軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§040 ハウンドオブヘカテ 11/22 (thu)

ご飯を食べて少し休んだ俺達は、一気に5層を目指した。

浅い階層ならいつでも来れるし、いますぐ真剣に調べることもないだろう。

敵は、人目のないところではウォーターランス、そうでもなさそうなところでは鉄球でさくっと片付けつつ最短距離を走破した。

そうして5層に降り立った俺たちは、思った以上に注目を浴びる自分達に、今更ながらに気がついた。

5層からはボア系やオークなども登場し始める。そのため、初心者装備丸出しのエクスプローラは、さすがにここにはいなかったのだ。

階段を下りたあたりには、大抵そこを拠点とするエクスプローラたちがいる。

そう言ったヤツラにじろじろと見られていたのだった。

「うう。先輩、意外と目立ちますね、私たち」

「装備を隠すマントでも持ってくれば良かったな」

5層から8層は森系だ。

2層から4層にも森はあるが、こちらはより深い森になっている。あちこちには洞窟も点在していて、人型系モンスターの拠点になっていたりするようだ。

「オークやフォレストウルフ、それにワイルドボアが新登場ですね。夜には、ナイトウルフやチャーチグリムも出るみたいですよ」

三好がタブレットを見ながら説明してくれた。

深層を目指すチームは、8層で夜を過ごすことが多いらしい。

10層がアンデッドフロアで、かつ、11層への階段が遠い。11層は溶岩フロアで環境が悪く、それ以降へ進むのは、1日では遠すぎるのだ。

そして、ひとつ前の9層には、オーガやコロニアルワームがいるため、思わぬ襲撃を受けかねない。消去法で8層が選ばれるわけだ。

また、この3年の間に、エクスペディションスタイルのチームが持ち込んだ機材が、その場所に集められ、臨時の拠点ぽいものが作られているという理由もあった。

とはいえ、そろそろ夜が来る。この層からは戻るのも進むのも難しい時間帯だった。

階段の付近では、いくつかのチームが夜を過ごす準備をしていた。

この階層で夜を待つグループの目的は、チャーチグリムと呼ばれる、5~9層に夜の間だけ出現する黒い体に赤い目をした犬型の魔物だ。

初めはヘルハウンドと勘違いされていたこの魔物は、かなりの高確率でポーションそっくりな同化薬と呼ばれている赤い液体をドロップする。

触れても単に「ポーション」としか表示されなかったこの液体は、もちろんそれを使っても、怪我が治ったりはしないし、当初はまるで効果が分からず、偽ヒールポーションと揶揄されていた。

その効果が分かったのは偶然だった。

代々ダンの10層は、広大な墓地のあるアンデッド層だ。非常に面倒で、11層への階段も当初はなかなか見つからなかった。

そんなとき、とあるチームのメンバーがゾンビに囓られた腕を治療するために、慌てて偽ヒールポーションを使ってしまったのだ。

もちろん腕の傷は治らない。間違いに気がついたメンバーは、急いで本物のヒールポーションを使用して事なきを得たが、問題なのはその後だった。

ゾンビやスケルトンといった低級のアンデッドは、彼をまるで仲間であるかのように無視したのだ。もっとも夜になると、その効果が薄れることも確かめられていた。

以来、このヘルハウンドそっくりのモンスターは、10層の墓守という意味でチャーチグリムと呼ばれるようになる。

これのおかげで10層は、今までのような地獄のフロアから、単なる通路と化した。無傷で通り抜けられるようになったのだ。

11層以降へ赴く探索者は、まず夜の5-9層でチャーチグリムを狩って、同化薬を手に入れるのがセオリーだ。当然5層の入り口が一番安全で、8層の出口が一番ポジションとしては楽だった。そのため、大抵はこのどちらかで狩られているようだった。

俺たちは、階段付近で野営の準備をしている探索者の目から逃れるように、そっと階段付近を離れて、過疎地方向へと移動した。

しばらく行った先に小川が流れていた。

川幅は4mほどで、さほど深くもない。俺は三好を抱えてひょいとその川を飛び越した。

「先輩。2層でも思いましたけど、ステータスの上昇効果ってハンパじゃないですね」

「まあな。あの重い三好が、げふっ……」

後ろからレバーに右フックをたたき込んだ三好が「雉も鳴かずば打たれまいに」と呟いた。おま、それ、たぶん字が違う。

俺がうずくまった先に、丁度良さそうな開けた場所があったので、三好は、辺りに人がいないことを確認してから、拠点車を取り出した。

◇◇◇◇◇◇◇◇

「はー、疲れましたね」

室内に入って監視装置の電源を入れた三好は、モニタに映し出される周囲の様子を確認すると、そそくさとシャワールームへと入っていった。

ドリーの外周は全てチタン板で覆われているので、内からは外が見えない。それをあちこちに設置された監視カメラで補っていた。

俺は取り出したお茶を飲みながら、見るともなくモニタを眺めていると、がちゃりと音がして三好がシャワールームから出てきた。

「先輩、シャワーをどうぞ。あ、あと私にもなにか食べ物を出しておいて下さいね!」

「うーっす」

俺はテーブルの上にいくつかの弁当と菓子、それに飲み物を並べると、シャワールームの方へ歩いて……行こうとして足を止めた。

「悲鳴?」

三好はコンソールの前に飛び込むと、集音マイクの感度を上げた。

監視カメラの映像に小さな閃光が煌めくと、また同じような声が聞こえた。

「確かに、遠吠えと悲鳴です。先輩、どうします?」

「義を見てせざるは勇無きなりってな」

三好は、はぁ、とため息をつくと、できるだけこっから誘導しますとイヤープラグを投げて寄越した。

「それ、つっこんどいてください」

「OK」

俺はそう答えると、三好が誘導する方向に向かって駆けだした。

しばらく行って、川を渡ると、唐突に濃い霧が現れた。そこから先は別の世界だと言わんばかりに不自然だ。

「三好、霧が見えるか?」

「見えますけど、これは霧って言うより闇ですね。黒いですよ。中はちょっと……ドローン飛ばします」

ドローンまで積んでるのかよ。この辺は空飛ぶモンスターはいないはずだから大丈夫か、なんて考えながら霧の中へと踏み込むと、時折吠える獣の声や、誰かが上げる威嚇の叫びや、そして悲鳴が段々と大きくなっていった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

「なんだよ! こいつら、チャーチグリムじゃないのか?!」

2.5mくらいのポールアームを持った男が、それを横に振って相手を下がらせている。

その狼然とした魔物は黒く大きな体躯をしていたが、少し下がった闇の中では、体が闇の中に溶け込んだように見えなくなり、赤い目と口だけが、その存在を主張していた。

「わからん! 基本チャーチグリムは、単体で現れるはずだが……くそっ」

そう答えた大柄な男は、連係して襲ってくる黒い魔物に、両手で持った剣をたたきつけた。

「ヘル、ハウンドなら連係してくるって聞いたけど……」

男達の後ろで、重傷を負って気絶したらしい小柄な男を止血しながら、悲鳴を上げていた女が少し落ち着きを取り戻して言った。

「あいつらが出るのは8層からだろ?! だがこいつらが本当にヘルハウンドなら……バーゲストがいるのか?!」

「そ、そういえば、いつの間にか出ていたこの霧……」

闘っていた男達は顔を見合わせた。

「おい、 三代(みしろ) 。翔太を置いていけ」

「は? 一体なにを……」

三代と呼ばれた女は、唖然としてそう言った。

「本当にバーゲストなら、ヘルハウンドは9体だ。俺たちじゃ倒すどころか逃げられるかも怪しい」

「だから、な……」

ヘルハウンド達は、人間達の葛藤を楽しむかのように、攻撃を控えて遠巻きにしていた。赤く割れた口は、まるで闇が笑っているかのように見えた。

「ば、馬鹿なことを! 弟を見捨てて逃げろって言うの?!」

「一緒にくたばりたいなら、勝手にしろ!」

そういうと男達はそのまま駆けだした。

「あ、待って! 待ってよ!!」

女は思わず膝立ちして叫んだが、男達は振り返らなかった。

後ろからは、複数の低い呻りが聞こえてくる。

女は悔しげに唇を噛みしめると、右手でトリガーレスタイプのリリーサーを握りしめ、コンパウンドボウに矢をつがえた。

そうして、振り返りざま襲ってくるヘルハウンドの目を狙ってリリースした。

ヘルハウンドがあげたキャインという声が、僅かな満足感を女に与えたが、同時に襲ってきている残り3匹のヘルハウンドの 顎門(あぎと) は、数秒でこの体に届くだろう。

女はあきらめたように目を閉じた。

次の瞬間、ぐしゃりと言う音が響いたが、痛みはいつまでも襲ってこなかった。

女がおそるおそる開けた瞳には、すぐそこに立っているド初心者装備の男の背中が映し出されていた。

「立って歩けるか?」

男は振り返りもせずにそう尋ねた。

◇◇◇◇◇◇◇◇

まったくトラブルって言うのはどうしてこう、次から次へとやってくるんだ。

俺のLUCは結構高いはずなんだけどな。ちょっとは仕事しろと言いたい。

「立って歩けるか?」

そう聞いた俺に女は、腕に酷い怪我を負って気絶している男を見て、彼が起きれば、と言った。

「さっさと起こせ。そして、あっちの方向に小川がある。それを渡りきるまで走れ」

そう言って俺は、俺が来た方向を指し示した。

バーゲストは流れる水を越えられない。ここまで地球におもねったデザインなんだ、きっとそうに違いない。

「あなたは?」

「まあ、こいつ等をどうにかしなきゃな」

「手伝いは――」

「邪魔だ」

女は一瞬鼻白んだが、まわりに散らばっている頭のないヘルハウンドの死体を見てすぐに頷いた。

なかなか判断の早い賢い女性らしい。とはいえ、何でこいつらの死体は消えないんだ?

取り出した何かを素早く嗅がせると、男は呻きながら意識をとりもどした。

女が男に何かを話している。男は頷くとすぐに立ち上がった。どうやら足は無事のようだ。

「行け」

俺は、その方向を指し示した。

女は、男と二人でそちらに向かって走り始めた。

それを追おうとした4匹は、全てがウォーターランスの餌食になった。

このレベルの敵にも通用することに安心しながら、俺は冷静に数値を三好に伝えていた。

「先輩、余裕ありそうですね」

「まあ、魔法が通用したからな」

「上から見ると、その先にでっかい何かがいますよ」

「たぶん、バーゲストだ。鎖を引きずるような音が聞こえる」

ヘルハウンドの気配が無くなると、正面から聞こえていた鎖を引きずるような音が大きくなり、すぐそこにある暗闇から、不気味なうなり声が轟いた。

それと同時に9つの魔法陣が現れ、9匹のヘルハウンドが召喚された。

「お? これはもしかして、ラッキーか?」

「はい?」

それをみた俺には、きっと三好が宿っていたに違いない。

こいつ等を召喚しているモンスターは、過去の例から考えてもバーゲストの一種に違いないが、何度も召喚したりするところ見ると、特別な個体である可能性が高い。

生命探知を取得してから、倒したモンスターの数が69なのは間違いないから、さっきの奴らを助けるために倒した7を加えて76。

つまり後23匹雑魚を倒した後、その特別なやつを倒せば――

「これはちょっと頑張っちゃいましょうかね」

両手にトマホークを握りしめると、9匹のヘルハウンドに向かって、次々とウォーターランスを発射した。

それは、ヘルハウンドが俺のところに到達する前に、その頭を消し飛ばし続けた。あと、14匹!

次の9匹が同じ運命をたどると、バーゲストは、うなりを上げて突進してきた。

闇に浮かぶ赤い目の位置が高い。体高3m以上は確実にありそうだ。

「てか、おい! あと5匹なんだよ!! 召喚しろよ!」

どっかにナイトウルフやオークでも歩いてないかと思ったが、この濃い霧はどうやらこいつのテリトリーらしく、一匹のモンスターも見かけなかった。

俺のそばを、強靱な力を秘めた爪が通り過ぎていく。

スローモーションに見えるからまだいいが、それにはかなりのスリルがあった。

俺は右手に持ったトマホークで、右の後ろ足を力一杯切り裂いた。

大きく悲鳴をあげたバーゲストは、足を引きずりながら、再びお供の召喚を行った。

100匹の順番が、倒した順番であることを祈りながら、襲ってくる5匹を始末して、のこりを軽いステップで交わす。

そうしてバーゲストの真正面に転がりでた俺は、頭に向かって、8cm鉄球を連続して投げつけた。

3個目の鉄球が下顎から頭を貫通したように見えたとき、バーゲストの巨体が大きな音を立てて倒れた。

「あ、あれ?」

だが、オーブ選択ウィンドウが開かない。

「も、もしかして、攻撃した順番だったのかー?!」

思わずがっくりと膝を落とした俺に、4匹のヘルハウンドが近づく。

くそっ、もう何でもいいやと投げやりになった時、倒れたバーゲストからうなり声が上がるのを聞いた。

「まだ生きてたんかい!」

ヘルハウンドを躱しながら、速攻でウォーターランスを何本か打ち込むと、4本目で目の前にいつものリストが浮かび上がった。

それをみた俺は、思わず残りの4匹のことを忘れて息を呑んだ。

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スキルオーブ 異界言語理解 1/ 1,000

スキルオーブ 闇魔法(Ⅵ) 1/ 2,000,000

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選ぶ間もなく襲ってきた4匹を慌ててウォーターランスで倒そうとした瞬間、瞬時に霧が晴れると同時に、襲ってきたヘルハウンドが消失した。

召喚主が倒されると、召喚モンスターも消えてなくなるということだろうか?

「先輩? 霧が晴れましたけど、大丈夫ですか?」

「三好、バーゲストのオーブなんだがな――」

それを説明しようとしたした俺の目の前に、虹色の綺麗な 珠(オーブ) が現れた。

「は?」

メイキングの取得リストは閉じていない。つまりこれは純然たるドロップだということだ。

驚いてそれに触れると、そこには確かに『異界言語理解』と書かれたオーブが浮かんでいた。ごめんよ、俺のLUC。君はちゃんと仕事をしている。

「先輩? 今のなんです?」

「なんだ、カメラも生きてるのか。バーゲストはどうやらオーブをドロップしたぞ」

「え? なんです、なんです?」

「聞いて驚け、異界言語理解、だ」

「はぁ?」

流石の三好も驚いたか。

リストによれば、異界言語理解は、なんと千分の1だ。通常のモンスターではない特殊なボス系モンスターに、比較的高確率で仕込まれている可能性が高い。

まるで、それを設定した誰かが、人類に碑文を読んでくれと言わんばかりだ。いずれはある程度の数がドロップするに違いない。

「今のうちに高額で売り飛ばすか、闇魔法を手に入れるか、か」

「先輩。じゃあオーブリストにもあるんですか? 異界言語理解」

「ご名答。確率1/1000だってよ」

「他に何があるか知りませんけど、それを取得して下さい。絶対です」

「どうして? すでに1個は確保したぞ?」

「先輩。世界にそのスキル持ちが二人しかいないと、必ず水掛け論になりますよ」

なるほど。三好の言うことは確かに正しい。

バーゲストの能力から考えて、闇魔法(Ⅵ)は霧の空間かヘルハウンドの召喚だろう。

どちらも普通のバーゲストが使う魔法だから、レアじゃないバーゲストが持っている可能性は高い。

「それを取らなかったら、締めますよ?」

「え、なにそれ、フラグ?」

俺は笑いながら、異界言語理解を選択した。

手を滑らせることもなく、俺は2個目の『異界言語理解』を手に入れた。

その瞬間、俺の目の前にはいくつかのアイテムがドロップしていた。

何処で倒しても、必ず自分のまわりにアイテムが現れるのは、オーブと同じことのようだ。

触れればその名称が分かることも、オーブと同じだった。

ヒールポーション(5)×2

キュアポーション(7)

牙:ヘルハウンド×8

皮:ヘルハウンド×3

舌:ヘルハウンド

魔結晶:ヘルハウンド×8

皮:ハウンドオブヘカテ

角:ハウンドオブヘカテ×3

魔結晶:ハウンドオブヘカテ

「これが素材アイテムか。初めて見た。けど、異界のモンスターが『ヘカテ』とはね……」

何とも言えない気分で、それらを保管庫に収納した。