軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

加速する勘違い……ま、まあ、大丈夫やろ!(フラグ)

正午過ぎになると、ぞろぞろとクラスメイトたちが戻ってきた。

その誰もがおんなじ反応をするから面白いんだ。

まず、しょんぼりしている。手にはなんの獲物もないんだからそれも当然だろう。そしてチームのうちひとりかふたりは泥だらけになっている。

で、

「は!? なんだよそれ!?」

と、俺たちを見て声を上げる。

「鹿、鹿、鹿アンド鹿。あと鳥が少々」

4頭の鹿が木に吊されてるからだろうな。もちろん、俺たちが獲った鹿である。その左右にはドヤ顔で腕組みしているトッチョと、無表情で腕組みしているスヴェンがいる。

それを見た彼らは——がくりと肩を落として座り込むのだった。

「んで……あとは○×◇にオービットか」

「師匠、あちらから誰かが来るようです」

森の出口はここだけではなく、オービットたちはもっと北のほうで森を出て、こちらに向かっているようだ。

「ん? 誰だ、あれ」

そんな彼らの後ろには見慣れぬオッサンが4人ほど。金属製のプロテクターに、腰には短刀を差し、弓や剣を担いでいる。

まさか——冒険者か?

俺のいた田舎にもたまにやってきた冒険者に雰囲気がよく似てる。行商人の護衛とかでくっついてるんだよな。

「おーい。どうだった?」

俺が声を掛けると、○×◇はしょげかえっているが、オービットは右手にアカバトを掲げた。

「おお、やるじゃん! 全員獲物ゼロかと思ったけど、1羽仕留められたんだな」

「なに? 他はみんな獲物ないの?○」

「なんだ。心配して損したわ◇」

「いや、安心してんじゃねーよ。アカバトってことはオービットがひとりで仕留めたんだろ? お前ら三馬鹿はなんもできなかったってことだろ」

「三馬鹿言うな!○×◇」

「あ、あの、皆さんには助けてもらったので、その……弓を撃つのに集中させてもらって」

オービットがフォローを入れている——のはいいんだけど。

「で……そちらの冒険者さんは?」

俺は気になっている質問を投げた。

にこにこしているけど、オッサンたちの厳つさは消せてない。

ただまぁ、あれだな。俺たちがロイヤルスクールの生徒だってわかっているからのニコニコ顔なんだろう。ひきつってるもん。オッサン、し慣れない笑顔なんてするもんじゃないぞ。

「君が、学生をまとめている子かい?」

「あ、はあ。ソーンマルクス=レックって言います」

俺が言うと、驚いたような顔をした。

「そうか。貴族の子かと思ったが……とりあえず話が通じそうでよかった。私たちはサウスロイセン州州都冒険者ギルドからやってきたパーティー、『山駈ける鉄靴』だ」

胸元から取り出した冒険者タグを見せてくれる。

「これは丁寧に……ありがとうございます。それでなにかご用ですか? どうやら俺たちが王立学園の生徒だと知ってるみたいですけど」

「そのとおりだ。ここにいるのは全員かい? 中に誰か取り残されたりしてはいないか」

「全員ですよ。点呼もとりました」

「そうか……。実はだね、君たちにお願いがある……この森は、当面封鎖したい」

——はい?

森を封鎖? なにそれ?

「あっ、まさか——災害級のモンスターが!?」

俺の言葉にクラスメイトたちがざわつき、そしてオッサンは重々しくうなずいた。

「その通りだ。実はこの森には、レッドアームベアが迷い込んでいる可能性がある」

「な、なんだって……。あの『森の死神』とも呼ばれている——」

レッドアームベア?

「そう、よく知っているな。州都方面で確認されたのだが、レッドアームベアは一夜にして山を3つ越えるとも言われているほどの健脚だ。騎士学園の生徒になにかあってはまずいということで、我らが偵察も兼ねて、大急ぎでやってきた」

「あ、あのぅ……ちょっと確認したいんですけど……」

「できれば学園の偉い方に取り次いでもらうか、連絡をしてもらいたいのだが可能だろうか? 学園ではこの森を授業に使うこともあると聞いていたが——」

「あ、あの!」

「——ん? なんだい?」

「そのレッドアームベアって、 つがい(・・・) ですか?」

「いや、そんなことはなかった。はぐれの1頭であると聞いている」

「あー……」

俺はトッチョとスヴェンと視線をかわす。

アレ、だよな? 昨日のアレだよな? うんうんとうなずき返すふたり。

「どうしたんだい……?」

「そのレッドアームベアなんですけど、倒しました」

「なっ——」

ぽかん、と口を開けてから、

「そ、そうか! ここは王都に近く、騎士学園もあるような場所。騎士様が直接討伐してくださったのか! これは朗報だ」

「いや、ちがっ——」

言いかけたトッチョの口を俺は塞いだ。

「むがもごごっ!?」

「トッチョ静かに……俺たちがレッドアームベアを倒した話は、しないほうがいい」

「!?」

トッチョが驚いている——その驚きは理解できる。人間、誰だって「すごい」とか言われたい。レッドアームベアを倒したなんてのはわかりやすいじゃないか。

「……離せよ。わかった、わかったって。……なんか理由があんだな?」

「ああ」

「しょうがねーな」

トッチョは黙っていることに同意したようだ。もちろんスヴェンは自分から言うような男ではないので大丈夫。

今朝、レッドアームベアの煮込みが寮のご飯で出てたら危なかったな。

後で理由を説明しろよ、とかトッチョは言っていたが——聞いたら驚くだろうな、この俺の深謀遠慮を聞いたらな!

(……くっくっくっく。ここでレッドアームベアを倒したなんてことが広まってみろ。俺たちが強いってことがバレて、他のクラスの生徒に警戒させることにしかならねー。だったらこのまま隠れ続けて、7月のクラス対抗戦で一気にトップを狙ってやる!)

レベル上げしていることがどうせバレるにしても、クラス対抗戦で度肝を抜いてやるほうが絶対楽しい。

くっくっくっく——あっはっはっは!

「……おいトッチョ。なんかソーマがすげー悪い顔してんだけど」

「……これほどわかりやすい悪だくみも珍しいな、まったく……。ろくな理由じゃなかったらマジ怒るぞ」

トッチョがクラスメイトとなにか話していたが、聞こえなかった。

冒険者のオッサンたちは学園までついてきて、鹿を運ぶのを手伝ってくれた。ほんとにいい人たちやで……。部外者なので敷地内には入れず、俺がひとっ走りして寮のおばちゃんから廃棄予定だったレッドアームベアの皮をもらってきて、それをオッサンたちに渡す。

「ほんとうにレッドアームベアを……いやはや、騎士様はすごいな」

だなんて感心しつつ、「討伐証明」が必要なのでということで皮を持っていった。後日、「討伐した騎士様に渡して欲しい」と俺宛にクラッテン金貨(約10万円ほどの価値)が5枚届いた。皮を売却した金額らしい。

ほんとにいい人たちやで! ちょろまかされても全然わからなかったのに!

まあ、騎士(貴族)を相手に不正をしたらヤバイとか思われただけかもしれないけど、俺は人の善意を信じるね!

そんな俺たちが寮に戻ると——待ってました、レッドアームベアの赤ワイン煮込み!

ほろりと、肉が口の中でとろける。

そして目の前に広がるのは豊かな森の風景。

思わず陶然としてしまったよ……これは美味い。おかわりしたいけど、すでに全員分配りおわったところで品切れだ。おかわりするなら、またあのクマを仕留めなければならない。

……うん、ヤダね! 命も危険だし武器も壊れるし!

「また鹿肉ぅ~?」

同室の性欲魔人であるリットは、自分では狩りにも行っていないというのにそんなケシカランことを言った。

クラスみんなで行った狩りから、すでに5日が経過している。詰まるところ明日はもう週末であり、平日はずっと肉と言えば鹿肉が提供されていた。

まあ、実際飽きるけどね。イノシシ獲りてぇなぁ……イノシシは脂が美味いんだよなぁ……。

「んでリットも明日はいっしょに行くよな?」

「なんで。ヤダよ。だって片道1時間以上かかるんでしょ」

「はぁ~? 女子だって行くって言ってるのに~?」

「女子は女子。ボクはボク。それにちょっとやらなきゃいけないこともあるし……」

「教科書筆写か? アレって大体終わってなかったっけ」

ページ単位でのアルバイト料支払いのために、リット先生が大車輪の活躍を見せ、俺から金貨を巻き上げていた。

おかげで早め早めで教科書を返すことができて、キールくんへの負い目がちょっと軽くなった。いやほんと、キールくんには助けてもらいまくりなのでなにかでお返ししなきゃなんだけどね。

キールくんへのお返し……まったく想像できない。むしろなにか返しに行ったらステーキおごられそう。一生ついていきたい公爵家ランキング堂々の1位。

「大体終わってるけど、ボクはボクでやらなきゃいけないことがあるんだよっ」

んべっ、とリットはベロを出した。

なるほど、女がらみか……とか考えていたら「違うから」と言われた。まだ言葉に出してないのに!