軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

威勢のいい先輩たちですねえ

1日おきに「座学」「実技」と入れ替わるので、今日は実技の授業だ。

俺たち新入生黒鋼クラスの面々は訓練場に集合したわけなのだが——待てど暮らせど先生がやってこない。

するとまたも太っちょが「ガリ勉、聞いてこいよ!」と言うので、まあ、自分の目で確認し自分の耳で聞いたほうがいいなと思って俺はひとり事務棟へと向かった。

事務棟はキールくんがどこにいるのか教わりに来たこともあって一度来ていた。どうもこの2階以上に教員たちの個室があるらしい。

「2階は……と。なるほど、なかなか内装が凝っているんだな」

「一昔前に貴族の間で流行った様式です」

「へぇー」

って、

「スヴェン!? なんでついてきた!?」

「弟子ですから」

真顔で言うな、真顔で。

その師匠弟子設定は続くのね。

「ま、まあ別についてきてもいいけども。それじゃ行ってみるか」

俺は事務棟で聞いた、俺たちの担当たる実技教員の個室をノックした。

「開いてるぞ、入れー」

「失礼します」

入っていくと、赤い髪をライオンのたてがみみたいにおっ立たせているオッサンがいた。ただ残念ながら前髪が後退しており、「ベジ○タ? ベ○ータじゃないか!」と言いたくなるような広い額である。顔もしっかり濃い。

着ている服は……柔らかそうで袖口と裾口がきゅっとすぼまってるブルーの服だった。

なんていうのか、ジャージ? この世界にジャージあるの?

ジャージを内側から盛り上げるような感じで筋肉が躍動している。これは脳筋ですわ。

「ん? お前たちは……黒鋼の新入生か?」

お。初っぱなからバカにしてくる感じがない。今までとは違う感じでちょっとホッとする。

「はい。先生の授業が今日からあるはずなんですが」

「そうだけど……お前ら聞いてないのか? 俺の授業は黒鋼の寮長が『なくしてくれ』と言ったからなくなったぞ」

「……はい?」

わたくし、アホな顔で聞き返しましたよ。

いやなんで? ってなるよな。なんで寮長が出てくるの?

「ふーむ」

もっさり毛の生えた人差し指でアゴをさするベジー……前頭葉先生。

「そんなら一度、寮長と話してこい。俺としては授業をすることはやぶさかではない」

そんなこんなで教員の個室を出てきた俺たち。とりあえずは寮長と話をしてみなきゃいけないわけだけど……寮長ってあの、チンピラだよな。黒鋼総代はお薬キメちゃった系のヤバイ人で、寮長はチンピラ。ここはヨハネスブルクかな?

話しに行きたくねぇ……。

でも話をしてこないと前頭葉先生は授業してくれそうにないし。

「スヴェン、ごめんだけど訓練場にいるクラスの連中に事情を伝えてきてくれない? で、自習できるならしてたほうがいいと思うんだけど」

「はい。……師匠は寮長に?」

「そのつもり」

「ご武運を」

スッ、と頭を下げると小走りに去っていく。

え、えぇ……武運ってなんだよ武運って。戦うの前提かよ。

まあいいや。とりあえず寮に戻ってみるかな。

「でもなんで授業の有無に、寮長が口出ししてくんのかな……マジで謎だ」

話を聞いてみないことにはダメだな。

寮に戻ると、上級生のいる1階の部屋を当たっていく。どれが寮長の部屋かわからない、ってか一度聞いたはずだけど忘れているのがヤバイ。チンピラに興味を持てないのは仕方ないよね。

「すみませんー。寮長の部屋ですかー?」

コンコンとノックして行くんだけど、なにがヤバイって誰もいない。まあ、当然っちゃ当然か。今日はふつうに授業がある日だしな。

「……あ゛? なんだテメー」

唯一出てきてくれた先輩からはかぐわしき熟柿のかおりがした。

二日酔いじゃねーか! なに酔っ払ってんだよ、未成年!

とはいえこの世界は18歳が成人なので最上級生だったらお酒がオーケーになるんだけどね。

俺は酔っ払いにもわかりやすいように「寮長の部屋教えて」と端的に聞いた。

「寮長? アイツの部屋は3つ隣、あっちだよ……」

「えっ。さっきノックしたんですけど。いなかったからやっぱり授業かな?」

俺が思わずそう言うと、酔っ払い先輩はげらげら笑い出した。

「授業なんか出るわけねーだろ。アイツも朝まで飲んでたからな、寝てんだよ」

それだけ言うと俺の鼻先でバタンとドアが閉まった。

「…………」

俺たちの授業を取り上げておいて、酔っ払って寝ていると?

「ほぉー、ほほほ、ほぉーう。そうかそうか……そうですか」

さすがにカッチーンと来ましたよ。

こちとら自前で授業しなくちゃいけないってんで寝る時間削って教科書を写してたっつーの。

「寮長! 寮長!! 1年生の実技授業のことで聞きたいことがあるんですけど!!」

3つ隣の部屋に行って、今度はゴンゴンと思いっきりドアを叩いた。

するとさすがに起きたらしいが、出てこない。「うるせえ! 寝てんだよボケが!」とか部屋の中で言っている始末である。

むしろ隣の上級生が「うっせーなあ……」と言いながら細くドアを開いて俺を見てくるほど。

「寮長! 出てきてください!」

——うるせえっつってんだろ!

「力尽くで開けますよ!」

——やれるもんならやってみろ!

「ほう……言いましたね?」

俺、すぅ……と息を吸い込んだ。武器がなくても戦えるように【格闘術】のスキルレベルを上げてるんだよなあ、こっちは。

「 生命の躍動(ライトインパクト) 」

声とともに俺はくるりと身体を回転させて——蹴りを放つ。

俺の肉体が、筋細胞が、むちゃくちゃに活性化される。それが【格闘術】レベル100で得られるエクストラスキル「生命の躍動」である。

ゴリッ、と靴底が触れたドアノブがめり込むと、ドンッ、と奥へと吹っ飛んだ。

「寮長! 話がありますけど!」

穴の空いたドアの持ち手に指を突っ込んで、カギの部分を外す。ふと横を見るとぽかんとしてこっちを見ていた先輩がバタンと逃げるように扉を閉じた。

俺は手前にドアを開けて中へと踏み込む。うっ……酒くせえなあ。床に酒瓶までころがってるし。

「な、なんだテメェ……ガリ勉小僧じゃねえか!」

まさか蹴破られるとは思わなかったのだろう、裸の上半身を起こした寮長がベッドの上でうろたえている。

「ひっ」

おや……女子を連れ込んでいるだと、フザけん、じゃなかった、いけませんねえ……。

「この寮は女子禁制ではありませんでしたか?」

「俺は寮長だからいいんだよ! つうかテメェ、ドアぶっ壊しやがったな!?」

「力尽くでやってみろと言ったのは寮長でしょう。そんなことはどうでもいいんですよ」

「どうでもよくねえ!」

うろたえていたのが回復し、むしろ怒りがわき上がってきたのか。

寮長はベッドから下りると——なんとフルチンである——落ちていた酒瓶をつかんでこちらにぶん投げた。

おお、速いな。投擲スキルでも持ってるのかな、狙いもいい——俺の眉間に一直線だ。

「 衝撃吸収(ショックアブソーバー) 」で余裕でキャッチできますけども。

「服を着て出てきてください。話があります」

「受け止めてんじゃねえぞガリ勉小僧!?」

「服は着なくていいんですか? いいんですね? それこそ力尽くで引っ張っていきますよ」

「やってみろやレベル12のガリ勉小僧——」

バカだなぁ、扉を力尽くでこじ開けて、投げてきた瓶をキャッチした時点で「レベル12」だろうがなんだろうが危険人物には違いないだろうに。

距離を一気に詰めて、俺は寮長の手首をつかんだ。

「なっ!?」

ぐいと引っ張ると、向こうも抵抗したがあっさりとこちらに引き込めた。これでも【格闘術】レベル200で得られるエクストラスキル「筋力+1」があるからな、ちょっとやそっとじゃ離されんよ。

その際に寮長は転んだようだが気にせず俺はぐいぐい外へと引っ張っていく。

「や、止めっ、止めろ!? なんだこの馬鹿力は!?」

「俺だって男のフルチンなんて見たくないですけど、力尽くがお望みだというので」

「わかっ、わかった! わかったから! 着替える! 着替えさせてくれ」

「そうですか?」

パッ、と手を離した。あと2歩で廊下に出るところだったのでぎりぎりではある。

寮長は俺のつかんだ手首を抱えるようにして震えている。

「じゃあ、ロビーで待ってますから早く来てください」

「あ、ああ……」

もうカギの掛からないドアを閉めて、廊下へと出た。

「…………」

「——ひぇっ」

またもお隣の先輩がこちらをのぞいていた。ノゾキ先輩と名付けよう。