軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第52話 【白狼伝説】とウルフ・リンカイ

「よし! 食べ物を取りにいこう! ファイアール公爵家の料理人は腕が良いからきっと気にいるよ」

そう僕が言って2人でフードスペースにいく。

数種類の料理を見繕って庭に設置された簡易テーブルで食事を始めた。ミカの飲み物はワインに変わっている。

ファイアール公爵家の庭はしっかりと手入れされていて気分良く食事ができる。ただその素敵な庭を見るとそれを指揮している筆頭執事のベルク・ファイアードの顔が頭に浮かんでしまうのが問題かな。

ミカと食事と会話を楽しんでいると13歳の少年が近づいてきた。我が弟であるガンギ・ファイアールだ。弟から僕に近寄ってくるなんて明日は槍でも降るのかな?

ガンギは僕を睨みつけながら言葉を発した。

「僕はあなたを認めないからな!」

僕は口の中の食べ物を飲み込んでから言葉を返す。

「別にお前に認めてもらっても意味がないよ」

ガンギは僕の言葉に癇癪を起こした。

「うるさい! 黙れ! お前なんか認めないったら認めない! シズカも渡さないからな!」

そう言ってガンギは荒々しい歩調で離れていった。

「なかなかワイルドな弟さんね」

ミカが呆れたような声を出す。

「偏食なのかな? 何かの栄養素が足りてないんだよ」

僕は軽口を返した。

弟のガンギ・ファイアールがテーブルから離れるとすぐに今度は15歳の女の子が近寄ってきた。シズカ・ファイアードだ。

僕はおもむろに発言した。

「君は約束を何だと思っているんだ。君と僕は今後一切関わらないって約束したはずだが?」

シズカは俯いていた。その後、急にこちらに顔を向けた。強い意志を感じる目だった。その目を見た僕は【あ、面倒くさくなる】と思った。

シズカは僕の目を真正面から見つめ口を開いた。

「約束は覚えているわ。それはごめんなさい。でも気になるの。魔法が使えなかった貴方が瞬く間にBランク冒険者になるなんて。普通じゃない。蒼炎の魔法って何なの? そんなに凄い魔法なの? どうやって使えるようになったの?」

僕はため息を吐いて返答する。

「君はいつだってそうだ。世界が自分中心で回っていると勘違いしている。そう思っていて良いのはせいぜい5歳までだよ。君は自分の考えが正しいと思っていて、自分の都合しか考えない。だから約束も簡単に反故にできるんだよ」

「そんな事ないわ! 私だって他の人の事も考えている!」

「まず君は自分の好奇心を満たすためだけに僕の前に顔を出した。約束を破ってまでね。そんな君に蒼炎について話すことはないよ。また他の人の事も考えていると言ったね。後ろを見てごらん。先程から僕は麗しい弟から凄い形相で睨まれているんだよ。こんな役立たずなんてほっといて婚約者にでも時間を使うほうが建設的だと思うけどね」

唖然として声が出なくなったシズカに僕は言葉を続ける。

「これ以上君と話す時間が僕にはもったいないんだよね。僕には素敵な女性が相手をしてくれているんだ。少しは気を使ったらどうなんだ」

悔しそうな顔をしてシズカが口を開く。

「分かったわ。今日は諦める。ガンギについては私は全く興味がないの。早く婚約破棄して欲しいくらいなんだから。お邪魔しました」

そう言ってシズカは僕たちのテーブルから離れていった。

「私をダシにするなんてひどくない?」

「ごめん、ごめん。でもまぁ本当のことだから。ミカとの時間は大切にしたいんだ」

「まぁ許してあげる」

それからミカと会話を楽しんだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

パーティーの空気が落ち着いてきた頃、ミカが僕が暮らしていた離れの建物を見たいと言い出した。

別に楽しいところではないが連れて行くことにした。ミカの酔い醒ましにもなるから。

本館の脇を抜け、離れの建物に近づく。こちらは人気がなく静かだ。パーティ会場の喧騒が微かに聞こえてくる。

「いつもみんながパーティーをしているときにアキくんはこの中で1人でご飯食べていたんだ。気が狂いそうにならなかった?」

「そうだね。僕は一冊の本に助けられたんだ。子どもの絵本にもなっている【白狼伝説】。その小説を何度も読んだよ。白狼と呼ばれていた冒険者が仲間と共に世界中を冒険して神獣の力を借りて化け物を倒す話さ。僕はそれを読んで冒険者になろうと心に決めたんだ。18歳になったら家を出て冒険者になる夢を持てたんだ。それで心は折れなかったね」

「そうなんだ。だったら私は【アキくん伝説】を執筆しようかしら」

「【アキくん伝説】は止めてよ。カッコ悪すぎる」

「じゃ【蒼炎の魔術師】なら良いかしら?」

「あんまり変わってないよ」

ミカと掛け合う冗談がとても心を軽くしてくれる。楽しいなぁ。

何の気なしに離れをみる。奥の大木が見える。そういえばあの祠と結界はどうなったのかな? 確かめてみるか?

そう思い離れの裏に足を向ける。ミカも何気無くついてくる。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

大木は今まで通り雄然としていた。祠に近づく。結界は無い。特に何も変わっていないか。その時祠の奥に何かが見えた。なんだ? まだ何か入っていたのかな? 手を伸ばし取り出してみる。

それは封筒に入っている手紙のようだった。宛名は【祠を開けた方へ】、差出人は【ウルフ・リンカイ】だった。

一瞬僕の頭が白くなった。

ミカが能天気な声で話しかける。

「【祠を開けた方へ】ってなっているからアキくんにって事だね。手紙を書いた【ウルフ・リンカイ】って誰? アキくん知ってる人?」

僕は絞り出すように言葉を吐く。

「伝説の人だよ。本当に実在した人かわからない歴史上の人物だ」

「そうなんだ」

ミカはそれほど興味を持ってないようで気の無い返事をした。

僕は構わず話す。

「【ウルフ・リンカイ】はこのリンカイ王国の初代王様と言われている」

「言われているって?」

「あまりにも古い時代なんで実際は存在しなかったって説を唱えている歴史学者もいる」

「ふーん」

「そしてもう一つ」

僕は信じられない思いで言葉を続ける。

「先程話していた【白狼伝説】の主人公だよ」