軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§088 キャサリンの報告 1/8 (tue)

西新宿パークタワーの41階では、サイモンチームの4人が優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいた。

オーブの落札確認と受け取り準備のためにダンジョンから戻ってくるように伝えられていたが、戻ってみれば、マイニングを取得する人員の到着が遅れていた。

どうやら、DoDが、人員を自分達の所から出すように強くねじ込んだせいで、人員の選定が白紙に戻ったのが原因らしい。

DoDの言い分としては、資源なのだから自分達の管轄だということだが、DADとしては、まだ調査段階だからうちのほうが相応しいといういうことらしい。

現場から見れば、アホじゃないの?と言いたくなるトラブルだが、管理チームはこういうところがポイントの源泉だからやむを得ないのだろう。

とはいえ、しわ寄せは現場に来る。

サイモン達は、18層に戻るわけにも行かず、やむを得ず休暇としゃれ込むことにした。もっとも、彼らは建前上、休暇で代々木に来たはずなのだが。

ジョシュアはいかにも慣れた手つきで、カップを口元に運んでいる。

着慣れない襟や袖付きのシャツを着せられたメイソンは、窮屈そうにしながら、ティーフードをひたすら口に放り込んでいた。

フィンガーフードやプティスイーツは凄い勢いで消えていたが、すぐにトレーサービスがやってくる。

ここのアフタヌーンティーセットは、ティーはおろか、トレーサービスのティーフードも好きなだけ食べて良いのだ。流石はパークハイアット。45ドル(*1)もするだけのことはある。

「それで、ヨシムラはどうだった?」

シングルエステートのオータムナルを置いて、サイモンが聞いた。

オータムナルは通常秋に収穫されるダージリンだ。マスカットフレーバーとは無縁だが、その渋みにファンも多い。

だがサイモンは、内心大人しくコーヒーにしておけば良かったと思っていた。彼はコーヒー党なのだ。

「ヨシムラ? アズサではなくて?」

ナタリーがそれを聞いて、不思議そうに言った。

「ヨシムラだ」

キャサリンは一瞬逡巡したが、背筋をぴんと伸ばすと、すぐに上官の質問に答えた。

「非常にジャンケンの強い男でした」

「は?」

「ジャンケンというのは、所謂、ロック-ペーパー-シザーズで――」

「あ、いや、それは知っている」

「失礼しました!」

「キャシーは、彼に勝負を挑んだんじゃなかったのか? その時の彼の実力を聞きたいんだが」

「それが……」

キャサリンは、その時のことを詳しく説明した。

ダンジョンでの模擬戦を挑んだら、面倒くさいという理由でジャンケン勝負を持ちかけられたこと。

運だけの勝負では実力は測れないというと、ジャンケンが運だけだと思っているのかと、煽られたこと。

嘘だと思うなら、試しにやってみようと言われて応じたこと。

そして、驚くべきことに、一度も勝てなかったこと。

「勝てなかった? たまたまとかじゃなくてか?」

「100回は確実に挑みましたが、一度も勝てませんでした」

「一度も? アイコもなしか?」

「アイコ?」

「お互いが同じものを出すことだ」

「……そういえば、ありませんでした。不思議ですね」

一度もアイコがない以上、すべて初回でケリがついているわけだから、その確率は1/3だ。

それが100回連続で起こる? もしも偶然だとしたら、その確率は――

「a five-hundred-quattuordecillionth くらいね」

ざっと概算して、ナタリーが言った。

「クワトゥーオデッセリオンスなんて単語、聞いたこともないぞ」

「10の45乗って意味よ。だから分母は、5E+47くらい」

「もはや桁が多すぎて、想像も出来ん」

「大体地球上にある水分子の総数のオーダーね」

「余計に意味不明だ」

とにかくあり得ない確率だってことはよく分かった。

「なにか、トリックがありそうだったか?」

「私もそう考えました。それで、相手の思考が読めるスキルでも持っているのかと尋ねてみました」

「それで?」

「それなら、別のことを考えたり、違う手を考えてれば勝てるんじゃないかと言われました」

「やってみたのか?」

「もちろんです」

しかし全敗だったそうだ。

こんなあり得ない確率を叩き出すことは不可能だ。そこには何らかのトリック――おそらくはスキル――があると思うが、それが何かは想像も出来なかった。

「そうして、ジャンケンなら怪我もしそうにないし、いつでも挑んできていいと。負けたら他の挑戦も受けると言われました」

絶対負けない自信があるんだろうが、それはそれで好都合だ。

「キャシーはしばらく、ヨシムラの能力の秘密も探ってくれ」

「わかりました」

言われなくても、負けず嫌いのキャサリンは、芳村に挑む気で満々だった。

「それで、訓練プログラムは説明されたか?」

「いえ、それはおそらく今晩だと思いますが、しばらくプログラムについてのご報告は出来ないかもしれません」

「守秘義務契約か?」

「いえ。そうではなく、お前の上司連中は最初の顧客なんだから、報告するんならそれが終わってからにしろと」

「なにかあるのか?」

「感動が薄れるだろと言われました」

訓練に感動? 相変わらず面白いやつらだ。一体なにをやらされる事やら。

「守秘義務契約はしたか?」

「いえ。それが……」

「なんだ?」

「別に隠すことはないし、業務中に知り得たことは元の上司に話して良いから、まじめに仕事しろと」

それを聞いてサイモンは思わず吹き出した。

「すでになにもかも織り込み済みかよ!」

声を押し殺してげらげら笑うという離れ業を見せていたサイモンを華麗にスルーしたサービススタッフが、焼きたてのスコーンを運んできた。

ほくほくとしたそれに、添えられたジャムとクロテッドクリームをたっぷりとのせながら、ジョシュアがメイソンに、ジャムとクロテッドクリームのどちらを先に塗るべきなのかを力説していた。

「他にはなにかあるか?」

「……あの、報酬の件ですが」

「ああ、建前上は非常勤扱いってことにしてあるが、俸給は以前のまま支払われる。君の場合はE-6だったのが、出向で2階級上がっているからE-8だったな」

「あ、いえそうではなく……本当にDパワーズから給与を貰っていいんですか?」

「そりゃ、ボランティアじゃないんだから、貰わないわけにはいかないだろう」

「しかし……」

「なんだ? なにかあったのか?」

「……年25万ドルだったんです」

ひゅうと思わず口笛を吹いたサイモンに、一瞬まわりから視線が集まった。

「太っ腹ね。それって、O-10よりも多いわよ」

ナタリーが感心したように言う。O-10は、軍の大将に与えられるの給与等級で、その上限は、大体月2万ドル弱だ。

「仕事は、訓練教官だよな?」

「はい」

「守秘に対するボーナスが付いてるとか?」

退職金なんかにはよくある仕組みだ。

「それに関しては、先ほど申し上げたとおりです」

あいつらの考えることはよくわからん。

教官がそんなに貰えるんだとしたら、もしかして受講費用が破格なのか?

「ま、ジェネラルよりも高給取りのスタッフサージェントがいてもいいだろ。ここはUSMC(*2)じゃないんだ」

スタッフに紅茶のおかわりを頼みながら、ジョシュアが気楽に言った。

「くれるというなら貰っておけ。DADのフロントチームは、アイテムやオーブのボーナスで、もっとたっぷり稼いでいるからな、気にしなくても大丈夫だ」

「わかりました」

実際、フロントチームが賭けているのは命だ。それくらいの役得は用意されていた。

でなければオーブのオークションに参加できるはずがない。

サイモンは、目の前のマドレーヌをつつきながら、キャサリンに聞いた。

「最後に、ヨシムラってやつの印象を聞かせて貰えるか?」

その問いにキャサリンは即答した。

「非常に不思議な男でした」

「不思議?」

ただのGランクの探索者なのに、妙に物怖じしなかったり、かといって偉そうにするわけでもなく、奇妙にへりくだっていたり。

何か態度がちぐはぐで、違和感があったそうだ。

「それは、日本人の特徴だな」

「そういうものですか? あ、それに、ボス――アズサが忠誠を誓っているようなのも不思議でした」

「忠誠?」

「はい、彼女がヨシムラに、"Semper Fi!"(*3)と呼びかけていました。まさか海兵隊のモットーをここで聞くとは思いませんでした」

それを聞いたナタリーが、尋ねた。

「キャシー、それって、”せんぱーい”じゃなくて?」

「は? 確かにそのような感じでしたが」

「それは、”先輩”ね」

先輩はとても説明しにくい言葉だ。英語圏では、年齢の差が日本ほど重視されないこともあって、これにぴったりはまる言葉がなかった。

seniorでは年齢のことしか伝わらないし、mentor だと少し遠い。実に厄介な単語で、多少日本語が出来る程度のキャシーでは誤解しても仕方がなかった。

「SEMPAI?」

「SENPAIね。なんていうか、比較的身近で、自分より長くそのキャリアを積んでいる人に対する呼称よ」

「はぁ……」

「ヨシムラは、前職で三好のチューターだったのさ」

「なあに、妙に詳しく調べてるのね?」

ナタリーが不思議そうに聞いた。

「あいつら、現代のエニグマ(*4)だからな」

「たしかにアズサにはそう言うところがあると思うけど……」

オーブのオークションを始めたのも彼女だし、鑑定の所有者も彼女だ。

それを利用して、ステータス計測デバイスまで制作しているらしい。国の研究者からはすぐにひとつ買って送れとメールが来ていた。

「いいや。本当にヤバいのはヨシムラさ。賭けても良いぜ」

サイモンは、サービススタッフにコーヒーをオーダーすると、身を乗り出した。

「いいか。アズサが最初にダンジョンに潜ったのは、ダンジョンが出来た最初の年の終わりで、彼女はユニ(*5)の学生だった。そこで、Dカードを取得した後、記録じゃヨシムラがライセンスを取得するまで一度も潜っちゃいないんだ」

「そしてヨシムラが、初めてダンジョンに潜ったのは、たった3ヶ月前だ。そして、それは前の会社を辞めた時期と一致している」

「いきなり会社を辞めて、ダンジョンに潜り始めたわけ?」

ナタリーが驚いたように言った。日本人には珍しい行動だったからだ。

「そうだ。何年も勤めていた会社を辞めてやることが、ダンジョンに潜る? ずっと趣味で潜っていたのならともかく、ライセンスも持っていなかったのに?」

「すこし異常ね」

「ハイスクールの生徒ならともかく、滅茶苦茶異常さ」

サイモンは肩をすくめてそう言った。ジョシュアは興味深そうに話に耳を傾け始めたが、メイソンは、われ関せずと小さなチーズケーキを口に放り込んだ。

「そうして、ヨシムラが会社を辞めるのと前後して、アズサはJDAで商業ライセンスの講習を受けている」

「それが?」

「2年前に潜って以降、1度もダンジョンに興味を示さなかった女が、ダンジョンに入りもせずに、いきなり商業ライセンスをとりに行くか?」

「会社のコネで、独立して何か商売を始めようと考えたのかもよ?」

「その可能性は考えた。だがあいつらのいた会社は、ダンジョン素材に関してはまるきり後発で有力なコネといえるようなものはなさそうだったし、実際ヤツラはそんなコネを使っていない。関係している会社らしい会社は、デバイスの開発をしている医療機器のベンチャーだけだ」

「随分念入りに調べたのね」

ナタリーは呆れたように言った。

「ともかくアズサは、ヨシムラが会社を辞めるのにあわせて、商業ライセンスの取得講習を申し込んでいるんだ。どう考えても主体はヨシムラだろ?」

「結婚の約束でもして、一緒に事業を立ち上げようとしたのかもよ?」

「見通しゼロで、そんなバカをやるカップルがいないとは言わないが、あいつらがそんなタマか?」

それは全くその通りだ。

そもそも代々木の4層まではアイテムがドロップしない。初心者どうしでそんなことをやれば、あっという間に破産するだろう。無理筋にも程があった。

「で、やつはといえば、最初の1ヶ月は1層にしか潜っていなかったらしい。代々木の探索者連中に聞いたら、自殺野郎って一時期有名だったらしいぜ?」

「自殺?」

「何の防具も身につけず、1層から出たり入ったりを頻繁に繰り返して、ウロウロしてたんだとさ」

「ああ、自殺を決意したけど思い切れず、みたいな感じだったわけか」

「そう。そのときJDAの鳴瀬と出会っている」

ちょうどその時、注文していたコーヒーが届いた。

サイモンはそれを一口飲んで、やはりティーよりこっちだがアズサのところの豆の方が美味いな、あいつらどんな豆を使ってるんだ、などと思いつつ、話を続けた。

「いいか、ヨシムラは突然会社を辞めてダンジョンに潜り始め、意味不明な行動を1ヶ月ほど繰り返す」

「そして、アズサは、いきなり商業ライセンスを取得したかと思うと、1度しかダンジョンに入らず会社を辞める」

「そうしてアズサが会社を辞めて、10日も経たないうちに、突然例のオークションが開催されるんだ」

「ふーむ」

ジョシュアがなにかを考えるようにうめいた。

「結局その間、ヨシムラは1層で奇妙な行動を繰り返していただけだったし、アズサに到っては、初めてヨシムラがダンジョンに入ったときに一緒に入ったっきり、パーティが組まれるまで1度も入ダンしていない」

「そして、去年、2人で2層以降に下りたと思われる回数は、僅かに3回だ」

「あなたその情報どっから……」

「JDAのセキュリティは、ちょっと甘いらしいぜ?」

「あのね……」

「だけどよ、その話を聞いているだけじゃ、あいつらがどこからオーブを都合したのか全然分からない……というより不可能だとしか思えないんだが」

それまでひたすら食べていたメイソンが、そう言った。

「そう。俺もそう思う。しかも先日、アズサは鑑定持ちだってことが明らかにされた。みんなそれで何が出来るのかに興味を集中させているが、それより問題は、どうやって手にれたのか?のほうなんだよ」

「モンスターを倒したんだろ?」

「それはそうだが、考えてもみろよ、お前ら1日373体も同じモンスターを倒す自信があるか?」

「まあ24時間使っていいなら、もしかしたら……いや、きついな」

「だろ? オーブの出現は偶然だとしても、一体どうやって373体も倒したんだ? 発表はゾンビだって話だが、例えそれがゴブリンだとしても、それはものすごく困難だ。つまり、あいつらには、それを成せるだけの何かがあるのは確実だってことだろ?」

キャサリンを除いた3人は一斉に頷いた。

「そしてここに、それを説明できるかもしれない仮説があるのさ」

「彼女たちが探索者の巨大な組織を作り上げてるとか?」

「それで情報が漏れないなら、CIAは頭を下げて、やつらに教えを請いに行かなきゃな。人間は群れるほど管理が難しくなる。だから情報がないってことは、関わっている人間がごく少数だってことだ」

何かを考えていたジョシュアが、腕をほどいて口を開いた。

「仮説……だよな?」

「もちろん」

午後の透明な光がハワイ産の竹を通過してジョシュアの顔に落としていた影が、微かに揺らいだ。

「ヨシムラが、突然現れた世界No.1。それもおそらくぶっちぎりの」

サイモンは我が意を得たりと、手で銃の形を作って、それを祝砲よろしくジョシュアに向けて撃ち出した。

「その通り!」

だが、ナタリーはそれでも懐疑的だった。

「だけど、今のヨシムラに関する説明の、どこに1位になれるタイミングがあるっていうの?」

「みんなそう考えるだろう。だからいつまでもザ・ファントムのままでいられるのさ。方法はわからん。だがそう仮定するとあらゆる事がスムースに説明できる。ただそれだけだ」

彼女は、両手でエアクオーツ(*6)を作りながら、「面白い推測ね」と言った。

「当然根拠はあるんでしょうね?」

「例えばヨシムラが会社を辞めたのは、ファントムが登場する直前だ。1位になったから辞めてダンジョンに潜り始めた可能性は高い」

サイモンは、手元のコーヒーで喉を湿らせてから続けた。

「他にも、そうした状況証拠なら山ほどあるが、俺が確信したのは代々木の探索者連中に聞いた答えかな」

「なんて?」

「エリア12のランク1位は、本当に突然、彗星のように現れただろ?」

「ええ」

「どんなヤツだろうと、それまで一緒に冒険をしていた仲間がいれば気付かれるだろうし、気付かれないまでもおかしく思われるはずだ」

「まあ、そうね」

「ってことは、そいつはソロか新人だ。しかも素材の供給市場に変動がなかった」

既存の探索者が、いきなりランクを上げた場合、彼らの売る素材に変動が起こる。

少しずつ上がっていくならともかく、突然ランクが変わったら、必ず目立つ変動になるはずだった。

仮に売るのを止めたのだとしても、それは提供素材の減少という形で現れる。

「だから対象は新人だ。しかも手に入れたであろう素材を売っていない。こいつはどうやって稼いでいるんだ?」

「それがオーブか?」

「かもな。第一何をやったにしろ、目立たないはずがない。なのに、探索者連中はおろかJDA関係者に聞いても、誰も1位の予想を立てられなかった。まるでそいつが見えていないかのように、誰にも心当たりすら無かったんだ」

「だから、ザ・ファントムなんて呼ばれてるんでしょ?」

「そうだ。だが透明な人間なんているわけがない。つまり見えてはいたが、誰もそうだと認識しなかっただけなのさ」

「どういうこと?」

「ここ最近で、代々木の誰もが知っているくらい一番目立ってたのはヨシムラだったんだよ」

大体彼らには、DoDの斥候チームだってダンジョン内で撒かれている。

いくらDoDの連中が無能だと言っても、素人に撒かれるような連中じゃないはずだ。

異界言語理解の際の9層の騒動を見れば、他国の連中も似たり寄ったりの目にあってるはずだ。

「それで、サイモン。あなた、一体何をどうしたいわけ?」

「俺達の仕事は、ダンジョンの、おそらく最終的にはThe RINGの調査と攻略だ」

「そうね」

「だが3年、いやもうすぐ4年か、やってもエバンスの30層前後で苦労している」

「まあな」

31層のボスに、ボコボコにされたメイソンが、その時のことを思い出したのか、苦々しい顔でそう言った。

「俺は、やつらが、極々短い期間で、俺達の3年を軽く飛び越えてランク1位になった秘密が知りたいのさ」

それが自分達にもできるのなら、是非教えを乞いたかった。このまま攻略を継続したとしても、行き詰まりはすぐにやってくる。

新しいスキルオーブのおかげで、あと10層かそこらはのばせるだろうが、今までの状況を考えるとその先はわからない。

「このままじゃ、爺さんになるまでやっても、終わりが見えて来そうにない」

サイモンの疲れたような顔は珍しい。一気に老け込んだように見えるその顔に、しばしの沈黙が訪れた。

そろそろアフタヌーンティの時間は終わりだ。遥か遠くで楽しくさざめいているような人々の声が、聞き取れない音となって空間を満たしていた。

「というわけで、キャシー」

「あ、はい」

それまで黙って話を聞いているしかなかったキャサリンが、突然呼ばれてかしこまった。

「うまいことヨシムラを見極めろよ」

サイモンはにやりと笑って、そう言った。

キャサリンは、黙って頷くことしかできなかった。