軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

指導室はまるで取調室のようでもあり

実技の授業はベジー……じゃなくて前頭葉先生がしっかりやってくれることになった。お金の力は偉大である。

俺もここで、剣の振り方の基礎や、体さばきについてしっかりと学んでいく所存。

ルチカ以外の生徒は相変わらず俺の授業には出てくれないが、そのくせまだ「今日こそ授業が始まるかもしれない」という希望を持っているのか、朝いちばんのホームルームにやってきて、無精ひげ先生ことジノブランド先生に希望を打ち砕かれていた。

そんなふうにして俺たちは最初の週末を迎え——俺とリットは教科書を筆写して過ごした。リットは銀貨をもらってほくほく顔だった。スヴェン? アイツは1日中剣を振り回してたよ……どれくらい上がったのか確認してやろうかと言ったのだけれど、

「もうちょっと! もうちょっと待ってください! 貯めるだけ貯めて一気に上がったのを確認したいので!」

とニヤニヤしていた。怖いです。オ○禁すればすごく気持ちよくなるみたいに考えてそう。

そんなこんなだったけれども週が明けると——事件は起きた。

「テメェ、なんであんなガリ勉に媚び売ってやがんだ!」

ホームルームに間に合うよう教室にやってきた俺が聞いたのは、太っちょの言葉だった。

突き飛ばされてしゃがみ込んでいたのは——ルチカだ。泣いている。涙を流している。え……ルチカが、泣いてる?

それを見た瞬間、俺の中で理性のタガが外れた。

「いいか!? あのガリ勉は累計レベル12だぞ! あんなのに誇りあるラングブルクの者が——ブベラッ」

「瞬発力+1」を遺憾なく発揮して距離を詰めた俺は太っちょの横っ面に飛び蹴りをくれていた。

太っちょは吹っ飛んで転げていき、他の男子生徒数人を巻き込んで止まった。

「ルチカ、大丈夫か」

「あ……」

呆然として俺を見ていたルチカだったが、転がっていった太っちょを見て事態を把握したらしい。

そしてこう言った。

「お兄ちゃん!?」

と。

そう、お兄ちゃ……はぁぁぁ!? お兄ちゃん!?

「……なんだこの騒ぎは」

いつもよりいっそう不機嫌そうにやってきたジノブランド。

「なんだなんだ。底辺らしい暴力か?」

「あ、いや、これは……」

「先生! 男爵家の俺にこいつがいきなり暴力を振るってきたんだ! すぐにも退学にしてくれよこんなレベル12の落ちこぼれ!」

よろよろと起き上がった太っちょが憎々しげに俺を指差して叫ぶ。

「トッチョ、ソーンマルクス……お前らふたり、指導室に来い」

「いや、でも俺はっ」

「今すぐだ。他の連中は解散しろ、解散だ」

日本じゃ足を踏み入れたことのない「生徒指導室」に、異世界で入ることになるとは……。

生徒指導室は窓のない3畳ほどの部屋だった。……つーかこれ取調室じゃね?

小さな机と小さなイスが置かれてあり、さっさとジノブランド先生が座るとその向かいに太っちょが座る。アレェ? ここにはイスが2脚しかないんですが? あ、ワタクシは帰っていいということで?

「……トッチョ、なに勝手に座ってんだ。起立しろ」

「え、でも俺は男爵家の……」

「2度言わせる気か?」

「ひっ」

ギョロリとした目ですごまれるとトッチョはあわてて立ち上がる。

やーいザマァ! なんて大人げない俺がニッタニタしていると、

「ソーンマルクス……お前はよほど 退学(クビ) になりたいらしいな」

「え!? そそそそんなことありませんよ! こんなに勤勉な学生を退学にしたら学園の損失ですからね!」

「勤勉な学生は入学の翌週にクラスメイトへ跳び蹴りを入れたりはしない」

イラつきというより呆れたようにジノブランドは言った。

……ん? なんかちょっと雰囲気が違うな。

「トッチョ、ソーンマルクス……問題を起こした生徒を退学にするのは非常に簡単なことだ。わかっているのか?」

「「は、はいっ」」

誠に不本意ながら俺と太っちょの声が一致し、俺と太っちょはお互いぎょっとしながら視線を交わし、「フンッ」とそっぽを向くところまで一致した。

「これ以上、俺の手をわずらわせるんじゃない。どっちみち次の統一テストで10%は脱落するんだ。そのあとは7月の対抗戦、秋の統一テスト、これで合計30%は少なくとも辞めるはめになる。お前らがそこにプラスアルファで入るのは構わん」

「は、入りません!」

「…………」

トッチョはそう返事したけど……俺はなんだか違和感を覚えていた。

この先生、「30%は辞める」って言ってるけど、逆に言えば「最低でも30%は辞めることになるが、頑張ればそこで もちこたえられる(・・・・・・・・) 」ってことになるよな。

——相馬さぁ、お前ってマジで頭悪いよな? お前といっしょにいるとバカが 伝染(うつ) るんだよ。授業のノートのコピーやるから頼むから離れててくれよな。

大学のとき、やたら俺に突っかかってきたヤツがいたが、そいつの言葉をふっと思い出した。

「……俺からは以上だ。いいか、教室に残らず解散しろよ」

ジノブランド先生はそう言うと、さっさと取調室を出て行った。

「おいガリ勉。お前のことぜってー許さないからな」

しっかり、先生が離れていったのを確認してからトッチョが言う。

「ん? ああ……」

「俺の話聞いてんのかよ!」

「あー、ちょっと寄ってくところあるから、それじゃ」

「はあ!? 最初からお前なんかといっしょに帰るつもりねーんだけど!?」

むっきゃーとまるで猿のように怒りながらトッチョが言い返してくるが、俺はさっさと部屋を出て行った。

向かったのは、この事務棟の1階だ。

(あの先生……もしかしたら)

1階で事務の人にジノブランド先生の個室を聞いた。

事務棟の3階——なんだかこの階段を行ったり来たりしている気がする——俺は事務の人に聞いた先生の個室へとやってきた。

ドアに耳を澄ませると、中でなにかが動く音が聞こえる。在室のようだ。

コン、コン。ノックをすると、こちらに走ってくる足音。

「!? ——な、なんでお前が……」

まさか俺がいるとは思わなかった——なにか違う人だと思っていたのか先生はだいぶ焦った声をした。

「先生、ちょっとお話があって。失礼します」

「あっ!」

するりと中へと入った。

ほぉー……ベジー、じゃなかった、前頭葉先生の部屋はだいぶスッキリしていたけど、ジノブランド先生の部屋はまた違うな。

なんつうか、めっちゃごちゃごちゃしている。片側の壁は一面専門書っぽいので埋め尽くされていて、反対側の壁は収納だ。サイズもまちまちの棚が置かれていてデザインもまったく統一感がない。

でもって部屋の中央には巨大なテーブルだ。そこには資料やら試料やらが広げられていて混沌としている。

「ソーンマルクス……2度は言わない、出て行け」

振り返った俺は、青ざめるほどにブチ切れているジノブランド先生の顔に直面した。

やっべえ、ちょっとおっかねえぞ。

いくらレベルを上げたからといって、こういう「なにしでかすかわからない人」ってのは恐ろしいものだ。

「えっと、担任の先生の教員室へお邪魔するのはよくあることじゃないんですかね?」

「…………」

「しかしいいですねえ、こんなに広くて、 研究(・・) もはかどりそうなお部屋があって……」

「…………」

ふおっ、めっちゃにらんでくる。怖!

「わ、わかりました、わかりましたよ先生。じゃあ単刀直入に話します。——先生、誰に 命令(・・) されて俺たちを辞めさせようとしてるんですか?」

ジノブランド先生は、「!?」って顔で凍りついたように固まったよ。