軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調査再開!

剣匠戦まであと3日となった。

スヴェンは朝から「流水一刀流」の訓練場に向かっていて、そこで修行をするらしい。どういう風の吹き回しかって? スヴェンママがそうしろって言ったんだよな。スヴェンは「エェ……」とイヤそうな顔をしたが(移動時間が無駄になると思っているんだ、スヴェンは)、スヴェンママから「家の中で剣を振り回したら弟と妹が危ないでしょ」と言われ渋々出かけていった。

「じゃあ素材採取に帝都の外へ出かけよう」

テムズにしては目をキラキラさせて鼻息荒くやってきたのだが、

「あ、あぁ〜……ごめん、もう何日か待ってくれないかな」

「そう、か……」

しゅん、としょげ返るテムズを見ると心が痛むのだが、せめて「剣匠戦」が終わるまで待って欲しい。

「さて、と……じゃ、俺も出かけますか」

俺は家を出た——ときだった。

「どこへ?」

リッカがそこにいた。

「よ、よお〜リッカ。いい天気だなぁ。ちょっと散歩に行ってくるよ」

「なぁにがいい天気よ。雪でも降りそうだし」

確かに空はどんよりと分厚い雲が覆っていた。

「ソーマくん」

ぐいっ、リッカが近づいてきた。

「いったい……なにをしようとしているのかな〜?」

「なにを、って?」

「なーんか怪しいのよね……。女の勘ってやつぅ?」

うっ。

確かにまぁ……今日は人目につかないほうがいいようなことをしようと思っていたけれども。

そんなにわかりやすかっただろうか?

「……いやー……『雷火剣術』について調べようと思って」

「調べる?」

「リッカだって俺といっしょに追われた仲だからわかるだろ?」

まるで洗脳でもされたかのような使徒たち。脳みそまで筋肉みたいな当主っぽい人。

あれがまともなワケがない。「雷火剣術」は昔からある流派だという話だし、ああいう手合いが入ったのは最近……無縛流派の手によるものだろう。

いったいなにが起きているのか、調べておいて損はないと思う。

いや、それくらいスヴェンパパのところでやってほしいんだけど、昨日ジャンに話したらきょとんとされたんだよな。「剣で強ければ勝てるだろ」って。びびりのくせにそういうときに正論持ち出すの止めて欲しいよなぁ!

とはいえ、彼らには「雷火剣術」を調べる気がないようなので、とりあえず俺は個人で動いてみようかと思ったんだ。

「…………」

リッカはじっと考えてから、

「……確かに。まるで異常な宗教を信じ込まされているような雰囲気があったよね。それが無縛流派のやり口なのだとしたら、『流水一刀流』も危険かも」

「!? お、お前……お前もそう思う!? だよな! 俺が気にしすぎってわけじゃないよな!?」

「ちょっ、な、なによ!?」

リッカの両手を握ってぶんぶんしたらあわてて振り切られた。

いやーだってさ、ジャンの塩対応を思うと「もしかして俺って気にしいなのか?」って思っちゃったんだよ。

「ま〜、それじゃ手伝ってあげよっかな〜。アタシも少しは気になるし……」

「それには及ばないから、リッカは家にいてくれよ。じゃっ」

「えっ!? ——ってちょっと待てい!」

「ぐえ」

立ち去ろうとしたら襟首を思いっきり引っ張られた。またそれ!「帝都すいーとはーと」に入るときにもそれやった!

「つ・い・て・く!」

「は、はい……」

強引だなぁ……この子。

結局この日は帝都を歩き回って情報収集に明け暮れた。

「雷火剣術」が流派を維持するのに厳しくなって、無縛流派から援助を受けたというのは事実だった。その対価として要求されたのが、「一刀流を捨てて多剣流となること」と、「剣匠戦に挑むこと」だとか。一刀流を捨てたら流派を維持したところで意味があるんだろうか……とか思ってしまうけどなぁ。

「……ちょっと待って、ソーマくん。あのお店見たい」

「ん?」

冒険者ギルドならぬ剣をたしなむ者が集まる「剣術クラブ」みたいなものがあちこちにあるので、俺とリッカはそこを渡り歩いて話を聞いていたのだが、その途中でリッカは雑貨店に入っていった。しばらくして出てきた彼女が持っていたのは——、

「革紐?」

「え、ええ……スヴェンに渡しておいてよ。アイツ、素振りのしすぎで柄がボロボロになってるから革紐を巻き直したほうがいいと思うの」

俺に押しつけるようにし、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

(ほー)

革紐ねえ。スヴェンの剣の柄がボロボロねぇ。

(ほおおおおおお!)

スヴェンにプレゼントですか! そうですか!

スヴェンへの「興味」だけじゃなくなってきたんですかねえ!

「な、なにニタニタしてるし!? きもっ!」

「イヤ別に。こういうのはリッカから直接渡したほうがいいと思うぞ」

「え!? だ、だってアタシってアイツに突っかかってばっかりだし……こんなアタシからもらったって使いにくいでしょ……」

「リッカ」

俺はリッカの肩に手を載せた。

「大丈夫だ。スヴェンは剣のことしか考えてないから。マジで」

「そ、そう……?」

おかしいな、フォローしたつもりなのにリッカが「え?」って顔してる。

それはそうと俺たちはその日の調査を終えた。

スヴェンママの実家は材木商会なんだけど、店のほうから入っていくと——なんだか雰囲気が違った。

「——明日はいよいよ『剣匠戦』ですな……」

「——『剣匠戦』の席はもうお持ちですか……」

「——そう言えば、こちらの家も浅からぬ関係がおありでしたね……」

商会に顔を出していなかったからわからなかったことではあるのだけれど、やってくるお客さんたちは、店員と話すときにさ「剣匠戦」のことを必ず口にしている——と言っていいくらいの話題だ。

スヴェンママが「流水一刀流」の当主と元夫婦だったとことを知っている人もいれば知らない人もいる。そんなことは関係なしに「剣匠戦」の話題で持ちきりだったのだ。

「さすがに明日は『剣匠戦』前日でしょう? もう、みんなそわそわしてるわよ」

夕食の席でスヴェンママは「なんでもない」ふうに言ってみたけれど、食欲があまりないのかほとんど食べずに寝てしまった——ほんとうに寝ているのかはわからないけど、寝室に行ってしまった。

剣匠戦は、もう明後日だ。

翌朝、スヴェンが新しい革紐を剣に巻いたのを見てリッカがによによしているのを見て、俺は言った。

「なぁリッカ。お前もスヴェンといっしょに『流水一刀流』の訓練場に行ったらどうだ?」

「ハ、ハァ? なんでアタシが……」

だってめっちゃスヴェンのこと気にしてるじゃん。

「……せっかく買った革紐がちゃんと使われてるのか見ておいたほうがいいだろ? 不良品だったら困るし」

革紐の不良品ってなんだよ、って我ながら思うわ。

だけどリッカは、

「そ、それは確かに……」

チョロいな〜。スヴェンについてく言い訳さえあればチョロいな〜。

「でもソーマくん、アタシたちは調査も」

「『剣匠戦』は明日だろ? 俺は『雷火剣術』、リッカは『流水一刀流』に問題がないかを見るのも大事じゃないかな」

「そ、そっか。それじゃ、アタシはスヴェンについてこかな」

リッカはリッカでそわそわしながら、鏡の前で手ぐしでツインテールを整えたりなんかしちゃってからスヴェンを追うように商会を出ていった。

あらあらまぁまぁ。恋する乙女じゃないの。

「採取……」

「ヒィッ!?」

背後霊のようにテムズが現れてぎょっとはしたが、すまんテムズ、明日が「剣匠戦」だから。それが終わるまで待って。

俺は逃げるように外へと出た。

「……雪か」

雲の向こうに太陽の存在を感じるは感じるのだけれど、チラチラと雪が降り始めている。

今日は冷え込みそうだ。

昨日までに調べたことを改めて考え直す。

「雷火剣術」には無縛流派の息が掛かっている。

勝つためならなんでもやる——それは無縛流派の特徴であるらしく、その思想に徹底しているからこそ実績もあるし人気もあるし、実際「雷火剣術」には使徒が増えている。

「でもなーんか、きな臭いんだよな……」

無縛流派はすでに「剣匠無縛多剣流」で「剣匠」の座に就いている。もちろん次は「剣豪」を狙っているのだろうが、無縛流派だけで「剣術」のカテゴリーでふたつも三つも席を取れないのも事実だ。

だから、「雷火剣術」を 乗っ取った(・・・・・) 。

乗っ取った、って言っちゃっていいと思う。

話を聞いた感じ、それまでの「雷火剣術」は「精神修養」を中心にした流派で「剣に己を投映し、その己を解き放つそのとき、剣閃は神速に達する」みたいなことを教えているらしい。どう考えても「勝つためならなんでもやる」流派じゃない。むしろ真逆だ。

ちなみに言うと「流水一刀流」は「流れる水のごとく、あらゆる力に逆らわず剣を振る。さらば、剣は次なる境地を見せる」というようなことを教えているらしい。

なるほど、わからん。

スヴェンパパはその境地に至ってるんだろうか?

スキルレベルがわかってしまう俺には「エクストラスキル」と「エクストラボーナス」がすべてのように感じてしまうんだけど、「エクストラスキル」の、たとえば「斬撃」を変化させることも可能であるとか聞いたことがある。達人ならばできると。「流水一刀流」や「雷火剣術」はこのスキルを変化させることを流派の特徴として持っている……そういうことなんだろうか。

「——チケットあるよ、チケット! 明日の『剣匠戦』のチケット要らんかね!」

往来でそんな声が聞こえてきたが、「剣匠戦」が明日ともなると確かに街もそわそわしている。

一国の首都をそわそわさせる「剣匠戦」。

そこに出るんだからスヴェンパパもすげーよな……。

俺はそんなことを考えながらティーラウンジ「帝都すいーとはーと」へとやってきたのだった。

「あら、坊や、いらっしゃい。また来てくれたのね〜」

先日も俺の相手をしてくれた美貌のお姉様(ただし髪は盛ってるパーマ)が出迎えてくれるが、

「今日はちょっと用があって……」

「あら、そうなの? 誰に?」

俺は奥の個室を指差した。

「ジャンに」

そうして個室の扉を開けると——そこには珍しく取り巻きを連れていないジャンがひとりでお茶を飲んでいた。俺を見てぎょっとした顔をするが、気にせず入っていく。

「な、なんでお前がここに!?」

「わかっていたよ、君ならここにいるだろうとね」

俺はにこりと微笑んだ。

ジャンみたいな ビビリ(・・・) が「剣匠戦」を前にしたプレッシャーに耐えられるわけがない。だから訓練場には行かずにここで現実逃避してるんじゃないかなって思ったんだ。

「で、頼みがあるんですけど、いいです?」

「アァ!? 出てけよ! 頼みなんて——」

「明日の『剣匠戦』を無事に終わらせるためなんです。お願いです」

俺が頭を下げると、ジャンは毒気を抜かれたように、

「な、なんだよお前……。なんなんだよ。明日の『剣匠戦』は勝手にやるだろ? 別に俺とは関係がねーし、剣が強いほうが勝つ。それだけだ」

「ド正論ごもっとも。だけどその前提は、なんの問題も、トラブルもなかったときですよね?」

「トラブル?」

「トラブルがあったら、困るのはジャン、あなたのほうでしょ」

「なっ……」

頭を上げた俺を、気味悪そうに見下ろしているジャンの顔があった。

「お前……ほんとなんなんだ? スヴェンと同い年には全然見えねえぞ」

「それはまぁいろいろあって。ともかく」

俺は言った。

「手を貸して欲しいんです」