軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【7】呪術師ゾフィーのキラキラデビュー計画

〈楔の塔〉入門試験合格者十二人の一人、ゾフィー・シュヴァルツェンベルクは、呪術という特殊な術を扱う一族の人間である。

年齢は十三歳。肩上辺りまで伸ばした黒髪は左右が一房ずつ紫色に染まっており、その目は宝石みたいにピカピカしたピンク色だ。

呪術師は自分の体に呪いを刻んでいるため、体が変調し、こういう髪や目の色になってしまうのである。

そんな目立つ髪色と目を隠すように、ゾフィーは羽織ったローブのフードを目深に被り、教室の入り口の前をウロウロしていた。

(あ〜、やだ〜〜怖い〜〜〜)

現代では呪術師は貴重な存在だ。故に〈楔の塔〉は、呪術の知識を残すため、常にシュヴァルツェンベルク家の呪術師を一人は塔に迎えるようにしていた。

少し前では、ゾフィーの祖父が〈楔の塔〉に身を置いていたのだ。だが、その祖父が亡くなり、次に派遣されることになったのが、孫娘のゾフィーだ。

つまり、ゾフィーは〈楔の塔〉に求められし、エリート中のエリート。

そう意気込んで来たというのに、合格者はとんでもない奴らばかりだった。

古典魔術の名門オーレンドルフ家の、ロスヴィータ・オーレンドルフ。

近代魔術の天才ザームエル・レーヴェニヒの息子、ユリウス・レーヴェニヒ。

それだけでもおっかないのに、今朝聞いた噂だと、曲刀を提げた黒髪のお姉さんは、現皇帝の妹アデルハイト姫なのだという。

しかも、蛮剣姫という通り名の物騒なお姫様だ。

(いじめられたらどうしよう……入門試験、アタシだけズルしてるし……)

ゾフィーは〈楔の塔〉から招待された身。本来、入門試験など受ける必要はなかったのだ。

だが、ゾフィーは考えた。

それだと合格した見習い達が集まった時、「あいつ試験受けてないよな」「ずるくないか」と後ろ指を指されるのではないか、と。それは嫌だ。

そこでゾフィーは〈楔の塔〉側に泣きつき、無理矢理試験に参加させてもらったのだ。

とは言え、それでゾフィーが不合格になっては〈楔の塔〉も困る。

だから、ゾフィーに渡された荷物袋には、合格に必要な〈楔の証〉が最初から入っていた。

試験開始から数時間経ったところで、ゾフィーはコソコソとスタート地点に戻り、誰よりも早く試験に合格したのである。

(バレたら絶対いじめられるし、黙っとこ……同室のルキエ・ゾルゲにはバレてるっぽいけど……)

宿舎で同室のルキエ・ゾルゲは愛想のない職人気質の娘だ。部屋では荷物の整理や、工具の手入ればかりしている。

何度か話しかけようと思ったけれど、「用が無いなら話しかけないで」と言われてしまい、以降ゾフィーは一度も声をかけられずにいた。

正直寂しい。同じ部屋の女の子と他愛もないお喋りをすることを、ゾフィーはとても楽しみにしていたのだ。

(ていうか、そろそろ教室入んなきゃだけど、第一声どうしよ……)

ゾフィーはギュッと、ローブの下に着たブラウスの胸元を握りしめる。

ブラウスは、キラキラした飾りボタンとフリルがついたお気に入りだ。襟元にはリボンがついている。呪術師には相応しくないと家族に叱られたけど、こっそり荷物に入れてきたのだ。

お気に入りのブラウスを見たら、ちょっとだけ勇気が出てきた。

(ちゃんと決めてたじゃんか。〈楔の塔〉デビューはキラキラ可愛い系女子でいくって! ここは、「みんなオハヨ!」って感じで、明るく可愛く……)

「おはよう!」

「うひょぉ!?」

背後から元気に声をかけられ、驚きのあまり奇声をあげてしまった。

今の奇声は、なかったことにしてほしい。そんなことを考えつつ、ゾフィーは振り向く。

ゾフィーの後ろに立っているのは、白髪の少女ティア・フォーゲルだ。

凍りついているゾフィに、ティアはニコニコしながら言う。

「ピヨップ!」

「ピヨップって何だよぉ……えと、おはよ……?」

ティア・フォーゲルは、一番最後に試験会場に到着して、目立っていたから覚えている。

なにせ、ヘーゲリヒ室長の頭上から転がり落ちての登場だ。あれは派手すぎる。

試験の最後では、ティアはアデルハイト姫と仲間の少年の二人を担いで戻ってきた。

宿舎でもアデルハイトと同室なので、きっとお姫様の子分なのだろう。

(舐めた口の利き方したら、怒られるかなぁ……)

ゾフィーがオドオドしていると、ティアがズイッとゾフィーに顔を近づけた。

琥珀色の目がじっと見ているのは、ゾフィーのブラウスのボタンだ。

「それ、キラキラして綺麗だね!」

「うん。お気に入り…………うひ」

お気に入りのブラウスを褒められ、ゾフィーは思わずニヤニヤしそうになる口元を押さえた。

(なんだよー、良いやつじゃんかー)

「あのね、廊下を行ったり来たりしてる足音が聞こえたから、見にきたの。なんで、行ったり来たりしてたの?」

「そ、そういうのは聞くなよぉ……」

「聞いちゃ駄目なの? ごめんね」

「別に怒ってないけどさぁ……」

ゾフィーはローブのフードをいじり、目を泳がせる。

ティアがあんまり真っ直ぐにこちらの目を見てくるから落ち着かないのだ。

その時、背後で「あのぅ」と控えめな声がした。振り向いた先では、砂色の髪を三つ編みにした眼鏡の女が佇んでいる。年齢は十代後半ぐらいだろうか。

「お二人とも、合格者の方ですよね? 私はエラ・フランクと言います。どうぞ、よろしくお願いします」

十三歳のゾフィーよりずっと年上なのに、丁寧な挨拶だった。

それにティアがすぐさま笑顔で応じる。

「わたしは、ティアだよ! よろしく! 握手!」

ティアはエラに近づき、ニコニコと握手をした。

慌ててゾフィーも名乗る。

「……ア、アタシは、ゾフィー・シュヴァルツェンベルクだよっ」

「ゾフィーさん、よろしくお願いしますね」

「ピヨップ! よろしく!」

エラが丁寧に頭を下げ、ティアはゾフィーの右手を掴んで握手をした。一切の躊躇なくだ。

ゾフィーは握られた右手を見て、口の端をピクピク震わせる。

「うひひ……」

まだキラキラ女子アピールはできていないけれど、女の子二人と仲良くなれたし、出だしは順調だ。

やっぱりお洒落してきて良かった! とゾフィーは胸を弾ませ、ティア、エラと一緒に教室に入った。

今度こそ、キラキラ女子デビューだ。キラキラ笑顔を振りまいて、「みんなオハヨ!」と言うのだ。

ゾフィーが扉をくぐり、挨拶をするために片手を持ち上げたその時、大変よく響く声がした。

「おはよう、良い朝だな!」

その覇気に気押され、ゾフィーは硬直する。

挨拶をしてきたのは、男物の軍服を身につけ腰に曲刀を下げた、黒髪の女──噂の皇妹殿下、アデルハイト・セビル・ラメア・クレヴィングだ。

エラがキョトンとした顔で立ち止まり、ゾフィーは全身を痙攣させ、持ち上げた片手を無意味にニギニギした。緊張しすぎて上手く動かないのだ。

ティアがゾフィーの顔を覗き込み、無邪気に問う。

「ゾフィー、なんで白目剥いてるの?」

「うひぃぃ……だ、だってぇ……」

ゾフィーが口をパクパクさせていると、窓際の席に座っていた金髪の少年が呆れ顔で言った。

「セビルは圧が強すぎんだよ」

皇妹殿下になんて口の利き方!!

だが、アデルハイト姫は気にした様子もなく、言葉を返した。

「何を言う、レン。挨拶は大事だぞ。軍の士気に関わる」

「ここは軍じゃねーっての。仕方ねぇな。美少年が正しい挨拶のお手本を見せてやる」

金髪の少年はわざわざ廊下に出ると、扉を開けて入ってくるところから再現した。

パタパタと小走りに駆け込んだ彼は、部屋に入ったところで足を止める。

「いっけなーい、遅刻しちゃうよぉ〜」

金髪の少年は半身を捻り、室内の者達に片手を振る。高い位置で結った金髪がフワリと揺れ、窓から差し込む日の光で輝いて見えた。

パッチリとした目が、パチンと可愛らしくウィンクをする。

「みんなぁ、オハヨ♡」

その笑顔はゾフィーより断然キラキラしていた。

(負けた……)

まさに、絵に描いたような美少年。ゾフィーが望んでいたキラキラ挨拶だ。

ゾフィーは敗北感に打ちのめされたが、挨拶された側の反応は辛辣だった。

「本当に遅刻しそうな人間が今の発言をしたら、わたくしは尻を蹴るぞ」

「レン、毎朝それやるの?」

アデルハイト姫だけでなく、ティアにまで駄目出しされている。エラは控えめに苦笑していた。大人だ。

散々駄目出しされても、レンは気にしていないらしい。「良いんだよ、美少年だから」と太々しく開き直っている。

真似したいとは思わないけど、あの自信は見習いたい、とゾフィーは密かに思った。