軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鬼12 気まずい

とても気まずい。

転生前と顔が変わっていないから、てっきり根岸さんは僕のことをわかっているんだとばかり思い込んでいた。

けど、蓋を開けてみれば彼女、僕のこと全く覚えていないようだ。

名前を言ってもしらっとした反応しか返ってこない。

それから慌てたように、「笹島くんね、覚えてるわ」と言い繕っていたけど、顔に思い出せないと書いてあるので、嘘だと一発でわかる。

白さんはかなりのポーカーフェイスで感情が読めなかったけど、根岸さんは顔にモロに出るタイプのようだ。

それにしても、恥ずかしい。

覚えてくれていると思い込んでいたとか、自意識過剰みたいですごく恥ずかしいぞ!

言われてみれば、もう何年も経っているんだし、クラスメイトの顔なんか覚えていなくても当たり前か。

僕の方は、根岸さんのことを覚えていたけど、それはひとえに彼女の存在感の濃さのせいだし。

根岸彰子さん。

彼女はクラスの中でも浮いた存在だった。

見た目からしてインパクトが強かったけど、なによりその行動が強く印象に残っている。

根岸さんは大抵午前中は授業に出ても居眠りをしていた。

それに委員長の工藤さんが注意していたりもしたけど、返ってくるのは殺意さえ滲むかのような眼光のみ。

それだけでコイツはやばいと思わずにはいられなかったね。

当然のようにクラスの中では孤立していた。

その根岸さんが、変われば変わるものだ。

いつも他人には憎しみのこもった視線しか向けなかったのに、今はころころと表情を変えている。

高圧的な物言いも、どことなく強がりに聞こえてきて、年相応な子供らしさが見える。

転生しているということは、見た目よりも精神年齢は高いはずのなのにだ。

その変化がいいのかどうかは、僕が判断すべきことじゃない。

本人がそれでいいのなら、それでいいはずだ。

僕から見ると、随分接しやすくなったとは思うけど。

思うんだけど、やっぱり気まずい。

忘れられてたっていうのもあるけど、この前殺し合ったばかりの関係だし。

白さんはなんで何も言わずに出て行っちゃったんだ?

この空気の中で二人っきりというのは、ハードルが高いよ。

「ふん。根岸と呼ばないでくれる? 今の名前はソフィア・ケレンよ。そっちの名前で呼んで頂戴」

僕がラースと名乗ったからそれに合わせて、ってことじゃなさそうだ。

僕とは違う理由で、昔の名前を言われるのが嫌なんだろう。

多分、彼女は前世の自分のことが嫌いなんだ。

それは、前世のあの周囲すべてが憎たらしいと、態度で表していたことからも明白。

「わかった。じゃあ、これからはソフィアさんと呼ぶ事にするよ」

僕が否定する理由はない。

僕も人のことは言えないし。

「それで、白さんはなんで僕らを引き合わせたの?」

話題を変えるためにそう聞く。

名前に関しての話題は、これ以上続けてもお互い苦い思いをするだけだと思ったからだ。

「知らないわ」

「え?」

けど、その答えは予想してなかった。

「知らないわ。何も言われてなかったもの」

「えーと」

何も言わされずにここに来たと?

ああ、そういえば、何か言われていれば、出会い頭に攻撃してこようとはしないか。

「じゃあ、本当にただ会わせるだけ?」

「ではないと思うわよ。この本に多分何か書いてあるんじゃない?」

ソフィアさんが本を掲げる。

僕も白さんに渡された本に目を落とした。

白さんに渡されたのは、本と服。

服の方は、胴着と袴、それに足袋と、この布はあんまり考えたくないけど、褌?

どう見ても侍か何かの服装一式に見えるけど、これって僕に着ろってことなのかな?

一応僕も現代日本育ちで、こういう服を着るのはコスプレみたいで抵抗があるんだけど。

まあ、憤怒が発動していた時のほぼ下着だけの状態に比べれば随分ましだけど。

服のことは保留しておこう。

で、本の方はというと、表紙には何も書かれていない。

厚さはそれほどでもなく、ノートのようなものだ。

めくってみると、手書きで何やら書いてある。

『白ちゃんの簡単スキル講座』

やたら可愛らしい丸文字で、そんなタイトルが書かれていた。

しかも、デフォルメされた蜘蛛のキャラクターが小躍りしているかのような挿絵付きで。

「これ、何?」

「さあ? 酒に酔ってる時にでも書いたんじゃない?」

どういうことさ?

白さんのイメージが崩れるんだけど。

酒?

飲むの?

「ご主人様は酒を飲むと人格変わるのよ。酔ってる時と普段のご主人様は別人と思ったほうがいいわよ」

へえ。

ん!?

「ご主人様?」

なんだか、聞き捨てならない単語が。

なんだ、ご主人様って!?

そういう関係なの!?

「ちょっと、変な想像しないでくれる? ご主人様と私は変な関係じゃないから!」

「いやいやいや! 何さご主人様って!? そんな呼び方してる時点でおかしいでしょ!?」

「呼びたくて呼んでる訳じゃないわよ! そういう呪いにかかってるの!」

「呪い?」

「そうよ。ご主人様のことをご主人様としか呼べなくなる呪い」

なんて、馬鹿らしい呪いだ!

「何のためにそんな呪いをかけたのさ……?」

「さあ? 酒に酔った状態での凶行だから。私にもわからないわ」

「解くことはできないの?」

「できないらしいわ。むしろこの程度の笑い話で済む効果で助かったくらい、強力な呪いだそうだから」

酷い呪いの無駄使いを見た。

というか、そんな呪いをかける白さんのイメージが、どんどん僕の中で崩れていくんだけど。

「とにかく、この本を読むわよ。分量はそれほどでもないし、すぐ読めるでしょう」

これ以上呪いについては話したくないのか、ソフィアさんが強引に話題を変える。

そして、自分はさっさと本を広げて読書の体勢になってしまった。

なんだか会話を一方的に打ち切られたみたいで、地味にショックだ。

まあ、殺し合った仲で嫌われても仕方がないっていうのはわかるんだけど、わかっててもへこむ。

僕は思っていた以上に対話に飢えていたのかもしれない。

同じ転生者で、対等になんでも語り合える相手を求めていたのかもしれない。

そう思いながら、僕も本に目を向けた。