軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冬の次には春が来る

・冬期統一テスト クラス別順位・1年生・

参加者少数クラスがあるため発表なし

・冬期統一テスト 個人別順位・1年生・

参加者少数クラスがあるため発表なし

掲示板の前で俺たちは「えぇ……」とため息を吐いた。

冬のテストのためにめちゃめちゃ勉強したっていうのに「発表なし」ですよ。

そりゃね、確かにキールくんを始めとする貴族の子どもたちが王都に残っているから、彼らを抜きにしたテストではあったけども、こんなふうに「発表なし」にするのはひどくね?

「はぁ……すまなかったな。ちょっと黒鋼寮で話そうか」

「ジノブランド先生」

寮に戻った俺たちが先生から聞いてみると、こういうことだった。

「え、クラス別順位は 黒鋼(ウチ) が1位で、個人別順位も1位から10位まで黒鋼クラスが独占!? マジですか!」

「そうなんだ。それを発表するわけにはいかんと他のクラスの先生がな……」

は〜、なるほどね、そんな順位発表したら他の学年がざわざわしちゃうわな。

ウチのクラスの子たちは発表されなかったことより、

「マジかよ!? 1位から10位独占!?」

「誰なんですかそれ!」

「座学のテストでウチのクラスが1位って初めてよね!」

「すごーい!」

実際の順位を聞いて大はしゃぎだった。

「……寝る直前まで抜き打ちテストをされていた悪夢の日々が報われたな……○」

「……オリザ様のご褒美がなければ死んでいた……×」

「……アアッ、王国式典儀礼における神殿との関わり……ウウッ……◇」

マールとバッツとシッカクの3人は泡を噴いていたけども。

「ジノブランド先生、順位が発表されなかった以上は黒鋼クラスの生徒を退学させるような強権は発動されないですよね?」

「平均点が最下位のクラスの10%を退学させるっていうアレか。もちろんだ、そんなことはさせない」

「ということは——みんな」

俺は宣言した。

「黒鋼クラスは全員揃って2年生に進級だー!」

おおおおおおっ、という声が上がる。女子もいるのに男子の数が多い上に暑苦しいヤツが多いから仕方がないんだけども。

「そうか……そうだったな」

ジノブランド先生はようやく気がついたようにつぶやいた。どこか寂しそうに。

「先生? え、もしかして2年生は担任変わったりします?」

「いや、持ち上がりで私の担任のままだろう。大体、このクラスの担任をしたいと思う教員は学園にいない」

苦笑交じりに言う。

「ただな……最初から私も君たちに協力的であるべきだった。だったら私も素直に今回のすばらしいテスト結果を喜べただろう」

「先生……」

俺は先生の肩に手を置いた。

「大丈夫っすよ! 俺、これからもヤバいことあったらジノブランド先生に処理させる気満々なんで! 罪滅ぼしでしょって感じで!」

「やたらいい笑顔で言うじゃないか!?」

ジノブランド先生に限らず、誰であってもこのクラスに対しては冷たい態度なのだ。だから、俺はジノブランド先生で良かったと思っている。過ちを認めることができる、責任感がある、生徒たちに寄り添ってくれる——当たり前かもしれない。大人なら。でも、当たり前のことを当たり前のようにできる大人って実は少ない。

それからの俺たちは新学年が始まるまで自由に過ごした。

春休みなんてものはないので授業はずっとあるのだけど、週末には王都に出かけたりしてね。「穴蔵鉄血鍛冶工房」に行って武器も新調した。俺以外にもスヴェンとトッチョも武器がボロボロになっていたので新調である。修理ではなく。ふたりのドワーフ、デコさんとボコさんは俺たちの持ち込んだ武器を見て、「このふたりはすさまじく使い込んでくれたなぁ。鍛冶職人としてうれしい限りだぜ!」と大喜びだったが、俺の武器を見ると真顔になった。「お前……なにと戦ったらこんなガタが出る?」なんていう。えっと……はい……。

そんなわけで新調である。

新武器の到着は3月中らしい。楽しみだなぁ。

3月にはキールくんたちも寮に戻ってきて、わざわざ黒鋼寮にまで遊びに来てくれた。

他の貴族の子たちも戻ってきているのでロイヤルスクールがまた騒がしくなり始めた。

もう、冬の寒さはどこかに行って、春の花が咲き始めていた——。

* レプラ&ミーア *

春の近づきとともに活気づく王都を歩くふたりがいた。

明らかに田舎から出てきたとおぼしきぼろぼろの服。

春になればよく見かける光景だ。王都と田舎の往来は多くなる。引っ越しに、商売。ものを売りに来る者もいれば買う者もいる。

だがそのふたりが違うのは、手になにも持っていないということだった。

「おおっ、すっげえなあ、王都って。さすが王都だな! みろよあの建物! 村長の家を5つ積んだくらいの大きさだぜ」

「…………」

「なあミーア!」

「……う、うん」

「なんだよお前。村にいるときは鼻血垂らすくらい元気なのに、暗い顔して」

「そ、そ、そんなことしてない、もん」

「まあ、お前が変なのはいつものことか」

「!」

少女、ミーアはきーっと歯を食いしばりながら足をバタバタさせているが、レプラはまったく気にした様子がない。そう、いつものことだから。

「にしても、俺たちどこに泊まればいいんだろうなー。ソーマもどこにいるかわかんねーし」

「……レプラが、紹介状を持ったまま川に落ちたりするから……」

このふたり、ソーマの村から王都に出てきたのだけれど、村長の紹介状をダメにしてしまっている。それがなければ王都にツテどころか縁もゆかりもないふたりである。

「しょうがねーだろ。馬が暴れてたんだし」

長い旅の途中、馬が暴れたことがあって、それを止めようとしたレプラが馬といっしょに近くの川に落ちてしまったのである。

レプラがいなければ暴れた馬は脚を折っていただろうと馬車の御者からは感謝されて移動費がタダになったりはしたが、肝心の紹介状はびしょびしょでインクも滲んで読めなくなってしまった。

悪いことには、宛名書きがあるので王都に着いてから誰かに聞こうと、ちゃんと目を通しておかなかったことだ。こうしてふたりは、王都にやってきたものの天涯孤独である。

「なんだっけ、ソーマの学校」

「ロイヤルスクール?」

「そう、そこに押しかけるしかないな」

「や、止めようよ……騎士様がいるんだよ」

「なんでだよ。ソーマがいるんだから行ってもいいだろ」

「私たちみたいな平民が行ったら、ひどい目に遭わされちゃう——」

その瞬間、ミーアの目がとろんとした。

「……暴れん坊で村では誰も勝てなかったレプラが、麗しい騎士様に初めて屈してしまい……あんなことこんなこと……ひどい目に遭わされちゃう……ハァハァッ」

「ミーア? おーい? ……ダメだ、こうなったときのミーアはしばらく戻ってこないんだった」

はあ、とレプラがため息を吐いたときだった。

「おん?」

雑踏のなかで妙な声を耳にした。

「——だから、ぶつかってないですって!」

「——いてぇっつってるだろうが。あーあ、こりゃ、骨が折れちまったかもなぁ!」

「——ねえちゃんよお、こんなことしてしらばっくれるとはとんでもねぇな」

どうやらもめ事らしい。

きらーん、とレプラの目が輝く。もめ事にケンカに、荒っぽいことは大好物だ。

「ミーア、ここにいろよ……って、ああ、そうだ、こいつ話聞かないんだった」

レプラはミーアを担ぐと道ばたの、家の壁へと向けて立たせておいた。壁に小声で話しかける怪しい少女のできあがりである。

「さて、と」

レプラは耳を澄ますと走り出した——走り方は山猫に学んだレプラは、軽やかに、素早く走る。人と人との間をすり抜けて、路地裏へと飛び込んだ。

「ねえちゃんよお、ちょっと俺らと付き合えってのよ」

「絶対にイヤ! うちがなんの家か知らないの!?」

「ああ? そんなの知るわけ——って、なんだ、お前」

女ひとりを囲む男3人。

レプラは彼らの後ろに立っていた。

「ねー、なにやってんの? ケンカ?」

「……ケンカなわけねぇだろ。浮浪児か? すっこんでろ」

「じゃ、俺とケンカする?」

レプラの問いに、男たちは顔を見合わせてから「ぎゃっはっはっは!」と笑い出した。

「ちょっとアンタ! ぼけっとしてないで助けを呼んで——」

「おっと」

女がレプラに指示を出そうとしたところで男のひとりが彼女の口を塞ぐ。

「見られたからには、逃がすわけにはいかねえぞ、小僧!」

別の男がレプラに一歩踏み込み、拳を繰り出した。

「————」

そのときのレプラはニヤリと笑っていた。

そうそう、こうでなきゃ——。

バキッ。

なにかが折れるような音と、悲鳴が響き渡る。

この日から、レプラとミーアの王都生活が始まった。

そこに波乱がないわけがなく——後から知ったソーマが「どうしてこうなった……」と頭を抱えるような王都生活になるのである。