軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

S24 エルロー大迷宮攻略①

どことも知れない場所。

広大な空間。

そこに、一人の女性がいた。

女性は上半身の一部だけを残し、体の大半が空間に溶け込むようになくなっている。

あまりにも痛ましい姿。

そして、その口からは機械的に言葉がつぶやかれる。

『熟練度が一定に達しました』

『経験値が一定に達しました』

『熟練度が一定に達しました』

………。

『苦しい』

バッと飛び起きる。

慌てて周りを確認する。

仄かな明かりを灯すランプ。

照らし出された壁面は自然そのままの岩肌で、地面も寝袋の上からでもわかるほどの硬さ。

エルロー大迷宮上層。

自分がいる場所を思い出し、状況を思い出す。

そうだ、俺たちは大陸を渡るため、このエルロー大迷宮に来ていたんだった。

迷宮に潜って今日で2日目。

今は夜中ということで、見張りを交代して睡眠を取っているところだった。

かいた汗を拭う。

なんだったんだろう、さっきの夢は?

「大丈夫ですか?」

横から先生が俺の顔を覗き込んでくる。

見張りは2人1組で交代している。

今の見張りは先生とバスガスさん。

俺がうなされて飛び起きたのを見て、心配して声をかけてきたらしい。

「大丈夫です。ちょっと夢見が悪かっただけですから」

笑ってごまかす。

実際その通りなのだから。

「そいつは縁起が悪いな」

軽く受け流そうとする俺の言葉に、バスガスさんが食いつく。

「縁起、ですか?」

「おうよ。知ってるか?迷宮の悪夢の話だ」

「いえ、聞いたことないですね」

普段は叫ぶような大声のバスガスさんも、周りが寝静まっている今の状態だと声を潜めている。

それが、まるで怪談を語る時のような、陰鬱な雰囲気を醸し出している。

「私はありますね。たしか、十年以上前に迷宮に突如現れた神話級の魔物を指す言葉でしたよね?」

「よく知ってるね」

神話級の魔物。

それは、人の手では対処不可能とされる危険度オーバーSランクの魔物の事を言う。

「悪夢は女王と並ぶエルロー大迷宮の生ける災厄だ。夢でうなされるってこた、悪夢がおでましになる前兆かもしれんぞ?」

「けど、たしかその魔物は討伐されていませんでしたか?」

「世間ではそう言われてるな」

「世間では?」

「ああ。一般的には軍団相手に大虐殺を起こし、最後は大魔法の直撃を受けて跡形も残らず死んだって話だが、俺にはどうもそれが信じられん。あの化物がそう簡単にくたばるのかってな。きっと今もどこかで生きていて、虎視眈々と獲物が来るのを狙っているんじゃねえかと、俺は思ってる」

「まるで実物を見たかのような言い草ですね」

「おう。何を隠そう、悪夢の第一発見者とは俺のことだからな」

バスガスさんが何故か胸を張る。

まあ、すごいと言えばすごい、のか?

「当時、魔物が異常発生するっていう事件があってな、その原因の究明と魔物の間引きをするために派遣された騎士団、その案内役を務めたのがこの俺よ。で、その原因っていうのが、悪夢が周辺の魔物を追い出したからだったってわけだ。俺たちはそんなことも知らずに、ノコノコと悪夢の根城まで行っちまったのさ。あの時のことは今でも忘れねえ。あいつと目があったときは生きた心地がしなかったぜ」

バスガスさんはその時のことを思い出したのか、ブルリと体を震わせる。

「よく生きて帰れましたね」

「そこなんだよな。悪夢は妙な習性というか、なんというかがあってな。こっちから手を出さなければ見逃してくれるんだ。それどころか、傷を治してくれたりもする」

「ええ?」

「信じられないだろ?そのあとに組まれた討伐隊は逆鱗に触れちまったのか、有無を言わさずに全滅させられたらしいし、そのさらに後にエルロー大迷宮から外に出てきた時には砦は壊すわ、戦争の最中に現れて無差別に虐殺開始するわ、とんでもない大事件を起こしてる。そのくせ、気まぐれみたいに人助けしたりもしてて、行動がよくわからん謎の魔物って言われてるな」

何だそのチグハグな魔物は。

それ本当に魔物か?

「まあ、悪夢に関して確実に言えることは、とんでもなく強いってことだな。坊主、お前相当腕に自信があるようだが、悪いことは言わん。今のうちに考えを改めておけ。どうも坊主の戦ってる姿からは慢心が見て取れる。戦いに自信を持つのが悪いとまでは言わんが、上には上が居る。自分の力ならどうとでもなると考えているなら、どうにもならない相手が居るってことを頭の中に刻んでおけ」

ギクリとする。

確かに、言われてみればそうだ。

俺はエルロー大迷宮に入ってからというもの、苦戦らしい苦戦をしていない。

出てくる魔物は確かに世間一般から見れば厄介な魔物が多いが、俺からしてみると負けようがない雑魚ばかりだ。

そこに慢心があったと言われれば、そうとしか言えない。

「すいません。以後気をつけます」

「あー。こりゃ、気をつけねーな」

素直に謝ったのにそんなことを言われた。

これにはさすがにカチンと来る。

「どうしてですか?」

「坊主、お前根本的に勘違いしてるぞ。俺が言ってるのは全部を見てのことだ。この迷宮の中だけのことじゃない。おめー、迷宮に入るときに俺の忠告を無視して水龍のこと鑑定しただろ?」

バレてた。

先生がバッと俺のことを見る。

まずい。

先生から鑑定を相手に仕掛けると、相手は不快に思ってそれだけで敵対されることもあると聞いていた。

つまり、あの時俺が鑑定したことによって水龍は怒ってブレスを吐いたのかもしれないということだ。

「シュンくん?今の話は本当ですか?」

「はい。すいません」

ここでごまかしても余計話がこじれるだけだ。

素直に謝る。

「水龍がブレスを吐いたのは何も坊主のせいだけじゃねえ。水龍は自分の縄張りに侵入する相手を許さないからな」

バスガスさんの言葉にホッとする。

なんだ、俺のせいじゃなかったのか。

「けどな、俺の忠告を聞かず、危険な行為をしたってことに変わりはねえ。その結果、仲間を危険な目に合わせたってこともな。今回は運良く全員洞窟の方に吹き飛ばされたから良かった。だがな、一歩間違えれば水龍相手に海の中に仲間の誰かが取り残されてたかもしれない。おめー、その状況になってたら、どうするんだ?」

スーっと、体の血の気が引いていく音が聞こえた気がした。

そうだ、もしあの時、あの場に誰かが取り残されていたら。

あの水龍の前にカティアや先生がたった一人、取り残されたら。

生き残る術はない。

そして、流されてしまった俺に、それを助けに行く術はない。

慈悲のスキルも、使えるかどうかわからない。

使えない確率のほうが高そうだ。

「わかったか?坊主にはちと危機感ってもんが足りてねえ。自分には何があっても大丈夫。そんな根拠のない自信が透けて見えるんだよ。坊主が人族にしちゃ強いのは認める。認めた上で言うぞ。上には上が居る。そうでなくとも、坊主の迂闊な行動一つで仲間の命が呆気なく失われることだってある。俺は職業柄、そういううっかりで死んでいく連中を多く見てきた。落とさないでいい命を、ちょっとの油断や気の緩みで落としちまう。こんなバカバカしいことはねえと思わねえか?」

何も反論出来なかった。

俺は、いつの間にか天狗になっていたのかもしれない。

自分の強さに自信を持ちすぎていたのかもしれない。

その伸びきった鼻っ柱が、今ボッキリと折れた。

俺の迂闊な行動で、仲間の誰かが犠牲になる。

そんなこと、許されるはずがない。

気合を入れるために思いっきり顔を自分でひっぱたいた。

HPがゴリッと減った。

けど、これでいい。

これからは、油断も慢心もしない。

「ご助言、感謝します」

土下座スタイルで深々と頭を下げる。

これには、バスガスさんだけじゃなく、先生も面食らっているようだった。

「はあん。なるほどねえ。爺の戯言をここまで真剣に聴くか」

「いえ、おかげで目が覚めました。確かに俺は今まで甘えていたようです。このまま行けば、いつか取り返しのつかない状況になっていたでしょう」

というか、もうすでにかなり取り返しのつかない状況にはなってるんだよな。

こんな状況になってもまだ甘さが残ってる。

そりゃ、カティアにも言われるはずだ。

最近の俺はどこかおかしい。

それを今はっきり自覚した。

ここは平和な日本じゃないんだ。

それをもっと意識しなきゃならない。

いつまでも日本の感覚でいたら、さらに何かを失うかもしれない。

これ以上、何かを失うわけにはいかない。

「ふん。多少は見れた顔つきになったじゃねえか」

「ありがとうございます」

「で、こっからは純粋な興味なんだが、坊主は水龍と戦ったら勝てるのか?」

バスガスさんの問いに、少し考える。

「難しい、と思います」

見栄を張っても仕方ないので正直な戦力分析を言う。

「水中だとこっちの物理攻撃力は著しく落ちます。かと言って、魔法攻撃は龍種特有の魔法妨害スキルで威力を落とされてしまいますし。水中ではまず勝ち目がないでしょうね」

「じゃあ、陸上なら?」

「陸上で、五分といったところですかね」

「たまげたな」

思わずといった具合にバスガスさんが呟く。

先生は疑わしげな視線を俺に向ける。

あれ?

俺何か変なこと言ったか?

と、体を不快感が突き抜ける。

その元をたどれば、バスガスさんがニヤリと笑みを浮かべていた。

「なるほどな、あながち法螺でもないってわけか」

今のは、鑑定?

「マナー違反じゃないですか?」

「バカ言え。これも迷宮を安全に抜けるための、戦力分析の一環ってやつだ」

それ、物は言いようじゃないのか?

明らかにこの人、俺のステータスが気になったから覗き見しただけだろ。

それなら、こっちもお返しだ。

バスガスさんのことを鑑定する。

その鑑定結果に、驚く。

『人族 LV66 名前 バスガス

ステータス

HP:933/933(緑)(詳細)

MP:829/829(青)(詳細)

SP:949/949(黄)(詳細)

:901/931(赤)(詳細)

平均攻撃能力:903(詳細)

平均防御能力:887(詳細)

平均魔法能力:821(詳細)

平均抵抗能力:824(詳細)

平均速度能力:902(詳細)

スキル

「HP高速回復LV3」「MP回復速度LV9」「MP消費緩和LV9」「魔力感知LV9」「魔力操作LV8」「魔闘法LV5」「魔力付与LV4」「魔力撃LV4」「SP高速回復LV5」「SP消費大緩和LV5」「破壊大強化LV4」「打撃大強化LV4」「斬撃強化LV3」「貫通強化LV1」「衝撃大強化LV2」「大地強化LV4」「闇強化LV1」「闘神法LV1」「気力付与LV10」「技能付与LV1」「大気力撃LV1」「大地攻撃LV8」「毒合成LV10」「薬合成LV10」「体術の天才LV5」「剣の才能LV2」「連携LV10」「指揮LV6」「投擲LV10」「射出LV10」「立体機動LV9」「鑑定LV3」「集中LV10」「思考加速LV2」「予見LV2」「並列意思LV1」「記録LV10」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV3」「隠密LV10」「隠蔽LV7」「無音LV10」「無臭LV10」「危険感知LV10」「気配感知LV10」「熱感知LV10」「動体感知LV10」「土魔法LV10」「大地魔法LV8」「光魔法LV4」「影魔法LV10」「闇魔法LV5」「治療魔法LV10」「毒魔法LV3」「破壊耐性LV9」「打撃耐性LV9」「斬撃耐性LV9」「貫通耐性LV9」「衝撃耐性LV9」「土耐性LV7」「闇耐性LV7」「麻痺無効」「猛毒無効」「睡眠耐性LV8」「酸大耐性LV5」「気絶大耐性LV3」「腐蝕耐性LV3」「恐怖耐性LV6」「苦痛無効」「痛覚軽減LV3」「暗視LV10」「千里眼LV3」「五感大強化LV7」「知覚領域拡張LV10」「天命LV1」「魔蔵LV9」「天動LV1」「富天LV1」「剛毅LV1」「城塞LV1」「道士LV9」「護符LV9」「韋駄天LV1」

スキルポイント:50

称号

「暗殺者」「魔物殺し」「導く者」「薬術師」「悪食」「魔物の殺戮者」「救う者」「魔物の天災」』

なんだこのおっさん!?

ハイリンスさんより強いぞ!?

「高レベルの鑑定持ちか。鑑定石、じゃなさそうだな」

「そういうバスガスさんは鑑定石を?」

「ああ。レベル8の逸品よ」

レベル8の鑑定石なんて、庶民には手が出ない高級品だ。

それを持っているということは、ただの庶民じゃないってことだ。

ステータスといい、鑑定石といい、この人はどうやらとんでもない人だったらしい。

「坊主のステータスが高いのはわかった。そのステータスなら、上層ならまず大丈夫だろう」

バスガスさんにお墨付きをもらった。

「悪夢の残滓にさえ出くわさなければな」

ただ、バスガスさんが最後にポツリと漏らした言葉に、言いようのない不安を覚えた。