軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そして試験当日へと至る

あのさソーマ、とリットが切り出したのは金曜の夜だった。

明日の土日授業のために準備していた俺に話しかけてきたのだ。ああ、スヴェンなら俺の 隣(のベッド) で寝てる。

「碧盾クラスにケンカを売った件なんだけどさ」

「うっ、まだなにか……?」

俺の脳裏に、鬼気迫るリットくんの顔がよみがえる。

「もう怒ってないって。どうしてそんなにびくびくするかな」

あのあと夢にまで見たんだぞ! 確かに、「証人」に巻き込んだのは俺だけども。

「ソーマはさ、クラスの人たちにはケンカ売ったこと話してないよね」

「うん」

「なんで」

「や、だって関係ないじゃん?」

「……ボクは?」

「ひとりは寂しかったので、つい」

つい、じゃないよ! と怒られるかと思って身構えた俺だったが、リットはハァ~とため息を吐いただけだった。

「まあ、それはともかくさ……妨害があるとは思わないの?」

ん、妨害?

「黒鋼が碧盾にケンカを売ったら、向こうだって本気でつぶしに掛かってくるでしょ」

「いやいや、テストで点数競争するのにつぶすもなにもないだろ。あっはっは、リットは面白いこと言うなぁ」

「…………」

「……リットさんや」

「…………」

「リットさぁん! ないよね!? 本気でつぶすとかないよね!?」

「あるんだよなぁ……」

「あるの!?」

「まあ、直接的に襲撃する、なんてことはないだろうけど、あとで咎められないギリギリのことはあるかもよ? たとえば——」

リットは次々に思いつく範囲の妨害の例を挙げた。

「……それは、あり得そうだな」

と、俺にも納得できる範囲のことだった。

それらはいわゆる「試験そのものの妨害」である。

ていうかすごいねリット。君、嫌がらせの才能あるよ? ——とか思っていたらすごい顔でにらまれた。この子結構勘が鋭いよね?

「あ、えっとさ、リット! それなら対策できる、できるさ」

俺が言うと、リットは驚いたようだった。

「……マジで?」

「大マジだよ。むしろ今言ってくれてありがとうだよリット。対策できるわ。つーか対策するわ」

「そ、そう? それならよかったけど」

「……リット、一応念のために聞くけど、さっき言った『直接的に襲撃する』はないよな? それやられたら対応しきれない」

「さすがにないと思うよ~? よほど追い詰められたバカ貴族はやらかすもんだけど、向こうは『絶対勝てる』と考えてるだろうから、こっちに嫌がらせして『絶対』の可能性を高めることくらいしかしないでしょ。むしろ実力行使は失敗したとき、向こうに非がある証拠を残すことになるだろうし」

「オッケー!」

俺は大急ぎで、残りの授業でなにをすべきか見直しをし、俺の授業を盗み見されない工夫を考えた。

妨害対策してるってバレたらそれがいちばん困るもんな。

「よし、それじゃ今日は全員このハチマキを巻くぞ!」

と俺は黒いハチマキを配った。

うん、全員がきょとんとしているな。

「これは、テスト勉強の能率を飛躍的に高めると言われている伝統のハチマキだ。主にニホンという地方のジュクという場所で使われていた」

「ニホン?」

「ジュク?」

うん、全員がきょとんとしたままだな。

ちなみに英語でも「塾」を「Juku」と言っても通じる場合があるぞ。

「俺は学園の入試勉強をするときはいつもハチマキをしていたんだ」

率先して巻いてみせると、ルチカがすぐに巻いた。女子数人がそれに続いて、男子たちも「マジかよ」という顔をしながらもハチマキを巻いた。

「はぁ~……これで満足か?」

オリザちゃんがため息とともにハチマキを身につけると、うーむ、絶望的に似合わないな。大人っぽいオリザちゃんにハチマキ(しかも黒)。

しかしそのオリザちゃんのおかげで残りのクラスメイトもハチマキを巻いていく。いやほんとお前ら俺よりオリザちゃんの言うこと聞くわけ? 聞くよね……俺もオリザちゃんの言うこと聞いちゃいそうだわ……。でも蹴りは勘弁な。

で、「絶対ボクはつけないからな」と事前に宣言してくれちゃっていたリットも周囲を見回し「マジで?」という顔をしてから俺へと視線を向けてくる。

うん、と俺はうなずいた。

頭をかきむしってしばらく突っ伏してから、リットもハチマキを巻いた。よく似合ってるぞ、リット。うぷぷぷぷ。

スヴェン? 教室に入った時点ですでに巻いてたぞ。「師匠からプレゼントをいただけるとは」って感極まってた。尻尾振ってた。

「よし、それじゃ土日はみっちりやるぞー!」

俺が声を張り上げると、「おー」という控えめな声が返ってきた。

わかっている、こういうノリについてくるのはなかなかしんどいよな。

でもな、この「おー」はだんだん大きくなっていくんだ。

「『神話』やるぞー!」

「おーっ」

その2時間後。

「『算術』いくぞー!」

「おーっ!」

日が暮れそうな時間帯。

「最後『法律』やるぞー!」

「うおおおおおおお!」

やけっぱちになっていくのである。

そうなるとしめたものだ。暗記の反復も、脳は動いていないが身体に覚えさせる勢いでどんどんやっていく。

そんなこんなで残りの日々はあっという間に過ぎて——。

「これで……俺の授業はすべて終わりだッ」

俺の喉までガラガラになっていた。

黒ハチマキを配ってから一週間——直前の日曜日の夕方である。

あとはしっかりご飯を食べて、ゆっくり眠ること。寝不足は絶対にダメである。

「ソーマ……俺、俺はッ」

「もうないんだ、抜き打ちで法律を暗唱させられることもないんだ……」

「うおおおおっ」

男どもが俺に群がって泣いている。軽い新興宗教の誕生である。

「お姉様ッ」

「よしよし、今から泣いてるなんてバカだね。明日が本番だってのに」

「お姉様ぁ~~」

……でもどうして女子は全員オリザちゃんに群がっているんですかね? これはアレだよね、俺の周りに男が集まりすぎて女子には近寄りがたいから仕方なくオリザちゃんなんだよね? そうだよね!?

だけどまぁ……やれるだけはやった。

いよいよ明日が、試験当日。

明日1日だけの一発勝負である。

結局、トッチョは1日も俺の授業には参加しなかった。