軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

血18 状態異常「酔っ払い」

私は今、とてつもないピンチに立たされている。

「ちょっとだけ、先っちょだけでいいから!」

目の前には最悪の敵。

アリエルさんもメラゾフィスも昏倒させられている。

「すぐ治すから!ね?だからいいでしょ?」

はっきり言って、命の危機だ。

「食べさせて!」

このままでは、食われる!?

時間は少し巻き戻る。

宿に着いた私たちは、2組に分かれて行動した。

私とメラゾフィスの待機組。

アリエルさんと白織の買い物組。

買い物組は部屋に入ったあと、すぐに出て行った。

その際白織がなんか白い蜘蛛を3匹召喚して置いていった。

サイズは大人の手の平に乗るくらいの、地球で言うところのタランチュラとか大型の蜘蛛だ。

この世界だと人を軽く超える怪獣みたいなサイズの蜘蛛の魔物もいるらしいので、まだ常識的な大きさと見た目だと思う。

思うんだけど、同じ部屋にそんな蜘蛛がいて安心できるほど私は蜘蛛好きじゃない。

むしろ気持ち悪くて嫌いだ。

多分護衛のつもりなんだろうけど、落ち着かない。

鑑定してみたら『鑑定不能』と表示されたのも不気味で怖い。

鑑定ははっきり言って使えないスキルだけど、なんとなく興味が惹かれたものには鑑定をする癖が付いていた。

鑑定しても、結局何もわからないことが多いんだけどね。

でも、鑑定のスキルを取得してからそこそこ経つのに、スキルレベルは上がらない。

レベルが上がると便利になるのかもしれないけど、そこまでの道のりが遠すぎて上げる気も起きない。

のそのそと好き勝手にうろついている蜘蛛を避けて、ベッドによじ登る。

アリエルさんがとった部屋は宿屋の最上階を1階まるまる使った大部屋だった。

ベッドは6つあり、仕切りで囲うこともできる作りになっている。

驚いたことにバストイレ付き。

この世界では日本みたいに水道があるわけじゃない。

庶民は井戸水や川の水なんかを使うのが一般的で、貴族や一部の金持ちになると水を発生させる魔道具を使っている家があるくらい。

うちも低級の魔道具を使っていた。

そんな魔道具を使っているということは、この宿屋ってかなり格式が高い場所なんじゃない?

お風呂があるってことはお湯を沸かす火の魔道具もあるってことで、それだけでも庶民からすればひと財産になるようなものだ。

魔道具というものは、技能付与と魔法付与という特殊なスキルを使う事によって精製される。

どちらも取得するには結構な手間がかかるスキルのようで、このスキルを持っている人は少ない。

しかも、持っていても魔道具作りをしている人はその中でもひと握りらしい。

というのも、付与にはものすごい時間と労力がかかるそうなのだ。

そういう理由もあって、低級のものでさえ、魔道具というものは結構なお値段がする。

この部屋、下手な貴族の屋敷よりも金がかかってるわ。

そんな豪華な部屋で、久しぶりにフカフカのベッドを堪能した私は、いつの間にか眠ってしまっていた。

ここまでの道中の疲れもあったし、何より故郷を失ったという精神的な疲れが、気が抜けた途端に押し寄せてきたせいだった。

これから先、どうなるんだろう?

そんな漠然とした不安。

アリエルさんについていくのは人族領と魔族領の境目まで。

それまでは今のままなあなあで過ごすこともできる。

けど、そこから先は決断しなきゃいけない。

誰の助けも借りず、メラゾフィスと2人で人族領に留まって逃亡生活を続けるか、アリエルさんにそのままついていって、未知の魔族領に踏み入れるか。

結論が出ないまま、私の意識は微睡みの中に消えていった。

鼻腔をくすぐる香りで目が覚めた。

起き上がると大きなテーブルの上に所狭しと料理が並べられていた。

「あ、起きた?そろそろ起こそうと思ってたところだよ。夕飯にしよう」

アリエルさんの号令でみんな席に着く。

その際、白織がメラゾフィスに赤い液体の入った新しい瓶を渡しているのが目に入った。

「では、いただきます」

「「「いただきます」」」

「今日の料理はちゃんと毒なしだから安心してねー。ソフィアちゃんは赤ん坊なんだからムリして食べないようにねー」

アリエルさんの忠告はありがたいけど、これで食べるなというのは酷でしょう。

久しぶりに食べる毒なしの料理。

しかも、ちゃんとした材料で作られ、おそらく一流のシェフの手で作られたと思われる高級感。

一口で思わず頬が緩む。

うちにいた時には離乳食しか食べていなかったから、転生してからまともに食べる初めての料理らしい料理だった。

美味しい!

て、白織なんで泣いてるの?

確かに美味しいけど、泣くほど感動した?

しかも泣きながら食べてるし。

あーあー、美人が台無しじゃない。

大量にあった料理が瞬く間になくなった。

その大半は白織の腹の中に消えていたけど、見た感じお腹が膨れている様子はない。

どんな異次元腹してるのよ。

物理法則的に食べたら膨れるのが普通でしょうが。

そんなところでまで美人補正かけなくていいから。

と、心の中で叫ぶ私のお腹は膨れている。

苦しい。

けど、幸せ。

味わって食べたせいか、五感強化なんてスキルのレベルも上がったし。

メラゾフィスも若干だけど顔色が良くなっている気がする。

良かった。

そう思っていられたのもここまでだった。

「あー。幸せー」

最初、それを誰が言ったのかわからなかった。

蕩け切った声の調子が、普段のあいつとイメージで繋がらなかったせいで。

声の方を見れば、二ヘラという言葉がそのまま当てはまりそうな顔をした白織。

目、開いてる。

瞳の中にさらに瞳が複数あるという、気味の悪い目をしていた。

しかも、なんだか焦点が合ってなくて、瞳がグルグルと回っている。

白織が手に持ったグラスの中身をグイっと飲み干す。

そしてふうっと一息。

あ、酒臭い。

え?お酒?

食事の間飲んでたのって、ジュースじゃなくてお酒だったの?

私が飲んでたのは普通の果実ジュースだったんだけど。

もしかしなくてもこれ、酔ってるの?

普段とのギャップが激しいし、このヘロヘロになった状態を見るにそうなんでしょうね。

未成年のくせにお酒なんか飲むからよ。

「まおー、おかわり」

「白ちゃん、そのへんでやめといたら?」

「やー!まだ飲む!」

「て言ってももう買ってきたお酒はないんだなーこれが」

「なんだって?」

ギロ。

複数の瞳が一斉にアリエルさんのことを見る。

怖い。

これ、夢に見そう。

「買ってきて」

「えー?流石にわざわざ買ってくるのはメンドくさいよ。今日はこれでおしまいにしとこ。ね?」

諭すように宥めるアリエルさんの顔にチョップがめり込んだ。

比喩でもなんでもなく、顔に白織の手のが半分くらい。

そのまま椅子ごと倒れるアリエルさん。

何故かその様子を見て爆笑し始める白織。

え?アリエルさん無事なの?

「大丈夫大丈夫。死にはしない死にはしない。死んじゃったらごめんねー?」

本当に大丈夫なんでしょうね!?

なんかビクンビクン痙攣してるんですけど!?

「HP自動回復カンストしてるし大丈夫だって。これこんなだけどこの世界じゃ最強クラスの化物よ?」

いつになく饒舌に語る白織。

「というか、スキルどんだけ伸びた?」

「え?」

「スキル、スーキールー!鑑定使えないと超不便なんですけどー!あ、鑑定持ってる?あれ鑑定様だからね?敬わなきゃダメだかんね?持ってないなら即ゲット。持ってるならいつでもどこでも即鑑定。持ってる?」

「も、持ってる」

「イエーイ!じゃあ、常に鑑定しときなー。レベル上がると超便利だから」

「は、はあ」

誰この押せ押せの人は?

私の知ってる白織じゃない。

「あとステータスアップ系ね。あれやばい。韋駄天様様。スキルは伸ばせるときに伸ばしといたほうがいいよー?この世は弱肉強食。力こそ全て、いい時代になったものだ。だからヒャッハーな変態を撃退するには力が必要なのだよアンダースタン?」

「あ、はい」

「弱けりゃ死ぬ。強くてもより強い奴に殺される。なら、どこまでも強くなるしかないじゃん?」

何故か、その言葉だけは、酔っ払いの戯言と切って捨てられない響きがあった。

「もうね、弱いと食われちゃうの。マジで。ないわー。食われるぐらいなら食ってやるわー的なね。あ、思い出した。赤ちゃんってプニプニしてて美味そうじゃね?」

そして地獄の時間が始まった。

冗談抜きで迫ってくる白織に対して、メラゾフィスは勇敢に立ち向かった。

デコピンであっさり撃退されたけど。

逃げた。

全力で逃げた。

けど、あっさり捕まった。

これが弱いってことか!

「では、いただきます」

イーヤー!?

ハ!?

腕は?

ある。

夢か。

あー、怖かった。

腕食べられるとか、なんて悪夢よ。

なんだか寝た気がしないし、二度寝しよう。

おやすみなさい。