軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たのしいたのしいガールズラウンジ(請求書だけはたのしくない)

「いらっしゃいませぇ〜! あら、坊や、ひとりで来たのぉ?」

「迷子かしらぁ? ここに来るのはまだまだ早いぞっ」

「でも黒髪の子って珍しいわね〜」

求めていた俺の人生がここにあった——。

じゃない。

ミニスカートで、胸元を強調する服を着た女の子たちがわーっとやってきたので思わずフリーズしてしまった!

「あ、あのっ、俺は王国から来たんですけど社会勉強で是非このお店に入りたいなって思って」

あわてて言い訳すると、「ウッソー王国から?」「社会勉強だって、かわいい〜」とか言われてあれよあれよというまに店内奥へと連れて行かれてしまった。めっちゃいいニオイがするし、ちょいちょい触れる女の子たちは柔らかくて温かいし、求めていた俺の人生がここに——。

半円形のソファに座ると尻が沈むくらい柔らかい。小さなテーブルにメニューが置いてあって、それを見ながら周囲を確認する。

広いなぁ……。

俺のいる5人くらい座れそうなソファが、優に20はあるぞ。

天井は高くて照明はきらびやか。

朝だからか、お客さんは少なくて、女の子たちも少ない。

ジャンはここにはいないなぁ……と思っていると、奥の間につながる扉を女の子が開けるとそちらから声が聞こえてきた。個室でお楽しみとは、やりますねぇ。

「坊や、なんか悪い顔してる〜。ダメだぞ、子どもがそんな顔してたら」

金色のロングヘアに、パーマをかけてモリモリにしているお姉さんが俺の隣に座った。このパーマってほんとにこの国の女性はみんなしてるんだよな。

それにしても……白い太ももがまぶしい!

「なにか飲まないとダメっていうのがお店のルールなんだけど……お金大丈夫?」

「あ、はい、お茶とケーキくらいなら……」

いや高けええええ!?

なんだこの価格! 金貨が飛ぶぞ!?

「……坊や、無理しないでやっぱり帰るぅ?」

「だ、大丈夫です、支払いは……なんとか……王国金貨でもいいでしょうか?」

「それは大丈夫よぉ」

こんなに高額を支払うことになるとは思ってなかったから、帝国通貨に替えた銀貨じゃ全然足りなかった。

しょんぼりしている俺をお姉さんはよしよしと頭をなでながら励ましてくれる。

「これもいい 社会勉強(・・・・) かもねぇ〜」

はぅっ、俺……恋に落ちちゃうかも……。

* リッカ=フランケン *

「むかーっ、男ってみんなこうよね! ちょっとえっちな服着てる女がいたらすぐにコロッといっちゃうんだから……!」

リッカはティーラウンジ「帝都すいーとはーと」の前で地団駄を踏んでいた。

もともと同年代の女子より小さいリッカは、大人っぽい女性や色気に対してコンプレックスがあったりするのである。

オッサン多めの冒険者ギルドで子ども扱いされるのは気にならないが、同年代のソーマにお子様扱いされるのは気にくわないんである。

「もーいいわよ! ふんだ!」

リッカはティーラウンジに背を向けて歩き出した。

帝都は広いけれど、迷うこともない。というのもリッカもまたふつうの13歳ではないからだ。ウェストライン騎士養成校で武技トップ、座学は2位である——座学の1位はもちろんテムズだ。

冒険者としての活動もしているから初めていくような場所でも頭のなかに地図を作ることができるし、周囲への警戒も怠らない。そして、警戒しているそぶりを見せないほどに自然に街の散策を楽しんでいるように見える。

「お……街の掲示板だ」

冒険者ギルドには依頼票の貼られた掲示板があるけれど、街にあるのは広告や国からの告示の張り紙である。

そこは雨や雪が入り込まないように 庇(ひさし) が長めになっており、数人が足を止めて、横に10メートルほどの巨大な掲示板を見ていた。

「尋ね人に、税金改定のお知らせに、あぁ〜やっぱり武芸の入門者募集が多いなぁ」

ずらーっと並んでいる募集要項には、各流派のマークが並んでいる。弓、盾、斧、槍……剣は2本のものが多い。

「ん、『無縛』……?」

リッカはふと、張り紙の多くに「無縛」という言葉が入っているのに気がついた。それらは斧であろうと槍であろうと関係なく入っている。

「槍匠無縛多槍流」に「斧聖無縛多斧流」という、上位だけでなく、「無縛三剣術」とか「無縛双槍の使い手」なんてのもある。

無縛ってどういう意味なんだろう……とリッカが首をひねっていると、でーんと大きな張り紙があって、それは「剣匠戦」の告知だった。

「……これかぁ」

リッカもまたスヴェンの父アランが当主を務める「流水一刀流」が「剣匠戦」を挑まれていることを冒険者ギルドで聞いていた。

「相手は……『雷火剣術』」

シンプルな名前だな、と思っていると、離れたところにいる男ふたりが話しているのが聞こえて来た。ふたりは腰に斧を吊っていた。

「——『雷火剣術』ってだいぶ歴史のある流派だよな?」

「——歴史っていうか、単に古い流派だろ。もう『骨董剣術』だよ。ワンチャン『剣匠戦』を挑んだって感じじゃないのか?『雷火剣術』も一刀流だったはずだし」

「——いや、最近双剣に鞍替えしたって聞いたけど」

「——なんじゃそりゃ。そんなところが『剣匠戦』なんて盛り上がらないだろ」

「——そうとも言えないぜ。『流水一刀流』はジャンっていう強い剣士がいるらしくてな、そいつが次世代最強の剣士とか言われてんのよ。ジャンが出て来るなら見る価値はある」

「——ほう……」

「——試合は5日後か。見に行くか?」

「——いいね」

男たちが去っていった。

「…………」

5日後にある「剣匠戦」。この国でもトップクラスの剣技を見られるなら是非とも見てみたいものだけれど、男たちの言葉も少し気になった。

古い剣の流派同士の戦い?

剣に新しいも古いもあるのだろうか。

「……ふーむ。『流水一刀流』に『雷火剣術』ね……」

リッカは考えながら歩き出すのだった。

ティーラウンジは俺が最初に思っていたようなキャ○クラみたいなところとはちょっと違った。

女の子はちょっとセクシーな格好をしているけれど、おさわりはナシだし、過度な接触もしてこない。

なんでも、この国の男たちは「女は黙って3歩後ろをついてこい」みたいな考えを美徳だと思っていて、女の子からぐいぐいくると「いや、それはちょっと……」という感じになるそうだ。

昭和かな?

いや、昭和はもっとガツガツしてたような気がする。

まぁそんな文化だからこそ、「武器は男が持つ。女は家を守れ」という価値観なのだろう。男より強かったというスヴェンママが疎んじられるのもわかる。

「ふぃ〜……お茶飲み過ぎちゃったぜ」

お茶は、目玉が飛び出るほどの金額だったけどなんとお代わり自由だったので飲み過ぎてしまった結果、行き着くところは決まってるよな!

トイレは個室が並んでいる仕様で、立ったまま用を足すなんてことができない。いちばん奥がいちばん落ち着くという前世からの嗜好によって俺は迷いなく5個並んでる個室のいちばん奥に入った。

広い。個室広い。あと豪華。個室のドアノブが金ぴかなんだよ。しかも音もなくドアノブが回るし。

俺がひとり、溜まりに溜まったダムから放水を行っていると、ふとトイレに入ってくる別の人物の気配に気がついた。

「……クソが。いちばん奥が空いてねえじゃねえか」

どうやら俺と同じ「いちばん奥がいちばん落ち着く」仲間であるらしい。

「あ、すんません。すぐ出ますよ」

「早くしろ」

お仲間かと思ったのになんだその言い方は。

こもってるのはコッチなんだが? 籠城戦に突入してもいいんだが?

ムッとしながらも、粘ったところで大人げないので俺がそそくさと出て行くと、

「……なんだよ、終わったなら出て行けよ」

そこにいたのは——見上げるほどに上背のある男、ジャンだった。

トイレまでは剣を持ち込まないんだな、とかぼんやり思いつつ、そう言えば俺はこの人たちが「流水一刀流」の訓練場にも行かないでなにしてんだよ、と偵察に来た事情を思い出したのだった。

「…………」

俺が手を洗って、外へ出ていくのをじっと見つめていたジャン。トイレから廊下へ出たところで、個室のドアが閉じられる音が聞こえてきた。

「……なんだ?」

どうして俺が完全に出ていくのを確認したんだろ。ジャンとは初対面だし、俺がスヴェンの……スヴェンパパの息子の友人だってことは知らないはずだけどな。

さっきまで座っていたソファへと戻ろうとした俺は、ジャンたち一行が借り切っている個室の前へと通りがかった。

扉は閉じられているけれど、門弟たちの声が大きいせいか外まで声が聞こえてくる。

「——やっぱりジャンさんだよ。ジャンさんが当主になれば『流水一刀流』は『剣豪』だって夢じゃねえ」

「——ジャンさん、もうアランさんより強いよな?」

「——当然っしょ!『流水一刀流』の奥義だって、アランさんが出し惜しみしてるだけでジャンさんならすぐに習得できるって」

「——アランさんもひでえよな。ジャンさんに『剣匠戦』を譲ればいいのに……『雷火剣術』なんていうロートル流派だから、絶対勝てると思って自分が代表で出るんだろ?」

「——ジャンさんが出たら『流水一刀流』に新しい風が吹く! って感じで大々的に新聞で取り上げてもらえそうなのになー」

めっちゃ盛り上がってる。

そんなに強いのかな、ジャンって人。確かにあの肉体は反則級だよな。

「……でも、なんか違和感あるんだよな」

取り巻きはこんなに盛り上がってるのに、ジャンはあまり楽しそうじゃなかった。

さっきだって、他の個室は空いてるのにわざわざいちばん奥を使おうとして……俺が出て行くのをじっと確認してた。

なんでだ?

「——俺も便所いくかな」

「——止せって。ジャンさん、用を足すときに邪魔されるのめっちゃ嫌がるだろ」

「——そうだったわ。我慢するか……」

え、ええ?

トイレの邪魔がイヤってなに?

「……気になりますねぇ」

俺はにやりとして来た道を引き返した。

もちろん、単にトイレで他人がいると気になってしまう神経質さが原因かもしれないけど、あんなに人払いをするのは他になにか理由があるんじゃないかって気がしたんだ。

「こういうときに、忍び足系のスキルがあるといいんだけどなぁ」

俺はそんなことを思ったけれど、ないものはないのだから仕方がない。

だけども、エクストラスキルの組み合わせによって似たような効果を得ることはできる。

トイレの前に戻ってきた俺は、「 生命の躍動(ライトインパクト) 」「 衝撃吸収(ショックアブソーバー) 」のふたつを使用。トイレ内をすさまじい速度で、しかも足からの衝撃を吸収することで音を立てずにいちばん奥からひとつ手前の個室へと入り込む。こういうときに音もなく回るドアノブは最高だな。

「 生命の躍動(ライトインパクト) 」は肉体を活性化させるエクストラスキルなので、聴覚も強化することができるので耳を澄ませてみた。ジャンは、単にトイレで用を足しているだけなのか、はたまた……。

「——なんでみんな俺を『剣匠戦』なんぞに出そうとするんだ。『剣匠戦』だぞ? 流派なんてどうなったって構わないけど、『剣匠戦』は真剣でやり合うんだぞ? 死ぬことだってあるんだぞ? 無理だって。モンスター相手に真剣を振り回すのとはワケが違うって。人間って相手を殺そうとするときの目が怖いんだよ。大体当主がやるって言い切ってるんだから当主に任せておけよ。なんで俺なんだよ。確かに俺は強いよ? 最強だよ? だけど間違って死ぬことだってあるんだよ。『剣匠戦』で過去に何人死んでるか知ってるのかよ。それに……」

ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ。

思わず「ヒィッ」て声が出かけた。

な、なんだよこいつ、びびってるのか? いやまぁ、確かに真剣勝負は怖いけども……。

周囲は強いジャンを持ち上げようとしているのに、ジャンだけは逃げたがっているのか?

そんなこと……あるのか?

(……人は見かけによらない……いや、人は、見えているものだけがすべてじゃないってことか……)

俺はよく知ってる。

強気でブイブイ言わせていた蒼竜クラスのヴァントールは、秋期の学内個人戦でスヴェンに負けると憑きものがとれたみたいに気軽に黒鋼寮に遊びに来ては勝負を挑んでくるようになった。きっとヴァントールにとっては「クラスを引っ張っていく」なんてのはただの重荷でしかなくて、ほんとうに欲しかったのは「対等に戦える相手」だったんだろうなって。あの後、トッチョの取り巻き4人組のひとりであるアッサールにも謝罪したって聞いたし。アッサールは謝罪を受け入れたのはいいが毎日見舞いにくるヴァントールに「怖いです……お願いだから来ないでください……」と懇願したそうだが。

黄槍クラスのフランシスもそうだ。見た目は愛くるしい美少年なのに、一皮剥けば——じゃない、服を脱げばそこには多くの傷痕があった。フランシスはそれについては語らなかったけれど、傷の古さを見るに、実家での扱いが悪かったみたいだ。俺とレッドアームベアに追われた一件があって以来、黄槍のマテューとともに黒鋼寮に遊びに来てはお茶を楽しむようになった。

……ちょっと待て。

どうして黒鋼寮に遊びに来るんだ、どいつもこいつも。

ま、まあいいや。そのうち飽きてどっか行くだろうし。

(とにかく、だ。人は見えているものだけがすべてじゃない——ジャンは強いのかもしれないけど「臆病」な自分がいて、それを隠しているんだ)

そのとき俺はふと、スヴェンパパはどうなんだろうかと思った。

スヴェンにデタラメな剣を教え、追放するように王国のロイヤルスクールへ通わせた。再会しても「剣の腕など見ない」と突っぱねる。

その行動は一貫しているんだけど、理由がよくわからん。

(なにかあるのかな……)

俺はひとり考えたのだった。