軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

沈んだ想いはほろ苦くて

バッ、と白い布を外すと、そこには——。

「おおっ!?」

40を越える武器がそこにはあった。

ほとんどは片手剣だけど、長剣や斧、槍に弓もある。

そしてそのすべてが、 黒く塗られて(・・・・・・) いた。

ぬらりと光る黒い刀身……模擬戦用に刃を引いてあるために刃紋はない。

「こ、これってもしかして……全員分ですか?」

恐る恐るルチカが聞いてきたので、俺はうなずいた。

「そう。模擬戦用だから刃の切れ味を気にする必要もないだろ。だから色は本来自由にできるんだ。これは黒鋼クラスの黒。俺たちの武器だ」

「私たちの、武器……」

ルチカが言うと、トッチョが槍の1本を手にして気がつく。

「これ、俺の名前が彫ってある」

その言葉に触発されるようにみんな自分の得物を探す。

「ほんとだ!」

「ここに俺の名前が!」

「私のもある!」

トッチョだけは武器そのものに目を向けた。

「……かなりしっかりした造りだ。模擬戦用の武器にしちゃ、もったいない」

「さすが、お目が高い。でもさっきも言ったとおり刃の部分は気にしなくていいから手間はそんなに掛からないんだ」

俺は「ソーンマルクス=レック」の名前が鞘に刻まれた、湾曲した剣——この世界にはほとんどない、刀タイプの剣を手に取った。刀身が黒の刀とかヤバくない? カッコよすぎる。もう、学園の備品である模擬剣で戦わなくていいんだ、俺……。

「ただ頑丈さだけは最優先にしてもらった。みんなが、エクストラスキルを撃ちまくっても壊れないようにね」

その言葉に、多くのクラスメイトが不安そうな顔をした。「自分にはエクストラスキルなんてできない」と顔に書いてある。

そう、思うよな。

だけどな。

「この中で、学園に入る前からエクストラスキルを使えたヤツは?」

しーん。

誰も、いない。

正確にはオリザちゃんが使えたけど、今ごろお兄ちゃんとランチだ。

「この中で、学園に入ってからエクストラスキルを使えるようになったヤツは?」

ぱらぱらと手が挙がる。

「……8人だな。でも、このたった3か月で0人が8人になった。このまま行けば1年間で30人が使えるようになる計算だ」

ウソだ。俺はそんなこと思ってない。あと 1か月(・・・) もあれば 全員使える(・・・・・) ようになると思っている。

スキルレベルはウソを吐かないからな。真面目にやれば可能だ。

でもわかりやすく、できそうな目標を見せてあげることのほうが今の彼らには必要なはずだ。黒鋼クラスという万年最下位のクラスにいて、貴族ばかりの黄槍クラスと戦う羽目になったみんなにとっては。

「みんなで、ひとつひとつ乗り越えよう。この黒い刃が俺たちの絆の証だ」

言った瞬間、俺はクサいことを言ってしまったとほんのり後悔した。

だけど、

「……いいじゃん、黒い武器。カッコイイ」

「みんなといっしょなのがいいよね」

「勝てるかどうかはわからないけど、やる気出てきた!」

みんながわぁっと喜んだ。

良かった。造った甲斐があった。……うん、お金は掛かったけどね……昼飯食ったらキノコ採りに行こうっと……。

「スヴェン、どう? 気に入った?」

みんながわいわい武器を見ている間を縫って、いちばん向こうにいたスヴェンに声を掛けた。

「……師匠。この剣は一生大事にします」

「いや一生て。使いつぶせよ、そのために造ったんだから。そうしたら次の武器がお前を待ってるぞ。お前のレベルアップに合わせてどんどん武器も強くなるんだ」

「師匠……」

スヴェンの目が潤んでいるが全体的に無表情なんですよねぇ……。

俺がスヴェンに見繕った武器は、彼の身長に合わせて他のクラスメイトに比べて少々長く、太い。天稟「 剣の隘路を歩みし者(ロング・アンド・ワインディング・ロード) 」のせいなのか、スヴェンには他のスキルが生えてこない。だからこそ剣そのものの威力を高めるほうがいいだろうと判断したんだ。

「それはそうと、リットを見なかったか?」

「わかりません。午前中はトッチョらと修行しておりましたので……俺が出たときにはまだ部屋にいましたが」

「そうか……」

俺はわいわいしているロビーを後にして、自室へと向かった。

右手には、リットのために造った細身の剣を手にして。

だけどリットはいなかった。

* リット=ホーネット *

王都からソーマが戻ってくる少し前。

ソーマたちがクラス対抗戦に向けて熱心にトレーニングを始めたのとは裏腹に、リットは自分の気持ちが沈んでいくのを感じていた。

マテューはリット=ホーネットが黒鋼クラスにいることに気がついている。あのホーネット家の男子だ。きっと、 ファーリット(・・・・・・) のことを聞きたがるに決まっている。

寮は静かだった。

昨日は相当厳しいトレーニングをしたらしく、ソーマもスヴェンも泥のように眠っていたが、朝が来るとのっそりと起き出し、買い物や「修行」へと出て行った。

ソーマが、自分を心配しているのはわかっている。

どこまで知っているのかはわからなかったけれど、これ以上彼を、自分の事情に深入りさせたくはなかった。

「……お父さん、お母さん」

ベッドで膝を抱えたリットは、顔を腕に埋めた。

「逃げろって言ってくれたのに……こんなにも早く、見つかっちゃいそうだよ……私がファーリットだって……お父様とお母様の娘だって……」

ホーネット商会の子どもであることはやがて露見するだろうとは思っていたが、男子ならばマークされないはずだった。

誤算は、マテューとソーマだ。

マテューが 自分(ファーリット) に好意を寄せていることはうっすら感じていたけれども、 自分(リット) を手に入れるためにここまで執念を燃やすとは思わなかった。彼の中で、リットとは「ファーリットの遠縁の男子」程度の位置づけのはずだ。名前が近かったのも悪かったかもしれない。父と母が自分を呼ぶときの「リット」という愛称を捨てたくなかったワガママが、ここに来て悪い影響を……。

「……いえ、マテューならば名前なんて関係ないでしょうね……彼はまだ、死んだはずの私を、心のどこかで追っているんだから」

あきらめきれない男なのだ。

そのせいで、追いかけている女がピンチになっているとも知らず。

「私が生きていると他の貴族に知れたら……」

命を狙われる。

オーグブルク侯爵家は一族全員死亡。侯爵家はとりつぶす。それによって、関与したすべての貴族が得をしない——そういうことでケリをつけたのだ。

ファーリットはオーグブルク侯爵家の相続権を、順番が相当低いながらも持っていたのがよくない。ケリをつけた国王の裁定をぶち壊すことになれば、オーグブルク家の相続を巡ってまた一悶着起きかねない。

混乱を鎮めるのに、ひとりの命を捧げればいいのなら、この国の貴族は喜んで 生贄(ファーリット) を差し出すだろう。