軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そして、さらなるレベルアップを目指して

グーピー先生が他の教員の手で連れ去られていく。それを見て碧盾クラスの生徒たちがざわつき、何人かは快哉の声を上げている。どんだけ嫌われてたんだよ……。なんか、ああまでなっちゃうとかわいそうにも見えるな。

ひとり、三つ編みの女の子がこっちを見ていた。あ、俺が碧盾の授業に乱入したときに怒られてた子か。

彼女は俺にぺこりと頭を下げるとどこぞへと去っていった。

「ソーマくん」

その間にも 白騎の天使(キールくん) はこっちへやってきていた。

ちらりと掲示板を見やると苦笑いしながら、

「……さすがですね。勝てるとは思っていませんでしたが、これほど差がつくとは……」

「それはこっちのセリフだよ。白騎クラスってやっぱ優秀なんだな」

キールくんは個人順位の話で、俺はクラス順位の話だ。

白騎クラスの皆さんは俺を憎々しげに見ながらも、その目に侮るようなものはもはやなくなっていた。

おー、怖。

彼ら本気になっちゃったか。

俺たちのクラス順位1位は夢のまた夢だろうか。いやしかし、こちらにはトッチョという足を引っ張ることに関しては希有なる男がいる。こいつの底上げをすればあるいは……!

「ソーマくん、次回はわかりませんよ?」

「ああ。ていうかそのうちキールくんには抜かされるってわかってるし」

「? そうなのですか? なら、ソーマくんは退学になってしまうのでは……」

最後のほうは小さい声だったので他の人には聞こえなかったろう。

ていうかキールくん、知ってるんだな。俺が1位を取り続けなければ退学しちゃう病を患っている……じゃなかった、そういう「条件」をつけられたってこと。さすが公爵家。

「それは大丈夫」

「大丈夫——そうですか。ソーマくんが大丈夫と言うなら大丈夫なのでしょうね」

にこりと笑ったキールくんはマジ天使。

そう、大丈夫なのだ。試験でキールくんに抜かれても俺は退学しないで済む——それこそが、学園長と童顔オッサンにつけたもうひとつの「条件」だったんだ。

「座学」だけでなく「実技」も含むいずれかで「1位」ならば退学しない、ってな。

簡単にその条件を呑んでくれたよ。

「座学」はともかく「実技」なんて無理だろ、って思ってる表情がありありと見えたもんな。

くくく……まさか累計レベル12と勘違いされていたことがこんなところでプラスに働くとは! 世の中なにが起きるかわかんねーな!

「あの、キールくんさ……決闘場のこと、なんかしてくれたんだろ? 助命嘆願みたいなの」

「そのくらいはたいしたことでは……」

「ありがとう」

俺はがばりと頭を下げた。

だってさ、俺がピンチだったとき——前世で会社を整理しようと走り回ってるとき、誰も助けてくれなかった。友だちは学生でなにもできなかったし、会社の人も冷ややかな目で見て、取引先は手のひら返しでむしろこっちを責め立てた。

だから、キールくんの手助けがめちゃくちゃうれしかったんだ。

「ソ、ソーマくん、頭を上げてください」

あわててるキールくんが可愛い。

「と、友だちとしては当然のことでしょう?」

友だち、という言葉に顔を赤くしているキールくんがマジ可愛い。俺の横でリットが「ヒィューッ……」て喉の奥から妙な息を漏らしてしまうくらいに可愛い。いいかリット。キールくんは男だ。間違えるなよ?

「友だち、だけじゃなく、ライバルでもあるけどな」

「はい。こんなところでソーマくんに脱落してもらってはライバルになりませんよ」

いいのかいいのか。そんなこと言っちまって。「あのときソーマのヤツを退学にさせておくべきだった……!」とかなるかもしれないぞ?

なんてな。

軽口叩こうかと思ったけどキールくんの「ライバル」発言で白騎の皆さんが額に青筋立ててブチ切れていらっしゃるし、リットやオリザちゃんたちはじりじりと後じさって逃げようとしてるんですが。

身の程知らずってことですね、わかります。でも俺とキールくんのことなんだからいいじゃん! 外野のみんなは俺たちをそっとしておいてくれよ!

「あと、グランブルク家のリエルスローズ嬢も協力してくださいました」

「リエリィも?」

「「……リエリィ?」」

おかしいな。

緋剣クラスの「吹雪の剣姫」ことリエリィと親交があることは確かにリットには黙っていた。だからこそリットが「そんな話聞いてませんけどォ!?」って顔をするのはわかる。ていうか俺のちょっと後ろにいるから見えないんだけどたぶんそういう顔をしている。

だけど、キールくんまで「は? なに親しげに愛称で呼んでんの?」って顔をするのはなんで?

ま、まさか……キールくんの許嫁とかそういうヤツなの!? 貴族って婚約者とかいるっていうし!

「ごめん、キールくん……リエリィとはネコを捕まえる同盟を組んだ間柄なんだ」

「え、え? ネコ? え?」

「だから、深読みしなくても大丈夫!」

「あ、はあ……」

キールくんはよくわからない、という顔をしていたが、取り巻きのひとりに「そろそろお時間が……」と話しかけられ、そのまま引き返していった。政治家の先生みたいだ。いや、政治家の息子みたいなもんか。

「よし、それじゃ俺たちも帰ろうか。 黒鋼寮(我が家) へと!」

テストはいい結果だったし、決闘場のこともまぁなんとかなった。

今日は宴会か? 宴会だよね?

と、ノリノリで俺が振り返ると——。

「ソォォォォマァァァァァァァァ」

リットがすごい顔してる!? あとオリザちゃんや他のクラスメイトもなんか怒ってらっしゃる!

「い、いやぁ……ね? キールくんとのことは成り行きでさ……で、でも大丈夫だよ! 黒鋼クラスで1位取るとかはさすがに言ってないから」

俺が言うと「当然だ」とか「バカか。いやバカだったわ」とか失礼な声が男子から聞こえてくる。

だけど、それだけじゃない。

「白騎クラスをライバル扱いすんなバカ! どんだけ貴族に目をつけられたいんだよ!?」

とは 同室者(リット) のありがたいお言葉。

「アイツらに目ぇつけられたら実家までやべーんだよ!」

とは お姉様(オリザちゃん) による当然の抗議。

「『吹雪の剣姫』とどうやって仲良くなったんだよ死ね!」

とは 太っちょ(トッチョ) を始めとする男子の総意。

「師匠、剣の修行をしましょう」

とは 馬鹿(バカ) の平常運転。

(ああ——)

俺はなんだかうれしくなった。

冗談めかして「我が家」とか言ってみたけど、このクラスメイトとたった1か月過ごしただけで、なんかもうものすごく深いつながりを持てたんじゃないか——ってそんな気がしたんだ。

やっぱり、無理してよかった。

誰も辞めさせないってぶち上げてよかった。

今ここで誰か1人でも欠けていたら、俺はきっと後悔してた。それに今、みんながこんなに浮かれまくってはしゃぎまくるようなことだってなかったに違いない。

だからさ。

みんな、もっとやろうぜ? この学園に見せつけてやろうぜ? どんどんレベルアップしようぜ!

「やっぱり次は、実技だよな……」

「ん? なに?」

「なんでもないよ、同居人」

俺たちは、それはそれはにぎやかに——あとで怒られるくらいには——騒ぎながら黒鋼寮へと戻ったのだ。