軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§098 コスプレは誰がために 1/16 (wed)

『おはようございます』

「あれ、キャシー? こんな早くからどうしたんだ?」

「これからのスケジュールを立てとかないと、キャシーの仕事がなくなっちゃいますからね」

昨日小麦さんで試したところによると、メイキングはパーティに登録されたメンバの階層に在籍さえしていれば、特に制限無く登録者のステータスをいじれるようだった。

それを受けて、三好は彼女に、今後のブートキャンプのやり方について、先日決めたとおりの説明して了承を受けたところらしい。

これで、俺達はこの事業から基本的にフリーになれるはずだ。

「ああそうか……とは言っても、これからちゃんと料金を公開して、新しく希望者を募りなおして……すぐには無理じゃね?」

「まあそうなんですよ。だから、しばらくサイモンさんのところに預けることにしました」

「そりゃいいけど、出向先から出向元へ出向するってこと? ややこしいな」

「サイモンさんのところも、特に公的な探索扱いではありませんし、試験的に5人パーティにしてみるそうです。先日、メイソンさんに勝って実力を見せたことが、評価されたっぽいですよ」

「へー、キャシー、よかったじゃん」

「そうなのですが、こちらではまだ少ししか仕事らしいことをしてませんし」

まあ、自分の訓練をしてた時間のほうが長いもんな。

「気にすることはないさ。このままDADに戻られたら困っちゃうけど、こっちの準備が整っていない間、キャンプで上がったはずのステータスを試してみるいい機会だと思えば?」

「ありがとうございます」

「んで、その話をするために朝から呼びだしたわけ?」

「そんなわけないじゃないですか。キャシーは、今、うちにとって必要な人材でしょ?」

「ああ、まあな」

「で、サイモンさんとの探索で死なれちゃ困るわけですよ」

「そうだな。縁起でもないが」

「なので、餞別を渡そうと思いまして」

ああ、なるほど、そういうことか。

サイモンのパーティと言えば、頑強な前衛に、火力のある後衛、スピードのある遊撃に、オールマイティなリーダーだ。

キャシーはビルドの方向としては、サイモンに近いけれど、ことSTRとAGIは、今のところサイモンを上回っている。

攻撃の軸を2枚作って、状況によってジョシュアがどちらかをサポートする遊撃になるってスタイルを基本に、敵が多いときは、避け盾としてメイソンと2枚盾になったり、そうでなくても時々メイソンと入れ替わり、彼の負担を減らすこともできるだろう。

なら、後は想定しているプレイスタイルを完成させるためのピースがあれば、なお良いわけだ。残念ながら回復魔法は未だに手に入っていないけれど。

「そういや、キャシーは使う魔法の属性は決めたの?」

「迷ったんですが、ナタリーが火なので、まずは水魔法を修得しようと思います。探索の荷物も減らせますし」

「わかった」

頷いた俺は、チタンケースの保管場所へ行くと、影で水魔法を封入した。

そうしてそれを持って戻ってくると、三好へと渡した。

「じゃ、キャシー。これ私たちからのプレゼント……じゃなくて、福利厚生の一環ね」

彼女はそれを受け取ると、おそるおそるふたをはずして、目を丸くした。

「あ、あの……これ、一体どうやって?」

実はいくつかのオーブは、故意にカウントを進めてあった。

流石に全部60未満では、少し困るシチュエーションも出てきたからだ。

「まあ、細かいことはともかく」

「……細かい?」

「ともかく、これからもしばらくは代々木攻略のために力を貸してくれよな」

「わかりました」

追求を諦めたかのようにそう言うと、キャシーは、オーブに触れた。

「ああ、それから」

それを使おうとする彼女を遮って三好が言った。

「それを使うときは『俺は人間を辞めるぞ!』って言うのがルールだそうですから」

「はい?」

「I'm done with mankind! って叫びながら使うのがルールってことです」

「 For reals?(マジで?) 」

三好がこくりと頷いた。

おまえら、なんの儀式をしてんの、それ。いや、最初に言い出したのは確かに俺だけどもさ……

キャサリンは、オーブを握り、立ち上がって握った右手を斜め上に突き出してポーズを作り、叫んだ。

「I'm done with mankind!!!」

「おお!」と三好が喜んでいる。

いや、まて。キャシーのやつ、なぜそのポーズを知っている?

オーブの光がキャシーの体にまとわりつきながら、彼女の中へと吸い込まれていく。

そして、彼女は、「I'll rise above humanity!」と続けた。

「貴様! なぜ続きを知っている!」

キャシーは、ふっとニヒルに笑うと、『HEROES(*1)を見て、ちょっと興味があって』と言った。

英語版って、第3部しか出てないんじゃなかったっけ?……ああ、こいつ日本語もOKなんだよな、そう言えば。

「どうです?」

三好が俺達のやりとりをまるっきりスルーして聞いた。

三好さん。そこにシビれる! あこがれるゥ!

「体がスポンジで出来ていて、水がしみこんでくるような――なんだか変な感じでした」

「ナンバーなしの魔法オーブはイメージがとても重要ですから、少し低層で練習しておいた方が良いですよ」

「キャシーのMPは74くらいだから、普通の攻撃系魔法――ウォーターランスなら74回くらい使えるはずだ。INTが38だから、大体1時間に38ポイント復帰することが分かってる。2分に1回くらいの利用なら、MP枯渇を心配することもないぞ」

「さすがに詳しく調べてるんですね」

「SMDの開発中にな」

俺はさりげなく誤魔化した。

「わかりました。この後ちょっと2層か3層でゴブリン相手にいろいろ試してみます」

「それがいい」

そう言うやいなや、彼女は俺と三好に頭を下げると、オモチャを買って貰った子供のように、喜び勇んで代々木へと出かけていった。

装備は代々木のレンタルスペースのロッカーにおいてあるそうだ。

「さて、先輩」

「なんだよ、その顔。なんだか嫌な予感がするぞ」

「ふっふっふっふ。それは正解でもありハズレでもあります」

絶対ろくでもないことに違いない。

「実はですね、出来たそうです」

「え、誰に? ヤッた覚え、ないんだけど……」

「何言ってんですか! 衣装ですよ、衣装!」

「衣装?」

「ザ・ファントムのコスチュームですよ!」

「ええ?! あれ、マジで作ってたの?!」

「当たり前ですよ、こんな面白そ……ごほん。重大な案件、冗談じゃできませんよ。手間だって結構かかってるんですからね?」

「今、面白そうって言わなかったか?」

「何を言ってるんです、先輩! というわけで試着して下さい」

そうして、俺は三好の部屋へと引きずられていった。

事務所は人が来るからな。

◇◇◇◇◇◇◇◇

「うんうん。基本的なシルエットは25周年記念公演版ベースですね」

どうやら、オペラ座の怪人25周年記念でロンドンのロイヤルアルバートホールで行われた公演に出てきた、エリックのコスチュームがベースらしい。

「黒の上着に、サテンっぽいショールラペル。ホワイト・タイベースなのに、チョッキはシングルのブラック」

「シャツの襟はウィングで、カフスはダブル。シューズは黒で総エナメルっぽい仕上げ。ポイントはシルクハットじゃなくて、中折れ帽ってところでしょうか」

「仮面は上半分全面タイプだけど、まあ先輩は口元に目立つ目印とかないですし、ボイスチェンジャーをくっつけることを考えたらいいですよね」

「そしてアクセントは赤と白と金をさりげなく、少しだけ……いいですね! FGOベース(*2)だったら、どうしようかと思ってましたよ」

「少しって……カラーの裏のクリムゾンが襟の縁から覗いてて、ホワイト・タイのドレスコードを思いっきり踏みにじってるどころか、色物になってないか?」

俺は三好の部屋の大きな姿見を見ながらそう言った。

カラーは紳士服で言うと、首を取り巻く襟の部分だ。ちなみに、そこから続く下襟の部分はラペルという。

「闇の中、微かに覗く情熱の赤! 格好いいじゃないですか」

「そうかぁ?」

「てか、仮面の時点で色物は避けられないので心配しないでください」

「ヒドいなっ!」

「着心地はどうです? これ、あちこち目立たないようタックやプリーツが入ってて、動きを阻害しないように凄く工夫されてるんですよ。遠目に見ればフォーマルですし」

たしかに思ったほど窮屈じゃない。

そういや、当時、三好がやたらと細かく採寸していったっけ。作ったヤツの腕もよさそうだ。

三好の腐な友達とか言ってたけど、こいつの交友範囲も謎だな。

「そして、最後のキメのアイテムがこれです!」

三好が取り出したのは、やたらと大きな、マットな質感の黒いマントだった。ただし裏地だけ奇妙につややかな質感があった。

「やはりファントム様は、大きく重いマントを身につけていなければ!」

「ファントム様ってなんだよ……だけどこんなマントを 纏(まと) ったままで戦えるか?」

「そこは保管庫へ出し入れする訓練をしてください……それにこれは退出用のアイテムなんですよ」

退出用?

「こう、ばさっとマントの影に隠れた瞬間、闇に溶けるように姿が消えて、後にマントだけが残されるんです。その実態は、シャドウピットに落ちるだけなんですけど。格好良くないですか?」

「結構高そうなのに、使い捨てなのかよ!」

「素材は非常にありふれたものなので大丈夫です。それにマントは、彼がそこにいた 証拠(あかし) なんですよ? あまり安物だと、なんかしょぼいじゃないですか」

「なんという演出過剰。もうお前がやれば?」

「ええー、そんな恥ずかしい恰好できませんって!」

待て。今何か、酷いことを言われた気がするぞ。

「このやろう……」

「私は女子でーす、やろうじゃありませーん」

マントを羽織って、軽く動いてみたが、なかなか布面積の大きなマントだった。

「しかし、これ、身につけてるときに燃えたりしたら結構悲惨じゃないか?」

全身火だるまは避けたいんだが。

「一応難燃性の素材にしてありますけど、所詮はコスプレ用の衣装ですからね。火が付いたら保管庫に入れちゃえば時間経過がないんだから大丈夫じゃないですか? あとで安全なところで取り出して、燃やすなり消火するなりすれば」

「コスプレ用の衣装を強調するってことは、防御的な役割は……」

「まあ、紙ですね」

三好が当たり前でしょといった感じで、肩をすくめる。

「がくっ……せめて、ケブラーとか炭素繊維とか……あるだろ、そういうの?」

「先端素材なんか使ったら、購入履歴ですぐに足が付きますよ?」

「そりゃそうか」

「それに、使い捨てできなくなりそうですし」

「そこかよ!」

「先輩ったら、どうせいつも普段着で潜ってるようなものじゃないですか。紙の質がちょっと変わったところで、大差ないですよ。エンカイ級でも出てこなければ大丈夫だと思いますけど」

「そう言われれば、そうかな……」

仮にエンカイ級が登場したとしてお、あの攻撃力をまともに受けて耐えられる防具なんてありそうにないしな。当たらなければどうということはないって方向で行くしかないか。

俺は鏡の前で、マントをばさっと翻してポーズを取ってみた。

「なんだか出来損ないのベラ・ルゴシみたいだな」

「魔人ドラキュラですね! あれもホワイトタイコスチュームでしたから。ちゃんとベストも正統派の白でしたし」

魔神ドラキュラは1931年の映画で、それまでブロードウェイでドラキュラを演じ続けていた、ハンガリー訛りの英語を話すベラ・ルゴシが主演だ。

これがまた、舞台っぽいガチかつ派手な演技で、今見るとちょっと笑えるのだ。マントばさーとか。

「でも先輩。さすがに格好いいキメポーズみたいなのは、練習しておかないと出来ませんよ」

「そうだなぁ。なにかそういうキメのポーズだけでも練習しておくか?」

「なんだかんだ言って、結構やる気ですね」

三好がぷぷぷと笑いながら言った。

別にそういうわけじゃないが、やるならとことんやらないとな。気恥ずかしい思いを抱えたままで、こんな恰好はできないのだ。

なりきりと思い切りが重要らしいし。

「こうなると小物も欲しいですね……ステッキとか持ってみます?」

「ただの棒を持っても意味がないだろ。この恰好なら、これを使うか」

そう言って、俺は、おもむろに報いの剣を取り出した。

「ああ、シミターにしては反りも小さいですしね、似合うかも知れません。結構な壊れ性能でしたし。でも腰に下げるなら鞘が必要ですよね?」

「直接保管庫から出しちゃえば要らないんじゃないか?」

「なるほど……マントの影から、こう、ばさっと。おお、格好いいかも!」

「だろ?」

「間違えてマントを切ったり、刃を握って手を切らないでくださいね」

「お前……いや、練習しておきます」

さすがにちょっと自信がなかった。

剣なんか振ったことがないから、今まで保管庫の肥やしだったわけだし。

「できれば盾も欲しいんだけど」

というより、盾のほうが欲しい。

「今までのやつは似合いませんよね。目立たない籠手っぽい何かを上着の下に身につけますか。基本腕でガードみたいな。先輩結構VITありますよね」

「当面、それでいいや。直接 肉体(からだ) で受けるのはやっぱビビるからな。なにか用意しておいてくれよ」

「了解です」

三好は俺のまわりをぐるぐると観察しながら回って、満足するとおもむろに言った。

「あとはどこでデビューするかですよね」

「デビュー?」

ちょっとまて、なにか不穏なことを言い出したぞ?

「やはりファントム様は、どこかで笑撃的なデビューを飾らないと」

「おい……何か、妙な誤字が混じってないか?」

「やはり観客が必要ですよねぇ……」

「聞けよ! 人の話を!」

まずい、このままだと何をやらされるか分かったもんじゃないぞ。

何処かでブレーキをかけなければ……

迫り来る危機をひしひしと感じながら、俺は一人で焦っていた。