軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

266 いなくてもよかった

「あの、私って結局どうしてここに連れてこられたんでしょう?」

ものすごく頼りない声でそう聞いてくるフェルミナちゃん。

うん。

いなくてもよかったね。

むしろ私でさえ今回一言も喋ってねえし。

うちら必要なかったんじゃね?

うんうん。

必要なかった者同士、空気に徹しようじゃないか。

私の答えがないことを察して、諦めたかのように黙り込むフェルミナちゃん。

会談中も空気だったけど、それが終わった今も存在感を消している。

この子、隠密系の才能があるっぽい。

フェルミナちゃんが婚約者に捨てられて、その後私が拾って鍛え直したわけだけど、純粋な戦闘系スキルよりも、隠密だとかの諜報に役立ちそうなスキルの伸びが良かったんだよね。

どこぞのメイド様みたいに、目の前にいるのに見失いかねないレベルではないけど、存在感をかなーり薄くすることはできる。

それこそ意識してないと存在を忘れちゃうくらいには。

流石に今回の会談のメンバーの目を誤魔化すことはできてないだろうけど、魔王のインパクトの陰に隠れて存在感を消してたから、重要人物には捉えられていない。

ふふふ、私が鍛え上げた子は、そっちの忍者くんよりも優秀なのだよ。

その忍者くんこと草間くんは、鬼くんと一緒にどっかに行った。

二人はそこそこ仲が良かったし、旧交を温めてるんじゃないかな。

魔王がそろそろ戻ってきそうな気配があったので、神言教の面々にメンチ切ってた吸血っ子を迎えに行かせた。

あのままここに残してると、神言教の人たちの寿命が縮みそうだったし。

吸血っ子が退室した瞬間、目に見えてホッとしてたからね。

そして現在、睨みつけてくる吸血っ子がいなくなって、神言教の面々の視線は私に向いている。

フェルミナちゃん?

その見事な私空気ですの術によって華麗に視線をスルーしております。

ううむ。

チラチラとこっちを見てくるおじさんがた。

なんていうか、居心地が悪い。

今回の会談はまさかの大成功だった。

なんせ、全部魔王が取り仕切って進めてくれたんだもん。

私はただ座ってボーッとしてるだけで良かった。

まさか、あの魔王がこんなところで役に立つとは。

ただのニートだと思ってたら、騙された気分だわ。

おかげで私は楽ができた。

なのに、この状況はなんなんよ?

正直言うと居心地悪いから帰りたいんだけど、魔王とかを置いて帰るわけにもいかない。

私の転移じゃないとここから魔族領まで帰るのはムリだもん。

だから待ってなきゃいけないんだけど、その待ち時間が苦痛。

魔王、鬼くん、吸血っ子、早く戻って来い。

「あの」

キター!

ほらな!

残された時点で絶対何かしら話しかけられると思ってたよ!

でなけりゃ、とっくの昔に退席してればいいんだもん。

私に話しかけてきたのは、おじさんがたの中では割と若めの男。

三十代くらいかな?

初回の会談の時に自己紹介されたから、一応名前も役職も把握してる。

軍を率いてる将軍の一人だ。

「その人形は、何なんでしょうか?」

将軍が私の背後に控えている人形蜘蛛を指して聞いてくる。

あー、これな。

魔王が召喚したこの人形蜘蛛、パペットタラテクトという名前が表すとおり、タラテクト系列の魔物だ。

人形に見える外殻を纏っていて、本体は胸部にいる拳くらいのサイズの蜘蛛。

その蜘蛛が、人形の内部に糸を張り巡らせ、操糸で操って動かしているのがこの魔物の正体。

操る人形は本体の外殻扱い。

ヤドカリのヤドみたいなもんだね。

この人形蜘蛛、実は魔王の手駒の中じゃ、クイーンタラテクトに次いで強かったりする。

ステータスの平均が一万くらい。

アークタラテクトすら超えている。

私は神化前に魔王と戦った際、こいつらを同時に十体も召喚されてボコボコにやられたことがある。

そんな人形蜘蛛だけど、昔は今みたいに人間に近い姿じゃなかった。

私がボコられた時は、デパートなんかにあるマネキンみたいな外見だった。

けど、それじゃ美しくないってんで、私が魔改造を施して今の姿になったってわけ。

剥き出しの球体関節だったのを、パッと見じゃわからないようにコーティング。

顔も細部までこだわって作り込み、なんと瞬きまでできるように改造。

さらに、声帯を再現することによって会話まで可能にした意欲作!

一家に一匹人形蜘蛛。

家事でも戦闘でもなんでもござれ!

実際ちょっとやりすぎた感はある。

ステータスには変化ないけど、見た目が人間と大差なくなった上に、それまでよりも関節がスムーズに動くようになったおかげで細かい作業もできるようになった。

結果、それまでできなかった料理とか裁縫とかまでこなすようになってしまったのです。

恐るべし。

下手な女子よりも女子力高い。

「パペットタラテクトと呼ばれる魔物の一種でございます。名前はアエルと申します。アリエル様のご命令により、しばらくご厄介になります。その間、この身はお好きに使っていただいて構いません。どうぞよろしくお願いします」

このように、受け答えも完璧でございます!

私が間にいなくても、自己紹介を進んでする判断力。

すばら。

あれ?

本格的に私いなくてもよかったんじゃね?

運送係か?

神言教の人たちの興味が人形蜘蛛アエルに向かい、魔王たちが戻ってくるまでの間、フェルミナちゃんと一緒になって空気に徹しました。

これはこれで、なんか解せぬ。