軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§070 データー収集 12/21 (fri)

「おじゃまします」

「おじゃましまーす」

ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけどという俺達の留守電に応えて、ふたりがやってきたのは5日後の午後も遅い時間だった。

斎藤さんが、早上がりできる日だったらしく、ふたりで日時を調整して手伝いに来てくれたのだ。

「あ、師匠! 予想通りオンエアされてましたね!」

「師匠じゃないよ、まったく……まあ、まだ実害はないからいいんだけどさ」

それは、斎藤さんが口を滑らせたインタビューの件だった。

その部分は映画自体には関係なかったが、面白いネタだと思われたのか、カットされずにそのまま放送されてしまったのだ。

「会う人会う人に、紹介してくれって言われちゃって。芳村さん、ちょっとした有名人だよ?」

「勘弁して……」

「もう。ほんとに涼子ったら、うかつなんだから」

「はるちゃんのお説教は、もうお腹いっぱい。芳村さん、私あの電話の前に酷い目にあわされたんだからね」

「自業自得だ」

「ええー?! 冷たーい!」

「それで、芳村さん。今日はどんなお手伝いを?」

事務所の全ブラインドを下ろしている三好を見ながら、御劔さんが尋ねた。

「ふっふっふ。秘密の実験なのですよ」

と三好が、スマホのライトで自分の顔を下から照らして、精一杯不気味な顔をして言った。

「師匠。あれってどこのマッドなサイエンティスト?」

「 富谷(とみや) 小かな」

俺は苦笑しながらそう言った。富谷小は、すぐそこにある小学校だ。

「じゃ、ふたりとも。Dカードは持ってきてくれた?」

「言われたとおり持ってきたけど……これ、どうするの?」

「ちょっと貸してくれるかな?」

そういうと、御劔さんが、すぐに「はい」と差し出してきた。

ちらりと見たカードに書かれたランクは681。以前は980番台だったはずだから、またもや300も番手を上げていた。

どうやらスライム退治は続けているようだ。

「あれ。芳村さん、はるちゃんのランクを知ってたんだ?」

それを見て驚かない俺を見て、斎藤さんが言った。

「前に相談したことがあるの」

と御劔さんが言うと、「なーんだ私だけじゃなかったのか」と斎藤さんが頬を膨らませた。

俺はそれを横目に見ながら、御劔さんのカードを自分のカードに添えて、アドミットした。

念話については、オフにする機能が見つかったので、気にしなくてもよくなったのだ。

「あっ」

その瞬間、御劔さんが小さな声を上げた。

多分、例の『繋がった感』を感じたんだろう。

「どしたの?」

不思議そうな顔で斎藤さんが尋ねたけれど、御劔さんは、「いや、なんだか、今……」と言って、ちらりとこちらを見ただけだった。

「じゃ、次は斎藤さんね」

「ほーい」

変な返事をしながら、彼女がカードを差し出した。

特にランキングは隠していない。それどころか、「私も、なかなかのものでしょ?」なんて胸を張っていた。

彼女のランクは、1421だった。

「日本人の民間エクスプローラーのトップグループは4桁上位だそうだよ」

と俺が言うと、なら私もそうなんだねと、さらに胸を反らした。

俺はそれを笑って聞き流しながら、アドミットした。

「ん? ……んん??」

何かを感じたらしい斎藤さんがこちらを見る。

「涼子も感じた?」

「はるちゃんも?」

そこでマッドなサイエンティストが、わざとらしく咳払いをしながら割り込んだ。

「ごほん。えーっと、じゃ二人とも、順番に、ここに立って貰えますか?」

三好が指さしたのは精密版の測定位置だ。

「じゃ、私から。ただ立ってればいいの?」

「そうです。よろしくお願いします」

斎藤さんはすぐにその場所に立って正面を向いた。

「じゃ、いきまーす」

三好がそう宣言して、一連の計測を開始した。

精密版の後は、簡易版だ、距離を変えたり向きを変えたり、実に色々な角度から試しているようだった。

その間、俺は自分のデスクに陣取ると、メイキングを呼びだしていた。

--------

Name 御劔 遥

SP 65.36

HP 29.00

MP 55.20

STR (-) 10 (+)

VIT (-) 12 (+)

INT (-) 28 (+)

AGI (-) 22 (+)

DEX (-) 41 (+)

LUC (-) 16 (+)

--------

--------

Name 斎藤 涼子

SP 33.23

HP 28.50

MP 48.50

STR (-) 10 (+)

VIT (-) 12 (+)

INT (-) 25 (+)

AGI (-) 17 (+)

DEX (-) 34 (+)

LUC (-) 12 (+)

--------

俺は、17日の収納庫ゲットで、丁度4900匹のモンスターを倒していたが、それまでに得た経験値は、なんと74.492だ。

しかもこれにはエンカイが含まれている。もしそれがなかったとしたら、おそらくたった29.492といったところだろう。

それに対して御劔さんは、半分がステータスに転化されているとすると、130くらいを稼いでいる計算だ。

ポイントからすれば、6500匹近いスライムを葬っているはずだから、討伐数だけで比較すれば、俺なんかよりもずっと多く、立派なトップグループと言えるだろう。

相談を受けたときからも、週末はずっとダンジョンに通っていたんだろうけれど、俺の取得したポイントとは差がありすぎた。

忙しくなって途中でつきあえなくなった斎藤さんですら、ステータスの上がりを見る限り70以上を稼いでいそうだ。

その数値は、いかに出入り付きスライムアタックの効率が凄いのかを、如実に物語っていた。

「なにしてんの?」

ふと顔を上げると、斎藤さんが俺の机の横に立っていた。御劔さんと交代したのか。

「いや……そうだ、斎藤さん」

「なに?」

「今よりもずっと演技がよくなるとしたらどうする?」

「え?」

「演技がうまくなったり、素早く動けるようになったり、体力が増えたり、力が付いたり、そういうことが出来るとしたら、どうなりたい?」

彼女は、一体いきなり何を言い出すんだこいつといった顔をした。

「どうしたいかって言われてもなー。それって何もせずに棚ぼた的にそうなるってこと?」

「まあそうかな」

本当は、ダンジョンで頑張った成果なんだから、そういう訳ではないんだが、他に説明のしようがなかった。

斎藤さんは、探るような目つきで俺の顔をのぞき込んで言った。

「芳村さんってさー、神様と私の魂の堕落を賭けて勝負したりしてないよね?」

「お代に魂を頂いたりはしないよ」

俺は苦笑しながらそう言った。

ゲーテ版のメフィストフェレスは、ファウスト博士の魂でそれをやったのだ。

「じゃあ、劇場の地下に住んでいて、憐れなコーラスガールの 私(わたくし) めに力を与えてくださるとか?」

「残念ながら、猿のオルゴールは持ってないな」

そういや、サイモンが、ザ・ファントムとか言ってたっけ。

The PHANTOM of the DUNGEON。……ちょっと厨二心をくすぐられるな。

「白い仮面でも被ってみますか?」

どうやら、一通りの測定を終えたらしい、三好と御劔さんが二人してこちらの話に混じってきた。

「芳村さんは、異形というより、 良(い) い 形(ぎょう) ですよね」

御劔さんの珍しい地口に、全員が一斉に振り返る。

「……はるちゃん。オヤジギャグは、モデルの寿命を縮めるから、辞めた方が良いよ?」

「ええ!? ほんとに?」

そんなルールがあるかい。

「まあまあ。それで先輩。何の話なんです?」

「いや、もしも自由に成長できるとしたら、どんな風になりたいかって、まあ夢の話だよ、夢の」

三好のやつが、何を白々しいと言わんばかりの視線をこちらへ向けながら、「へー」とだけ言った。

「なんでも出来るとして、ですか?」

英訳が一段落したらしい鳴瀬さんも話に乗って来た。意外とこういう話が好きなのかもしれない。

「鳴瀬さんは希望があるんですか?」

「そりゃもう。力ですね。モアパワーですよ!」

「はぁ?」

鳴瀬さんが、まるでくるおしく、身をよじるように走るという古い車のオーナーみたいなことを言い出した。

俺達は予想もしなかった彼女の言葉に、驚いた。

「えー? 力なんかいります?」

大体男の人がやってくれますよ? と斎藤さん。流石だ。

「いえ、言うことを聞いてくれない探索者を、こう物理的にひねってあげたいというか……」

「ああ」

確かに、管理課の人達が注意しても、若い女の子の話なんかまともに聞かない感じの人、いそうだよな。

一所懸命にルールを説明しているのに、へらへら笑ってテキトーに聞き流しているヤツとかにあたったら、そりゃ 捻(ひね) ってやりたくもなるだろう。

切実と言えば切実だが、なんともはやイメージが……

「ダンジョン管理課って、ストレスが溜まるんですねぇ……」

「下っ端は、一般の探索者相手の管理が主体ですからね。その頃が一番泣きそうになります。結構低いんですよ、定着率」

そう言えば、管理課の若い女性職員は、代々木でもそれほど多くは見かけない。せいぜいが受け付けくらいだろうか。

「だから、Dパワーズの皆さんには、ホント感謝しています」と鳴瀬さんが笑った。

「私はちょっと体力が欲しいですね」

御劔さんが、少し考え深げに人差し指を頬にあてながらそう言った。

どうやら、モデルには体力が必要なようだ。

「ショーモデルはともかく、写真のモデルは、時間も早朝に偏りますし。服なんか季節の先取りで、寒い時期に真夏の服装だし、残暑厳しい折に真冬の服装ですから」

なるほど、体力か。

「あんなにダンジョンを出たり入ったりしてれば、すぐに体力も付くんじゃないの? 私はやっぱり演技力! それと永遠の若さと、あとは『子』じゃない名前!」

いや、永遠の若さとか名前とか、それって成長と関係ないから。

「涼子ったら」

俺達はしばらくそんな話で盛り上がった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

そろそろ21時になる頃、ちょうど呼んだタクシーが2台、門の前へと到着した。

「それじゃ、お休みなさい」

御劔さんがきれいな所作でお辞儀をした。

「お休み。今日はどうもありがとう」

「なんの、なんの、師匠様のお願いだからね」

こないだのインタビューで少しは反省したらしい斎藤さんが、そう言ってぽんぽんと俺の肩を叩いた。

「このお礼は、23日の夕食で」と三好が言った。

「明後日かー、そっちも楽しみにしてます。んじゃねー」

「失礼します」

タクシーの後部座席にささっと乗り込んだ二人が、リアガラスの向こうから手を振った。

「それじゃあ、私も一旦帰ります」

鳴瀬さんは、翻訳の英訳をほぼ終えていた。

今時はAIのバックアップがあるから、なかなか効率よく訳せるのだが、ゴーグル社の翻訳AIは時々肯定と否定をひっくり返したりするので気が抜けない。

「お疲れ様でした。23日は?」

「あー、残念ながら、その日は先約が。よく分からないんですが、家族会議があるとかで、実家に戻らないといけないんです」

家族会議って、翠さんの会社のうちとの提携ネタじゃないだろうな。

「それでは仕方ありませんね。それではまた明日」

「はい、失礼します」

鳴瀬さんを乗せたタクシーが、先の角を曲がって見えなくなるまで、俺達は門のところに立っていた。

「先輩。弄りましたね?」

「あ、わかったか? まあ、弟子二人へのクリスマスプレゼントみたいなものだから」

二人の希望を聞いた俺は、ステータスをそれにあわせて修正した。

「どれくらい弄ったんです?」

「まあ希望に合わせて、こんな感じ」

--------

Name 御劔 遥

SP 0.36

HP 48.50

MP 71.90

STR (-) 10 (+)

VIT (-) 25 (+)

INT (-) 34 (+)

AGI (-) 35 (+)

DEX (-) 70 (+)

LUC (-) 20 (+)

--------

--------

Name 斎藤 涼子

SP 0.23

HP 34.90

MP 60.50

STR (-) 10 (+)

VIT (-) 16 (+)

INT (-) 30 (+)

AGI (-) 25 (+)

DEX (-) 50 (+)

LUC (-) 12 (+)

--------

事務所に戻ってから俺が書き出したパラメータを見た三好は、呆れるのを通り越して頭を抱えていた。

「どうした?」

「先輩、やり過ぎですって。こないだ3年間でトップエクスプローラーがどの程度のステータスになるのかを検証したじゃないですか?」

そうだった。大体SP180~200くらいがトップエンドなのではないかと予測したんだっけ。

だから、平均的なステータスだと、30~40くらい。少々ステータスに偏りがあっても、最大値は50~60くらいじゃないかって結論に到ったんだ。

「御劔さんのDEXなんて、ブッチギリで世界チャンピオンですよ! あ、先輩を除いてですけど」

「ま、まあ、かなり高めだけどさ。それでも偏ってる人ならこれくらいは……」

「先輩」

「はい」

「SPの半分は、SPのままかもしれないって、こないだ判明したんですよ?」

「げっ」

そうだった。

よく考えてみれば、想定したのは取得SPからの逆算だ。つまりステータスは――

「予想の半分ってことか?!」

「正解です」

それって、最大値でも30くらいってことか?

いや、ちょっと待て。トップエンドが200のSPを稼いでいたとして、実際にステータスに反映されているのが100だとすると――

「御劔さんの方が、ステータス合計が高いって事じゃん!」

「やっと状況を分かっていただけましたか」

「じゃ、三好のINTも、斎藤さんのDEXも――」

「世界チャンピオン級でしょうね。先輩を除いて」

三好のINTは50だ。斎藤さんのDEXも50。

「絶対、体の使い方に違和感が出ますよ。ふたりとも大丈夫ですかね……」

「いや、しかし、注意喚起するってのも、おかしな話だしなぁ……」

すごく体が動くようになっているから注意しろなんて言ったら、怪しいことこの上ない。

「さっきの計測 擬(もど) きが、潜在能力を解き放つ鍵だとか……」

「新興宗教でも開宗されるんですか?」

呆れたようにそれを否定した三好は、ダンジョンブートキャンプを始めるときは、絶対10Pt位で押さえてくださいよ! と念を押してから、計測結果の解析に戻った。

取り残された俺は、なんとなく居間のTVのスイッチを入れた。

チャンネルが合っていた、スターチャンネル1では、有名だとは言えないが無名とも言えないスリラー映画の第3弾が始まったところだった。

1年に1度、殺人を含むすべての犯罪が合法化される夜があるアメリカの話だ。なんとも狂った設定だが、実際の大統領選が物語の舞台設定と被ったため結構ヒットしたらしい。

次から次へと出てくる頭がおかしいとしか形容できない悪役が、あまりに下らな面白くて、つい最後までそれを見てしまった。

そして、タイトルロールが流れはじめた頃三好に声を掛けられた。

「先輩、ちょっとこれ、見てくれませんか?」

三好が差し出してきたタブレットには、奇妙な形状をした3Dグラフが描かれていた。

「なんだこれ?」

「あの計測デバイスって、時間軸方向の情報を使って、その精度を上げているんです」

「合成開口レーダーとか、フレーム間処理を行う超解像みたいなものか?」

合成開口レーダーは、人工衛星などに搭載されるレーダーで、レーダー面が移動することを利用して、擬似的に巨大なレーダーとすることで解像度を上げるレーダーだ。

超解像のフレーム間処理は、ビデオにおける前後のコマの状態から、入力解像度以上の解像度を作り出す技術だ。

「まあそうですね。その関係で、単位時間で取得したデータをそのまま出力する機能があるんです。その出力を眺めていたら、値の変動に、どうも周期のようなものがあるみたいなんですよ」

「周期?」

「はい。それでこの図形なんですが、せっかくですから中島さんが想定した超解像による値取得とは別に、周期単位で取得したデータに対して時間軸方向の変化を畳み込んで3次元に変換したあと、視覚化ツールで出力したものです」

俺はもう一度その図形を見直した。

それは現実にはあり得そうにない、クライン体を彷彿とさせる奇妙な立体だった。

「わかるのは変な図形ってことくらいだな。詳しいことはさっぱりだ」

「まあ望みの結果を得るために、いろいろとたたみ込み方法だの係数だのを弄ったので、私にだってこれが正確に何を意味しているのか、なんてわかりません」

便宜上のモデルですねと、三好は肩をすくめながらそう言った。

「ひとつだけ言えることは、これです」

三好は画面上に、もう一つの似たような図形を呼びだして、それを最初の図形に合成した。

それは、少し歪な突起もあったが、示し合わせたかのように、ほぼぴったりと重なった。

「これは?」

「最初のは私のモデルです。で、後のは、先輩が私と同じパラメータに設定したときのモデルです」

「ほぼ同じになるのか。凄いな」

「で、これが、中島さんが測定値として出力した数値なのですが……」

そこに書かれていた数値を見ると、三好と俺のモデルには、確かに近い値だとは言え、結構な相違点が存在していた。

「±0.05%とか言ってなかったか?」

「それはデバイスとしての性能ですよ」

それにしてもこれは……

「周期を利用したかどうかの差かな?」

「それが大きいと思います」

「凄いじゃん、三好。じゃ、この奇妙な図形の特徴を解析すると、数値に戻せるのか? 具体的にはステータスに」

「多分出来るんじゃないかと思うんですが、問題はそこじゃないんです」

「え?」

デバイスから得られた情報で、ステータスを出力できるなら、それで問題は解決じゃないのか?

「これ、見て下さい」

そこには saito と書かれたモデルが表示された。

すぐに、saito-c と書かれたモデルがそれに追加される。cはcomparisonだ。比較用ってことだろう。

目の前で重ねられたそれは、先ほどと同様きれいに重なったが、比較用の側には、一部に奇妙な突起が存在していた。

「なんだこの突起?」

「もちろんモデル化のゴミという可能性もあるんですが……」

斎藤さんのモデルだけでなく、御劔さんのモデルとも、鳴瀬さんのモデルとも、比較対象用に俺が設定したパラメータモデルとは、同様の差異があるそうだ。

「つまり、俺にあって、彼女たちにないもの?」

俺は、思わず下半身にある、時々元気になる、とある器官について想像した。なにしろ突起だけに。

「先輩。性差について考えているなら、それはたぶん誤りです」

「なんでさ?」

「最初に私のモデルとは一致したじゃないですか。私は一応女性のつもりなんですけど」

「んじゃ、これは、俺と三好にだけある特徴だってか?」

「少ないデータから考えるならその通りです」

それってつまり――

「スキルか?」

「はい。しかも、一番ありそうなのは、空間収納系のそれです」

「理由は?」

「先輩。鳴瀬さんは、異界言語理解を持ってるんですよ」

なるほど。もしもパッシブに発動するスキルが原因なら、鳴瀬さんにもこの突起が現れるはずなのか。

「斎藤さんか、御劔さんにオーブを使って貰って、差異を計測できればはっきりすると思いますけど……」

斎藤さんなら喜んでやってくれそうな気もするけれど、彼女はちょっと不注意なところがある。

師匠問題と違って、ぽろりと漏らされるとちょっと困るのだ。

「御劔さんかな?」

「どちらかと言えば、その方が無難ですね」

「丁度、先日得た『器用』がある」

「先輩。気持ちはわかりますけど、この場合『収納庫』じゃないと意味ないですって」

御劔さんに収納庫?

ううん……ばれた時に、希望と全然違う将来になっちゃう可能性が高いからなぁ……

「いっそのこと、世界に貢献しているサイモンに!」

「ばれたら自衛隊に恨まれますよ。それに比較実験としては、やはり3人の誰かがベストですよね」

「ううむ……」

「サイモンさんたちが詳細に計測させてくれれば別ですけど、きっと彼らの数値って機密扱いに……そうだ! ジャマー的なものを作れば売れそうですね!」

「あのな……」

確かに細菌兵器はワクチンとペアでないと実用にならない。

何かを暴く器械は、それを防ぐ手段とペアの方が、便利ではあるだろう。

「個人を識別する何かが、この中にあれば、覗けない人を作れるんですけどねぇ……」

そう言って、三好は、ステータスモデルをクルクルと弄っていた。

「先輩のパラメータ違いのデータから、いろんなモデルを沢山作って、それらの中で変化しない部分を抽出して、他の人と比べてみるとか、ですかねぇ……」

興味の対象が他へ移ると同時に、それまでやっていたことがどうでもよくなるのは、頭の回転が速い人間にわりと共通する資質?だ。

収納持ちの検証は、もう一度興味が戻ってくるまでオミットされることだろう。

それまでに俺は、収納庫を誰に使わせるべきか考えておこうと思った。

なにしろマイニングが控えているのだ。収納庫の価値は天井知らずになるだろう。

マイニングをどうやって配るのかも問題だ。全部で五つ。誰に配ればいいんだろう。

考えれば考えるほど、面倒な事態ばかりが思い浮かぶ現実に、俺は、思考を放棄してベッドに逃げ込むことを選択した。