作品タイトル不明
第98話 勝ち誇るヴィア主任
ヴィア主任の話に、こんな状態なら王都脱出するしかないじゃんと思っていた。
今は学校で忙しいし、休みの日に毎回ダンジョンなんて行きたくない。
それに王都近辺のダンジョンはDランクまでだ。そんな単純作業みたいな事はもうしたくない。
アクロでBランク冒険者になるまで無茶したから、強制的なダンジョン探索はもうしたくない。
全然そんなの僕が憧れている冒険者じゃない。自由なのが冒険者だ。
【白狼伝説】の主人公みたいな冒険者になるんだ!
そう思いヴィア主任に僕は話を切り出す。
「僕は自分が納得しないでダンジョンに繰り出したくはありません。自由のない冒険者なんて、フルーツジュースが飲めない風呂上がりと同じです。やっぱりここのギルド長に取り込まれるのならば皆さんには悪いですけど、王都から移動を考えたいです」
ヴィア主任は僕の額を人差し指で強く弾く。
「だから結論を急ぐな。フルーツジュースの件は私も同感だけどな。どうして1番初めに冒険者ギルド本部と、ここのギルド長の力関係を話したと思っている? それに私はどこからこの情報を取って来たと思っている?」
額が痛い。
でも確かにこんな情報をどうやったら手に入る? ヴィア主任は僕を見て話を続ける。
「まず私にもそれなりに知り合いがいるんだよ。冒険者ギルド本部にね。まずはそこに行ったんだ。そこでギルド長のビングス・エアードの情報を集めた。本部では強引過ぎるビングス・エアードのギルドの運営に難色を示していた。もう少し話を聞くとギルドの金を横領している疑惑があるそうで近いうちに査察を入れるところだったそうだ」
ヴィア主任はお茶を一口飲んで話を続ける。
「私は本部にBランク冒険者2人に良からぬ事を企んでいそうだと告げた。ビングス・エアードが理由を言わずに出頭命令を出しているってな。本部ではその話をしたら慌ててな。内密に気の弱いビングス・エアードの側近の1人を本部に呼び寄せ事情を確認したんだ。その側近は可哀想に、いきなり本部に呼ばれて怯えていて震えていたよ」
ヴィア主任はクククっと笑う。
僕は美人はどのように笑っても絵になると思った。ヴィア主任の話は続く。
「さて、その側近から話を聞くと、先程の出頭要請で何をしようとしているか分かった。その他にビングス・エアードがギルドの金を私物化し散財しまくっていると話が出てきた。自分が使うためだけの高級馬車や自分の実家の屋敷を通常の価格よりわざと高く買っていたりな。後はミカくんが昨日拾った噂話は本当みたいだね。王国財務部の周辺に多額の金をばら撒いている。その金の出どころもどうやら冒険者ギルドからの横領みたいでね」
僕はスラスラ話すヴィア主任に見惚れていた。その美しい唇から言葉が続く。
「いくら元王国財務部の官僚であろうと、これだけ金を横領すれば、誤魔化しきれない感じになっている。それでも王国財務部に返り咲きたいから金がもっと欲しい。何とか帳尻を合わすことに躍起になっている。ビングス・エアードは焦っているんだ。追い詰められているのがありありと分かるだろ」
ヴィア主任は時折こちらの理解が追い付くように間を取る。そして話は続く。
「どうにも金が欲しいビングス・エアード。そこに現れたのが君達Bランク冒険者の2人だ。君達を手駒にして魔石を大量にギルドに納品して欲しい。あわよくば君達が持っている高価な大量のダンジョン製の装備を狙っているのかもしれない。ところが君達を取り込むために考えていた事が上手くいかない。君達は豪華な馬車や屋敷には目もくれず引っ越しをする。潜り込ませるはずのパメラは君達に拒否される。君達は全く魔石を納品しない。遂には冒険者ギルドにも近寄らない」
サイドさんがお茶を入れ直してくれた。そのお茶を飲んでヴィア主任の話を聞く。
「思い通りにいかない君達、しかし破綻が迫っている。そこで今回の出頭要請だ。冒険者規則を根拠に君達2人に圧力をかけようと思ったんだ。この出頭要請についてはギルド本部でも相当怒っていたよ。有能なBランク冒険者2人を冒険者ギルドの敵にするかも知れない行為だからね。それに出頭要請の根拠は薄弱だ。いや難癖でしかあり得ない。ただビングス・エアードは君達2人くらいなら、容易く言いくるめることが出来ると思ったんだろう」
なるほど出頭要請をした理由が良く分かった。納得した僕の顔を見てヴィア主任は微笑んでくれた。
ヴィア主任は僕に安心しろって顔で言ってる。
「もうビングス・エアードは破裂寸前だよ。あとはこちらから少し力を加えれば破滅するね。ただ破滅する人間は自暴自棄になるからそれも注意しないとね。考えないといけないのは、パメラって女性と暴行の証言をしようとしていた3人の男性冒険者だね。ビングス・エアードが手足の様に使っているようだ」
ヴィア主任からは優しいオーラが出ているように感じる。ヴィア主任の柔らかい声が響く。
「パメラの行動は怪し過ぎるね。何回か君達の家の周辺を 覗(うかが) っていた疑念があるんだろ。また出頭要請をしに来た時は、君達が不在にしている時に来て家に上がり込んでいる。家に上がり込めれば、トイレを借りると偽って侵入経路の確認なんかはすぐ出来る。強盗の下見だね。君達の自宅に押し入って、君達に危害を加えたり、高価な装備を盗み出す可能性がある。実行するにはちょうど良いことに、君達といざこざになった3人の男性冒険者がいるだろ」
ヴィア主任の言葉からはずっと僕に向かって「私を信用しろ! 安心して良いんだ」って感情がずっと伝わってくる。
ヴィア主任の想いを乗せた言葉が続いていく。
「まずは相手の自暴自棄でこちらが怪我をするのはいただけない。守りを固める必要がある。攻撃を仕掛ける方は、弱い所を攻めるのが鉄則だ。君達の身近な存在で弱い所、ユリくんがそれに当たる。当然ユリくんを守れる体制が必要だ。アキくんとミカくんは魔法が使えなくても問題ない強さがある。しかし寝ているところに自宅を襲撃されると危険だ。やる事はユリくんを守れる体制を作ること。後は自宅の防犯力を上げる事だ」
やる事がわかった。早速取り掛かろう。
僕を見てヴィア主任はニヤリと笑って話した。
「その体制ができ次第、本部からギルド長に対して君達の出頭命令を無効にさせる。これはまだ任意出頭の期限が2週間だから時間に余裕があるね。まぁこちらの準備ができれば、すぐやるけどね。その後、本部の査察を入れてビングス・エアードを失脚させる。あとは新しいギルド長が就任するだけだ。だいたいこんなもんだな。アキくん、これでも王都から移動する必要があるかね?」
ヴィア主任は勝ち誇った顔を僕に向けた。