軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勘のいい同居人はツンデレ気味で

初のクラス会議が終わってから自室に戻り、俺が布団に入り込んで全財産を吐き出したことに震えていたところ——リットがわかりやすくため息を吐いてくれた。

「さっき言わなかったことがあるでしょ」

「……な、なんのことかな」

「その金って、先生の授業料に実技の費用を負担して、さらにテストの成績優秀者にボーナスなんて出したら一瞬で溶けるよ。むしろ夏までもたないんじゃない?」

「うぐぐ……さすが守銭奴、よく見ておる」

「守銭奴言うな。で、どうすんの? その後は?」

「んー」

ごそり、とかぶった布団から顔を出した俺は答えた。

「そんとき考える」

「……はぁー」

「いやさ、そうバカにした目で見てくるけどさ、そこまで考えてらんないって。金を出し惜しみしてたらあっという間にクラスの人数半分になってるよ。それじゃあ連中の思うつぼじゃん」

「別にいいんじゃないの、半分になったって。それに『連中』ってなんだよ」

ベッドに腰を下ろしたリットが答える。現在この部屋はカーテンをどけてあるので見通しがいい。部屋を開けているときはカーテンをしめないほうが気持ちがいいな。

「半分になったら……よくない」

「? ボクさ、よくわからないんだけど、なんでそこまでソーマが気にしてるわけ? 他のクラスメイトなんていなくなってもいいじゃん」

「…………」

俺が日本からの転生者だ、とか、そのとき経験したことからこんな理不尽は許したくないんだ、とか言ってもわからないよな……。

気持ち的にはやっぱり、あの会社の倒産が大きい。あんな、あり得ない、自分の力じゃどうにもできない目に遭うのなんて俺は二度とゴメンだよ。

同じような目に遭うとわかっている人がいて……しかも俺の手の届く範囲ならば、無視できない。安定高収入のためにがんばるのは間違いないんだけど、この貯金ならば今使っても惜しくないしな。野獣を狩って卸していけばまた貯められる範囲だし。生活しながらだと数年かかるけど。数年かかるけど……(クソデカため息)。

「……ま、アレだよリット。ここでクラスがいい成績をおさめてくれないと真っ先に俺が退学にさせられるからだな。明らかに俺が平均点上げることを、それこそ『連中』は望まないワケだろ?」

「…………」

リットは可愛らしく眉間にシワを寄せてから、

「……それなら、そういうことでいいよ」

と言った。もう「連中」が誰かなんてこと聞いてこなかった。リットは賢いからな、もう気がついてるよな。

「連中」とはすなわち、このシステムの上のほうで甘い蜜を吸ってるやつらだ。

「とはいえボクのアルバイトはそれはそれ、ちゃんと給料をもらうからなー」

「おー、働いたぶんはちゃんと払うぞ」

給料を払えることの幸せよ……。働いたぶん、お金をもらう——そんな「当たり前」が「難しい」ってことを俺はもうすっかり知ってるぜ。

「……じゃ、今日はもう授業もないみたいだしやろうか」

「だな。これが終わらないことには座学もへったくれもないもんな」

俺とリットはカリカリと筆写を始めた。算術の教科書はリットに写してもらい、俺は法律や王国史、古典の教科書に取りかかる。

カリカリカリカリ……。

筆写しながら読んでいけば予習にもなる。最高だぜ。

カリカリカリカリ……。

他には「神学」なんてものもあるのだが、この教科書に近い内容の本が田舎の神殿にも置いてあった。俺は大体わかってるからリットに任せようかな。いやー、子どもの脳みそってすごいよ。すいすい覚えていくんだもん。興味がないことに対してすさまじい眠気が襲いかかってくるのが難点だったが、残念ながらそれは成長しても同じだ。

カリカリカリカリ……。

「ねー、ソーマ」

「んー?」

「何人くらいソーマの提案に乗るかな」

俺は羽根ペンを置いて振り返る。リットはすでに俺のほうを向いていた。

「ちなみにリットはどう思う?」

「5人程度」

うっほー、シビア! でもいいとこそれくらいかもしれないな……。

「少なくともそこから始めるしかないさ。……ていうか他のクラスの授業ってどんなふうにやるんかな。教科書を読み上げて、大事なところを黒板に書いて、生徒が写すって感じ?」

「そうだよ。先生によってやり方は違うだろうけど基本はそう」

「指名して答えさせるとかは?」

「指名? 答える? なにを?」

「あー……いや、いいわ」

そうか、当てて回答させるってのはないんだな。あれっていいシステムなんだがなあ。生徒側にはいつ指されるかという緊張感が生まれるし、一問一答で軽い脳の運動にもなる。

「で? ソーマは何人くらい自分の提案に乗ると思うの?」

「よし、決めた。出席簿を作ろう」

「……ソーマ?」

俺はそうと決めると立ち上がり、部屋を出て行った。善は急げである。事務棟に行けば生徒の名簿くらいあるだろうし、名前を写させてもらえるだろう。なんせ公爵家の居場所まで教えてくれたほどだ。

いやーしかしなんだ、俺がやってるのってこれ、ゼロから教師になるってことだよな? そこまでやんなきゃいけないのか、とは思いつつ、一方で、システマティックに運営されていた日本の義務教育ってすごかったんだな……とある意味感心した。

システムに問題があるのではなく、問題があるのはそれを運用する人間なんだよ。

俺は、会社の整理でそれを学び、今ここでこうして活かしている。

お金を借りるのだって返すアテがなかったり信用がない人に貸したりしたらそりゃダメだけど、自分で計画して投資するなら、100円が1万円の価値に化けることだってあるんだ。俺は納得して全財産を吐き出したんだ……。

「いいと思ったことは全部やってやるぞー!」

事務の人は案の定、名簿を見せてくれた。

うまく出席簿を作り終えた俺がほくほく顔で戻ると、「質問を無視した」ことでリットくんがスネてしまっていたことだけが誤算だったけど。

スヴェンとの朝稽古に軽い「模擬戦」を取り入れると【防御術】も0.01程度なら上げることができた。よかった~。せっかくここまで上げてるのに、減っていったらもったいないもんな。

「師匠……剣が、剣が楽しいですッッッ」

細い目のくせにやたら暑苦しいスヴェンが汗だくで剣を振り回している。あのね、スヴェンくん。振り回したらダメだって何度も言ってるよね? そう、素振りだよ、素振り。型を意識して筋肉に負荷を掛けるんだ。

今日も今日とてスヴェンくんは絶好調で、またも【剣術】のレベルは2.30、上がっていた。

「これならあと半月もすれば……エクストラスキルを獲得できる……!! 夢にまで見たエクストラスキル……!」

「あ、ああ……スヴェン、一応言っておきたいことがあるんだけど」

「なんでもうかがいます」

シュタッ、と背筋を伸ばすスヴェン。

「あと1か月で統一テストというのがあるらしい。で、成績がダメなクラスは強制的に数人ほど退学させられるようなんだ」

「なんと……」

「退学させられそうな筆頭が、俺だ」

言うと、スヴェンの目が開かれていく。お、おおお、ここまで開くのかお前の目は! 怖い怖い! こんな顔をリットに見せるなよ! お前に会ってまだ3日だけどすごい違和感だ!

「絶対に許せませんッッッ!!」

「そ、そうか。ならお前も勉強して、平均点を下げないでくれよ? 今日は1日座学だから」

「…………」

「……スヴェン? どうした? なんで俺から目をそらす?」

「…………自分、勉強は苦手で、す……」

「でも入学試験は通ったんだろ? だったら素地はあるんじゃないか」

「…………自分、記述問題は一切わからなくて、選択肢だけしか、答えられませんでした……」

「お前よく受かったね!? なんなのそれ!? コネ!? コネなの!?」

「どうしても言わなければいけませんか?」

またそれ!? ピンチの黒鋼クラスだけでなくてスヴェンの重そうな過去まで乗っかってきたら俺のキャパは確実にオーバーするっての!

結局、スヴェンには「勉強やれ。絶対やれ」ということを言い聞かせるだけに留めた。