軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

やっぱり彼は、勝手に手を打つ

* キルトフリューグ=ソーディア=ラーゲンベルク *

柔らかな金髪はゆるくウェーブが掛かっており、見た目のあどけなさとも相まって「天使」とソーマが呼ぶこの少年、キールは、手にしていた紙の束から視線を上げた。

「……この報告内容は本当だということですね」

「そうですもの」

向かい合って座っている少女はキールに負けず劣らずの美形であり、どちらかと言えばとっつきにくさを感じさせる。

温かなピンク色の髪や目とは裏腹に、ついたあだ名は「吹雪の 剣姫(けんき) 」。

リエルスローズ=アクシア=グランブルクはうなずいた。

ふたりがいるのは部屋と見まがうばかりの馬車だった。

「私にこの報告が届いたときにはさすがに耳を疑いましたが……あなたの調査結果を突き合わせると真実としか言えません」

苦り切った顔でキールは言う。

「……黒鋼寮の食堂に食肉を提供しないよう商会に圧力を掛けるなどと……これが騎士になろうという人間の行いですか」

すでに黒鋼寮に肉がない問題はキールも耳にしていたのだ。

ねちっこく、遠回し。いかにも古い貴族が好みそうな手段である。一気に正面から叩きつぶすのは エレガント(・・・・・) ではないからと、じわじわと相手を追い詰めるのである。

この世界にチェスや将棋はないのだが、それに近い 戦略遊戯(ゲーム) が存在する。ゲームでは何手もの先を読んで相手を追い詰めていく手法こそが「よい」とされているので、リアルの貴族間競争においてもそのような手段はよく使われる。

問題は、この「肉がない問題」は「最初の一手」に過ぎないということだ。

さらに問題は、この「最初の一手」がめちゃくちゃ効いているということだ。

「それだけソーマさんを脅威に思っている者が多いということですもの」

そう言いながらもリエリィは特に心配した様子もない。

「……リエルスローズ嬢は、ソーマくんを信頼しているのですね」

「はい」

笑顔も見せず、淡々と答えた少女の胸にどのような思いがあるのか、キールは知らない。いくらキールとはいえども、まさかリエリィがソーマと決闘をして負けたなどという情報は手に入れてはいなかった——知っているのは当事者であるリエリィとソーマのふたりだけだった。

「ですがこの問題は放置できません。多くの生徒に影響が出てしまいます」

「……大丈夫なのです?」

「どういう意味でしょうか」

「あなたも、大きな問題を抱えていますもの」

「!」

リエリィの指摘にハッとしたようにキールが顔を上げた。

「……その話をどこで?」

「情報源は明かせませんもの。でも、この話はほとんど誰も知らないことです」

「そうでしょう。知られては困ることです。——私のことは気になさらないで結構。これでも自分の身を自分で守れる程度の教育は受けております」

リエリィは小さくうなずいた。

リエリィの家も伯爵家であり、古い歴史を持っているが、それでもキールの生まれた公爵家——この王国でもトップクラスの権力を持つ「大公」と呼ばれる3つの公爵家に比べれば、新参である。

「では、キルトフリューグ様はどう動かれます?」

「……あなたに、少し調べていただきたいことがあります」

それからしばらく、ふたりは話し合いを行った。

あらかたやるべきことがまとまったところでキールはつぶやく。

「ソーマくんならば、私たちがなにかをしようとするより先に、なにか手を打ってしまいそうな気もするのですけれどね……」

それがどんな結果を引き起こすかわからないから、早めにこちらも行動しなければならないのですけれども、という言葉を呑み込んだ。

* ソーンマルクス=レック *

「はい、みんな注目〜」

それから5日が経った。

週末になっても、当然肉の入っていない朝食にげんなりしている黒鋼1年男子たちに俺は言った。

またソーマがなんか言ってる、またソーマだ、またソーマがなにかやらかそうとしている……と言いたげではあるんだけど、彼らの目に力はこもっていない。

それほどまでに「肉がない生活」というのが気持ちを削いでいったらしい。

特に武技の授業があったりすると気持ちの低下はてきめんで、この状況がさらに1週間でも続けば武技を欠席する生徒も出てくるだろう。

残念ながら「肉を断って骨まで断つ」という敵の作戦は大成功している。

「みんな知ってると思うけど、肉がない」

知ってるわボケ! という返事を期待していたがそんな声も返ってこない。あの悪口を言うために生まれてきたようなトッチョですら元気がなく、スヴェンは真面目くさった顔でこちらを見ており、リットだけはクロワッサンにヨーグルト、それにサラダという草食動物みたいな食生活に満足していた。

ちなみに上級生たちはどこかで自分の分の肉は調達しているようだ。そういう如才のなさがあるからこそ過酷な1年次をなんとか生き延びたのだ——そしてみんな二日酔いで朝は遅いためにここにいない。

「だから、肉を手に入れようと思う」

するとあわてた様子でリットが腰を浮かせた。

「ダメだよソーマ! 強盗は犯罪だよ!」

「おいおいリットくん? しゃべったと思ったら俺をなんだと思ってる? なあみんな——」

しーん。

「……ショックだわ……みんなの俺の認識って『強盗を企てそうなヤベーヤツ』ってこと?」

「いや、みんなはなにか言う元気もないだけだと思うけど。……で、次はどんな無茶ぶりをしたいわけ?」

「無茶ぶりじゃないって。俺、ド田舎の出身なんだけど、そこじゃ肉なんて買おうと思っても手に入らないわけ。でも俺は自分の力で肉を手に入れていた——だからここでも同じことをして肉を手に入れようと思う」

俺がそう話すと、男たちの目の色が変わった。

体験談だからかもしれない。田舎にいた12歳までの俺が、簡単に肉を手に入れていた方法があるのならやってみてもいいと——。

……うん、リットだけはうさんくさそうな目でこっち見てるな? ほんとに俺ってそんなに信用ないんかな?

「ど、どんな方法なんだよソーマ!」

「落ち着けトッチョ。……みんな、俺といっしょに肉を手に入れに行かないか? 幸い今日明日は週末でお休みだから、みんなで行けば、しばらくは食うに困らないくらいの量が手に入ると思う……」

とまで言うと、「はい! 行きます」とか「行く行く早く行くぞ!」とか「荷物持ちなら任せろ!」という力強い声まで聞こえてくる。

なんだ、元気じゃん。

ま、いいか。元気じゃなきゃ肉なんて手に入れられないしな。

「わかったわかった、みんな元気で大変よろしい」

だから俺はにっこり笑った。

「じゃ、武器を持って行こうか。郊外の森で野獣ハンティングだ」

直後、ロビーは水を打ったように静まり返った。