軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法の裏側の事情

黒鋼寮を破壊してやるとばかりに現れた大人たち(軍属)を返り討ちにしたったわ〜と思っていたら特別訓練の教官のナガシッカクに呼び出され、

「貴様はなんのつもりだ」

と怒鳴られた。

「訓練には合格ってことですかね? 満点で」

にっこり笑って返したらね、そりゃもうね、びっくりするくらい顔が赤黒くなっちゃって軽いホラーよ。横に立ってたジノブランド先生がビビリ散らかしてた。おいおいソーマ、言い過ぎだって、みたいな感じて俺の肩をバンバン叩いてきて。

ともあれ、特別訓練の成績が良かったので俺は王宮に呼ばれた。

……うん、なにを言ってるかわからねーと思うが俺もわからん。

お呼びが掛かったのはナガシッカクが肩を怒らせて帰った翌日。ジノブランド先生がこれまたビビリ散らかして、絶対なにかの陰謀だって言うんだけど、王子や騎士団が裏で手を回しているのではないらしいので行くことに決めた。

なんでそんなことがわかったかって?

呼び出し主が、王子でもなければ騎士団でもない、中立の人だったからだ。

「なんか成績優秀クラスとして表彰されるらしいんだけど、王宮行きたいヤツいるー?」

とクラスで聞いたらみんな青ざめていたっけ。あ、スヴェンは居眠りこいてた。

そんなわけで俺がひとりで行くことに。

翌朝早朝から馬車がやってきた。簡素だけど造りのしっかりしている馬車で、中に入ると暖かい。やべーな、貴族の馬車。エアコンもないのに暖かい。どうなってんの?

向かいに座っているのは侍従と呼ばれる人で、特に王宮で王族のために働く人たちのことを指すらしい。初老の男性である。侍従にもいろいろあって、掃除をする人もいれば執事っぽいことをやる人もいるんだとか。ジノブランド先生が俺を心配して事前に教えてくれた。おかんかな?

「……あなたは不思議ですね、ソーンマルクス=レックさん」

「え? なにがっすか」

急に話しかけられた。

「平民出だと聞いています。どうしてそれほど緊張もなく平然としていられるのですか? これから向かう場所を理解していない……ということはありませんよね。少なくともロイヤルスクールの生徒ですし?」

ちょっと疑問形になってるのは俺が黒鋼クラスだからかもしれない。俺は騎士見習いという立場なので、帯剣が許されている——まあ、刃は引いているいつもの訓練用の剣だけど。

「知っていますよ。この国の太陽にして偉大なる為政者である国王陛下とその直系の方々がお住まいでいらっしゃる王宮でしょう」

「ふむ。では、今回の表彰についてはいかがお考えですか?」

「もらえるものはもらっておきます」

「……ほう」

侍従の声のトーンが下がった。

どんな答えを期待していたのだか……。

(——ま、そんなのはどうでもいい)

俺が王宮まで来ようと思った理由は、もちろん表彰なんかじゃない。

キールくんやリエリィ、マテュー、フランシスたちがどうしているか心配だったんだ。

(アイツら真面目だからなぁ……)

みんないい子だ。ヴァントールもバカタレかと思ったけど根っこはただの子どもだったし。

「表彰とは名誉であり、金銭的な報酬ではありませんが、わかっていますか?」

「え? そうなんですか?」

「…………」

「なんだ、多少は金になるかと思ったのにな〜」

俺がそう言うと侍従は明らかに不快そうな顔をした。

ハハッ、まだまだですな。どんなときでもニコニコしてないと。

(……とりあえずなんかの「罠」ってわけではなさそうだな)

俺は侍従の反応から推測する。

蒼竜撃騎士団を送り込んできたのはどうやら第1王子。で、返り討ちにした俺を表彰したいと言うのならそれは敵対派閥の第3王子の可能性が高い。

第3王子に取り込まれて面倒な争いに首を突っ込む気はない。

だけど、呼び出し主は第3王子でも第3王子派閥の人でもない。

とりあえず俺は「表彰って金がもらえるんじゃないの?」という守銭奴を演じた。なーに、リットくんを思い浮かべれば演技力がなくても余裕余裕。

侍従が不快そうな顔をしたということは、今回の表彰は明らかに「名誉」のためのもの。

ならば俺の役目は表彰されて終わり。後はキールくんやリエリィたちの様子をうかがおうじゃないかというわけ。

(早く終わんねーかな……)

俺はそんなことを思いながら王宮へと向かったのだった——それにしても俺を表彰したいって言ってるのはジュエルザード王子の名前でもなくて、見たことない名前だったんだよな。ジノブランド先生も首をかしげていたから中立派の人ではあるんだろうけど。

王宮あったけぇ〜。

物理的にあったけぇ〜。

なんなんこれ。馬車も思ったけど、どうしてこんなに暖かいの?

ここには謎のテクノロジーがあるんだなぁ……。

「この部屋で待っていてください。追って沙汰します」

侍従はそう言い残して去っていった。だけど、待てど暮らせど帰ってこない。ちょっとおしゃれな待合室で、壁には絵が掛けられている。ふ〜ん、なんか神々しい神様の絵だな……それにしても戻ってこないな……とかずっと思ってたけどほんとに戻ってこない。

「…………」

俺、トイレに行きたくなっちゃったな。

「…………」

さすがに行ってもいいよな?

「……行くか」

今のところ俺のタンク容量の98%くらいだ。あと2% しかない(・・・・) とも言えるし、あと2% もある(・・・) とも言える。

無理! めちゃトイレ行きたい!

俺は部屋から外へと出た。

「…………」

がらーんとした廊下だ。入口は左なのだが、あっちにトイレがある雰囲気はなかった。

トイレがある雰囲気……なんかあるよね? そういう雰囲気。

「じゃ、右か」

俺は歩き出す。歩くたびにタンクが揺れる。たっぷたっぷ。くううっ、タンクは2%残っているのに感覚としては120%だよぉ!

集中だ、集中しろ……。

出ない、出ない、出るわけない。

出ない……。

「君、なにしてんの」

「うひょおッ!?」

思わずジャンプしてしまった。

ちびっ……ってない! セーフ! これはセーフ! ちょっとだけパンツが冷たい気はするけどセーフ!

そこにいたのは俺と同じくらいの背丈の男——少年? はてなをつけてしまったのは年齢はそこそこ上に見えたからだ。

侍従の服を着ているから侍従なんだろうけど、冴えない顔だ。くすんだ茶色の髪は目元を隠していて、そばかすが散っていた。特徴的なのは出っ歯だ。見事な出っ歯。俺と同じ小市民のにおいがする。

「お、俺は怪しくないんだ! ただちょっと……」

「ああ、もしかして君、トイレ探してる?」

「そ、そうなんだよ! どこにある?」

「こっちこっち」

出っ歯くんは道案内してくれるらしい。助かる! 自分から「俺は怪しくない」とか言っちゃうあたり怪しすぎるし、俺もたいがい限界が近い。

「わかるよ。君みたいにトイレ探してる人ってすぐにわかる。僕は知らないところにいくときは必ずトイレの場所をチェックする」

出っ歯くんは目をキラリとさせて親指を立てて見せた。

めっちゃ頼りになる。王宮のトイレマスターと呼ぼう。

なんと、トイレは2階にあった。

しかも2階への階段が、ドアを開けた先にあるとかわからなすぎる。

狭い階段を上がった先は、1階同様暖かい空気が満ちていた。俺はトイレに飛び込むと、あわててタンクの解放を始める。

「……ねえ、用を足しながらでいいんだけど、答えてくれない?」

出っ歯くんが話しかけてきた。

「なに?」

「君、見たところロイヤルスクールの生徒っぽいけどこんなところでなにしてるの」

「ああ……なんか知らないけど呼ばれたんだよ。王族に」

「王族? 今、この時期に……?」

「うん。俺だってなんで呼ばれたのかよくわかってないんだけどさ」

タンク容量、0%。

「ふぃー……すっきりした」

手を洗って出ると廊下には出っ歯くんがいた。

良く磨かれている窓ガラスの外は雪だ。2階にいるから視点が上がって、木々の枝だけが見えている。

「王族って誰?」

「あー……それは」

話していいのかな。

「話してくれていいよ。僕がここで仕事してるのわかるだろ?」

侍従の服だもんな。侍従だよな。

「ま、そりゃそうか。ええっと、確か……ルイーズ=マリー殿下から」

「え?」

出っ歯くんが驚いた顔をする。

「なんで? そんなにおかしい?」

「あ、えっと……まあ、変かな? ルイーズ=マリー殿下は陛下のいらっしゃる5階から出てこられることがほとんどないから」

「陛下のいらっしゃる5階?」

陛下は5階にいるのか。ていうか、王宮って5階まであるんだ。すげえな。

「君、ほんとうになにも知らないんだね」

「ロイヤルスクールに入って1年目だしなあ」

5年生になっても陛下が何階に住んでるかなんて教えてもらえなそうだけど。そもそもジノブランド先生だって知らないんじゃないの?

「ていうかルイーズ=マリー殿下ってどなた?」

「君……」

出っ歯くんがあきれ果てている。

「国王陛下の王妃様じゃないか……」

「え」

「インノヴァイト帝国から嫁いでいらっしゃった王妃様」

マジかよ。スヴェンの故郷の帝国から来たのか。

「ほんっとに知らないんだな〜……警戒して損した」

「え、ええ……警戒されてたの、俺?」

「そりゃそうだろ。陛下が危篤だってのに見知らぬヤツが王宮に紛れ込んでるんだから」

「確かに、怪しい——って、陛下は危篤なの!?」

「声が大きい!」

「す、すまん……だって知らなくて」

「ここには侍従だってほとんどいないだろ? 人払いしてるんだよ。死を迎えるに当たっては静かにして欲しいっておっしゃってるから」

廊下は静かだ——人の気配がない。これだけ大きな建物が暖められているというのに誰もいない。

「ん? それじゃあなんで俺はこのタイミングで呼ばれたんだ? それに出っ……君こそ何者なの?」

「今『出っ歯』って言おうとした?」

「人払いされてるのに君はここにいてもいいの?」

「『出っ歯』って言おうとしたよな? な?」

どうやら出っ歯を気にしているらしい。この世界には歯列矯正はないからね。

「ったく、失礼な生徒だな」

「へへ……」

「見つかったのが僕だからいいようなものの、他の侍従だったら騎士を呼ばれてたたき出されてるよ」

「ごめんごめん。名前も知らないからさ」

「……ま、ただの侍従なんて名前を知らなくていいだろう。さすらいのトイレマスターとでも呼び給え」

やっぱりトイレマスターだった。

「それと、なぜ君がこのタイミングでルイーズ=マリー殿下に呼ばれたかということだけれど……話している時間はなさそうだ」

出っ歯くんはちょいちょいと窓の外を指差して見せた。

そこからは庭の木が見えるのだけれど、庭に面した外廊下を見下ろせる位置でもあった。

「ん? なんか人がいるな……ってあれは白騎獣騎士団?」

「正解。ロイヤルスクールの生徒だからさすがにわかるか。引き連れてるのは第1王子だよ」

「ほえー。あの人が……」

後ろ姿しか見えない。誰かと話しているんだろうか……向こう側に誰かいそうだな。

「見えないけど、向こうにいるのは第3王子だ」

「え。ジュエルザード殿下?」

こんなところでニアミスするとはな〜。卒業式のときはすごかったよな、在校生の女子たちが泣いちゃって泣いちゃってまぁ。ああいうスター性のある人がいなくなると学園も寂しくなって……。

「……なあ、出っ歯くん」

「今『出っ歯』って言った?」

「第1王子と第3王子って次の王位を争ってるんじゃなかったっけ」

「……君、王宮でよくもまぁ声高にそんな言葉を口にできるね。でもまぁ、そうだよ」

「じゃああそこで鉢合わせになるのはマズいんじゃねーの!?」

騎士は武器まで持ってるし! あ、でも、まぁ、さすがに剣を振り回したりはしないか——。

「マズいね。下手したら血が流れるかも」

ほらぁ! なに落ち着いてんだよ出っ歯くん!

「なに落ち着いてんだよ出っ歯くん!」

思わず声に出てた。

「今『出っ歯』って言った?」

「止めなくていいの!? 誰か間に入らなくて!?」

「もう間に合わないよ。まあ、『血が流れる』はさすがに言い過ぎたけど……」

「言い過ぎじゃない」

「ん?」

俺は、この瞬間にスキルを発動した。【魔導】スキルが100を突破して手に入れた——「 魔素波長(エレメントウェイブ) 」だ。

【刀剣術】428.62/ 一閃(スラッシュ) /瞬発力+1/ 抜刀一閃(ゼロスラッシュ) /瞬発力+2

【格闘術】256.13/ 生命の躍動(ライトインパクト) /筋力+1

【防御術】216.05/ 衝撃吸収(ショックアブソーバー) /柔軟性+1

【空中機動】141.08/ 空間把握(ホークアイ)

【弓術】88.22

【腑分け】30.83

【魔導】105.60/ 魔素波長(エレメントウェイブ)

【魔力操作】52.03

総スキルレベルで1300を超えた俺だが、特に年末年始は集中して【魔導】と【魔力操作】を上げた。インノヴァイト帝国で「剣聖」とかいうバケモノと手合わせしたときにわかったのだけれど、純粋な剣の戦いだと強い「天稟」を持って長い年月修練を積んだ達人にはどうしても勝てない。

なので俺は選択肢を増やした。

この「魔素波長」は周囲にある魔素——「魔力のもと」みたいなものを感知できる。ただ、それだけ。だけど感覚を研ぎ澄ますと ある反応(・・・・) も感知できることに気がついた。

スキルの発動だ。

俺もたまにやるけど、人知れず「生命の躍動」を使ったりしても周囲からはわからない。でも「魔素波長」ならば感知できる——そう、クラウンザード第1王子殿下は、今、なにか スキルを使った(・・・・・・・) んだ。

それに気づいたのは誰もいない。正騎士たちですら気づいたようには見えない。

「——おい、君、どうした?」

走って行ったんじゃ間に合わない。俺は窓を開けた。外から凍てつく空気が流れ込んでくる。

「おい!」

俺は、窓枠に足を掛けた。

「『生命の躍動』」

そうして跳んだ——流血沙汰が起きませんようにと願って。