軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§215 宗教が必要かと言われても…… 3/27 (wed)

ダンツクちゃんから来たメッセージには、一言だけ、「ヒトには宗教が必要?」と書かれていた。

「「ええ?」」

それを見た俺と三好は、思わず眉根を寄せて、同時に嫌そうな声を上げていた。

「なんでいきなりこんな質問が?」

「あれじゃないですかね。ほら、エレベーターに一緒に乗った」

「ああ、あのちょっと変なおっさん」

「デヴィッド=ジャン・ピエ-ル=ガルシアさんです。言ってることがカルトというよりオカルトでしたからねぇ」

「アルトゥム・フォラミニスね……」

こうしてみると、彼女は思想のサンプルを集めているような気もする。

集合的無意識のようなものがあるとしても、それは単なるデータベースに過ぎない。活用には知識の中身を理解する必要があるだろう。

彼女が最初に触れたのは、ザ・リングで行方不明になった27人だが、ここにいた人間は偏っていたはずだ。

なにしろ全員が量子物理学の最先端にいた人たちだ。

安息日なんて概念がはなから抜け落ちているワーカーホリックな科学者に、神様のような存在を感じる人はいるかもしれないが、まともな信徒がいるとは思えない。

そうして彼女が次に触れ合ったのは、ダンツクちゃん質問箱の連中と、こないだ会った政府の連中、そして──

「先輩ですよね」

「残念ながら。ま、良識ある人類代表ってところだな」

「え?」

三好が豆鉄砲をくらったような顔をした。こいつ一瞬素になりやがったな。

「いや、質問箱で接触しているメンバーを見てみろよ。国家の利権を背負っている連中と、手品の種を暴こうとやっきになっている匿名の群れだぞ?」

「うーん……まあ、まじめに宗教を語るのには向いていませんよね」

「だろ?」

日本人は良くも悪くもニュートラルだ。某政党への影響力はともかく、政教分離がこれほど進んでいる先進国も珍しいだろう。

平均的な日本人なら何かを信仰する心はなんとなく維持しながら、宗教的な神様の存在などは欠片も信じていないに違いない。

かつて宗教的だったイベントたちは、単に社会生活を営む上での習慣になり、宗教的な意義を失いつつある文化的な行事になり、宗教とはほとんど無関係になった商業主義に彩られた楽しいお祭りに過ぎなくなって久しい。

「ダンジョンのギミックを見る限り、その歴史や内容は知っていたかもしれないが、直接人間と話してもまるで話題に上らなかったところへ例のおっさんだ」

「急に興味がわいた?」

「それまでフィクションの中に現れるギミックに使われる文化程度の認識だったはずだ。聖書なんかベストセラー小説だと思っていたかもな」

「あながち間違ってはいませんけどね」

「しかしあのおっさんは、宗教家というよりもダンジョン教の使徒みたいなポジションの方が似合ってそうな様子だったぞ」

そりゃあ真面目な宗教の話を聞きたければ、教皇とか、カリフとか、アーヤトッラー・ウズマーとかと話せればいいんだろうが、そんな人たちがダンジョンに行くはずはないし、ダンツクちゃん質問箱を見ていたり書きこんだりするとは思えない。

それにしても新興宗教の教祖様という人選はどうなのか。

「ダンツクちゃんと仲良しになったら、速攻で人間の復活なんてことをやりそうな雰囲気でしたよね」

「ありそうで嫌だな……」

怪しげな地下の祭壇の前で、リーザーレークーショーンなんて叫びながら高笑いするデヴィッドが目に浮かぶようだ。

完全にニュートラルな超越的存在が、地球人類と触れ合ってなにを思うようになるのか。触れ合う順番によっては大事になるだろう。

今回は奇跡的にうまく行きかけているのかもしれない。

「そこで、『良識ある人類代表』の俺たちにこうして尋ねてきたに違いない」

「そこにこだわりますね」

三好が苦笑しながら、モニタに乗り出していた身を引いて事務用の椅子に腰を下ろした。

「しかし、宗教が必要か、ねぇ……」

「どうします?」

困ったように三好がそう言ったが、どうしますと言われてもどうしていいか分からない。

もしもダンツクちゃんが、例のおっさんに啓発されて人類の歴史を調べたのだとしたら、現在の紛争の大部分は宗教がらみだと知っているだろう。

冷静に歴史を紐解けば民族や宗教が絡まない紛争の方が少ないはずだ。歴史を俯瞰的に見ただけなら、人類全体にとって、不要どころか害悪にしかなっていないようにすら見える。

人は信仰や正義という名の許にどこまでも残酷になれるし、十字軍を見ても、それが残虐な行動を正当化するための大きなよりどころになっていたことは間違いないのだ。

最近だけ見ても、たとえば北アイルランド問題は元はといえば宗教問題だし、少し前まではプロテスタント地区のカトリック教会の周辺では小競り合いが起こったりしている。

今までに積み上げられてきたお互いのヘイトはともかく、宗教に無関心な視点から見れば、何やってんのと思われても仕方がないだろう。

生きていけないほどの弾圧や貧しさや、そこからの救済を願う心が生み出した何か。

そういう宗教成立の背景を考慮しなければまるで理解不能だろうし、仮に背景を知ったとしても、社会の外からやって来た合理性の権化みたいな何かには理解できないだろう。

だから俺たちに質問してきたのかもしれないが、実は現代に生きる俺たちだってよく分かってはいないのだ。

「こんなパーソナルなことを訊かれてもな……」

信仰が個人と神の契約だというのなら、それは実に個人的な領域の話だ。

パスカルだって、『神を感じるのは心情であって理性ではない。信仰とはそのようなものだ』と言っている。

それはつまり神なんて理性で精一杯捉えようとしてもできないものだと言ってるわけだ。

「何かに祈るとか、何かを信じるってことは人間にとって必要なんじゃないですか?」

それにそれはすでに受け入れられている気もしますし、と、彼女は件の転移石を取り出して言った。

これは祈り?の結果作りだされた何かだ。

「それって別に対象が宗教じゃなくてもいいだろ」

三好が作りだした転移石は、別に既存の宗教を信じることで作りだされたわけではない。

むしろそういう部分が邪魔をしていたような雰囲気すらあった。

「そりゃまあそうですけど」

「結局、祈りと信仰と宗教は別物だろ?」

真にパーソナルな領域なら、祈りと信仰と宗教の間に区別はない。個々人がそれぞれ自分の信じる何かに祈るのみだ。

だが集団となると違う。

「最初に発生するのは祈りですよね」

そうだと思う。そして祈る対象は、最初は漠然としているだろう。

『明日もいい日でありますように』とか『健康でありますように』なんて祈りは明確な対象に捧げられるわけではなく、漠然と自分を超越した何かに捧げられているのだ。

「そうだな。そして、祈る人間が二人以上になって同じことを祈ろうとすると、それをささげる対象が生まれる」

「大地の神様に『豊作でありますように』なんて祈るパターンですね」

「そうだ。信仰が生まれる瞬間だな」

「じゃあ宗教は?」

「便宜上、信仰の対象を神様と呼ぶなら、神様に値札を付ける行為かな」

それを聞いた三好が、がっくりとを肩を落とした。

いや、『神様が、人類が生み出した最高の商材だ』なんて、さんざん言われつくしているだろ。

「あー、……まあ、現代において、そういう一面がないとは言いませんけど……歴史を振り返ればある程度のリスペクトは必要じゃないですか?」

そんな主張を大っぴらにしたら、いつかどこかの信徒に刺されますよと、彼女に突っ込まれた。

大っぴらになんか言わないよ。TPOくらいは弁えてる。

「じゃあ、そもそも宗教ってなんだよ?」

「いきなり哲学的な命題ですね」

三好がPCを操作して何かを呼び出しながら言った。

「先輩の言を是とするなら、『神様を商材とした集金システム』ってところですか?」

「もしもそうなら、答えは『必要』だな」

「ええ?」

思わずキーボードを叩く手を止めた彼女は、驚いたような顔をした。

どうやら三好はそんな俗なものなら不要だと言いたかったようだが、要不要をそんなレベルで語っていいのかどうかは難しいところだ。

「いやだって、それを利用している人にとったら 生業(なりわい) じゃん?」

それが違法かどうかや倫理的にどうかなどは、この際関係ない。

人にとって必要かどうかということなら、必要な人がいるとしか答えようがないのだ。

「ま、冗談はさておき──」

「ほんとに冗談だったんですか?」

「さておき──」

「はいはい」

三好はおざなりに返事をしながら、モニタにとある資料を呼び出した。

日本の文部省宗務課が1961年に作成した『宗教の定義をめぐる諸問題』(*2)だ。

この本の第2部にあたる、『宗教の定義集』には、哲学者や神学者、社会学者や宗教学者が述べた104の定義が挙げられているのだ。

もちろん全部読んだところで宗教が何かなどという結論は出しようのない内容だ。だから宗務課もただ集めるだけでとどめたのだろう。

そうでなければ多面体として捉えたその一面一面を世の研究家たちに代弁させたかったのかもしれない。

「もう、これをそのまま送っちゃえばよくないですか?」

「ダンツクちゃんの質問は、宗教が何かじゃなくて必要かどうかだろ」

「そんなこと私たちに決められます? ここに並んでいる定義だけみても、個人個人の立場でばらばらじゃないですか」

それはつまり宗教の捉え方が個人個人の立場で異なっているということだ。

それをひとまとめにして要不要を論じるのは、正しく暴挙と言えるだろう。

「105個目に、『信仰のおしゃれな代用品』(*1)って書きこみたくなるもんな」

「先輩の家の廃れた勉強部屋には、だんだん醜くなる肖像画がかかってるってことだけは分かりました」

「心配するな。階上なんてないから」

俺は頭の上天井を指差しながらそう言った。

残念ながらこの建物にはロフトも三階も存在しない。

「収拾がつかないから、この際、発想を変えてみないか」

「発想?」

「彼女が聞いたのは必要かどうかだろ。なら、あるとないとで、社会に対する影響がどうなるかを考えてみようぜ」

「本質から目を逸らして、それに対する結果が良さそうな方を選ぼうってことですか?」

「実際問題、俺たちに宗教の必要性が語れるわけないだろ」

俺は諦めたように両手を広げた。

「そもそも俺たちの浅知恵で言っていいなら宗教なんていらないな」

なにしろ世界から宗教が消えてなくなれば、紛争のほとんどは解決する。

現在の宗教紛争から宗教の仮面を引っぺがしてしまえば、大部分は経済的な利権の奪い合いに過ぎない。そして経済的な利権の奪い合いなら、お互いの利益をすり合わせることも可能なのだ。

だが宗教に妥協はない。

建前や仮面のおかげで泥沼化しているだけだなんて多くの人が気が付いているが、それも宗教のせいで大っぴらに言えないだけだ。

もちろんその方が望ましい勢力もあるのかもしれないが。世界は複雑だから。

「まあ、実際それがなくなって困る日本人って、宗教法人関係者や文化庁の一部の人以外は、ほぼいないとは思いますけど」

「仏壇や墓なんて、いまや宗教とは無関係に売り買いされてるしな」

葬儀は葬儀屋がやってくれるし、仏壇購入時に最も重要視される要素は価格だ(*3)

「自分が十三宗五十六派のどこに位置するのかなんてどうでもいい人も多いでしょう」

「家の宗派なんて、一部の旧家を除けば、単なる惰性や地域の圧力っぽいところもあるしな」(*3)

「ま、そんな風に考えている俺たちに訊かれたところで、答えは『いらないんじゃない?』の一択になるわけだ」

「じゃ、もうそう答えて──」

おきましょうとばかりに、キーボードに手を掛けた三好の腕を、俺は掴んで止めた。

「早まるな、三好。そうは言ってもだな。もしここでそう答えたら一体なにが起こると思う? そうして俺たちはその責任を取れるのか?」

「責任?」

「いいか、三好。奉仕の準備をしていいと言っただけで、全国民に強制的にDカードを所有させる何かだぞ。ここで俺たちがいらないと言って、それが採用されたら何が起こるんだ?」

「まさか、そこから離れられない人の虐殺──なんてことはさすがにないと思いますけど」

必要だと考える人がいなくなれば、それで目的は達成だ。ものすごく短絡的だが、相手がそうしないかどうかは分からない。

そもそもそんな倫理観があるのかどうかすらも怪しい。なにしろダンジョンでは結構な数の死傷者が生まれているのだ。

人間は知らずに蟻を踏み潰したとしても気にしないだろう。

いくつもの生物は人類に滅ぼされて久しいが、それを日常的に気にして痛みを感じている人間はさほど多くはない。ダンツクちゃんにとって人間がそう言った生物と変わらないかどうかなんて、現時点では誰にも分からないのだ。

確かに奉仕対象としてできるだけ大切には扱ってくれているようだが、なにしろ世界には77億人も人間がいる。そのうちの数%くらいなら損害を許容してもおかしくはないのかもしれない。

「そんな直接的な手段でなくても、例えば、今後ポーションが一般にも簡単に使える程度に普及したとしてだな、宗教関係者にだけそれが効かなくなったらどうする?」

社会にはあらゆるインフラが存在している。例えば現代日本の大部分で、水は蛇口をひねれば出てくるものだ。

なのに、宗教を信奉しているものがひねった時だけ水が出なかったらいったいどうなるだろう? その人たちだけ、プラグをコンセントに差しても電気が使えなかったら?

「うーん……」

「逆に必要だと答えれば、史上最強の伝道師が生まれるかもな」

「人類を滅ぼすくらい朝飯前の、なんでもできるAIを学習させるのは難しいですよねぇ……」

俺は話は終わりだとばかりに立ち上がって告げた。

「よし! 我々はこの質問に答えるのにまったくふさわしくない! なぜなら宗教とはゲームのフレーバーか俗化した文化くらいしか接点がないからだ」

「先輩、まさかまた鳴瀬さん経由でJDAに丸投げする気じゃないでしょうね?」

そう突っ込む三好の方に優しく手を置いた俺は、目を閉じて頷きながら彼女を諭すように言った。

「三好君。我々人類は長い歴史を経て、『話し合い』という誰にも文句の言えない素晴らしい責任の分散手法を確立したのだよ」

◇◇◇◇◇◇◇◇

「まずい。実にまずいですよ」

その日の朝、官邸で上野官房副長官と打ち合わせをした通り、午後の参議院本会議を一時間で途中退席した井部総理は、そのまま官邸へと戻って 甘(かん) 利明(としあき) 選挙対策委員長と顔を突き合わせていた。

十日ほど前にヘリの中で低ステータス議員の公認について頭を悩ませた結果、そもそも高齢の議員にはステータスを計測できないものも多く、幸い影響は当選回数の少ない若手に限定的だろうと先送りを決めたばかりだった。

ところが──

「仮にステータスの開示を要求されたとしても、Dカードを所有していないという理由で非開示で行こうという戦術は頓挫しました」

甘が眉間にしわを寄せながらそう言った。

何しろ日本国民全員がDカードを所有することになったのだ。

つまりステータスを開示できない人間は、ステータスが低いか、日本国籍がないということだ。どちらにしても大きなイメージダウンになるだろう。

「全議員の事前計測は行えますか?」

放っておけば前回のように、いつの間にか計測されて公表されるに違いない。

全員が計測可能である以上、党内でも計測しておかなければ、公表された値が正しいのかどうかすら判断できない。

でたらめな数値を並べられても、それをでたらめだと否定できないのだ。そうして嘘は独り歩きを始め、それだけで結構なダメージになるだろう。

「デバイスの購入は不可能でした。一応ダンジョン庁には長官を通してサンプル提出をさせるようにお願いしてあります」

「サンプル? 法的根拠は?」

ダンジョン庁に、ダンジョン素材を利用したアイテムを確認するための強制提出などという制度はない。

「ま、総務省あたりから技適の確認があるとかなんとか、そのあたりは現場が何か考えるでしょう」

「そいつは酷い……」

「後はすでにJDAに何台か納品されているそうですから、そちらに頼めば可能でしょうが……」

「あまり大げさにはしたくないですね。できれば秘密裏に行いたい」

議員全員の計測が行われたなんてマスコミにかぎつけられたら最後、公開を要求されるに決まっている。それではまずいのだ。

全議員の一斉公開ならともかく、与党だけの先行公開はどういう切り取られ方をするか分からない以上避ける必要があった。

「それにしても能力が客観的な数値で見られる社会がいきなりやってくるとは……いくらなんでも変革が早すぎます」

井部が眉をひそめて中空をにらんだ。

「段階数がそれほど多くないのが幸いなのか不幸なのか」

発表されている資料によると、探索者ではない成人のステータスは9ー10を中心に、せいぜいが10段階ていどらしい。

だが段階数が少ないということは、1違うだけで能力が違うとみなされる可能性が高いということだ。

みな自分の能力の数値を知りたがるだろうが、知ってしまえばカーストが生まれ、根拠の あ(・) る(・) 劣等感に苛まれかねない。

それは思った以上に精神に影響を与えそうだ。

「急ぎ、ステータスの公開を法で規制するべきかもしれません」

「個人情報保護法の改正では無理でしょう」

個人情報は、特定の個人を識別できる情報のことを意味しているが、ステータスで特定の個人を識別するのは一般的には難しい。

したがって、ステータスはプライバシーにあたることになるだろう。

しかし個人情報保護法は、事業者が個人情報を適切に取り扱う方法を規定した法律で、プライバシーの保護は目的にされていない。

「新規立法ですか」

「所轄は、個人情報保護委員会かダンジョン庁か……利用という観点では範囲が広すぎて個人情報保護法同様各省庁のガイドラインが必要になりそうですが、そうすると迅速な立法は難しいですね」

「そもそもどのように規制すればいいのやら……原則開示禁止で例外を作るのがセキュアな作り方というものでしょうが──」

「こう言ってはあれですが、法律はなるべく複雑で穴だらけでなければ運用が難しいと考える連中が多すぎる」

ステータスだって利用したいものは多いだろう。

特に各社の人事などにとっては垂涎の情報だと言える。しかしそれだけで安易に決められては本当にカーストが生まれることになるだろう。

学閥よりも酷いことになるのは確実だし、出世速度にだって影響するはずだ。同じような業績を持った二人がいたら、単純にステータスの高い方を取りたくなるのは仕方がない。

「この後、経済財政諮問会議の前に国会へ寄って、参議院の達伊議長や司郡副議長、各会派へのあいさつ回りを装って問題を共有します」

「分かりました。須賀官房長官と上野官房副長官にも連絡を入れておきましょう」

「よろしくお願いします」

そう言って立ち上がった井部は、そのまま国会へと向かった。

総理番たちがいなくなるのをひとり待っていた甘は、傾いた夕日が照らす雲を眺めながら、数値で客観的に能力が評価される社会の行く末を考えてため息をついた。

◇◇◇◇◇◇◇◇

JDAに丸投げすることを決めた俺たちは、とりあえずダンツクちゃんにもう少し待てという意味の婉曲的な返事を書いた後、居間でグダっていた。

パーティの後片付けもあるのだが、なんだかやる気が起きなかったのだ。

「なあ、三好」

「なんです?」

「以前はさ、なんでこんなに迂遠なことをやってるんだろうと思ってたんだが――」

「ダンツクちゃんですか?」

「まあな」

「じゃ、今は?」

「うーん……なんて言うか、『恐る恐る』って感じがしないか? まるで触れたら壊れる硝子細工をつついているような――」

三好は何かを考えるように宙をにらみながら聞いていたが、こちらに視線を向けるとこともなげに言った。

「もし彼女が人と同じような思考をするとしたら、そうする理由なんて一つしかないですよ」

「なんだよ」

「失敗したことがあるんじゃないですか」

失敗したことが──ある?

「仮にダンツクちゃん質問箱の話が事実だったとして──」

以前活発に論じられていた彼女の星についての話だ。地球から数万光年の位置にあるとかなんとか、そんな話だったはずだ。

「この宇宙のどこかにいる、魔法のように見えるほど科学の進んだ何かであるダンツクちゃんが、現在の地球と同じような事態を別の場所で引き起こして──失敗した?」

「そうです」

その結果がどうなったのかは分からない。

だが奉仕するというのが彼女の目的なら奉仕対象がいなくなったのだろう。おそらくは。

俺は、その恐ろしい結末を振り払うように首を振った。こいつはあくまでも推測だ。

「だが、何万光年も離れている地球のような惑星を見つけだす確率なんてほとんどゼロだろ? そもそも彼女はどうやって地球を見つけたんだ?」

「分かりません。でも、最初のダンジョンにその秘密がありそうな気がしません?」

「……ザ・リングか」

あまりにモンスターのレベルが高すぎて未だに攻略が行えない、おそらくは最初に作られたダンジョン。

そこにいた27人が最初の犠牲になって、その知識からダンジョンが作られることになったと思われる原点ともいえる場所。

確かに何かがあってもおかしくはない。

「それから、先輩」

「ん?」

「彼女が仮に失敗したことがあるとしても、それが現在の地球のような状況で発生したことだとは限りませんよ」

「どういう意味だ?」

「彼女がほとんどゼロの確率をもう一度引き当てなくても失敗できる場所がひとつだけあるんです」

「──自分の……星か」

三好が小さく頷いた。

もしも三好の想像が当たっていたとしたら、そこで一体何があったのか。

たぶん幸せな出来事ではなかっただろうなと、俺は頭の後ろで手を組むとソファーに体を投げ出して目を閉じた。