軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ある日ィ……森の中ァ……

門を出るときは慣れたもので、門番さんも「遅くならんうちに帰ってこいよ」と言って送り出してくれた。門のところで振り返ると、俺の後をつけていたらしき人物が物陰に隠れた。恐ろしく稚拙な尾行、俺でなきゃ見逃しちゃうね。

「うっし、そんじゃ行くか!」

軽くストレッチして俺が走り出すと、あわてたような気配が背後であったがしばらく走って振り返ると誰もついてきていなかった。

体力はつけておかなきゃ尾行だってできないぜ! ……帰りのルートはちょっと変えよう。俺、安全、優先する。

俺たち黒鋼クラスが狩りのために毎週通ったせいで、道は踏みならされていたが、それでもこの2週間ほどは来ていないので雑草の勢いが戻りつつあった。轍が途中で見かけられたが、なにか物資でも運んだのだろうか? これから森での演習も授業で始まるしな。

飛ばしたせいで森に着くころには軽く息が上がっていた。持ってきた水筒で喉を潤すと、森へと足を踏み入れる。

「ふぅ——やっぱいいわ、森は」

涼しくて、空気が美味しい。

「って、和んでる場合じゃないな。大岩、大岩、苔むした大岩——っと」

俺は途中で見つけた「隠者の秘め事」を2本採取して、大岩へとやってきた。

相変わらずデカイ。見上げるように大きく、なんで森のど真ん中にこんな岩があるのかと思ってしまうような代物だ。

持ち運んでいた巨人が、途中で面倒になってここに置いていったのだ——と言われれば「なるほどねえ」と思ってしまうくらいには唐突に置かれてある岩である。

ただだいぶ年月が経っているようで表面は苔むしている。

「どこだろ」

「赤の女王」は見た目真っ赤なのであればすぐにわかるはずだ。俺は岩の上、足元と視線を往復させながら歩いていく——お、あれは「蒼牙茸」……じゃない、「ニセ蒼茸」だ。紛らわしいなあもう!

「ん——」

ぐるりと反対側へ回ると——そこは樹の生えていない広々とした場所になっていた。

ここにあるのだろう、と思っていたのに、俺がみつけたのはここに あっちゃいけない(・・・・・・・・) 人たちだった。

「おい! マジで来たぞ」

「だから言っただろ? 調査は万全だって……あの黒鋼1年が冒険者ギルドでキノコ売って小金を稼いでたって情報は確かなんだ」

「すっげぇ、よくギルドから情報取れたな?」

「正確にはギルドから卸されてる業者だけどな」

そこにいたのは、4人。

3人は黄槍クラスの上級生っぽい。腕に黄色のリボンを巻いており、明らかに大人びた様子だ。

そしてもう1人は——。

「あとはしっかりやれよ、後輩」

「…………」

ぽん、と最後の1人の肩を叩いて3人は去っていく。すぐそこに馬をつないでおり、それに乗ってすぐにもいなくなってしまった。

「おい、お前……」

残ったのは、俺と同じ1年黄槍クラス、フランシス=アクシア=ルードブルク。

だけど俺が気にしたのは、彼じゃない。

「 後ろのそれ(・・・・・) 、なんだよ!?」

どうやってここまで運んだのか。

鉄製の檻が置かれてあり、そこには—— 腕が異様に赤い(・・・・・・・) クマがいたのだ。

『ゼェッ、ゼッ、ハァッ、ハァァァ……』

そのレッドアームベアは、俺が倒した個体より大きかった。身長4メートルはあろう。車輪付きの檻は相当に大きいのだが、それでも入りきらず、首を曲げて立っている。檻からはみ出した体毛が毛羽立っている。

「…………こいつがなにか、って?」

フランシスの目は、すでに俺を見ていなかった。なにも見ていないに等しかった。

あの快活で、女子からキャーキャー言われるような可愛らしさはどこにもない。肌は荒れ、唇は切れ、目の下には隠しようもない黒いクマがあった。

「お前を、コロスために持ってきたんだよ。当たり前だろうが?」

「————!」

背筋がぞわりとした。

こいつらは、俺が冒険者ギルドで金策していることまで突き止めていた。キノコをエサにおびき出すなんていう方法は確率があまりにも低いけれど、俺が知らないだけで他にもいくつもの罠を用意していたのだろう。

でなければ、ここまで用意周到にモンスターの——それもレッドアームベアの準備なんてできるわけがない。

そう考えたとき、俺は貴族という生き物のほんとうの恐ろしさを知ったような気がした。

ヤツらにはとてつもない執念があるのだ。俺には想像もできないほどに深く、人を憎むこともできる。そしてその憎しみを果たさなければ安心できない。

「おい、わかってるのか! そいつはとんでもないモンスターだぞ。檻から出したりしたら——」

「…………」

フランシスはジャラリとなにかを取り出した。いくつかの宝石、魔石を糸でつないだもので、実物を見るのは初めてだけど「 護符(アミュレット) 」だと俺はピンときた。

「……これを使えば、僕はモンスターを操ることができる」

「そんなことできるわけないだろ!」

「黙れ!!」

ぶんっ、とフランシスがアミュレットを振ると、

『ゼアアアアッ!』

レッドアームベアが頭を抱えて首を横に振った。

身長が1メートル大きいということは純粋なパワーでも1.5倍はあると思ったほうがいい。

俺はそのとき、レッドアームベアの頭頂部に黄色い宝石が埋め込まれているのを見た——あれがそうなのか? モンスターを操るための道具?

っていうかそんな便利なマジックアイテムがあるのかよ!? マジかよ! それに誰かがレッドアームベアの頭にあの道具を取り付けたってことか? そんな腕利きがいて、そいつを使える貴族ってマジでヤバくないか……?

謝って済むことなら謝って済ませたい。だけどこの雰囲気じゃ絶対無理っぽい。

「僕が、僕がどんな思いで学園に来ているのかも知らないくせに……! 停学だぞ、誇り高いルードブルク家のこの僕が停学だぞ!? ああ、クソックソックソックソックソッ!! パパは僕を叩くし、妹たちは僕を嘲笑するし……それもこれも全部お前のせいだ!!」

「ごめん! 謝るから、このとおり!」

両手をパンッと合わせて頭を下げる。ダメ元だ。

「…………」

無言。

お、もしや効いたか? 俺はちらりとフランシスを見る。

「死ね」

フランシスは檻のカギを開けた。やっぱ謝罪は無理だよな!? まあ俺は悪いことしてないんだけども、そんなこと言ってる場合でもねえ!

檻の扉は軋みを上げながら外へと開く。

レッドアームベアは「森の死神」とも「見かけたら村を捨てて逃げろ」とも言われる。

死神が檻から出てくる——。