軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

似たもの同士(きのこたけのこ戦争)

* トッチョ=シールディア=ラングブルク *

藪の中に潜め、あとソーマが言った。そしてどちらかの横を通ったら 近いほうが(・・・・・) 仕留めるべし、と。

ということは、である。

鹿はきっと、獣道を通るのだからそちらに近いほうに陣取ったほうがいいに決まっている。

「よし、それじゃその辺に潜むぜ」

トッチョは藪の中にスペースを見つけ、獣道から遠いほうのスペースを空けて座った。

「…………」

するとスヴェンは藪を踏んで、トッチョよりも獣道側に座った。

「…………」

トッチョは立ち上がり、藪を踏んでさらに獣道側に座った。

「…………」

スヴェンは立ち上がり、藪を踏んで——などということを繰り返していたら、ふたりは当然獣道まで出た。

「てめえ、どういうことだ?」

「どういうこと、とは?」

スカした顔で聞いてきやがる——イラッとしたが、自分に言い聞かせる。おいおいトッチョよ、お前は男爵家でも将来を嘱望された槍の名手だ。こんな朴念仁をまともに相手にするなよ?

「いいかスヴェン、よく聞け。俺の武器はこいつだ」

トッチョは槍をくるんでいた布を解く——と、そこには深い藍色の柄を持った槍が現れた。

穂の部分は刃が真っ直ぐに立っているだけの直槍である。

その下に金属によるカバーがなされ、あとは藍色の柄となっていた。「突き」に特化した槍だ。

「ようやく覆いを取ったか。後生大事にしまっておくのかと思っていたぞ」

「……てめえ」

スヴェンにしては饒舌に、トッチョに反発している。

実はスヴェンは、師匠として尊敬しているソーマとともにトッチョが行動するのが気にくわないのだ。ソーマは、自分の才能を開花させてくれた天才にして恩人。そのソーマに気安く話しかけるトッチョが目障りなのである。

挑発されたトッチョだったが、なんとか持ちこたえた——オーケー。俺はクールな男だからよ。こんなクソッタレにあーだこーだ言われても鉄の理性があるぜ。

「ちょっとでも考えりゃわかるだろうが。槍と剣じゃリーチが違う。野獣を仕留めるのには槍のほうが有利だ」

「【剣術】のエクストラスキル『 斬撃(スラッシュ) 』があれば広範囲に野獣を狙える。つんつんつつくだけの槍など、笑止」

「てめえええええ!」

鉄の理性は一瞬で錆びついたようだ。

「俺の腕なら一点打てば当てられるんだよ!」

「武器の有利不利の話ではなかったのか? まあ、腕においても負ける気はない」

トッチョはスヴェンの胸ぐらをつかんだ。

「あ゛ぁ!? もういっぺん言ってみろや!」

「何度でも言う。俺のほうが強い」

そうしてそこへ、鹿が突っ込んできた。

「お前らぁぁぁあああ! なにケンカしてんだよおおおお!!」

聞こえてきたソーマの声に——。

「あ゛ァッ!?」

「むう!」

ふたりは鹿へと向き直り、

「 正突(ピアース) !!」

「 斬撃(スラッシュ) !!」

突如放たれたエクストラスキル。

鹿は驚く間も、恐怖する間もなかっただろう。

槍は鹿の胴体を貫き、斬撃は鹿の首を斬り飛ばした。

「————」

どさっ、と首が地面につくのと同時に、鹿もその場に崩れ落ちた。

* ソーンマルクス=レック *

ケンカしていたと思ったら、これだよ。容赦なくエクストラスキルをぶっ放したふたりはあっけなく鹿を仕留めてしまった。

「おいおい……ひっでえ格好」

「うぇ~、ぺっぺっ! なんだよこれ!?」

「なにってそりゃお前、血だよ。返り血」

「…………」

「スヴェン、黙ってるとこ悪いけど、お前も真っ赤だぞ。首なんて斬り飛ばすから、そりゃ血が飛ぶわ」

ふたりは鹿の血を身体中に浴びており、軽いスプラッター状態である。

「ソーマ! てめえそんなこと一言も言わなかったじゃねえか!

「は? 返り血くらいあることは想定済みだろ? 模擬剣、模擬槍だけを振り回していくつもりだったのか?」

「ぐっ……」

とはいえ、俺も初めて4本足を仕留めたときは返り血を浴びたんだけどな!

生臭くて、鉄臭くて、たまらんわ。すぐ慣れたけど。

「じゃあお前も血を浴びろ!」

ぶんっ、と腕を振ってきたのを俺は余裕でかわした。

「バカめ。そんな動きで俺をとらえられるかっての」

「ぐぬぬ」

トッチョがぐぬぬしているこの姿、クラスのみんなにも見せてあげたい。

「そんじゃ、近くの小川にでも鹿を持ってって血を抜くぞー」

「え……そのまま持って帰るんじゃないのか? 俺、さっさと帰りてえ」

「はー、これだからお貴族様は」

「貴族は関係なっ……」

「あのなあ、鹿は血を抜き、川の水にひたすことで体温を下げることができるんだ。そうすると肉の劣化を緩めることができてな——」

「あ、あ……」

「——同じ肉を食べるにしてもこの処理があるとないとじゃ味が変わるんだぞ? それに解体すれば、食べない部分を廃棄していけるし、荷物も軽くなる」

「う、後ろ……」

「あん?」

ぷるぷるしながらトッチョが俺の背後を指差している。

はっはっは。子供だましか。俺が後ろを見た隙にがばっと抱きついてきて血を塗りたくる気だな? 残念ながらその方法は通用しない! なぜならすでにレプラが俺に仕掛けたことがあるからだ!(そのときは引っかかった)

「し、師匠……」

と思ったら。

あれ? スヴェンも俺の後ろを指差してる?

「…………」

さー、という音がした。ああ、人間、血の気が引くときってマジで音がするんだな……。

俺、恐る恐る後ろを振り返った。

そこは森。先ほどまで俺が走り回っていた森が広がっている。

広葉樹が広がっていて地面はでこぼこだ。慣れない人間が走るとすぐに転ぶ。

そんな森の中に——。

『ゼッ、ゼァッ、ハァッ、ハァ、ゼァアッ』

身長3メートルは超えようかという巨大な熊がいた。

毛並みは赤茶色。肘から先は燃えるように赤い毛並みとなっている。

口からはよだれをダラダラ流し、目はらんらんと充血していた。

レッドアームベア。

俊敏な動きととてつもないパワーを誇る、森の暴れん坊。

好物は、人間——。

* 冒険者ギルド・サウスロイセン州支部 *

クラッテンベルク王国王都の北西、およそ200キロほど行った場所にサウスロイセン州の州都がある。

ロイヤルスクールから西の森は広く、間に山脈を1つ挟むが、さらにその向こうの森林地帯を越えたところに州都があった。

州都の人口は10万人を数え、大きく発展している都市である。

ここの建物には大きな特徴があった。屋根に、瓦のようなものが使われているのである。大きさは扇子を広げたようなほどだったが、これは色とりどりの「鱗」だった。

この鱗は州都の東側にある湖沼群で採れる。草食だが巨大な魚が棲息しており、年に1回鱗が生え替わるのである。湖沼群は地下水道でつながっており、鱗を排除しなければ水の流れが悪くなるということもあって地引き網で魚のついでに鱗を回収していたのだが、どうにか使い道はないものか——と大昔の人々が頭をひねり、軽くて丈夫、水に強いのなら「屋根を 葺(ふ) いたらどうだ?」という発想から今に至るらしい。

「どいたどいた! 新しい依頼が出るぞ! お前らヒマな冒険者向きの仕事だ!」

州都にはあらゆる都市機能が備わっており、「冒険者ギルド」もそのうちのひとつである。だが、美男美女がいて、駈け出しの若い冒険者はベテランにいじめられて——みたいな冒険者ギルドではない。

この世界の「冒険者」とは、その名の通り「危険を冒す者」。他の職業に就けず、仕方なくこんな仕事をやっている——そういう者が圧倒的に多い。

ドブさらいに害虫駆除、借金の取り立て、盗賊の殲滅、仇討ち——およそまともな人間にはできない仕事を請け負っている。

中には「英雄」なんて呼ばれる者もいて、吟遊詩人が歌っちゃったりするのだがそんなのはごくごく少数のことである。

そんなわけで。

冒険者ギルドは、併設されている酒場で昼から飲んだくれている、腕に覚えのありそうな人相の悪いごろつきどもの集まる場所になっているのである。

カウンターの向こうにいるのはコワモテのオッサン、素材の買い取りをするのは愛想のないジイさん。どこにも美人の受付嬢やロリババアの魔法使いはいないのである。

「あぁ? 昼から依頼だ? まーたロッケのババァが逃げたネコを探せとか言ってんだろ?」

眼帯をつけたスキンヘッドの男が言うと、ドッと笑い声が上がる。

だが「依頼」を持ってきた角刈りのオッサンは真顔だ。

「——南の森にレッドアームベアが出た」

途端に、ざわついていたギルド内は静まり返る。

眼帯の男が代表して、聞き返す。

「ギルマスよぉ、そりゃ間違いねぇんだろうな? レッドアームベアだぞ」

「間違いない。 あの(・・) レッドアームベアだ。『 彷徨(うろつ) く災害』、『出会ったらまず逃げろ。逃げ切れなければあきらめろ』のレッドアームベアだ」

ごくり、と数人がつばを呑んだ。それほどまでにレッドアームベアの危険は周知されていた。

「すでに人を食っている」

「!? 人の味を覚えたってことか! そんなら軍の出番だろ!」

そうだそうだ、と声が上がる。

だが角刈り——ギルドマスターは渋い顔をした。

「……森の中の出来事、ということで、兵士は出さないらしい。ただでさえ国境が騒がしいのに、森になど戦力を出せないというのが軍部上位の 碧盾樹騎士団(エメラルドイージス) による判断だ」

「森の中、じゃねえだろ!? あの辺はカロの村に、ヒミル村、白葉の湖もある! ここらの住民にとっても大事な場所じゃねえか!」

「だから、だ。だからこそ ギルド(おれたち) がなんとかするんだ」

有無を言わせぬギルドマスターの言葉に、冒険者たちは——ふだんならばどんな荒事にも立ち向かう彼らだというのに——気圧される。

「……レッドアームベアの危険度は上級下位だ。下級のヤツらは間違っても手を出すんじゃないぞ、偵察に行っても追いつかれて食われるだけだ。中級中位以上は、依頼を受けてくれて構わんが……2パーティー以上で行動してくれ」

沈黙が場を支配する。ギルドマスターは依頼書を貼る掲示板に、紙を画鋲で貼り付けた。

真新しいその紙へと視線が釘付けになる。

「あ〜あ……ったく、遠征から戻って娼館でしっぽり過ごすかと思ったらこれかよ」

と言いながら、眼帯の男が立ち上がると、同じテーブルの面々もまた立ち上がった。

「パーティー、『赤鉄旋風』はこの依頼を受けてやる」

おおっ、とどよめきが起きると、別のテーブルでも冒険者たちが立ち上がる。

「……パーティー、『天たなびく雲』もこれを受けよう」

「『湖畔の絆』も受けるぜ!」

「俺たちもだ!」

「ウチも!」

にわかにギルド内は興奮に包まれる。

「お前ら……」

へっ、とばかりに鼻をこすったギルドマスターが、宣言する。

「ではこれより、レッドアームベア討伐のための作戦会議を開く!」

うおおおおっ、と声が上がった。

と——そんなサウスロイセン州都、冒険者ギルドで起きていることなど今現在レッドアームベアに遭遇しているソーマが知るはずもないのだが。