軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§076 マスコミ来りて笛を吹く 12/26 (wed)

「すみません! 失礼ですが、三好梓さん?」

門を出たところで、三好は、べたつくような視線の男に声をかけられた。

男の後ろには、やはり気持ち悪い笑顔を張りつけたような男が控えている。

影の中で、カヴァスがぴくりと反応した。アルスルズは三好に向けられた悪意にとても敏感なのだ。

だが、ただ不快だというだけで、訓練を受けた危険な組織の構成員といった感じではなさそうだった。

「はあ。どちらさまでしょう?」

そう応えた瞬間、後ろの男がカメラを構えた。

「いえね、ちょっとお伺いしたいことがございまして」

「取材でしたらJDAを通してください。それに、名乗らない方とお話しすることはございません。それでは」

三好が男達を無視して移動しようとすると、「いやちょっと待って下さいよ」と、男が大股で、行き先を塞ごうと移動した。

それが三好に対する攻撃と認識されたかどうかは分からないが、カヴァスは三好の嫌悪感に敏感に反応した。

それに気がついた三好は、慌ててカヴァスを抑制しようとしたが、時すでに遅かった。

「「あっ?」」

二人の男がそう言うと同時に、後ろの男が抱えていたカメラが、がしゃんと音を立てて地面へと落ち、それに引きずられるように、二人の男が崩れ落ちた。

幸いあたりに人影はなかった。

「……カヴァスぅ」

二人は、きっととても疲れていて、突然睡魔に襲われたのだろう。

ため息をついた三好は、その高そうなビデオカメラのレンズが割れているのを確認すると、それを拾い上げ、事務所へと戻っていった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

「というわけなんですよ。どうしましょう?」

三好に言われて、人目を気にしつつ二人を玄関まで運び込むと、彼女が困ったように言った。

「どうしましょうって言われてもなぁ……一般の人じゃ田中さんに引き渡すって訳にもいかないし、暑気あたりで倒れたってことにして、救急車でも呼ぶしかないだろ?」

「暑気あたりって、先輩。今日の最高気温10度くらいですよ?」

「なら、冬場の高血圧ってことで。気温が低いと血圧上がるそうだぞ」

「ああ、ヒートショックとかもありますね」

三好がぽんと手を叩いていった。

こいつ等がカヴァスたちのシャドウバインドにやられたのだとしたら、過去の経験から6時間くらいは目を覚まさないことが分かっていた。

「まあ、門の前でシャドウピットを使って捕縛しなかっただけマシだと考えようぜ」

「ですねぇ……」

「で、こいつら何者なの?」

そういうと三好がすちゃっと何かを取り出した。

「外科用手袋かよ!」

「ふっふっふ。先輩。調査員御用達ですよ」

いや、そんなことをしなくても……

「おいカヴァス。お前らいつも捕まえたやつから持ち物を取り上げてるじゃん。あれってどうやってんの?」

そういうとカヴァスは、「やってもいい?」と言った感じで、三好の方を見た。

三好が頷くと、すぐに二人の体が闇の中に沈んで、持ち物がぺぺぺっと吐き出されてきた。

「凄いな、生体以外全部取り出したってことか?」

そこには、持ち物だけでなく、服や靴下までが散らばっていた。

「って、下着まではいりませんよ」と三好が顔をしかめた。

服や財布の中を確認したところ、話しかけてきた男の名前は氷室隆次。どうやら中央TVの番組製作下請け会社のディレクターのようだった。

音声のレコーダーが2台も動いていたので、オフにして、データを消去した後戻しておいた。

もちろん、ビデオのメモリもクリアした。

結局外科用手袋は大活躍していたのだ。

察するに、三好を狙った突撃インタビューか何かだったのだろう。Dパワーズのオークションサイトか、ヒブンリークスのドメイン登録あたりから辿ってきたんじゃないだろうか。

JDA内部からのリークの可能性もあるけどな。なにしろ、俺達のどちらかが欠ければ云々という情報が漏れたように見える、前科っぽいものもあるし。

ただまあ、普通の会社員みたいだから、おそらくは前者だろう。

「一応、Whois情報の公開代行サービスは使ってるんですけどね」

「そんなの、whoisで見られないってだけだろ」

「みたいです」

三好は彼らの持ち物を見ながらそう言った。

「で、カヴァス。このまま元に戻せるのか?」

カヴァスはコクコクと頷いて、散らばったアイテムをシャドウピットに落とし込んでいった。

「って、これ、すごい便利なんじゃ……収納と違って生き物も入れられるし」

「自分達以外は、重量制限も厳しいですし、入れっぱなしだと行動にも支障が出るみたいですよ?」

「そうなのか?」

カヴァスはコクコクと頷くと、ペッと二人をシャドウピットから吐き出した。

二人は身ぐるみ剥がれる前の状態になっていた。

朝起きたときの着替えとかに便利だな、とそれを見ていた俺は、ふと思った。

「こいつらに頼めば一瞬で変身とかできるんじゃないか?」

「変身してどうするんです? ザ・ファントムになるとか?」

「それな」

今のところは、なんとか三好の影に隠れているが、サイモンとか御劔さんとかすでにバレかけてそうだし、今後攻略に力を入れるにしても今のままじゃちょっとな。

とはいえGランクの気安さも捨てがたいわけで、なら、クラーク・ケント(*1)や近藤静也(*2)のごとく活躍するのも――

「悪くない」

「先輩は、そういうとこ、意外とおこちゃまですからね」

「や、やかましいわい。ヒーローは正体を隠すのが伝統というものだろ?」

「最近はそうでもないですけど」

そういやそうかもな。

「ともあれ、いつまでも今のままの状態で活動するのは難しいだろ?」

「1層、10層、18層と、過疎地ばかりで立ち回ってましたから、今までは良かったんですけどね」

「今後は、ダンジョン攻略や、セーフ層なんかの絡みもあるしなぁ……」

「その辺はちょっと検討してみます。ほら、コスチュームなんかもあると良いじゃないですか。友達に腐の人がいますから……」

「まて。今、なにかこう聞き捨てならない単語があったぞ」

「気のせいですよ、先輩! コスプレって楽しいらしいですよ?」

「こ、コスプレかよ……」

もうすぐ俺29なんだけど、と、一気に不安が押し寄せてくるが、まあ、三好プロデュースで失敗したことはほとんど無いからな。

お前、間違ってるだろうと思うことが頻繁にあるのは問題だが。

「ま、まあ、お手柔らかにな。んじゃ、こいつら、門のところに転がして、救急車でも呼ぶよ」

「お願いします」

その後、門の前に止まる救急車に野次馬が沸いて、スマホで撮影していたのはちょっと引いた。

俺は通報しただけの他人扱いだったので、特に同乗は求められなかった。

そして、無事に彼らを救急車に乗せたところで、その事件は幕を閉じた……はずだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

「申し訳ありません!」

鳴瀬さんは土下座せんばかりの勢いで頭を下げていた。

「いや、ちょっと待って下さい。そう謝られても、なんのことだか話がよく分からないのですが」

結局あの二人の事件をきっかけに、どうやら中央TVが取材を申し入れていた局や新聞社を巻き込んで、JDAに圧力を掛けたらしい。

圧力とは言っても、個人のコネを辿って、取材をさせるように申し入れたと言った程度の話ではあるのだが。

そこに登場したのが瑞穂常務だった。

それはまさに鶴の一声。あれよあれよという間に、会見の事実ができあがっていった。

しかし、流石に日時までは勝手に決められない。もしも俺達が出席できない日時だったりしたら、面目丸つぶれになるからだ。

「それで、日時を聞いてこいと?」

「……はい」

あのオッサンだけは……とも思うが、これだけわがままに振る舞われると、まあ、瑞穂常務だからね、で許されそうなところが恐ろしい。

「瑞穂常務って、総務省出身だったんですか」

「旧郵政省出身なので、業界に知己が多いそうです」

「それで、昔の知り合いに良い格好をしたと」

「おそらく」

なんだか面倒くさそうだし、俺達がスルーして、彼に恥を掻いて貰うっていう選択肢もあるんじゃないかな。

「あー、なんといいますか、根に持つタイプなのでお薦めできません」

「あー、そんな感じですよね」

いや、三好。お前、当事者だからな。

「先輩。結局マスコミの人達って、オーブ売買のことや、オークションのセンセーショナルな部分が取材したいってことですよね?」

「まあそうだろうな。一般ウケするし」

今時ダンジョンのニュースにバリューは少ない。

最近でも、エバンスのクリアが話題になったくらいで、攻略の進展や取得アイテムを利用した開発などは、ほとんどTVでは取り上げられないのがその証拠だ。

なにしろ探索は陰惨な状況になる場合も多い。もっとも単純に絵がないから地味にならざるを得ないという事情の方が大きいのだろうが。

先日JDAがアップした、さまよえる館の映像も、今頃使用許諾が集中しているらしい。アンテナもそうとう下がってるってことだろう。

そんな中、センセーショナルでわかりやすい数字にはインパクトがある。

「鳴瀬さん。JDAはあくまでもDパワーズに会見を開いて欲しいということですよね?」

「ええ、そうです」

三好がそう確認すると、一気に悪い笑顔になった。

「くっくっく。先輩。ここはこの茶番を最大限に利用したいと思います」

「利用? って、一体何をするつもりなんだよ」

「そりゃあもう、盛大にうちの社の宣伝をして貰うんですよ」

「社?」

Dパワーズとだけ言われたのだから、パーティじゃなくて、株式会社Dパワーズでもいいでしょう? とシレっとしている。

ああ、憐れマスコミ諸氏は聞きたいことも聞けずに、宣伝の片棒を担がされるのだ。

「だけど、それなら、取材はしても報道しないって自由もあるだろ?」

「先輩、そこは大丈夫ですよ」

三好は自信満々の顔をして言い切った。

「何しろうちは非常識の塊だそうですから」

その台詞に、鳴瀬さんがうんうんと頷いていた。

そうして、俺達は、新年の1/1に記者会見を開くことに決めた。

「しかし、何で正月?」

「もちろんマスコミ各社への嫌がらせですよ!」

「いや、それ、俺達も休めないだろ……」

ああ! と声を上げた三好に、お前今気がついたんかいと、呆れるしかなかった。