軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調査開始! と思ったら

「森に行こう。今がチャンスだ」

スヴェンのママの実家に戻った俺を待っていたのは、テムズのどアップだった。

「よし、落ち着け、テムズ」

「森に行こう。今がチャンスだ」

ほんとに意味がわからん。なんだこれ?

「フッ、フッ、フッ」

助けを求めてスヴェンを見ると、スヴェンは部屋の隅で剣を振っていた。お前「剣匠戦」の話を聞いて帰ってきたんだよな? なんか思うところとかないわけ? 行動パターンがいつもといっしょじゃん?

たまに思うけど、俺ってスヴェンの人生をねじ曲げてしまったんじゃないだろうか。スヴェンママが心配そうな顔で「剣ばっかり振ってる……」ってぼそって言って今部屋を出て行ったんだよな……。

「で、テムズはなんで森に?」

助けはなさそうなので俺はテムズに向き合うことにした。背伸びして俺の両肩をガシッとつかんだテムズは、

「今がチャンスだからだ」

「……それはわかったから、詳しく教えてくれないと行けるもんも行けないぞ」

「確かに」

イスに座らせると、スヴェンママがお茶を運んできてくれた。いやーお茶は朝から飲み過ぎちゃったんですよねぇ……なんて思いはしたもののもちろん断ったりはせずにありがたくいただく。「ねぇ、うちのスヴェンだけど大丈夫かしら? もう3時間もあの調子なんだけど」という質問はスルーさせていただく。

「薬の素材を調達しに中州にある中央市場に行ったんだけど……」

「ああ、そうらしいな。街中で偶然リッカに会ったときに聞いたよ」

そう言えばリッカはまだ帰ってきてないな。俺がお子ちゃまのリッカを放り出してティーラウンジに入っちゃったから怒ってるかな……後で謝っておこう。

「雪の降り始めに開花する、『 雪呼花(スノーコーラー) 』って花があるんだ」

「ほう。確か夜目が利くようになるポーションを作るのに使うんだっけ」

「よく知ってるじゃないか。ならば話が早い。これを採りに行こう」

「いやいや……帝都はこんだけデカいんだぞ。帝都の周辺の森なんて全部採り尽くされてるだろ」

「それがそうでもないらしい。まぁ、モンスターが出る森なんだけど……」

「ゲッ」

モンスターが出る森……レッドアームベア!

あれはマジで俺のトラウマなんだよ。もう会いたくねーもん。

「そんなに強いモンスターは出ないから大丈夫だ」

「いやいや、そんなうまい話があるかよ」

「この国のことを考えればわかるはずだが?」

「え?」

どういうことだ?「この国のこと」?

俺が首をひねっていると、

「女性はモンスターと戦う技術を身につけていない。一方で男性は『 雪と氷の王国(スノウマンキングダム) 』みたいな強大な敵と戦うことが誉れだと思っている。だから弱いモンスターがはびこっているらしいのだ。モンスターが出ないような安全な森は採り尽くされているし、強力なモンスターが出るところも武人が派遣されるが、弱めのモンスターがいるようなところは手つかずだという! 冒険者ギルドでも依頼が出るが、わざわざ帝都に来て薬草を採取するような冒険者はいないと」

「お、おお……お前、薬草のことになるとめっちゃ話すよな」

「さあ行こう。レアな茸もあるらしい。ソーマはお金を稼げて、僕は貴重な材料が手に入る」

ふむ、採取か……それも悪くないかもな。

ここにしか生えていないものなら、クラッテンベルク王都に持っていけば高値で売れるだろうし。俺が学園近くで採ったものをウェストライン州で売ったのとは逆のやり方だ。

「——採取に行くのはいいけど、『剣匠戦』が終わってからにしたらどう?」

気づけば、リッカが部屋の入口に立っていた。

「リッカ?」

「……『流水一刀流』の対戦相手である『雷火剣術』についてちょっと調べてみたのよ」

リッカは室内に視線を走らせてからそう切り出した。

スヴェンママはお茶を出した後は部屋を出て行ったのでもうおらず、ここには俺とテムズ、スヴェンしかいない。

「伝統のある流派で、一刀流だったせいでどんどん使徒は減っていって、風前の灯火になった……んだけど、ここ最近は入門者が増えているらしーの」

「ほう」

「増えてる理由は、一刀流から双剣に変えたから」

「……え?」

俺は耳を疑った。

一刀流から双剣に変える——剣を1本から2本にするという単純な話じゃないと思う。剣から槍に変えるのと同じくらいには大きな変化だ。

「時代の流れだからしょうがないのかもしれないけどね、この国じゃ」

「い、いや……でもそれってだいぶおかしな話じゃないか?」

たとえば黒鋼クラスのトッチョの家は「槍の名門」とか言われてる。

だけど「時代は短槍2本だ!」ってなったらトッチョが切り替えるのかと言われれば、絶対そんなことはないだろう。

というか、流行り廃りがあるのは仕方ないが、一刀流には一刀流の、双剣には双剣のいいところがあるはずで、どちらが優位とかそういうことはないはずだ。

「師匠……この国では強さがすべて。剣を持ち替えたら強くなった、という者が周囲に増えれば、自ずとそうなります」

いきなりスヴェンがしゃべった。

「お、おう。お前聞いてたの? 素振りに夢中なのかと思った」

「今はインターバル中です。師匠が帰っていたのにも気づきませんでした」

前から思ってたけど、スヴェンの中で「師匠」の価値って低くね?

するとリッカがムッとした顔でスヴェンを見て、言った。

「ふーん、余裕こいてるとこ悪いけどさ。アタシの見立てだとアンタんとこの『流水一刀流』は『雷火剣術』に負けるし」

「え……いや、リッカ、それはさすがにないだろ。ポッと出の双剣が『剣匠』に勝てるなんて……」

「ソーマくんは実際に剣を見たの?」

そう言われると、ないな。

なんかこの国の中で「剣匠はすごい」と言われてるから、「そうなのかな」と思ってるだけではある。まぁ、スヴェンパパの歩き方とかは熟練者のそれではあった——たとえば白騎獣騎士団のラスティエル様とかもすごかったし、そういうすごみを感じさせた。

スキルレベルを見せてもらえれば大体わかるんだけどな。

「じゃあさ、今から見に行ってみない? どっちの流派も」

「リッカ。僕とソーマは今から採取に——」

「採取はいつだって行けるけど、『剣匠』でいられるのはあと5日だけかもしれないのよ。見といたほうがいいじゃん」

ふーむ。

リッカがそこまで言う理由も気になる——リッカは確信を持っているふうだった。スヴェンパパが負けると。

「……わかった。見に行ってみよう」

他ならぬスヴェンのパパの戦いだ。ジャンも言っていた——死ぬかもしれない、と。

気にならない、と言ったらウソだ。

「で」

なんでスヴェンがこねえのかな〜〜〜!

いやさ、聞いたのよ、スヴェンにも。「お前んとこのパパと、相手流派の様子を見に行くぞ。来い」って言ったのよ。そしたらさ、

「インターバルが終わったので素振りの続きをします」

無表情でキリッて顔をするわけ!

なんなんだよ、アイツは……。誰だよスヴェンを素振りモンスターにしたのは(俺です)。

「ソーマくん、『流水一刀流』より『雷火剣術』のほうが近いからそっち先に行く?」

「あ、ああ……。それにしてもちょっと意外だわ」

「えー、なにが?」

結局、様子を見に行くために家を出たのは俺とリッカだけ。スヴェンは素振りで、テムズは「素材採取より大事なことなどない」ってふてくされてしまった。

「なんか、リッカって……スヴェンに突っかかってたじゃん? ウェストライン州の州都でもさ、スヴェンと手合わせをしたいとか言い出したりして。最初はロイヤルスクールに対してなんか思うところがあるのかなーって思ってたんだけど、俺に対してはあんまり感じないから、おかしいなって。なのにスヴェンの父親の流派を気にかけて調べてくれたのがなんでなのかわからない」

「ふーん……ソーマくんってちゃんと見てんだね」

「いやー、そんなことないよ。理由がわからないからこうして聞いてるんだし」

「ふふっ、素直なところもポイント高いぞ」

笑っているとリッカは年齢相応の——いや、年齢より若干幼い少女にしか見えないんだよな。到底、冒険者ギルドで一人前の稼ぎを得て、ウェストライン州騎士養成校でトップクラスの成績を修めているとは思えない。

「……えーと、まぁ、ご質問の件ですが」

なんだか言いづらそうにリッカはそう切り出した。

「腹立ったのよ」

え、スヴェンに? まぁアイツぶっきらぼうだし無表情だし師匠より素振りを優先するヤツだけど腹が立つことは……十分腹立つわ。アイツ失礼だわ。

「あ、事前になにか絡みがあったとかそういうんじゃないんだよ? だけど、ロイヤルスクールで、インノヴァイト帝国出身ってなったら、そりゃーいいところのお坊ちゃま武芸者だって思うじゃん」

「まぁ……確かに」

「実際そうだったし」

「『剣匠』ってすごいもんな」

だけど、リッカも知ってのとおり、スヴェンは追い出されるように王国へやってきていた。

「……アタシは、テムズから聞いた? ふつうの天稟なのよ。超ふつうの天稟」

「ああ、聞いたよ」

「だから知恵を絞って考えて、目一杯努力しないと騎士になんてなれない。ううん、騎士になれない前提で考えてる」

「それも聞いたよ。すげーよな、リッカ。俺は騎士になって安泰に暮らしたいってことしか考えてなかったもん」

「ううん、ソーマくんだっていっぱい考えてるじゃん。平民出身だし。だからアタシは最初からソーマくんに興味があったんだ。スヴェンは二の次」

くん付けもなく呼び捨てされるスヴェンがちょっとかわいそうに思えたけど、まぁアイツは失礼だからしょうがないな。

「だから最初はちょっと懲らしめてやるかーって感じで手合わせを申し込んだの。そしたらあのザマ。調べたら、秋の武技個人戦で2位って聞いて、はぁ〜〜〜、スヴェンは恵まれた家庭ってだけじゃなくて、天稟もいいものもらってるんだろうなーって思ったの。でもまぁ、違うわけじゃん?」

「あー、アイツの天稟は結構エグいよな」

「……うん。そう思うと、なんかアタシがひとりがバカみたいに思えちゃって」

「バカってことはないと思うけど」

「んーん、自分でわかってるから。ま、ちょっと興味が湧いたから調べてやろうかなって思ったけ。それだけだよ!」

おやおや? 興味? ほー、スヴェンに 興味(・・) ねぇ……。

「な、なにそのニヤケ顔……」

「いえいえぇ、なんでもございませんよぉ」

「キモっ」

この子、人の心にブッ刺さる言葉を使うよね!

「あ! あそこだよ、ソーマくん。『雷火剣術』の流派訓練場」

「お」

俺たちは目的地に到着したらしい。今後スヴェンへの興味とやらを詳しく掘り下げようじゃないか。ぐふふ。

——なんて思っていたら。

「そこの君! 黒髪の君! 武器を持ってない君だよ、君! ウチの『雷火剣術』は使徒を募集中なんだ! おいでおいで!」

いきなり若い兄ちゃんに声を掛けられた。