軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そしてふたりが遭遇する

* リエルスローズ=アクシア=グランブルク *

第4決闘場に向かって走っていくリエリィにとって幸運がひとつあった。それは途中で、白ブレザーの集団に遭遇したことだった。

同じ1年生であり、その集団の中心にいるのは——まるで少女かと思うほどに整った容姿の公爵家令息、キルトフリューグ=ソーディア=ラーゲンベルク。

「血筋の白騎」、「武勇の蒼竜」、「容姿の黄槍」——ならば「緋剣」はどうか?

これには意見が分かれる。

ある者は女性だけであることから「可憐の緋剣」と言う。

ある者は少数ながら精鋭が集まっていることから「結束の緋剣」と言う。

ある者は全員が剣だけを使うことから「剣舞の緋剣」と言う。

そのどれもが正解であり、同時に本質を捉え切れていない。

ある重要な、緋剣を緋剣たらしめる側面が入っていないからである。

緋剣の少女たちの中には将来的に諜報——スパイとして活躍することを期待される者が出てくる。そのため「女性」を武器にした授業が行われるのだ。

これによって緋剣の所属者は特別なネットワークを持つことになり——彼女たちは密かにこう考えるのである。

「情報の緋剣」、と。

リエリィは瞬時にキールに関する情報を引っ張り出す。

——「バカ」がつくほどに真面目なラーゲンベルク家の天才児。

——潔癖なまでに遵法精神が高く、いかなる不正も許さない。すでに今日のテストでの 優遇(・・) を断ったとか。

——剣技のレベルも極めて高く、この学年に敵はいないという。

強くて、不正を許さない男——今この状況にもっとも必要な存在だ。

「——ラーゲンベルク様」

走るのを突然止めたリエリィが、いきなりその場に片膝を突いて30メートルほど先の集団に呼びかけたものだから、後から追ってきたトッチョの取り巻き4人もぎょっとして立ち止まる。

「何者か」

キールの取り巻きが彼をかばうように前に出る。その警戒心は少々 薄い(・・) 。なぜならリエリィがかなりの距離を取り、しかも「臣下の礼」を取って声を掛けたからだ。

それでも、さほど大きな声ではないというのに30メートルも離れてハッキリと聞こえてきた彼女に、取り巻きたちは怪訝な顔をする。

「グランブルク伯爵家が娘、リエルスローズでございます」

「!!」

顔を上げた彼女を見た取り巻きたちが一瞬動きを止める。

彼らの中に「吹雪の剣姫」を知らぬ者はいない。さらに伯爵家であるならば場合によっては白騎クラスに入っていてもおかしくはないのだ。

だがそれは逆に、名家と言われるグランブルク家の娘であるはずのリエリィが、なぜ白騎に入れなかったのかという疑問にもつながっている。

白騎の中では「新参」「格下」と思われている伯爵家の息子が口を開いた。

「フン、白騎に入れなかったグランブルク家か。お前のような者がキルトフリューグ様に直言するなど無礼もいいところだ。控えろ」

ふだん、白騎クラスの中でも肩身の狭い思いをしている彼からすれば、他クラスの伯爵家など憂さを晴らすいい相手なのだろう。

だがその振る舞いはあさましく見え、他のクラスメイトたちが眉をひそめていることには彼は気づかない。

顔を上げたリエリィが彼を見据えると、その迫力に「うっ」と少年は怯んだ。

「ではキルトフリューグ様に伝言をお願いいたしますもの」

「なっ、は? で、伝言?」

「直言がかなわぬのでしたらご伝言をお願いしますもの」

伝言しろ、と言いつつ目の前にその相手がいるのだから、それはすなわち直言となんら変わらない。

リエリィからすればキールと話すことは目的を達成するための手段でしかない。こんなところで時間を浪費するわけにはいかないのだ。

「バカな! ここにいらっしゃるのがどなたと考える!? お前のような者が——」

「止してください」

ちょっと呆れたような顔でキールは言うと、取り巻きたちの間から前へと出てきた。

「どうしました、リエルスローズ嬢。あなたの叔父上からは昨年、稀覯本をお贈りいただきまして大変ありがたく思っております」

「——ラーゲンベルク様、用件のみ申し上げる非礼をお詫び申し上げます」

伯爵家の娘であるリエリィが、無礼を承知でなにかを言おうとしている——その事実に気がついてキールの表情が真剣なものに変わった。

それほどにリエリィの出身家、グランブルク家には信用がある。

「第4決闘場で貴族による私刑が行われています。対象は1年生の男爵家です。教員はこの件について介入しないと決めたようですが、これを放置することは学園の自治においてふさわしくありません。私は止めるために行動しますもの」

トッチョのことは伏せた。彼が黒鋼クラスであることがどう影響するかわからなかったからだ。さらにはソーマが絡んでいることも。

だがそれを聞いた取り巻きのうち3人ほどが明らかに顔色を変えた。

(……このことを知っているようね?)

教員にまで手が回っているのだから、高位貴族家の生徒が知っていてもおかしくないとは思っていた。だが1年生にまでその情報が回っているとは。

「わかりました。私もリエルスローズ嬢に同行します」

「いけません、キルトフリューグ様。これからお茶会ではありませんか。間に合わなくなります」

顔色を変えたうちのひとりが止めに入る。

「いえ、物事の優先順位を間違えてはいけません。お茶会は延期できますが、学園の自治を実践するチャンスを逃せば二度目はありませんよ」

「で、ですが!」

「キ、キルトフリューグ様! それならば我ら3人が決闘場へ行きます!」

「そうです、そうしますので!」

よほどキールが決闘場に向かうのはマズイと思っているのだろう——おそらく今日のお茶会とやらも彼らが仕込んだものに違いないとリエリィは考えた。

テストの日にお茶会というのは、あまり褒められたことではない。疲れているだろう相手を誘うのはマナー違反だ。

「いけません」

取り巻きに取りすがられたキールだったが、しかしきっぱりと応えた。

「み、見てください! あそこに4人の黒鋼クラスがいます。きっと黒鋼クラス内での私刑でしょう。であれば我らが関与することではありません!」

ぼんやりと成り行きを見守っていたトッチョの取り巻き4人組は、いきなり指をさされて飛び上がる。

「そうだろう、お前たち!」

「あ、そ、その……」

呼びかけられ、しどろもどろになる4人組だったが、明確な否定はなかった。

「黒鋼クラスのことは黒鋼クラスに任せましょう!」

「それがいいと思います」

「キルトフリューグ様が関わることでお名前に傷がつきます」

マズイ、とリエリィは思った。各クラスの問題は各クラスの内部で解決するというのは暗黙のルールだ。

「ラーゲンベルク様、これは——」

「だからなんだというのですか」

リエリィが声を上げる前に、キールが言った。

「我らは同じ学園の生徒でしょう。そしてこの国を守る六大騎士団の候補生でしょう。クラスが違うからと言ってなにも変わりはありません。行きましょう、リエルスローズ嬢。案内してくれますね?」

「あ、はい……」

バカがつくほどに真面目でルールを守る少年であるならば、ここで手を引くのではないかと思った。だが、彼は無条件で「行く」と言った。

暗黙のルールよりも、有名無実と化したお題目のルールを選択したのだ。

(この人が、「栄光の世代」の頂点……)

走り出しながらリエリィは思う。自分もまた「栄光の世代」とやらに含まれているのはまったく身分不相応だと思っていたし「栄光の世代」などと言っている生徒は自分もまたそこにいることで喜んでいるだけではないかと考えていた。

だが、キールは違うかもしれない。

彼は本物かもしれない——。

「あそこですもの!」

第4決闘場が見えてきた——とき。

ぎぃやぁああああああああ——……。

断末魔のごとき絶叫が、聞こえてきた。