軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国王陛下は元気になって

* クラウンザード=クラッテンベルク *

国王陛下ご快癒の兆し——と聞いて「は?」と思わず声が出たのが長男であるクラウンザードだった。大急ぎで王宮に向かうとすでに多くの貴族が集まっており、弟のジュエルザードは謁見を済ませた後だという。

舌打ちする。こんなことなら昨晩、深酒をするのではなかった。

クラストベルク家から美味い酒が届いたせいでついつい飲み過ぎたのだった。

ジュエルザードは自分を一瞥しただけで何も言わなかった。それもまた腹立たしい。

取り巻きを連れて父の居室へと向かうと、王宮内に侍従が増えているのに気がつく。典医が部屋の前にいて、「殿下、お待ちしておりました。殿下が陛下と会われましたら、他の貴族も順に通すようにいたします」なんて言うものだから、王族の中では自分が最後なのだと知った。

部屋へと入るとルイーズ=マリーを含め、王妃が数人いる。自分の母もいて、彼女は目を吊り上げて「こんな時間までなにをしていた」と表情でなじってくる。これもまた腹立たしい。

侍従によって隣室へと通されるときには取り巻きを連れずただひとりだった。こんなにもあっけなく、父のいる部屋へと通されたことに拍子抜けする。今までの苦労はなんだったのかと言いたくなる。

「陛下——」

昼の陽射しが差し込む部屋。どっしりとした広いベッドがあって、その隣のイスに国王は腰掛けていた。

思わず、言葉が途切れたのは、

「どうした、クラウンザード」

想像以上に父が痩せこけていたからだ。

別人かと思うほどに。

騎士としての教育を受け、剣をとらせれば一流であった父が——今は枯れ木のように痩せ細っている。

仮病を疑ったこともあった。だが、これは本物の病気だ。

「快癒の兆しと聞きましたが……」

「うむ。だいぶ良い」

だいぶ良い? たった1か月でこれほど痩せたというのに?

(……やはり俺とジュエルザード、どちらが王太子にふさわしいかを見ていたのだ)

クラウンザード第1王子の結論はそれだった。

国王は自分の死期を悟って、1か月も蟄居した。そうして王子たちの振る舞いを観察したのだ。

そうとしか考えられない。

クラウンザードの考えはすべてが自分中心だった。

それから二言三言会話をしてからクラウンザードは部屋を辞した。父からは立太子の話は出なかったが、まだ迷っているのだろう……と考えて。

「……陛下、お加減はいかがですか」

クラウンザードが退室したのと入れ替わりに典医が入ってきた。国王は、

「フン」

と鼻を鳴らした。

「見たか、クラウンザードの顔を。余が、真に病床にあったと完全に 騙されて(・・・・) おったぞ」

「さようでございますね」

「まったく、余には役者の才能もあったかと驚いておる」

「お戯れを……まだしばらくはその姿でいらっしゃるのでしょう?」

典医は白湯を注いだカップを国王に差し出した。一瞬それをイヤそうな顔で見た国王だったが、仕方なしに飲む。

「肌の色は化粧でなんとでもなるが、体型だけはな……。もとより考えていたとおり、立太子に向けて暗躍する者どもをあぶり出す 程度(・・) しか得るものはないか」

「……王妃殿下もそのようにお考えで?」

「うむ。改めて帝国を調べさせたが、アリの一匹も通さぬ防衛体制であったとな」

「…………」

今回の国王の「仮病」そして「帝国侵攻」、おまけで「立太子に関わる不満分子の一掃」はルイーズ=マリー王妃の献策だった。

彼女がなぜ自分の故国を攻撃させるような策を練ったのか、典医は知らない。彼女が帝国でどのような立場だったのかも伝え聞く程度で、その内容は特に悪いものではなかった。

だからこそ、ルイーズ=マリーの策自体が「帝国の罠」なのではないかと典医は疑っていたが——その疑惑は晴れた。彼女のもくろみをロイヤルスクールの生徒たちに見抜かれた時点で。あのとき見せたルイーズ=マリーの冷たい怒りは本物だと典医は感じたのだ。本気でルイーズ=マリーは帝国侵攻を企てていたのだ。

「ロイヤルスクールの生徒に見抜かれるとはな」

そう言った国王はどんな思いだったのだろう。なんの感情も読み取らせない国王としての仮面をすでに装着していた。

すでに、「王宮見学をしたい」と言っていた貴族の子どもたちが誰なのかは把握済みだ。全員がロイヤルスクールの生徒であり高位貴族なので王宮の見学など する必要がない(・・・・・・・) こともわかっている。つまり彼らは、下級神官のカリエルが典医と会うことを事前に知っていて、騒ぎを起こしたのだ。神官を問いただすことは立場上できないが、生徒の誰かがカリエルに会って協力を依頼したか、彼の目を欺いて典医の薬箱に紙片を入れ込んだ。

カリエルがロイヤルスクールに通っていたことを典医も知っている。

こんなことがあっては、彼とはもう二度と会って絵の話をすることはできないだろう——そう思うと寂しさもあった。

「クラウンザードの剣を受けたのもロイヤルスクールの生徒。この作戦の不備を指摘する紙片を持ち込んだのも同じ者。しかも黒鋼クラスだと言う」

「はい。そのようですね」

「知っているか? ルイーズ=マリーを通じて帝国皇家から連絡があった。帝国五聖のひとりである『剣聖』が、ロイヤルスクールの生徒の才能を認めたのだという。なんと、黒鋼クラスに所属しているそうだ」

「……は? なんですか、それは」

「是非とも帝国に留学させて欲しいと、そういうわけだ。つまるところ黒鋼クラスならば平民、平民ならば移住させることもできると考えているのだろう」

「そのような人材がロイヤルスクールにいたのですか」

「ああ、名前をなんと言ったかな……ああ、そうそう」

国王は空になったカップをサイドテーブルに置いた。

「ソーンマルクス=レック、だったか……。まったく、面白い者が出てきたな。そう思うだろう?」

典医は、感情の読めない国王にこう答えるしかなかった。

「仰せの通りです」

「その者の素性は知っておかねばならん。そうだろう?」

「……仰せの通りです」

白湯が入っていたはずのカップからはもう湯気が立っていなかった。この部屋はこんなに冷えていただろうかと典医は肌寒さを感じた。