軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

歴史ある剣術流派はうさんくさく

歴史を感じさせる、と言えば聞こえはいいかもしれないが、古さを隠しきれない錆びの浮いた門を通り抜けると、磨り減った石畳の先にその訓練場はあった。

ざっと100人はいそうだ。

あれ?「雷火剣術」って古くて落ちぶれた剣術じゃないんだっけ?

それに……。

みんな若い。20代以上もちらほらいるけど他は10代……しかも前半だろう。そろいの、黄色と赤色の組紐で長髪を結んでいる。

みんながみんな両手に剣を1本ずつ持って振り回している。

(一刀流を双剣に変えたらこんなに人が増えたってこと? ていうかこのトレーニング、筋が悪そうなんだが)

俺はふと思った。

スキルとして【双剣術】というものはあるのだけれど、肉体がちゃんとできあがってない少年が2本の剣を振るのは筋力的に相当きつい。ていうか、腕に無理をさせてしまう。

「ハーイ! いったんみんな止めてェー!」

そこへ、奥からマッチョが現れた。

いや、マッチョとしか言い様がないんだわ。

この真冬だというのに袖のない上着から伸びる二の腕は丸太のようで、短パンから下にはこれまた丸太のような両脚がある。腕にはラグビーボールっぽいなにかを抱えていた。

長髪をひっつめて後ろで結んで垂らしているマッチョは異様なまでにニコニコしていた。

「そちらは今日の見学者かなァー!?」

マッチョが俺を指差した。なんていうか、声もクソデカい。

「はい、そうです! 当主様!」

「よォし。では新たな使徒の入門に拍手ー!」

ワァーッと拍手が湧き起こった。

いやまだ使徒になるなんて言ってないんだけどね?

「……ん? なんで女がいるのかなァ?」

マッチョはふとリッカに目を留めた。

「はい、当主様! 見学でしたので連れてきただけ……ぶほぉっ」

俺を勧誘した男が吹っ飛んだ——投げつけられたボールを顔面に食らって。

それはラグビーボールのような形状ではあったけれど、ぐるぐるにサラシが巻かれてあって、かなり重そうだった。

え、いや、なに? なにが起きたん?

「神聖なる訓練場にィ、女は要らないでしょーがァ! 弓(・) の連中みたくなるだろォ!」

「お、おいアンタ、大丈夫か?」

吹っ飛んだ男を抱き起こそうとすると、男はフラフラしながら、

「そ、そのとおりです、当主様ぁ!」

と叫んだのだった。

は? こんな仕打ち食らっても、「当主様」とか言っちゃってるの?

「!!」

そのとき俺は視線を感じた。

じっ、と見つめる目は、訓練場にいる少年たちのものだった。

彼らは無表情に俺を見つめている——スヴェンの無表情とは違う、主体性のまったくない、ただ感情を失った目だ。

「…………」

「…………」

視線をかわした俺とリッカは、

「失礼しましたぁぁぁぁぁ!」

「逃げるわよ!!」

回れ右して走り出したんだ。

ヤバいって。

なんかわからんけど、ここ洗脳施設かなんかじゃないのか?

そりゃリッカが、スヴェンパパが負けるなんて言うわけだよ——ていうかこんなにヤバいならもっと早くに教えてくれよ!

「——逃がすなァ!」

え?

振り返った俺が見たのは、

「逃がすな」

「逃がすな」

「逃がすな」

「使徒」

「使徒」

「使徒」

2本の剣を握って走ってくる少年たちだった。

それからはめっちゃ大変だった。

裏通りを走り抜けて、バラックのような粗末な家の屋根を渡り、大通りでは馬車にぶつかりそうになって、最後は100段以上ある階段を駈け上がる。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァッ」

「ヒィ、フゥ、ヒィ、ハァッ」

リッカも俺もフラフラだった。

追っ手の肉体が完成していないのがラッキーだった。少年たちは、ここまではさすがについてきていない。

「な、な、なんだったんだよ……アイツら……」

「ヤ、ヤバいヤツらだって、言ったじゃん……アタシ……!」

「あんなにヤバいなんて思わないって!」

俺は小さな公園にあった——公園と言ってもただの広場に大木が生えていて、木陰にベンチがあるだけだったが——ベンチに座ると、リッカも隣に座り込んだ。

吐く息が真っ白だ。

気温は低いってのに身体は熱い。

「ていうか……あれって洗脳か?」

息が整ってくると俺は聞いた。

「ちょ、ちょい待って、まだ息が……っていうかソーマくん、めっちゃ、体力あんのね……」

リッカはまだまだつらそうだった。

いや、俺からするとリッカもかなり体力あるほうだけどな。黒鋼クラスでも上位の体力だと思う。

冒険者として活動してるってのもわかるわ。

(にしても……あの動きは)

単に追われていただけじゃなくて、彼らは躊躇なく剣を振ってきた。

しかもそれだけじゃなくて、そこいらの石も棒も使えるものは全部使ったし、なんなら剣まで投げてきたのだ。

(あのスタイルを相手にするのは、明らかに、一刀流には不利なんだよな)

剣が2本あるというそれだけで、1本は投げてしまってもいいという考え。それに、「勝つためにはなんでもする」というスタイルだと一刀流にはめちゃくちゃ戦いにくいだろう——スヴェンなんかは顕著だけれど、1本の剣を大事に大事に扱うから搦め手に弱い。

リッカが「流水一刀流」は負けると言った理由はこのあたりだろうな。

もちろん圧倒的な実力者には小細工なんか効かないとは思うんだけど……「雷火剣術」の凄腕がそういう戦い方をしたらスヴェンパパも危ない。

「……ん?」

俺はそのときふと違和感を覚えた。なんだろう、このもやもやした感じは……。

「ふー、ようやく落ち着いたわ。っていうか、アタシもここまでだとは思ってなくてさ〜」

「リッカはあの流派についてどこでなにを聞いてきたんだよ」

「『無縛』って知ってる?」

「……ん?」

「『剣匠無縛多剣流』っていう流派があんだって。『雷火剣術』はそこの息が掛かってるって話」

「多剣流ってなんだよ。剣はがんばっても2本までしか持てないだろ?」

いやまぁ、海賊王を目指すゴム人間の仲間には三刀流がいたけども。

「さっきみたいに投げるんじゃね?」

「あぁ……なるほど。でもそれって剣術じゃなくてただの投擲流派じゃないのか……?」

「そんなんわかんないけど、『無縛』はその名の通り、なににも縛られずに、自由に戦うってことらしいんだよね。で、勝てばいいって考えみたい」

負けるよりも勝ったほうがいいのは間違いないけど。

「そんな流派が『剣匠』になってるんだから、よほど徹底して勝ちにこだわってるってことか……?」

「どーなんだろうね、さっきの訓練場を見る感じじゃ、まだまだ弱小流派っぽいけど」

「『無縛』の本家は凄腕がごろごろいるとか?」

「あんね、『無縛』ってひとつじゃないの。ソーマくん」

「ああ、『雷火剣術』みたいに子分流派みたいなのがいるってことか? 歴史はあるけど落ちぶれた流派に力を貸す……」

あー、日本でのことを思い出しちまった。

親父が50代で死んでしまって、俺は親父の工場を畳むことになったっけ。そのときには誰も手を差し伸べてくれなくて、もし大会社とかが「協力するよ」って言ってくれたら俺はホイホイのっかってた自信があるわ。

「そうじゃないの」

物思いに耽りそうになった俺に、リッカは言った。

「この国の5種の武芸のうち、『無縛』は『剣匠無縛多剣流』、『槍匠無縛多槍流』、『盾豪無縛多盾流』、『斧聖無縛多斧流』の4流派があるのよ。斧は、斧流派の中でもトップの斧聖よ」

「えっ」

なんじゃそりゃ?

「なんでもアリ」の流派が上位にランクインしまくってるってこと?

そういやさっきあの頭イッちゃってそうな当主っぽい人が「女がどーのこーの」言った後に、

—— 弓(・) の連中みたくなるだろォ!

って言ってたな……。

「なぁリッカ、もしかして弓の流派って女性もいるのか?」

「うん。弓だけは女性オーケーなんだって」

もうわけわかんねえなこれ。

ていうかまぁ、「無縛多射流」なんてあったところで、弓はいっぺんに何本も発射できんから、「無縛」とは相性が悪いんだろうなぁ。何本も撃ってるのはゲームとマンガの世界だけです。

「いずれにせよ……あの『雷火剣術』はくせ者だな。『流水一刀流』が負けるって言ったリッカの言葉もちょっと理解できたよ」

「 ちょっと(・・・・) ? ちょっとどころじゃないっしょ。無縛の流派はこれまで剣匠戦や剣豪戦を仕掛けたとき、3回に1回は対戦相手を死なせてんのよ?」

「ええええええええ!? ヤベーじゃん! スヴェンのパパ、ヤベーじゃん!」

俺はそのときようやく、ことの重大さを知ったのだ。