軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

232 蜘蛛と狸の化かし合い

【白織視点】

「使者殿、それだけでは意味がわかりませぬ。詳細をお聞きしても?」

なんだと!?

こ、こいつ。

よりにもよって私に長文を喋れと!?

殺す気か!?

さっきのだって転移する前に頑張って考えて、考え抜いて喋ったっていうのに。

ど、どうする?

【アーグナー視点】

答えぬか。

口を開いた隙を付けるかと思ったが、予想以上に守りが固い。

この儂に悟られることなく転移してきた腕は確か、ということか。

しかし、口を開いたからといって即始末に移すのは早計。

この娘が本当に魔王からの使者であった場合、次に始末をされるのは儂となる。

未知数の空間魔法使いに挑むだけでも危険だというのに、勝利しても魔王という存在を敵に回すのはあまりにも分が悪すぎる。

どうにかして、目の前の娘の力量だけでも測りたいところだが、鑑定石は机の中。

どうにか不自然にならぬように椅子に座れないものか。

ここは一つ、揺さぶりも兼ねて仕掛けてみるか。

【白織視点】

「答えられませぬか? では、儂から魔王様への書状をお書きいたしましょう。後日こちらより魔王様に向けて配送いたします。折り返しとして、正式な辞令は書面にしたためていただき、再度お持ちしてくだされ」

なぬ?

アーグナーが自然な動作で席に着き、紙とペンを取り出して何かを書き始める。

うーん。

魔王に一回話を持って行けと?

それは、都合が悪いな。

魔王には出来るだけ私が暗躍していることを悟られたくない。

特に今回の件に関しては。

獲物の取り合いになる。

魔王とポティマスの間に何があったのかは知らないけど、相当深い因縁がありそうなことはわかる。

やつを始末するとなれば、魔王が横から出てくる可能性がある。

それはいただけない。

やつは私が殺る。

そう決めている。

なので、できればエルフ関連の話は私のところだけで止めておきたい。

く、仕方ない。

考えはまとまらないけど、喋るしかない!

【アーグナー視点】

「必要ない」

その返答に、疑惑が大きくなる。

この娘は儂が今代魔王と面識があることを知らない様子だった。

突然訪れた不審者を、おいそれと信用するわけがない。

本当に魔王の使者なのか、それを確かめる意味でも儂がさも魔王のことなど知らない風を装えば、娘はそれに異を口にしなかった。

その時点で、本物の使者であることに疑問を覚えた。

本物であるならば、事前に魔王より儂の事を聞いているはず。

確かに魔王領へと帰還してからは一度も会っていないが、それでも儂の言葉には違和感があったはず。

それを訂正しない時点で、この娘が偽物であるという疑惑があった。

そして、儂の提案をこうして跳ね除けた。

儂が魔王と連絡を取り合うことがまずいとでも言うかのように。

儂の予想が正しければ、この娘は魔王の使者などではない。

だとすれば、何者で、何が目的か?

二重スパイをしろ。

その言葉がどんな意味を持つのか。

まさか、あの件が漏れている?

否、それはない。

慎重に事を運んでいる。

関係者は信頼できるものだけにとどめ、極力内部にも秘密裏に進めてきたこと。

外に漏れることは考えにくい。

あったとすれば、先方の不注意か。

それも、あの小賢しい連中を考えればありえないと思えるが。

どうしたものか。

儂の手元には鑑定石がある。

筆と紙を取り出す時、自然な動作を装って手にしたもの。

発動させれば相手の力量は読み取れる。

が、それは相手に鑑定を仕掛けたことを悟られる危険も負う。

そうなれば口での化かし合いから、命のやり取りとなろう。

まだ、尚早。

時間を稼げば誰かしらが異変を察知してこの部屋に踏み込んでくることもありうる。

相手がその気にならぬうちは、少しでも情報を得るために口を割らせるべきか。

「それはどういう意味ですかな?」

「私が魔王だ」

【白織視点】

何言ってんの私!?

えー、あー、うー。

どうしてこんな意味不明のことを口にした?

自分でもわからん!

わからんが、言ってしまったからには仕方がない。

このままのノリで押し切るしかない!

「ほう。あなたが魔王でしたか。なるほど。それでは文を書く意味などございませんな。なにせ目の前にご本人がいらっしゃるのだ。使者を名乗るなどご冗談がお好きのようだ。では、改めてお聞きいたしましょう。先ほどの命令、如何様な意味をお持ちで?」

「そのままの意味。エルフと繋がりがあるのだから、そのまま奴らの内情を探れ」

【アーグナー視点】

背中に汗が流れそうになる。

この娘、なぜそれを知っている?

どこから漏れた?

関係者に裏切り者がいるとは思えない。

エルフに落ち度があるとしか思えないが、それもあの狡猾な種族がそんなことをするのか疑問が残る。

しかし、現にこの娘はそれを暴いている。

しかも、それを事実として確信している。

カマをかけられたわけではないのが、その態度から分かる。

どうする?

ここでしらばっくれても効果は薄い。

この娘、どこからかは分からぬが、確たる証拠を握っていると見て間違いない。

本当に何者なのだ?

魔王を自称した時点で本物の使者である線は消えた。

が、その正体と真意が未だに読めぬ。

空間魔法を使いこなし、秘匿していた情報を握って見せる手腕。

只者ではないのは確か。

しかし、ここまでの存在に該当する人物に心当たりは無し。

空間魔法を使えるだけでも噂くらいにはなりそうなものだが、儂の耳には入ってきていない。

このままでは主導権を握られてしまう。

ここは下手な言い訳などせず、話の趣旨をすげ替えて主導権を握る必要がある。

少々強引だが、相手を攻める駒はある。

最悪それで均衡が崩れることになろうとも、仕方がない。

「無理難題をおっしゃられるな。魔王を自称する偽物よ」

【白織視点】

バレテーラ。

イヤ、当たり前だけど。

私魔王じゃないし。

そんなこと言うつもりすらなかったし。

テンパって変なこと口走った結果だし。

私悪くないし。

「儂は本物の魔王様とお会いしたことがある。魔王様の存在が明るみに出ていない今なら騙し遂せるとでも思ったか? 娘、本当は何者だ?」

え?

魔王と会ったことあるの?

『もちろん。先代から魔王の称号受け継いでからちょくちょく接触はしてたのよ。とりあえずアーグナーっていう古株と、バルトっていう今魔族をまとめてる小僧には軽く話を通してあるよん。まあ、いざ魔王として表舞台に出ようとした瞬間に、どっかの誰かがありえん攻撃してきたから進行は滞ってるけど』

あ。

いつだったか、そんなことを魔王が言ってたわ。

うっかり。

どうしよう。

イヤ、バレてもホントに魔王の関係者ではあるんだけど。

あー、おー、あー。

だから人との会話なんてしたくないんだ!

ええい、こうなりゃヤケっぱちだ!

「いつからそれが魔王だと錯覚していた? だとしたら目の前の私はなんだ? お前の目に私は何に見える? お前の目から見て、それとこれ、どっちがより魔王に相応しい?」

自分でも何言ってるのかわからんけど、とりあえず脅す。

目を開けて、ついでにオプションで分体を異空間からチョロっと覗かせる。

止めに笑顔のサービス付き。

【アーグナー視点】

なんだ!?

なんだこれは!?

おぞましき目。

弧を描く歪んだ笑み。

部屋の中に突如として現れた、目、目、目、目目目目目目目目目目目目目目目目目目!

まるで奈落の闇から覗き込まれるかのように、無数の赤く輝く目がこちらを凝視する。

我知らず、手の中にあった鑑定石を取り落とす。

だが、拾おうとは思えぬ。

そんなものを使わずとも、彼我の力量など知れる。

勝ち目など、あるはずもなし。

それは、かつて出会った魔王よりも。

逆らえぬ。

逆らえば殺される。

理解した。

させられた。

この方こそ真の魔王。

卑小なる我が身では、このお方に慈悲を請うことしかできぬ。

でなくば、この信念も志半ばで強制的に朽ちることになろう。

「あい。分かり申した。儂は今より、あなたを魔王と崇め、行動致します」

今はこの膝を折ろう。

雌伏し、この恐るべき少女の姿をした化物の下に降ろう。

【白織視点】

最初からこれやれば良かった。

脅すって簡単ね。