軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

非公式会談⑨

結局のところ、神言教の思惑として、女神教の弱体化は外せない案件だった。

神言教はシステムのためにスキルやステータスを上げさせると同時に、人族の間に広くネットワークを広げ、世界の安定のために尽力してきた。

人族全体の被害をなるべく抑えつつ、魔族への対抗策を練るという意味で。

魔族がステータス上有利であるにもかかわらず、人族を攻めあぐねていたのは、そういった理由が大きい。

人族同士での大規模な戦争が起こらないように調整し、たまった鬱憤は魔族へと矛先を向けさせる。

そういった細かい人心操作や情報操作で人族全体をまとめあげていた。

けど、女神が死ねば、その権威は落ちる。

神の声が変わったなんて、それを教義の中心に据えている神言教にとって、どうしても避けられない大問題だろう。

信心にどうしても陰りが出るのは避けられない。

そこで女神教に多くの人間が鞍替えされたら、勢力が反転しかねない。

女神教に神言教ほど人心を掌握する話術も、情報を操作する技術もない。

神言教のそういった工作員が女神教に潜り込んで、神言教の後釜としてきちんと教育し直せば話は変わるかもしれないけど、そんな手間暇をかけるならば、女神教を潰して神言教を継続させるほうが楽。

何よりも、女神教はシステムのことをわかってない。

そんな女神教を後釜に据えることは、教皇としては看過できなかったのだろう。

本来ならば、女神が死ぬのはもっともっと後の時代のはずだった。

それを、どこかの誰かがDなんぞにMAエネルギー浪費してまで攻撃を仕掛けたせいで、急激にその寿命を縮めさせてしまった。

多分、神言教はもっと長い年月をかけて、徐々に女神教を衰退させていく気だったんでしょうよ。

それが、予定を変えて、戦争してでも急いでその力を削がなければならない事態になっちゃったってわけ。

神言教は女神の死に向けて、着々と準備を進めていた。

その一環として、情報操作があげられる。

システムの声が変わっても混乱が出ないように、今のうちにそれとなく声が変わるらしいという噂を流しておく。

徐々にその噂を広めていき、市民にそれが行き渡ってから、その噂に真実味を帯びさせるような物語でも追加する。

たとえば女神が身ごもって、その夫が出産の間その代わりを務めるとか。

ともかく、その際女神教の女神のこととは名言せずに、神言の神が女神だと宣言するのだろう。

気づく人はそれで気づくかもしれないし。

それが真実じゃなくても、普通の一般人にそれを確かめるすべはない。

神言教がそれをあらかじめ正式に発表していれば、いざ神の声が変わった時に信憑性が出る。

権威の失墜はそれだけでもだいぶ緩和されるだろう。

けど、それだったら女神教を潰す理由はないんじゃないか?

そう思うけど、そう簡単な話でもない。

女神教の中でも、神言の神と女神とを同一視する声がある。

教皇の言うように声が変わっただけで女神が死んだと飛躍した考えになる人間はそういない。

それで絶望して生きる気力をなくす人間なんて、それこそいないんじゃないかと私は思う。

けど、神言の神と女神とを同一視する声があるということは、それによって逆に女神教の権威が失墜する隙になりかねない。

この教皇ならそのくらいのことできるでしょう。

けど、そんなことしない。

してる暇がない。

女神が死ぬってことは、それだけもう後がないってことだから。

一部都合の悪い真実を含む女神教の教義が今まで潰されずに済んでいたのは、ひとえに神言教の仮想敵として都合が良かったから。

あるいは、教皇の女神に対する最後の情みたいなものなのかもしれない。

女神を崇拝する宗教を、潰し難いという。

そういった思惑全部をひっくるめて、女神の死は世界を巻き込んだ大事件となる。

もはや一刻の猶予もない中、女神教との政治的、思想的ゴタゴタにかまけてる時間はない。

だから、この時期に潰さなければならなかった。

神言教にとっても、計画を数世紀前倒しした女神教潰しは大変だったに違いない。

そこに当時迷宮の悪夢だなんて呼ばれてた私がノコノコ現れ、これ幸いとダシに使われたのは、まあ今考えると仕方なかったのかなーと。

当時は私も神言教がどんなもんなのか理解しきれず、八つ当たり気味に戦場引っかき回しちゃったもんなー。

めんごめんご。

神言教による女神教潰しはまだ続いている。

戦争とは言わないけど、サリエーラ国の国力を落とすように、外交で包囲網を築いている。

サリエーラ国から根を上げて攻めて来るのを待ってる状態。

そうしたら一気に潰しにかかるし、そうでなくとも徐々に思想を塗り替えていく。

そのために戦争孤児や貧民の子供を秘密裏に引き取り、教育を神言教式でやっているんだから。

えげつないとは思うけど、教皇が選ぶ道は変わらない。

万の屍をつくろうとも、万と一がそれで助かるならば、躊躇なくそれを実行する。

それが教皇ダスティンという男。

魔王すら認めた、人族の中の化物。

ある意味、黒や魔王以上の。

この男の意志を変えさせることはできない。

あくまでもその意志に反しない道を用意しなければ、交渉自体が成り立たない。

今回の交渉内容は対エルフへの協力。

だから、乗る可能性は高かった。

けど、予想したよりもこっちの情報を明け渡す羽目になったりして、暗礁に乗り上げそうな感じだった。

私もそんな喋りまくるの辛いから、エルフへの協力だけ約束して、サッサととんずらしようとしたのに、今度は吸血っ子がやらかしてくれるし。

マジで教皇の首チョンパするんじゃないかと思ったわ。

まあ、それはそれで後々始末する手間が省けるから、私的にはOKだったんだけどね。

結果は、吸血っ子のKO負け。

自我のあり方に迷ってるような小娘じゃ、この爺様には太刀打ちできんのは目に見えてたけど。

人族意志とでも名づけようかってくらいの思想化物だもん。

「あなたの覚悟、しかと見させていただきました」

吸血っ子が固まっちゃったので、さっきは失敗した帰る宣言をもう一度。

「これから良き関係が築けることを願います。また、日を改めてうかがいましょう」

よし!

帰るぞ!

「お待ちください」

なんやねん!

帰してーな!

もう帰りたいんよ!

「魔族が攻め入ることは、確定ですか?」

「ええ」

「それはいつごろ?」

「準備が整い次第です」

かーえーらーせーろー!

「わかりました。次回はいつごろ訪れるご予定でしょうか?」

「十日後、同じ時間に」

「では、こちらでそのように準備してお待ちしております。本日は貴重なお時間を割いていただき、まことにありがとうございました」

「こちらこそ、急な訪問にもかかわらず手厚く歓迎していただき、ありがとうございました。では」

頭を下げ、今度こそ転移発動。

結界?

関係ないな!

吸血っ子と鬼くんを屋敷の中に適当に放り投げ、私はもう一度転移。

やってきたのは異空間。

私だけの、私しかいない空間。

疲れた。

超疲れた。

しばらくここで誰にも会わずにボケっとしていたい。

ていうかする。

十日後またこんな思いをしなきゃならないのかと思うと憂鬱すぎて死ぬ。

いっそ十日間ここでグダグダしてたい気分だわ。