軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

§211 奉仕の兆し・1 3/26 (tue)

翌日。

早速代々木へと下りた俺達は、オーブを出現させるべくスライムを叩いて一層を歩いていた。

「そういや先輩。明日のこと忘れないでくださいよ」

「明日?」

「もう。例のファインドマンさんが来るんですよ」

「ああ、あれ明日だったのか」

リチャード=ファインドマンは、NYのイベントでスキルを破棄するコマンドを発見した男性だ。

果敢なチャレンジの結果、自らが所有していたスキルを失ったため、三好がオーブの提供を申し出た。丁度ひと月ほど前の話だ。

「渡せるオーブはリスト化してるんだろ?」

「そうですけど、手元にないものもありますから」

「最近、偏ってるからなぁ」

いろいろあって、新規のチャレンジが難しい状況だったし、転移石のせいで道中のモンスターも全スキップ状態だったため、数もそれほど倒していない。

倒しているモンスターにも結構偏りがあった。

「しばらく探索に集中するか」

「あれ? 先輩、スローライフを目指してたんじゃ?」

三好がくすくすと笑いながら、突込みを入れてきた。

「好きな時に好きなことをするってのが、スローライフだぞ」

「働くのが好きだったら、ブラックでもスローライフとか言い出しそうですね」

「社畜はなかなか舐められないからな」

そう言って、次のスライムコアを叩いた瞬間、目の前に表示されたオーブ取得の画面を見て、俺は思わず呟いていた。

「おいおい……」

「なんです?」

俺は、表示された確率をメモすると、それを三好に差し出した。

それを見た三好は、早速いままでの数字とそれを比較していた。

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スキルオーブ 物理耐性 1/ 500,000

スキルオーブ 水魔法 1/ 6,000,000

スキルオーブ 超回復 1/ 60,000,000

スキルオーブ 収納庫 1/ 700,000,000

スキルオーブ 保管庫 1/10,000,000,000

--------

「以前と比べると、物理耐性は200倍、水魔法は100倍、超回復が20倍で、収納庫と保管庫でも10倍になってますね」

「一律じゃないんだな」

「手に入りやすそうなものが、より手に入りやすくなってる感じですけど……あ!」

「どうした?」

「先輩。この倍率が、ゲノーモスにも適用されていたりしたら……」

以前のマイニングのドロップ率は、1/10000だ。もしも200倍になっていたりしたら――

「ゲノーモス50匹あたりにひとつ〈マイニング〉がドロップすることになるな」

「それって今頃、マイニング祭りになってませんか?」

もしもそうなら、マイニングの価格が暴落するのは確実だ。そうして、下手をすれば今日にも鉱石のフリードロップが始まる(*1)ことになるだろう。20層以降に行けさえすれば、誰もがその恩恵に与れることになる。

実際にどうなっているのかは、確認してみなければわからないが、これが全体に適用されているとするならば、キメイエス級からドロップする〈異界言語理解〉は、ほぼ100%になるだろう。

「こりゃ、オーブ市場の活性化は間違いないが、それなりに暴落することになるぞ」

「保有してるオーブは今のうちにオークションに出しちゃった方がいいですかね?」

「後でばれたら恨まれそうなんだが……それより、こんな倍率になっていることを知らないJDAが片っ端から買い上げて保管を依頼してきたらどうする?」

昨日の鳴瀬さんの勢いでは、そういうことも十分にあり得るだろう。

JDAの決算月がいつなのかは知らないが、それによっては、節税のために異界言語理解の手数料を使って無茶なことをしかねない。

「斎賀課長が一月の半ばに、会計年度の終盤がどうとか言ってましたもんね。日本の企業だと三月末とか多いですし、十分あり得ます」

だが、今までの感覚で取引したりしたら確実に損をするはずだ。それが分かっていて、黙ってるのも悪い気がするが――

「だけど、どうやって説明するんです?」

「だよなぁ……」

「10億円のオーブが、1億円くらいにはなりそうですよね」

例え出現率が跳ね上がったとしても、需要が十分に満たせるかというと難しいところだ。だから、出現率が100倍になっても、価値が1/100になったりはしないだろうが……

「保管料、売却代金の3割とか、最低1億とか吹っ掛けちゃったからなぁ……」

もうここは、「カンです」の一言ですませるしかないか。考えてみれば、以前から似たようなことをやってきた気もするし、あの課長と鳴瀬さんなら黙ってスルーしてくれそうな気もするし。

「こうなっちゃ、3割はともかく最低金額は引き下げるべきかもな」

「まあ、それはむこうから話があった時でいいんじゃないですか?」

「だな」

「あとはクールタイムがどうなったかが知りたいですよね」

さっき取得したのは、丁度取得可能になっていた〈超回復〉だ。もう一度表示させてみれば、表示されるクールタイムの値によって、どうなったのかが分かるだろう。

「しかし、出現率に連動するクールタイムの計算がそのままだったとしたら、〈超回復〉は、14時間24分に1個、〈収納庫〉だって、一週間に1個取得できることになるぞ」

「そうなったら、あちこちに配って歩きますか?」

「自衛隊とか、DADとかか?」

「最初はそうでしょうね」

「あしながおじさんの正体を知られずに配れるならそれもいいかもしれないけど……やっぱりこれを世に出すと自由がなくなる気がするなぁ」

なにしろ密輸も泥棒もやりたい放題なアイテムだ。白昼堂々ルーヴルから絵画や彫刻が消えうせるくらいのことなら簡単にできるだろう。

そして証拠は決して見つからない。なにしろボックスの中のものを外から認識することはできないのだから。

だが、それの存在が明らかになって、所有している人間がはっきりしているなら話は別だ。なにしろ世界中でそれが可能なのはそいつだけだということになるからだ。

「ほんと面倒くさいよな、これ」

「じゃ、フェアウェルしちゃいますか?」

「……すみません。ボク、弱い人間なので、便利に慣れてしまうと元に戻れません」

「誰が、ボクですか、誰が」

結局捨てられもせず、かと言って公開することもできず、情けない限りと言われればその通りなのだが、それが人間というものだ。

「異世界に転生した希少なアイテムボックス持ちって、どうして泥棒の冤罪を被せられないんだ?」

「そりゃ、勇者様は他人の家どころか王城のタンスやつぼを調べてアイテムをゲットする権利を持っているからに決まってますよ」

三好のあまりの言い草に、俺は思わず吹き出した。

ま、そんな冤罪を被せられる話を読みたいかと言われれば、微妙なのは確かだが。

「それより先輩。こうなったら、アイテムのドロップ率がどうなってるか気になりませんか?」

「確かにそうだな。ダンジョンの人類に対する奉仕って点で、一番貢献しているのは、今のところポーションだろうし、増えていてもおかしくはないか」

「10層なら、以前のデータも豊富にありますから、すぐに比較できますよ」

「携帯も使えるし転移石もあるから、このまま下りてもいいけど、昨日の今日だから一応地上にいないと鳴瀬さんが困らないか?」

「それもそうですね。じゃあ、手がすいたら、すぐに確認に行きましょう」

「了解」

俺達は、その後も時間の許す限りモンスターの出現確率を調べながら代々木内をうろうろしていたが、結果はおおむねスライムと似たようなものだった。

なおクールタイムは――予想された通り、短くなっていた。

◇◇◇◇◇◇◇◇

33層は、地面の下のにできた土の洞窟のようなフロアだった。それはまるで巨大なアリの巣のように見えたが、そこに生息していたのは、妙に動きの速い徘徊性の蜘蛛型モンスターの一団だった。

33層の攻略を行っていたDAG(ダンジョン攻略群)のチームIでは、それまで悩まされ続けていたモンスターが突然消えたことに、安堵よりも警戒が先に立ち、一旦32層へ引き返した後、翌日再び33層へと足を踏み入れていた。

「アースタイガーもキメララクネも少しずつ戻ってきているようですね」

アースタイガーは、巨大なタランチュラのようなモンスターで、キメララクネはサソリと蜘蛛が合体したようなそれだ。

33層には、他にも巨大なジグモやトタテグモのような修正を持った、トラップドアと呼ばれるモンスターが存在していた。

「あー、やっぱり消えたときに一気に進むべきだったんじゃないっすか?」

若く調子のいい海馬三曹が、88式鉄帽の位置を片手で修正しながら、モンスターがいなくなったのなら、素早く調査するチャンスだったのにと主張した。

「馬鹿言え、それでトラップドアが待ち構えていたりしたら、俺たちゃカモだぞ、カモ。ダンジョン内で状況が分からないときは安全策だ。命は一つしかないからな」

鋼一曹が、海馬の手綱を握るようにそう言った。

「へーい」

「しかし、鋼さん。もうハチキュウじゃ無理っすよ」

自衛隊が採用している89式は、5.56ミリの弾を使う。これがすでに雑魚にも通用しないのだ。

キメララクネの装甲は、角度のこともあってこの弾を完全に弾いていた。

「こいつでも傷をつけるのがやっとって有様ですからね」

そう言って海馬が手に持ってみせたのは、ロクヨンと呼ばれている89式以前に使われていた小銃だ。

7.62ミリのいわゆるNATO弾を使う銃だが、減装弾を使用するため、やや威力は控えめだ。

今や作戦の主流は、7.62ミリでけん制しつつ、大物は伊織が、それ以外は寺沢から配布された水魔法所持者がとどめを刺すスタイルになっていた。

今は、沢渡二層が最前線でその任を果たしていて、随時ローテーションで入れ替わっていく体制だ。

都合、通常戦闘では、水魔法所持者三人の負担が馬鹿にならないレベルで重くなっていた。

とはいえ、それ以上の威力をもつ兵器は、取り回しの問題でモンスターに当てるのは難しいものが多く、難しいところだった。

「従来の兵器だと、どうにも帯に短したすきに長しってやつになってきましたよね」

「一応、小型の装甲車両や、エリコンの25ミリや35ミリを利用した武器なども計画はされているようだな」

「エリコンと言えば、転移石とやらで87RCV(*2)を転移させるテストをやるらしいな」

「マジですか?」

「成功すれば、16式のキドセン(*3)も持ち込めるかもな」

「ですけど、18層と31層、それにスペシャルで32層があるだけで、他の階層へは行けないって聞きましたけど」

「18層と31層と32層に行けて、他の階層に行けない理由はないだろ」

いずれでてくるか、隠されているかのどちらかに違いない。うちのチームにならいずれ公開されるはずだ。鋼はそう考えていた。

「もしもそうできれば、もう少し安全に探索が進むだろう。LAV(*4)にM2をくっつけるって話も出てるしな」

「任意の層へ転移できるのを願うばかりっすね」

「そいつはJDAに頼んでみるしかないな」

だがそう言う実験をする以上、持ち込める可能性があるということのはずだ。

「隊長!」

その時前線で一匹のトラップドアと戦闘していたチームから叫びが上がった。

伊織が急いでそこへ向かうと、隊員が、焦ったように報告して来た。

「お、オーブが出ました!」

「なに? 名称は」

「それが……〈機織り〉です」

「機織り?」

それが、人類が到達した最も深い階層からドロップしたスキルの名称だった。