軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

日々の日課が終わると暗雲立ちこめる初日の授業が始まる

「それじゃまず素振りから……」

木刀を持って寮の裏手に出た俺は、剣道で習った素振りを繰り返す。300超えという高レベルになると0.1すら上げるのは結構大変で、大体スキルレベルと同じくらい——つまり350回くらい剣を振ると0.1上がる。

ふぃー……毎度ながらこれが大変過ぎる。

単に漫然と振ればいいんじゃなくて、きっちり、しっかり、振り方を意識しなければ駄目だからなあ。

まあ下げないだけでいいなら35回やって0.01上げておけばいいんだけど、【刀剣術】はもっと上げておきたいんだよな。「瞬発力」が上がるから。

ジャンプ力とかとっさの動きとかに影響があるんだよね。たぶんレベル400で「瞬発力+1」がもうひとつ手に入って「+2」になる。楽しみだ。1日0.1ずつだとあと500日掛かってしまう計算だけど、日課以外に模擬戦とかをやればもうちょっと早くなるはずだ。

「次はジャンプと蹴りと……」

【空中機動】(反復横跳び)、【格闘術】(パンチとキック)の日課をこなす。【防御術】は相手がいないとできないからこの数日で下がるのはやむを得ないかもしれん。木々から枝をぶら下げてそれをかわすとかやったらいいのかな?【回避術】とか生えてきそう。

この世界のスキルレベルは、ひょっこり生えて、音もなく消えていく。消えていくスピードが速すぎるんだよなぁ……。

ほどよく汗をかいていくと、寮の中からも物音が聞こえ始める。そろそろ生徒たちも起き出すんだろう。

最後は【魔導】の訓練だ。

これは身体を動かすんじゃなく、座って、じっとする。結跏趺坐をしているのは「なんとなく」でしかない。

身体の中央にあるじんわりと温かな感覚を移動させる……させる……。

「……ソーマか」

「うおわ!?」

集中しすぎて気づかなかった。俺の後ろに汗だくのスヴェンが立ってた。

「ど、どうしたんだよスヴェン」

「そっちこそ」

「ああ、俺は日課のトレーニングだけど」

「…………」

座ってたのに? という目をしている。こいつ……無表情のくせに意外とわかりやすいな!

「あれ? スヴェンのそれって木剣か?」

俺はスヴェンが右手にぶらりと持っているものに気がついた。子どもの模擬戦なんかに使われる木剣だが、黒光りした木材を使っていてなかなか質が良さそうだ。

「ああ……」

「お前も朝からトレーニングしてるならちょっと俺といっしょにやらないか?」

「…………」

あっ、こいつ、俺の持ってる安い木刀を見ましたよ!

「……いいぞ」

「どーせ俺の木刀は安物ですよ! スヴェンの持ってるのとは違って——あれ、いいの? いっしょにやるの?」

こくり、とスヴェンはうなずいた。

「……明日から」

そう言うとスヴェンは寮の中へと入っていった。

寮内で配られた制服をもらうと、あ~やっぱり俺は黒鋼クラスに入っちまったんだなぁ、と思ってしまう。

真っ黒なパーカーだ。「碧盾クラス」の緑のブローチが欲しかったんだぜ……。

この世界にもパーカーがあるのだけど、トレーナーみたいな柔らかい布地ではなくて、こいつはごわついた動物の皮が使われている。ひょっとしたら人間に仇なす魔物かもしれないが、まあ魔物も動物も似たようなものだ。

このごわごわのおかげで雨を通さないが、真夏は死ぬほど暑い……とはそばでパーカーをもらっていたリット先生のありがたい情報である。こいつなにげに学園に詳しいんだよな。

「2年になれば新しい制服が支給される。そっちはずっと着心地がいいぜ」

パーカーを配ってくれた寮長は5年生であり、今年が学園最後の年である。

オレンジ色の髪を短く刈り込んで、頭皮には蛇がのたうつような入れ墨が入っていた。

うん、ヤ○ザかな?

「それと……今ここにいるのが、今年の黒鋼1年全員だ」

俺、リット、スヴェン、離れたところにオリザちゃんとマール、バッツ、シッカク。

全部で50人くらいかな? 結構多いなあという気はするけど。

「来年、新しい制服を受け取れるのは——半分ってところか。隣にいるヤツのうちどちらかは脱落しているぞ。あるいは脱落するのはお前自身かもしれねえ」

えっ、そうなの? 脱落って留年ってこと? それとも退学?

どっちにしろヤバイじゃん。なんでそんなことになってんの?

「特に、入学早々、白騎の公爵家に尻尾を振っているような黒髪ガリ勉小僧は真っ先に脱落するだろうなあ」

ハッハッハ、と笑いながらヤ○ザ……じゃなくてチンピラは去っていった。

なんだ今の捨て台詞。

「ったく、なんなんだよ。別にキールくんに尻尾を振ってたわけじゃないんだけど? なあ、リッ……」

おーいリットくん? どうしてぼくから3メートルの距離を空けているんだい? さっきはすぐ隣にいたよね?

「——おい、黒髪って」

「——アイツしか髪黒いヤツいないじゃん」

「——レベル12のガリ勉くんじゃねーか。お勉強なら勝てるから公爵家に泣きついたってことか?」

「——ほんとクソ」

「——ムカつく」

おーい……なにもしてないのにどうしてクラスメイトからのヘイト値があがってるんですかねえ?

とはいえ別に13歳たちから嫌われても心はあまり痛まないのだ。こちとらつぶれた会社を整理してきたんだぞ。心に鎧なんていくらでも着込んでやるわ。でも不意打ちで心をえぐってくるのだけは勘弁な!

授業が始まるので講義棟へと向かう。

俺たち1年生黒鋼クラスは1つの教室に押し込められた。

見たところ……男8割に女2割ってところか?

さっそくオリザちゃんが女子たちを集めて「この中で誰がクラスを仕切るか」っていうのを始めている。

あっ、視線が合った。小さく手を振ると赤い顔をしてにらんできた。ん~、可愛いねえ。

(しかし……殺風景な部屋だな)

部屋は教壇を中心に段差ができており、生徒の座席のほうが位置が高い。

教室と言うより大学の講義室のようなイメージかもしれない。

石作りの講義棟はなんと15階までの高さがあって、6階以上はエレベーターが稼働している。魔法の道具らしい。

俺たちの教室はもちろん、5階だ。当然徒歩で来なければいけない。6階まで行って1階下がるというのができないようになっていて、エレベーターの前にはガードマンがいて黒パーカーはそこで弾かれるらしい。

格差社会!

貴族と平民は平等であってもクラスは平等じゃないと言いたいんですかねぇ!?

この教室も、素朴な机と教壇、黒板がある以外は装飾品もなにもない。「改装途中なんですよ」と言われれば納得してしまいそうなほどだ。

(うーん……白騎クラスも同じ教室、なワケないよな……)

周囲を見ると、 寮長(チンピラ) の演説を聴き、さらにはこの部屋の扱いの悪さを見て、すでにやる気をなくしている生徒も多い。

安全確実高収入。そんな騎士になれるというのに、扱いの悪さ程度のつまずきで 退学(だつらく) するのなんてあまりにバカバカしい。

俺は、すでに社会の地獄を経験しているからわかるけど、これから先こんな扱いの悪さなんて山ほどあるんだよな。

前世の記憶があるっていうのは、なにか意味があるのかな……。

それにリットや第3王子も言っていた。すべての騎士団が大事なのだ。キールくんが俺に歩み寄ろうとしてくれたように、俺もこのクラスで頑張ってみたらいい。

(とりあえず目標は……脱落者を出さないこと、か)

……ま、ダメかもしれないけどな!

そんときはそんときだ。

「あー、お前らが今年の黒鋼か」

教室のドアが開いて、若い男が入ってきた。

まだ、20代だろうか。無精ひげでかったるそうな顔をして教壇に立つ。

背は高く190近くありそうだ。ひょろりとしていて特に武人のような雰囲気はない。くすんだ茶髪はウェーブが掛かっていて後ろになでつけている。

「俺がこのクラスの担任になったジノブランドだ。担任っていうのはクラスの……まあいいか、そんなことはどうでも。どいつもこいつも相変わらず黒鋼はシケたツラしてんな」

担任の先生がいきなり妙なことを言い出したぞ。