリエルさんが入室していた。

軍団長は全員揃っていないけれど、残りは欠席ということだろう。

それよりも、アリエルさんの横に立つバルトさんの顔色がやばい。

今にも死にそうな土気色をしてるんだけど、大丈夫だろうか?

「みんな戦後処理お疲れさま。で、お疲れのところ悪いんだけど、まだまだ働いてもらうね。次の戦いに向けて、軍の再編を急ぎ進めてほしいんだ」

顔にはみんな出さなかったけれど、きっと思ったことは一緒だと思う。

勘弁してくれと。