軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人魔大戦⑤

【クソリオン砦】

魔族軍第一軍団長アーグナーは、目の前に広がる戦場を見てその表情を厳しいものにした。

戦況はよろしくない。

一見一進一退の攻防が繰り広げられているように見えるが、その実魔族軍は攻めあぐねていた。

クソリオン砦は今回魔族の一斉攻撃の目標になった拠点の中でも、特に重要度の高い拠点だ。

この砦を境に、魔族領と人族領が分かれていると言っても過言ではない。

他の拠点がいくつ落とされようとも、この砦だけは死守しなければならない。

この砦の陥落は、すなわち人族が魔族の侵攻を止められなかったことを意味している。

それほど重要な拠点なのだ。

そのため、配備された兵は人族の中でも特に精鋭ぞろい。

一兵卒でさえ、下手な小国であれば将軍の席に座っていてもおかしくないほどの強者で構成されている。

対する魔族軍第一軍も、魔族の歴戦の勇士であるアーグナーを筆頭に、精鋭が集められている。

勇者と魔王という両者の頂点を除けば、今この砦に両軍の最高戦力が集まっていると言えた。

魔族は人族より優れているとされている。

しかし、アーグナーはそれは正解ではないと思っている。

間違っているわけではないが、それが正しいとも言い切れない。

魔族と人族の力の差とは、ステータスの差だ。

魔族は総じて人族よりもステータスが高い。

しかし、それだけだ。

ステータスが高いとは言っても、魔族にも個人差がある。

弱い魔族であればそれを上回る人族もいる。

何より、スキルに関しては差がない。

この世界における戦闘能力は、ステータス以上にスキルが占める割合の方が高い。

これも個人差はあるが、魔族と人族全体で見れば、その差はないと言って良かった。

ステータスの高さだけで見れば、魔族よりも魔物の方が高いものもいる。

が、人族が定めた危険度で言うところの、SやオーバーSなどといった、生きる災厄のような魔物でなければ、勝てないことはない。

それは、魔物が知恵を持たず、スキルを自身で会得したり、鍛えたりすることがないからだ。

魔族や人族は魔物と違い、生まれ持ったスキルというものを持たない。

その代わり、その知識を動員し、鍛錬を積むことによってスキルを得ていく。

そうして積み重なったスキルが、天然でスキルを持つ魔物に打ち勝つ武器となっていくのだ。

魔物が持つスキルはあくまで自前のものか、生きているうちに偶発的に手に入ったもののみ。

対する魔族や人族は、鍛えた分だけ多くのスキルを持つ。

それこそが、ステータスの差を覆すのだ。

魔族と人族のステータスの差は、言うほど大きくはない。

上位の魔物などと比べれば、その差は小さい。

そして、スキルの差はない。

優れているのには間違いないが、その差は微々たるものだというのが、アーグナーが長年人族と敵対してきた末に出した結論だった。

加えて、魔族は長命であるが故に、人族よりも出生率が低い。

当然数もその分少なくなる。

数が多い人族と、ステータスに優れる魔族。

両者の戦力は拮抗していた。

だからこそ、今回の戦争では、地の利という絶対的なアドヴァンテージを持つ人族の方が有利だった。

砦という防壁のおかげで、魔族軍は攻めあぐね、徐々に損耗が大きくなっていく。

対する人族軍は、防壁を盾に、人的損害は軽微に収めている。

防壁も段々と破壊されてきてはいるが、このままのペースならば、防壁の破壊よりも先に、軍の瓦解の方が訪れるのが早いだろう。

アーグナーはその認識を持ちながら、有効な手段を思い浮かべることができなかった。

人族軍は堅実な戦いを進めている。

奇策に頼らず、定石で砦を守備している。

定石とは、長年積み上げられてきた経験と知識を基に作られる。

滅多に破られないがゆえに定石なのであり、それを破るために稚拙な奇策に走れば、手痛いしっぺ返しを食らうことになる。

定石が奇策によって破られることも、なくはない。

しかし、アーグナーは良くも悪くも古い将だった。

自身も定石通りに動くことを得意としていたため、奇策を用いた戦い方というものが苦手だった。

それでもアーグナーは優れた将であり、圧倒的に不利な状況でも、なんとか場を持たせることに成功していた。

長年の経験から導き出す先見の明と、それを生かす的確な指示があって初めてなし得る、名将と言われる者の采配だった。

それでも戦況は刻一刻と悪くなる。

本部から撤退の指示が出されたのは、そんな時だった。

アーグナーはこの指示をすぐさま実行しようとした。

このまま戦っていても、いたずらに被害を大きくするだけだったからだ。

しかし、その撤退がなされることはなかった。

突如として現れた、巨大な魔物の存在によって。

「ク、クイーンタラテクト!?」

アーグナーは目を見開く。

長年生きているアーグナーでさえ、生まれて初めて見る神話級の魔物。

世界に5体だけ存在すると言われる蜘蛛型の魔物の頂点。

クイーンタラテクトが何の前触れもなく、その巨体を戦場に出現させた。

「馬鹿な!?どうやってこんなところに!?」

クイーンタラテクトは世界に5体だけしか存在しないはず。

一番近くに生息している個体でも、クソリオン砦からは遥か遠くにいたはずだった。

それがいきなり出現するなど、どう考えても不自然だった。

アーグナーは混乱しそうになる頭を無理矢理落ち着かせる。

そもそも、クイーンタラテクトほどの巨体が、戦場の兵士たちの目を掻い潜っていきなり出現できるわけがない。

それならば、考えられる方法は一つ。

空間魔法による転移。

アーグナーの知る限り、クイーンタラテクトを御すことができ、その巨体を空間魔法で転移させることができる存在は、一人。

アーグナーの脳裏に現在魔を統べる者の、歪んだ笑みが浮かぶ。

「そうか。儂はもう用済みということですか。魔王様…」

そして、危険度オーバーS、神話級とも呼ばれる生ける災厄による蹂躙が、魔族人族問わず始まった。

この日、クソリオン砦は、跡形もなく消滅した。