軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

よくわからない羞恥プレイ

「明日の朝の便なら今から馬車のチケットが取れるよ」

「あ、お願いしたいです」

「それならあっちのカウンターで——」

俺はひとりで出国手続きを終えると(スヴェン? ホテルで素振りするってよ)、明日の馬車のチケットも入手した。

出入国管理事務所にはスヴェンのように髪を後ろで結んでいる長髪の男がわんさかいて、髪をパーマでもりもりにしている女性も多かった。それがインノヴァイトの文化だという。

「にしても、男はみんな武器持ってるなぁ」

俺は事務所を出たところでつぶやいた。

剣、槍、弓、盾、斧。男たちはこのどれかを持っている。

武器を携帯していない者はいないというほどだ。「盾」が武器かと言われればちょっと違うかもだけど、背中に盾を背負ってるスタイルが同じなんだよね。

「インノヴァイト帝国は武芸の盛んな国だから。男は全員、ほぼ例外なく5種の武具のうちどれかを選択し、武芸の道に入る。髪を縛る飾り紐が流派によって違う」

「へぇ、なるほど……って」

俺のつぶやきに反応した博士くんみたいなヤツがいるなと思ったら、驚くまでもなくテムズだった。

「ソーンマルクス=レック。明日の馬車で帝国にいくのか?」

「お、おお……朝いちばんのヤツでな。ていうかテムズひとりか? リッカは?」

「リッカは家に帰ったから大丈夫だ」

「そうか」

「あのくらいで凹むような女ではないから気にする必要はない」

「そ、そうか……」

「泣いた姿を見たのは久しぶりだが」

全然大丈夫じゃないし気にする必要あるだろそれは!

テムズは常に淡々としているから、本気で言ってるのか冗談で言ってるのかわからないんだよな。ていうかこいつは冗談とか言うんだろうか。

「んで、お前はなにをしに来たんだ?」

「どうせリッカがソーンマルクス=レックたちに迷惑を掛けるだろうから、先んじて謝りに来た」

「え、ええ……? 迷惑? もしかしてさっきの手合わせのこと言ってる?」

「あんなのは迷惑のうちではない」

迷惑でしたけど? こちらは結構気を遣いましたけど?

「リッカをナメてもらっては困る」

そこ、自信満々に言うところかなぁ……。

「てか、これからなにかまた突っかかってくるってこと?」

「そんなところだ」

「まぁ、スヴェンならいくら使ってくれても大丈夫だから」

アイツなら「手合わせ」と聞けば喜んでやるだろうし。

とは言え、俺たちは明日には出国しちゃうけどさ。

「…………」

「……なにか言ってくれよ、テムズ。リッカの『迷惑』もっと別なこと?」

「そう言えば天稟について面白いことを聞いたのだが」

「露骨に話題を変えるよねぇ!?」

「スヴェン=ヌーヴェルは【剣術】以外のスキルを取れないとか」

「あ、ああ……リッカに聞いたのか? そうなんだよ。そのくせ【剣術】の伸びはそんなによくもないっていう短所ばっかりなんだ」

たとえばトッチョの「 一本槍(ザ・ランサー) 」なんかは、はっきりと効果がわかっているわけではないのだが、【槍術】の伸びはよいようだ。もちろん、【剣術】なんかはからっきし伸びない。

テムズはふむむと顎に手を当てて考えつつ、

「天稟というものは良い点と悪い点とでバランスが取れるようになっているものだ。ほんとうにスヴェン=ヌーヴェルは【剣術】以外のスキルを取れないのか?」

「ああ」

俺がしっかりうなずくと、

「なるほど。つまりソーンマルクス=レックはスキルレベルがわかる天稟を持っているのだな」

「へ!?」

いきなり核心を突かれてぎょっとすると、

「……まさかとは思ったが、正解か?」

テムズのほうが驚いている。

こいつ、俺にかまをかけたな……!?

「あー……まあ、そんなとこ」

「ず、ずいぶんと正直に認めるのだな」

「まあ、ここで俺が『ロイヤルスクールには誰でもスキルレベルを測っていいことになってて』なんて言っても後で調べればすぐにウソだってバレるし……なにより、テムズがそこまで天稟に詳しいなら、話してもいいかなって」

「僕が話した内容は一般的なことばかりだが?」

「いや、最初に会ったときに俺に天稟のことを聞いたろ? それにリッカも天稟のことを気にしていた。ということはテムズは相当に天稟について調べている……理由はわからないけど」

「……そのことと、ソーンマルクス=レックが自らの天稟を明かすことと、つながらない」

「テムズにウソを吐き続けたら、きっと俺たちは仲良くなれないじゃん? それに、もしスヴェンの天稟についてわかることがあるなら教えて欲しいんだ……アイツ、マジで天稟で苦労してきたからさ」

俺が言うと、テムズは俺の顔をまじまじと見つめた。

「……ソーンマルクス=レックはすべて、他人のため、なんだな。スヴェン=ヌーヴェルのため、それに出会って間もない僕らのため」

ふぅ、とテムズは息を吐いた。

「わかった。等価交換は嫌いではない。スヴェン=ヌーヴェルの天稟について話をしよう。詳しく教えてくれるか」

「おお! でもさ、その前に——」

俺は言った。

「俺のことはソーマでいいよ。いちいちフルネームで呼ぶのはかったるいだろ」

「そ、そんな恥ずかしいこと……」

え、恥ずかしい? 俺の名前、恥ずかしいの?

こっちの地方だと下ネタに使われるようなワードなの?

と、ちょっとびびったのだけれど、どうやらテムズの中で、「他人」と「身内」はくっきりはっきり区別をつけているらしい。だから「リッカ」や家族以外はフルネームで呼んでいるのだそうな。

「ソ、ソーンマルクス」

「……ま、まあ、それでいいや」

ちっこい少年が顔を真っ赤にしながら俺の名前を呼ぶという、よくわからない羞恥プレイをしてしまった。