軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人魔大戦 ソフィアの場合

「ねえ」

「何?」

「なんで私たちここにいるのかしら?」

「話は聞いたはずです」

聞いたけど、聞いたけど!

どうして私たちは戦場ではなく、市街地にいるのかしら?

しかも、この女と一緒に!

「睨まないで下さる?」

「睨みたくもなるわ。そういうそっちはそっぽ向いてるじゃない」

「あなたの視界に入るだけで不愉快ですし、あなたを視界に入れるのも不愉快ですので」

言ってくれるじゃないの、このアマ。

ここでくびり殺してやろうかしら?

……いいわねそれ。

「ああ、私に変な気は起こさないでください。ご主人様が見ていますので」

そう言って、フェルミナが服の中からひょっこりと小さな白い蜘蛛を見せる。

それは間違いなくご主人様の分体。

ここでこの生意気な女に手を出せば、ご主人様が黙っていない。

行き場を失ったイラ立ちをぶつけるように、さらにきつく睨みつける。

どうして戦闘真っ只中だっていうのに私たちが市街地にいるのかというと、ご主人様の指示だからとしか言いようがない。

せっかく久しぶりに暴れられると思っていたのに、まさか戦場から離されるなんて思ってなかったわ。

しかも、本当に来るかどうかもわからない相手の対処のためになんて。

京也くんとの戦い以降、私は戦闘欲求を満たせていない。

というか、その京也くんとの戦いですら、いいところで横槍が入ったから消化不良のまま。

そして、私は多分この先、あの戦いよりも充実した気分になれることはないと確信してしまっている。

ほぼ互角の相手。

相手の思わぬ手に一喜一憂して、それを凌いだ時のあの快感。

吸血をする時とは違う、爽快感。

戦っている最中でそれなのだから、勝利した瞬間はどれだけ最高の気分が味わえるのか。

それを想像するだけで体が打ち震えたほど。

だっていうのに、あの黒とかいうののせいでそれは台無し。

昂ぶった気持ちが一気に萎えてしまったもの。

そんでもって、あれほどいい条件の戦いが今後できるとは思えない。

この世界で私と互角に戦えるのなんて、京也くんしかいないもの。

あとは私よりも弱いか、ご主人様を筆頭にした強すぎる人たちだけ。

京也くんみたいに拮抗、もしくはいい勝負ができるくらい近い相手はいない。

その京也くんも、正気を取り戻しちゃったから、あの時みたいに私のことを殺す気で戦うなんてしてくれない。

勝利が確定した相手か、敗北が確定した相手しかいないの。

だから、あの戦いは私が満足できる、最初で最後のものだった。

その機会を逃してしまったのだから、私が戦闘で発散できるのは日ごろたまった鬱憤の分のみ。

マイナスを帳消しにできるだけで、どうあってもプラスにはならない。

それでもないよりかはマシだと思っていたのに、その戦場からすら遠ざけられるなんて。

ご主人様は私のことが嫌いなのかしら?

あ、これっ深く考えちゃダメだわ。

もし本当に嫌いなんて結果が出たら泣く。

「どうやら、来たようです」

フェルミナにくっついているご主人様の分体が、何かを訴えるようにわちゃわちゃと動いている。

何これちょっと可愛い。

じゃ、なくて。

「そう。これで少しは暴れられるわね」

「こっちのようです」

ご主人様の分体が指し示す方向に向かう。

たどり着いたのは市街地の一角。

人目の少ない閑散とした住宅地。

その住宅の一つから、扉を開けてフードをかぶった男たちが出てくる。

「やっちゃっていいのよね?」

私の確認に、ご主人様の分体がコクリと頷く。

それを見て、私は怪しげなフード集団に飛びかかった。

一番手前にいたフードに剣を叩きつける。

京也くんに作ってもらった大剣型の魔剣。

私の力と魔剣の力が合わさり、フードの男は地面と同化した。

言い間違いじゃないわよ?

ちょっと力が強すぎたみたいね。

切ったつもりなのに、原型を留めない状態でグシャッとなって地面に埋没しちゃったの。

うん、やりすぎたかしら?

「ふむ。嵌められたか」

フードのリーダーっぽいのが、仲間がそんな状態にされてるのを見たのに、冷静に呟く。

「が、情報は餌だが偽りではなかった。かかれ」

リーダーフードの命令で、残りのフードたちが一斉に襲い掛かってくる。

私はそれを魔剣の一振りでなぎ払う。

さらに、私の背後から飛んできたチャクラムがフードの一人に命中し、その首をかき切った。

フェルミナは隠れて援護射撃をする気のようね。

首を切られた男が倒れ、その拍子にフードが外れる。

あらわになった男の耳は、長い。

エルフの特徴。

私が襲いかかったのは、エルフの集団。

ご主人様はエルフに偽の情報を掴ませていた。

魔族が一斉に人族に攻め入る時、私がこの市街地にいると。

その情報を掴んだエルフが、もし私のことをどうこうしようものなら、始末して来いと。

来るかどうかもわからなかったけれど、エルフは偽情報を信じてこうしてノコノコ来たってわけね。

まあ、私は確かにここにいるから、偽情報ってわけでもないわね。

相手のリーダーも情報は餌だが偽りではなかったとか言ってるし。

ご主人様は、転生者である私の情報を流せば、エルフが動くと期待してたみたい。

この大事な局面でなら、アリエルさんの庇護はなくなるから。

魔剣を振るい、襲いかかってくるエルフを倒していく。

弱い。

つまらないな、と思った瞬間、顔面をいきなり殴られた。

え?

あれ?

状況が理解できず、惚けてしまう。

それも一瞬で、無様に地面を転がった衝撃で我を取り戻す。

すぐさま体勢を立て直そうとして、すぐ目の前に足が迫っていた。

「!?」

魔剣で迫り来る足をガード。

刃を立てたのに、相手の足は切れなかった。

魔剣と足のつばぜり合い。

相手を拝むと、そこにはフードの下に半分隠れた、無表情な男の顔。

さっきのリーダーだ。

腕に力を込め、リーダーの足を押し返す。

リーダーはその力に抗わず、後ろに下がる。

まさか、この私が無防備に殴られるなんて。

ちょっと予想以上の相手のスピードにびっくりしたわ。

けど、ダメージはほとんどない。

油断してただけ。

そうよ、油断してなければこんな奴のパンチをもらうはずがないわ。

それにしても、ちょっとこいつ硬すぎじゃない?

なんで魔剣で切れないのよ?

おかしいでしょ。

なんだかイライラしてきた。

そのイライラをぶつけるように、リーダーに切りかかる。

リーダーはそんな私に手の平を見せ、そこに穴が空いて何かが飛び出した。

避ける間もなく、私の体を何かが貫通する。

HPが減ったのが鑑定を見なくてもわかる。

何、今の?

レーザー?

けど、関係ないわ。

ダメージも気にせず、魔剣を振りかぶる。

これにはさすがのリーダーも、顔をかすかに驚愕に歪めた。

全力で振りかぶった魔剣が、リーダーの体にぶつかる。

硬い感触のあと、それが破壊されていく手応え。

リーダーの体が真っ二つになり、衝撃で飛んでいく。

一息吐いて、飛んでいったリーダーの体を追う。

そこには、半身だけどなったリーダーが転がっていた。

体の断面から見えるのは、機械の体。

どうりで、硬くて強いわけだわ。

この男、自身の体を半分サイボーグ化してたのね。

ご主人様からエルフは高度な機械技術を持ってるっていうのは聞いていたけど、実際この目で見てみるまで半信半疑だったわ。

「これは、大きな誤算だ。まさかこの体で敗北するとは」

「あら? そんな姿でまだ生きてるの?」

驚いたわ。

体を半分失っても生きてるなんて。

サイボーグってすごいのね。

「アリエルの手に渡したのは失敗だったようだ。あの時殺すのに失敗したのはどうやら大きな痛手だったようだな」

「そうね。いずれエルフを滅ぼしに行くから、その時を楽しみにしてなさい」

尤も、あなたはここで死ぬけれど。

魔剣を叩きつけて、今度こそ息の根を止める。

「終わりましたか?」

「ええ」

フェルミナがひょっこり顔を出して、息絶えたリーダーの死骸、というか残骸を一瞥する。

「とりあえず、これは回収していきましょう」

「そうね」

ご主人様は多くのことを語らないけど、今回私が餌になったのは、きっとこれを回収するためなのよね?

エルフの機械がどの程度なのか、それを知るために。

どこまで見通して行動しているのやら。

味方ながら、恐ろしいわ。