軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話:龍の寝床*5

「は!?霊脈を作る!?」

「うん」

早速、フェイに相談しに行ったら、ぽかん、とされてしまった。

「あの、魔力の流れるところを作ろうっていう話じゃないんだ。どこかから水を引いてくるんじゃなくて、その、水が湧きだしてくるところを新しく作って、水自体を増やせたらいいな、って思って……」

僕が説明を重ねると、フェイは……けらけらと笑いだした。

「いいなあ、それ!それなら誰も嫌な思いしなくて済むな!……実現できるかは別として」

「うん……」

そうだね。実現できるかは分からない。霊脈がどういうものか、は本で分かったけれど、何がどうやって霊脈ができているのかはよく分かっていないし。

……でも、フェイはどうやら、僕の案を気に入ってくれたらしい。

「えーと、実際のところ、どうなんだ?お前、霊脈も作れんの?」

「ええと、分からない、としか」

「まあ、だよなあ。精霊様になったからって、そうそう霊脈なんて作れるもんじゃねえだろうし……」

「そもそも、霊脈ってどうやって作ればいいんだろう。描いて出せるものなんだろうか?」

「まあ、要は魔力を作ればいいんだろ?ならいつもみたいに魔石を描けばいいんじゃねえか?魔石を描いて、それを地中に埋めておけば何とかなったりしねえかな」

……それでいいんだろうか?まあ、それでよければやるけれど。

流石に不安なので、もうちょっと調べることにした。

レッドガルド家の書庫では調べ尽くしてしまったので、翌日、王都の図書館に行く。

……本当はフェイのお兄さんとお父さんも来ようとしていたんだけれど、流石にレッドガルド一家が全員揃って王都で調べものなんてしていたら、怪しい。なので、動くのは僕とフェイとラオクレス、それからセレス兄妹だ。……クロアさんは王都での活動はもうしばらく自粛、ということで、お留守番だ。しょうがない。

「俺、ずっと王都に居たけど、図書館なんて入るの、初めてだ」

「そっか」

「すごい……ご本がいっぱい……」

リアンとアンジェは王都の図書館に目をきらきら輝かせている。まあ、図書館とは縁遠い生活を送っていたなら、その分図書館に来ることになって感慨深いんじゃないかな。

「好きな本、見てていいよ」

「嫌だよ。ちゃんと手伝う。行こう、アンジェ。妖精が探すの、手伝ってくれるんだろ?見つけてくれたらお兄ちゃんが取ってやるから」

「うん!」

「そっか。じゃあ、よろしくね。頼りにしてる」

僕は天使の兄妹が楽しく本を読んでいてくれてもよかったのだけれど、すっかり手伝ってくれる気になっているらしいので、お願いしてしまった。

お願いすると、リアンはちょっと嬉しそうに笑う。……うん。彼は働いているのが好き、なのかもしれない。

「妖精が選んでくる本って、結構特殊だなあ……」

そしてまた僕らは、本を読む。流石、王都の図書館の本だけあって、種類も豊富だ。古い本もある。おかげで、レッドガルド家の書庫では分からなかったことも幾らか分かってきた。

あと、多分、妖精が選んでくる本がいい。タイトルが擦り切れててよく分からないようなやつも選んでくれているのだけれど、そういう本の中にいい情報があったりする。

「強大な魔獣が住み着くと、そこが霊脈になる、っていうのは面白いな。まあ、魔力使う生き物がいたら、土地から魔力を吸い上げて、吸い上げられる魔力が流れになって霊脈を作る、ってのは分かるけどよ」

「霊脈は龍脈、とも言うんだったな。ドラゴンが住みつく場所があればそこが霊脈になるということか」

どうやら、霊脈って意外と簡単にできるものらしい。……ただ、フェイが見つけた『強大な魔獣が住み着くとその魔獣が魔力を吸い上げて流れを作る』っていうのは、川の流れを変えているだけで、川の水を増やしていることにはならないから、今回は保留だ。

「……おい。これはどうだ」

本を読んでいたら、隣でラオクレスが読んでいた本を見せてくれる。

そこには、『魔力を多く持つ生き物が死んだとき、死骸が朽ちていくにしたがって多くの魔力が土地に染み込み、霊脈の源泉を形作ることがある。現在に残る霊脈は、古代に死んだドラゴン達の死骸の跡だとも言われている』と書いてあった。

成程。魔力を多く持つ生き物が、死んだ時か。今のところ、森の中で一番魔力が多い生き物は……僕か。うん。つまり、僕が……。

……いや、考えるのはやめておこう。うん。こういうの、よくない。

「どうやら、土地に魔力が染み込めばいいらしいな。ドラゴンなど、魔力を多く持った生き物が……」

そこでラオクレスは、ふと、僕を見た。

「……妙なことは考えていないだろうな」

「か、考えてないよ」

確かに、僕が森の中で白骨死体になっている様子を途中まで考えかけたけれど、ちゃんと途中までで考えるのをやめたよ。大丈夫だよ。

「魔力を染み込ませる、かあ。……生き物が死んで、死骸が朽ちて、それが霊脈になる、ってんだと、ただ魔石を出すだけだと霊脈になるまでに時間が掛かるかもな」

僕は未だに魔力のことがよく分かっていないけれど、多分、魔力を持った生き物の体が分解されると、そこにあった魔力が死骸に留まっていられなくなって出てくる、っていうかんじなんじゃないかと思う。

……ということは、魔力の多い生き物が生命活動してるだけで、その場所の魔力、増えるんじゃないかな。リサイクル、というか、その、生き物が生きているとどうしても出すものは出すし。それが分解されて土地に還れば、それで魔力が増え……あっ、もしかしてレッドガルド領の森って、そうやってある程度の魔力を確保しているんだろうか?……うん。あの森、魔力大量消費、魔力大量生産、魔力大量リサイクルの森なのかもしれない。

「ということは、生き物を出して殺せばいいってことか?でも、それもなんかなあ……」

1つ、霊脈を作る方法は分かったけれど、それはなんか嫌だ。殺すためにドラゴンを出すのは、なんとなく、やりたくない。

「いや、要は魔力さえありゃいいんだよな?別に生き物じゃなくてもいいはずだ。えーと……あ、待てよ?確か、魔石を肥料にするって話、どっかで読んだことが……」

ほら。フェイが何か思いついてくれた!

「フェイおにいちゃん、これどうぞ、って妖精さんが……」

そしてアンジェが丁度、ぴったりの本を見つけてきてくれたらしい。

僕らはこぞって、アンジェが持ってきてくれた本を読む。

……それは、農業についての本、らしい。

『魔石が砕けて砂となり、魔力が滲みだして土地に染み込むことで土地の魔力が満たされる。古代には魔石を砕いたものを畑の肥料にしていたという記録があるが、魔石の産出が減った現在においては純度の高い魔石を砕いて肥料として用いることは現実的ではなく、屑魔石を用いて同様の現象を起こせないかどうか、研究が進められている……』

なるほど。

つまり、生き物の死骸じゃなくてもいいのか。やっぱり魔石を沢山出して、砕いて、砂にして撒くのが一番いいのかな。

「……森中に、砂撒くのか?」

考えていたら、リアンが妙な顔をしている。

「うーん……多分、森の外にも撒くよ」

「そうしたら、色々困るんじゃねえかな。ほら、その、虫とか……」

……うん。

ええと、レッドガルド領全体に砂を撒くって、結構大変だし、一面砂地になっちゃうのは、なんかよくない気がする。農業的にも、生き物の住環境的にも。

魔石の粉を撒くのはいいかと思ったんだけれど、レッドガルド領が砂まみれになるのはよくない。うん。

「魔力だけ取り出して撒いたりできないのかな」

「お前、そりゃ、城の錬金術師達が一生懸命やってる奴だぞ……?」

ああ、そうなのか。やっぱりどの世界でも、物質の抽出とか精製とかって、難しいのか……。

「撒くとしたら……水とかかぁ?」

「じゃあ、魔石を砕いた砂を水と混ぜておいた奴を撒く?」

「いや、それだけで水に魔力が溶けるかなぁ……あーくそ、俺も錬金術はイマイチなんだよなあ……」

うん。僕はイマイチどころかサッパリだ。

「多分、畑に魔石の粉を撒いて云々、ってのは、作物が魔石の魔力を吸い取ってくれるからだと思うんだよな。植物は吸い取るのは得意だし」

そうなのか。……ええと、もしかして、竹とかも?うん、なんか納得がいく。

「だからこう、魔石の砂地に植物を植えて、育った植物をすり潰して水に混ぜて、それを撒く、とかか……?えーと、結構時間かかりそうだな」

うーん、やっぱり上手くいかないか。時間も手間もかかってしまう。

でも、霊脈を作るって、そういうことなのかな。やっぱり。絵で描いてぱっと済ませてしまうっていうのがまず無理な話なのかもしれない。

僕らが悩んでいたら、本を並べて遊んでいたリアンが、ふと、僕の顔を見て言った。

「……あのさ、トウゴって、絵に描いたもん、出せるの?」

あ、そういえば詳しくは説明していなかったけれど、リアンやアンジェの前で物を描いて出したりしている。氷の精とか。

「うん。ある程度は」

僕が肯定すると、リアンは、首を傾げながら言った。

「なら、魔石に生えて水を吐き出す木とか、描けばいいじゃん」

……うん。

盲点。

早速、僕らは森に帰った。

そして僕は……丁度いい地形を見つけて、そこへ向かった。

「ここに泉を作ろうと思って」

そこは、洞窟だ。天井がちょっと開いている洞窟、みたいな。

ここに泉を作ると、半地底湖みたいになるかな。地面の中にあれば、冬でも凍らないだろう。多分。

それから、結界の遺跡からほど近い場所だから管理もしやすいと思う。あと、森の中心部にあるから、不用意に他の生き物が入ってきたりしないはず。

僕は早速、泉を描き始めた。

……湖、っていうくらいの大きさで描く。大きくしておかないと、水不足になってしまう。

描き終わったら、大分疲れてしまった。やっぱり大きいものは疲れる。

……湖を出してすぐ、次のものを描き始める。

「でっけえ」

「うん。折角だから」

描くのは、地底湖の真ん中の小島だ。……その島は、すごく透明な水晶の結晶でできている。

小島の他にも、湖の中から、巨大な水晶の結晶をいくつも生やす。透明で、きらきらしていてとにかく大きなそれは、完成してみるととても綺麗だ。

「……天井にも、欲しいかな」

湖の中に透明な結晶があるのも綺麗だけれど、折角だから天井にも欲しい。この洞窟を水晶でいっぱいにしたい。

「おい。今日はこの辺りにしておけ。顔色が悪い」

「え?」

早速、と思って筆をとったら、ラオクレスに筆を取り上げられてしまった。

「……そんなに焦るな。霊脈からの魔力が途絶えたからと言って、すぐにどうこうなる訳でもない」

「うん……」

気持ちは焦るけれど、急いだっていい結果にはならない。1つ1つ全力で、持ち得る限りの力を注いで作っていかなければ。……僕の絵ぐらいで霊脈が作れるかも分からないんだ。慎重に行こう。

その日はパンにチーズとハムを挟んだ例のやつを食べて、のんびりお茶を飲んで、それから実体化させない絵を描いたり、生やす予定の木のデザインを決めたりして過ごした。

そして外のハンモック……は寒いので、家の中で毛布と布団と鳳凰と管狐に包まって寝て、ぐっすり眠って、少し眠りすぎてしまって慌てて起きて、さっさと次のものを描きに行く。

昨日の続きということで、天井から水晶を生やす。壁からも生やす。疲れたら寝て次の日。……そうしているうちに、洞窟の壁も天井も床も、全部が透明な水晶の結晶に覆われてきらきらするようになった。うん。綺麗だ。

そして、湖の中に喜んで飛び込んでいった妖精達がきゃらきゃらと笑い声を上げながら大はしゃぎしている。うん。喜んでもらっているようで何より。

そうして洞窟中を水晶だらけにしてからようやく、『魔石に生えて魔力を吸い上げて水を吐き出す木』を描く。デザインはもうできているから、それを書いて、実態に反映させていくだけだ。

根っこは力強く、水晶に食い込む。赤銅と金でできたような幹はねじれながら伸びて、枝を広く広げている。翡翠やエメラルドみたいな葉が青々と茂って……そこかしこに実が生っている。

その木の実は透き通った色をしていて、中には液体が入っていて……。

……そういう木を、描いた。

水晶の島の上の、黄金と宝石の木だ。そういうものを、ひたすら描いていく。

透明で、きらきらしているものって、描いていて楽しい。いつの間にか目的を忘れて筆を動かすようになって……。

そして、画用紙の上で絵がふるふる揺れて、きゅ、と集まって、それが水晶の島に飛んでいって……そこで木の形になる。

「……綺麗だなあ」

生えたばかりの木を見て、フェイが小さくため息を吐いた。うん。僕もそういう気分だ。我ながら、いい出来だと思う。満足。

早速、水晶の島へ飛ぶ。

鳳凰に掴まって水の上を渡って島まで辿り着くと、木に生っている実を1つ、もいだ。

金の枝で装飾されたガラス玉みたいな実だ。リンゴくらいの大きさで、丸くて、手に馴染みが良い。

しばらく手の中でころころやって満足したので、実の硬い外皮を割る。

外皮は見た目に反して結構硬かったけれど、鳳凰が嘴でつついて割ってくれた。

……すると実の中から、とろん、と果汁が出てくる。

透き通ってとろりとしたそれを試しに飲んでみると……すごく、美味しかった。

甘酸っぱくて、濃厚だけれど全くくどくなくて、さっぱりした後味で、香りも良くて……。

……あと、元気が出る。とても、元気になった。

元気になる実だから、中身をレッドガルド領に撒くより先に、ちょっと皆にも味見してもらいたくなってしまった。

「すごく美味しいよ。はい」

「へえ……精霊様の木の果実だからなあ、そりゃ美味いんだろうなあ……」

「……俺が食っていいものなのか?」

「いいんじゃない?精霊様直々に賜ったのよ?」

「アンジェは俺と半分こしような」

「うん!じゃあ、妖精さんはアンジェとはんぶんこ!」

皆、木の実を眺めたり手の中でころころしたりしていたけれど、その中でも最初に実の外皮をナイフで割ったフェイが、中身をこくり、と飲んで……。

吹き出した。

「……フェイ、大丈夫?」

ごほごほ咳き込むフェイの背中をさすりつつ、噎せたのかな、と思っていたら。

「トウゴ!これ、酔うぞ!?」

「え?お酒になってる?」

「いやいやいや、魔力酔いする!」

……あっ。

「お前……よくこれ飲んで『美味しい』ってにこにこしてられるなあ」

「……美味しくなかった?」

「いや、味はいいんだけどよお……ただ、ちょっと、人間が飲むにはこれ、強すぎてよお……」

……やっぱり僕、人間中退しちゃったのか。

なんというか……美味しいと思ったものを共有できないのは、その、ちょっと、寂しい。

ちょっとしょんぼりしながら、僕は木の実を集め始めた。

木はゆったりと枝葉を伸ばしながら、時々、実をつけてくれる。多分、1時間に2つくらいのペースだ。

熟しすぎた実は木から落ちて、島の水晶にぶつかって割れて、中身を泉の中に流している。こうやっていくと泉の水も、魔力たっぷりの水になっていくんだろう。そして多分、ここが霊脈の源泉になってくれる。

後は時々、湖の水晶を描き足せばいい、はずだ。

木を出したら流石にちょっと疲れてしまった。眠い。

「……ところで、この実の中身はどうやって撒くんだ」

けれど、そういう問題がまだ、残っている。

「え?」

「ドラゴンで往復するのか?」

……うん。それにしても、多分、すごく時間が掛かるね。

ええと……実の中身に勝手に降ってもらう、って訳には……いかないだろうか?木が実をぽいぽい投擲してくれるように描けばよかった?いや、それも流石に……。

「描けばいいだろ。ここの湖の水吐き出して雨にしてくれる生き物とか」

……それってどういう生き物だろう。雨を降らす生き物?アメフラシ?ええと、アメフラシってどういう生き物だっけ。ウミウシみたいな……?あれ?ウミウシがアメフラシ……?

「ま、まあいいだろ。うん。トウゴだってこんな木生やして疲れてんだ。その話は後だ、後」

ウミウシってどういう生き物だっけ。こう、ひらひらしてて、うにょうにょしたかんじの角が生えた……あれ、これだと角が生えたヘビだな。あれ。

「おーい、トウゴ、大丈夫か?おーい」

……角が生えたヘビ。

うん。

「雨、降らしてくれる生き物、居た」

雨乞いしたら雨を降らせてくれる生き物。

龍、いいんじゃないかな。

ほら。これ、龍脈、って言うくらいだし。龍が1匹くらい居た方が、いいよね。