軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鬼VS鬼⑤

ああ、やっぱりこうなったか。

憤怒が発動してしまった。

こうなったらもう僕の意思ではどうすることもできない。

けど、憤怒が発動しても、僕の意思が失われることはなかった。

これは、どういうことだろう?

わからない。

正気を失っている間に虐殺を繰り返しているのと、何もできずに虐殺の光景を見せられるのと、どっちがマシなんだろう?

どっちにしろ気分のいいことじゃないけど。

それにしても驚いた。

憤怒を発動させた僕の攻撃でも、大きなダメージを与えられていない。

普通だったら横薙ぎの一撃で体を真っ二つにされていてもおかしくないはずなのに、少女の怪我は腕が半分切れただけ。

いくらステータスが1万を超えていようと、憤怒発動状態の僕の攻撃を受けてその程度で済むのはおかしい。

よくよく見ると、少女の肌には白い鱗のようなものが張り付いている。

というか、ようなじゃなくてそのまんま鱗だろう。

龍種にしか存在しないはずのスキルを持っている時点で注目していたけど、天鱗のスキルの効果だろう。

どうして龍種限定のスキルを彼女が持っているのかは謎だけど、物理魔法両方の防御力を飛躍させる天鱗のスキルのおかげで、僕の攻撃を防いだんだ。

しかも、ちぎれかけた腕はすぐさまその傷を塞いでいく。

堅い上に回復も早い。

その上本人は遠距離戦で被弾を少なくするから、ダメージ自体与えるのが困難。

これ、普通なら倒しようがないんじゃないか?

尤も、憤怒を発動した僕には勝てない。

少女との戦いで、スキルの重要性はよく理解できた。

ステータスで劣る少女に、スキルの力で優位に立たれていたのは間違いない。

それでも、そのステータス差が何倍にもなれば、スキルの優位も覆る。

刀が少女の体を切り刻む。

少女は僕の動きについてこれていない。

防御が完全に間に合っていなかった。

いくら天鱗の防御力が高かろうと、一撃で腕を半ばまで切り裂く威力の攻撃をくらい続ければ、HPはすぐさま底をつく。

させじと、いたるところを切り裂かれながら、少女が氷の魔法を発動させる。

さっきの僕の片腕を持っていった、あの赤いダイヤモンドダストみたいな魔法だ。

けど、さっきと今とじゃ、状況が違う。

僕の体はためらうことなく赤いダイヤモンドダストの中に突っ込んでいき、無傷で通り抜ける。

少女が目を見開く。

その致命的な隙に、刀をその首筋に向けて振り下ろす。

手応えあった。

堅い感触。

それを突き抜け、刀が振り切られる。

少女の頭部が宙を舞う。

同時に少女のHPが急速に減少していくのを、鑑定結果が示していた。

少女の手が、自らの頭をキャッチして、首にひっつけるまでは。

ちょっ!?

ありなのそれ!?

僕の内心の驚きをよそに、憤怒に支配された体の方は迅速に対処する。

首でダメなら心臓。

古来より吸血鬼の退治方法といえば心臓を串刺しにすること。

その胸に向かって、高速の突きが放たれる。

それを、少女は掲げた大剣でどうにか受け止める。

受け止めた際に大剣が砕け散り、少女の体を後方に吹き飛ばす。

威力を重視しすぎて、貫通するよりも衝撃の方に属性が偏ってしまったようだ。

そのせいで大剣は砕けたけど、肝心の少女の体には到達しなかった。

その上、衝撃で吹き飛ばして、わざわざ少女に有利な距離を開けさせてしまった。

ここらへんが憤怒で理性を失ってしまう欠点だろう。

憤怒を発動すると理性を失い、一見するとただ暴れるだけの狂戦士になってしまうように感じられる。

けど、実際にはある程度の技術というものは残っている。

特に僕は剣神のスキル持ち。

理性を失っても、そのスキルが失われることはない。

それでも、こういう細かい判断ができなくなることによる判断ミスというものは存在する。

距離が開いたことにより、一瞬だけど少女に回復の時間を与えてしまう。

魔法の光が灯り、少女の首を覆う。

それで、切れた首の切断面が元に戻る。

つくづく思うけど、反則じゃないか?

大した不死身っぷりだよ、本当。

けど、本当の不死身ってわけじゃない。

現に少女のHPはかなり減っている。

首を切断されたダメージは、表面上は治せても、確実に彼女の命を削っている。

もう1度同じ事が起きれば、今度は耐えられないだろう。

とはいえ、彼女には不死将というスキルと、吸血鬼としての蘇生の能力がある。

この2つのスキルによる、限定的な復活があるから、まだ死ぬことはない。

僕がどんな攻撃を繰り出そうと、まだ耐えることが出来る。

その分の余力を、逃走に使って欲しい。

彼女もわかってるはずだ。

憤怒を発動させた僕には勝ち目がないってことくらい。

なら、生き残るために逃げるのが正解だ。

それでもきついかもしれないけど、豊富な攻撃手段と不死身にも思える防御力を備えた彼女なら、僕から逃げおおせることもきっとできる。

だから、逃げてくれ。

その思いも虚しく、少女は笑う。

その目に引く気がないとはっきりと意思を宿して。

まだ、何か策があるのか?

気になるのは、鑑定しても詳細が隠蔽されていてわからなかった「嫉妬」のスキル。

名称から考えて憤怒と同等の力を持ったスキルなのだろうけど、この状況を覆すことができるほどなのか?

少女は満身創痍。

対してこっちは失った腕の再生もたった今完了し、空間から刀を取り出している。

嫉妬が憤怒に対抗できる力を持ったスキルでも、この劣勢を覆すことはできないんじゃないか?

けど、少女の顔には確かな自信がある。

なら、信じてみよう。

彼女は僕を倒すことが出来ると。

それなら、何の心配もいらない。

僕は望み通り、死ぬことができる。

死ぬ。

自由にならない体の心臓が、大きく脈打った気がした。

怖いのか?

死ぬのが。

あんなに殺しておいて、今更死ぬのが怖いのか?

なんて身勝手なんだ。

怖い。

けど、死ぬしかないじゃないか。

こんな状態で生きていることに何の意味がある?

何の価値がある?

あるはずがないじゃないか。

なら、死ぬしかないじゃないか。

それなのに、怖いだなんて。

まるで、僕の生きたいという浅ましい願いを表すかのように、体が勝手に少女に全力で切りかかる。

少女が何かをしようとして、

黒い、ひたすらに黒い、ただただ黒い、

そんな男が、僕の目の前に現れた。